錦正宗がやりすぎたせいか、敵が気絶してから三十分が過ぎた。依頼主を突き止めるため起きるのを待っているのだが、一向に起きない。
ポケットに入っていた財布の中に、運転免許証があったため、個人の情報は獲得することが出来た。
御手洗世継《みたらしよつが》。二十四歳。住所はここからそう遠くない。仕事は、なにをしているのだろう。一体どんな理由で依頼を受けたのか。依頼主にはどんな思惑があるのか。命を狙われたからには放っておくわけにはいかない。
走り回ったり、緊張で汗をかいていたせいか、喉が渇いてきた。さっきの水飲み場が目に付いたので、水を飲みに行く。
「まて、そいつが気を失っているふりをしていたら、そこの水飲み場から水を出した途端に憑依するかもしれない。まあ、したところで負ける気はしないが、用心することにこしたことはない。自販機で買ってくるんだ」
少し軽率だったか。スタンド能力が発現したせいか、少し気が緩んでいたようだ。武器を持っているからこその安心感というのは、危険な思考だか。
自販機に百五十円を入れて、炭酸飲料を買う。正確には炭酸飲料の購入ボタンを押した。しかし出てこない。硬貨を取り出し、再び投入する。ボタンを押す。でてこない。
「足りないのか?表記が間違っているなら、はやく修正して欲しいな」
十円玉を入れて、ボタンを押す。十円玉を入れて、ボタンを押す。別の飲料のボタンを押す。
「えらくぼったくるな。おーい錦さん!ここの自販機ものすごく高いんだよ。もう千円分はいれたのに飲料一本分もみたしてないらしい」
「当たり前だ。千円じゃ足りないだろ、機械相手に値引きを求めるな」
「随分優雅な暮らしをしているようだね。自販機の飲料水だよ?僕がおかしいのか?」
「もたもたするなよ。俺も喉が渇いてきた。交代するんだ。こいつを見てろよ」
流石にこんな自販機で飲み物なんて買う気にならないので、見張りを素直に交代した。
依然変わりなく御手洗は気絶している。
ふと、自販機に向かった彼のことが気になったので振り向くと、自販機に硬貨をいれて、当然のように飲み物を買っていた。
「嘘だろ・・・。いくらで買ったんだ」
「おい、条城。なにが千円分だよ。百二十円じゃないか、あそこの自販機」
「え・・・」
自販機前に戻り、百二十円分の硬貨を入れ、ボタンを押す。
「同じものを頼んだのに」
妙な違和感を感じる。なにか、嫌な予感が。
「錦さん。僕が買おうとしているこのコーラ、一体いくらなの?」
「なんてマヌケな質問をしやがるんだ。数字読めなくなったか?百二十万だ」
「・・・。あなたの持っているそのコーラ、いくらした?」
「百二十円だ。おい、お前大丈夫か?なんなんださっきから」
やはりか・・・。僕は全く経験も知識も無いが、そうだとしか思えない。しかし早すぎる。最初から二人で連携、行動していたとしか。
「錦さん。僕いま敵のスタンド攻撃をうけているかもしれないです」
「ちょっと新しい事覚えたからって、なんなんだよ。全部スタンド攻撃だってか」
「金銭感覚がおかしいんだよ。君と僕とで同じジュースを買おうとしてるのに、君は百二十円、僕は百二十万円?馬鹿げてないか?」
「いや?同じ値段じゃないか」
違いにすら気づかないのか。それともからかっているのか?このスタンド、かなりやばい能力かもしれない。
「仮にこれがスタンド攻撃だとして、遠距離型なのかな」
「敵のスタンドを見たのか?病院ではどうだったんだ」
「それらしきものはみてない。病院で支払いをした時も、特に金額に違和感は無かった。・・・自販機か?きっかけは」
「対象に触れたものに取り付くスタンドか・・・。お前の話を信じるなら、俺には認知出来ないが、お前は通常支払わなければならない金額より、数倍高い金額を求められていると」
きっかけが自販機だとすれば、本体はどこだ?どうやって見つけたらいい?どうやってこのスタンドを解除したらいいんだ。
僕は、御手洗を錦さんに任せ、本体が近くに居ないかと当たりを探すことにした。公園内、公園周囲を隅々探したが、それらしき人物を見つけることが出来なかった。すれ違う人々の中にいたとしても、気付きようがない訳だが。
ふと、足元を見る。そこには、円マークのような形をした虫がいた。
「虫か?いや、これは」
守護者《ガーディアン》を纏い、足先で触れようとする。しかし、すり抜けてしまった。
「いた、スタンドだ」
すぐさま錦さんの元に向かい、その虫型スタンドを見せた。
「いや、見えない。お前にしか、とり憑いている相手にしか見えないようだ。俺もそういうタイプのスタンドとは出会ったことは無い」
まずい。全くこのスタンドの攻略方法が分からない。