病院。
条城序如《じょうじょうのぶすけ》は、正体不明の敵「ラ・トゥルトゥーラ」の襲撃から生き延びた。飛び降りた先が植木だったので、何とか生きながらえることは出来たが、重症であることには変わらない。すぐさま連れてこられた市民病院で、1人思いふけっていた。
「許さない・・・か」
窓から飛び降りる前に相手に放った言葉。冷静に考える事が出来るようになった今となっては、自分から発されたとは信じられない言動だった。
争わない。抗わないがモットーであるとはいえ、命が関わると誰だってそうか。自分に言い聞かせるように心に決める。
「もう関わらない。入ったばかりだかあの大学はやめよう。親の言う通り定食屋を受け継ごう」
逃げることは恥じゃない。大丈夫だ。
全身の痛みを堪えながら上体を起こし、辺りを見回す。ここには敵はいない。なんならずっと居たいくらいだ。
「腹が減ったな、情緒不安定ですごい疲れたし、甘いものが食べたい」
ナースコールをして、看護師が来るのを待つ。こんな私用で呼んでいいのかは分からないが、こんな時くらいはわがまま言ってもいいだろう。
「ん?鳴らない。音がならないタイプなのか?すみませんーもしもーし」
『はーい。お呼びですかー』
「こ、この声は!」
ほんの数時間前に聞いたばかりのこの声は!
ベッド隣の机に置かれた花瓶に目をやる。花瓶から不自然に垂れた水がこちらに伸びてきていた。
『もうお前がスタンド使いかどうかなんてどうでもいい・・・。俺のスタンドは誰にでも見えるんだからな。証明のしようがない。お前がスタンド使いかどうかは、もうお前次第だ。生きるも死ぬも・・・お前次第だー!』
化学科教室で見た時よりもでかくて早い!
バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!
ラ・トゥルトゥーラの拳が何度も叩き込まれ、ベッドの上から吹き飛ばされた。全く癒えていない傷の上から、攻撃を受け、痛みで意識が飛びそうになった。
「ぐはぅっ!」
骨が・・・一体何本やられたのか。落下した時のを含めて、もはや逃げることも出来ない体になっていた。
もう無理だ。こんなやつに勝てるわけがなかったんだ。あんな・・・名前も知らない女の子にちょっと触発されたくらいで、反抗して、ボコボコにされて、それでもあんな正体不明の敵にまでつっかかろうとして。
これは罰だ、少しでも希望を抱いてしまったことへの罰なんだ。
完全に蹲ってしまった僕に向かって奴は追撃を仕掛けてきた。
もう、お終いだ。
「這いつくばってでも生き残れ、そんなものか。お前の生きたいという希望の力は」
病室に、一人の男が入ってきた。
背は少し僕より高いくらいだろうか。引き締まった体が分かるようなパツパツの服を着ている。そのくせ大きめの上着を羽織っていた。
「あんたが・・・本体なのか。この能力の」
「そうだと言ったら。なんなんだ」
そう言っている間にも、奴は一歩ずつ近づいてくる。奴のスタンドも、僕を挟むような形で
距離を詰めてきた。
最後に正体は掴めたか。何故そこまでスタンドというものに執着しているという敵の依頼主の目的、そしてスタンドとは・・・なんなんだ。
僕はまだ。死にたくないのか。
知りたい。暴きたい。スタンドも、本当の敵の正体も。
『お前、何者だ』
「さあな、吐かせてみろよ。俺もあんたの探しているスタンド使いなんだからな」
なんだ?この人の能力では無いのか。じゃあ誰なんだ。なぜここに。
『そうか、じゃあそうさせてもらうぜ!ラ・トゥルトゥーラ!』
「You raise me up」
奴の水の拳を、その男性は自分のスタンドでいとも容易く受け止めた。ロボットのような顔、肩から謎の突起が出ていて、四肢は骨のよう。背中には円の扉のようなものがついていた。
『それがお前のスタンドか』
「力比べといくか」
二人のスタンドが拳を叩き合わせた。ラ・トゥルトゥーラの拳が弾け、悶え始めた。
『うぐぇぇぇぇ!痛え』
「ダメージフィードバックはあるようだな。ならこのままぶちのめす」
二度三度、今度は顔面に向けて拳を放った。
『液化!』
瞬時に敵のスタンドは元の水のような姿に変化し、ロボットのような見た目のスタンドの拳は、その水を弾いた。
『危ねぇなー正面戦闘ではそっちに分があるようだ。なら、ここは引かせて貰う。寝首を書いてやるよ』
液体化したスタンドは、そのまま病院の入口から逃げるように滑っていった。
「まて!うぐっ」
「安静にしてるんだ。どうやらまだ自分のスタンドにも目覚めていないようだしな。いずれ、力を貸してもらいたいと思う。だから助けに来た」
「あなたは・・・誰なんですか」
「俺は、同じ大学の生徒だよ。化学科を専攻している。本当に偶然だったよ。現場には居合わせることは出来なかったが近くにいたんだよ。現場から逃げる人影を確認した。ただ事では無いと。他人事では無いと感じた。君も彼女に出会ったんだろう」
彼女。まただ、また彼女の存在が出てきた。彼女についても調べなければならない。
とは言え、今は。
「助かった・・・」
僕は気絶するように眠りについた。