犬上小太郎(偽)の往く、なんか違うネギま!世界 作:谷原きり
天ヶ崎千草と知り合ったのは、案外幸運だったのだろう。
俺も母ちゃんも裏の世界には全く伝がない。知識もないし、そして悲しいことに母ちゃんには同年代の友人がいない。
クソ親父の拉致監禁→受胎のクソコンボのせいで、母ちゃんは学校で得られる筈だった友情がない、或いは切れてしまった。
そんなところに千草は、俺たちに裏への繋ぎを取り、知識をくれ、何よりも母ちゃんの友人となってくれた。
年の近い友人が出来て、母ちゃんは笑顔が増えた。売っぱらった金で生活と時間にも余裕が出来て、母ちゃんと過ごす時間は増えた。
人間関係は広くはないが、それでもちゃんとした同年代の人付き合い。それが非常に母ちゃんの心を癒やしてくれたのか、笑顔が更に増えた。
「なぁ」
「なんや」
「母ちゃんのダチになってくれて、あんがと」
「アホ言いなや。良い奴だったから友達になったって、それだけや」
「…さよか」
びっくりするぐらい良い奴で、本当に原作からは想像もつかなかった。
こいつが、一般人として過ごす近衛木乃香を誘拐して儀式に使うーーそんなことが、まるで信じられないくらいに。
「ま、それとは全く関係ないんやけど、何か困ったことがあったら手助けくらいはしたるわ。母ちゃんのダチやしな」
「アホウ。ガキに頼るほど落ちぶれとらんわ。…前から思うとったけど、アンタホンマに子供か?」
「んー。体は少なくとも」
「体『は』か…やっぱりなんかの記憶があるんやな?」
実は結構内心ではビクビクしながらの暴露だったが、予想通りみたいな顔をされてしまう。拍子抜けだ。
「稀に居るんや。特に『裏』やとな。アンタは天才児って柄やない。いや天才やけど肉体的な感覚とか気の扱いとかは、って奴や。頭はそこそこって感じやな」
「………よう見とんな」
「独学で変化までやらかす変態の観察くらいはするわ」
「ひどっ!?」
変態評価には流石に傷つく。
「んで?どんな記憶や?過去の偉人とか…って柄やなさそやな」
「ん、まぁせやな。ホンマにただの一般人や。せいぜい売れん役者やっとったくらいか」
「はぁん。そら噛み合うわな」
「なんで?」
聞くと、千草はピッと指を立てる。探偵とか、教師みたいな。
…陰陽女教師千草、始まります。
「何や邪念感じたけど?」
「気のせいちゃう?」
「…ともかく。役者は観察、再現、修正を執拗に繰り返す職や。自分の肉体使ってのトライ&エラーの繰り返し。それがアンタの肉体の才覚と噛み合った結果があの変態やな」
「変化や」
ひどい言い草である。昆虫でもないのに変態は勘弁。
…だからといって仮○ライダー無印とかで『変態!』って叫ばれてもそれはそれで悲しい。
「つかなんでそんな詳しいん?」
「呪術の祝詞は歌と近しいし、奉納の舞かてある。演劇は神降ろしや降霊に近い。芸は大抵霊能やら呪術に通ずるんよ。覚えとき」
「ほーん」
「じ、自分で聞いといてこの薄っすい反応…!」
「んにゃ、よう考えたら母ちゃん楽させんのに必要な情報やないなって」
「このマザコンが…」
「嫌いよかええやん」
胸を張る俺に千草は呆れて眼鏡のツルを押さえる。
まあこうした反応が楽しいのもあって、千草いじりはやめられんのだが。真面目さんは反応が良くて楽しい。
だから、ではないけど、コイツが好きなのだ。
「話戻るけどな」
「何や」
「本当に成し遂げたい何かがあるんなら、遠慮なく言えや。クソッタレなことでも、手伝うたる。母ちゃんのダチやからな」
「………そんな日が来んこと祈るわ」
嫌そうな、少しだけ嬉しそうな、そんな複雑な表情をして、千草はそっぽを向いた。
本当に、そんな日が来ないといいのだけれど。