バカとテストと召喚獣 ~Fクラス戦記~ 打倒Aクラス! 作:神護景雲
「早く座れ、このゴミ屑野郎」
教室に入って開口一番でこの言われようである。こんな言葉を言うやつはきっと血も涙もないクズに違いない。
「誰がゴミ屑か!」
「新学期始まって早々遅刻かます奴をゴミ屑と言って何が悪い」
「クソッ! 反論できない!」
吐き捨てながら、新学期の朝を早々に最悪の朝に変えてくれたクズの顔を睨みつける。俺に罵倒を浴びせかけてくれやがったそいつは教壇に立っていた。
「まったく……。お前は相変わらずの口の悪さだな、雄二」
坂本 雄二。俺の悪友の一人である。身なりは細マッチョという言葉が似合いそうな180センチ強の男だ。もし俺にコイツの身長があれば中学時代、俺はバスケ部のエースになれていただろう。……いや、左手でドリブルできなかったから無理か。
「お前の遅刻ぐせほどじゃねぇ。遅刻の理由はいつものアレか?」
「ああ」
雄二の問いかけに頷いて見せる。いつものアレ。
「流石にZガンダム全話視聴は無理があった」
アニメの視聴である。Zガンダムとは、機動戦士ガンダムシリーズの第二作のことであり、主に俺の中で名作と呼び声高い作品だ。
「でも感動したから明日はZZを一気に見ようと思う」
「誰も聞いてねぇよ。ほら、お前の席はあそこだ」
雄二が一つの卓袱台と座布団のある場所を指す。どうやらそこが俺の席らしい。そう理解して、俺は席についた。
「ん……? 何か違和感が……」
違和感の原因を探るべく、教室を見まわしてみる。ボロボロの畳、落書きやヒビだらけの廃屋のような壁、目の前には座布団や卓袱台。
「……教室?」
「何呆けた顔してるのよ、佐々木」
とても教室とは思えない惨状を目の当たりにして、寝不足でいまいち回らない頭が処理しきれていなかったところに前から声がかかる。顔を上げると、そこにはポニーテールの女子が座っていた。島田 美波。ドイツからの帰国子女で、特徴はさっき言った通りのポニーテールと小さな胸。あ、これ言葉に出したら怒られるから絶対言っちゃ駄目。
「今何か失礼なこと考えなかった?」
「あはは、ま、まっさかぁ」
この学校には読心術者が複数存在するようだ。
「そ、それよりすごい設備だな、ここ」
「そうね。ウチも最初に教室に入った時はビックリしたわ」
島田が苦笑いをする。と、更にその横から声がかかる。
「仕方なかろうて。この学校は学力が上であるほど高待遇になるからのう」
「あ、おはよう秀吉」
島田の隣に座っていたのは木下 秀吉。可愛らしい顔に翁言葉が特徴の女子だ。本人は自分を男子と言い張っているが、それは戸籍上の話でれっきとした女子であることは疑いはない。
その秀吉の言葉だが、この学校ではクラス振り分けの方法に見られるように学力至上主義的な一面が見られ、クラス設備も例に漏れず、というワケだ。幾ら何でもひどすぎるとは思うが。
「救いは前の二人が女子であるということだな」
「亮よ。ワシは男なのじゃが……」
目の保養になって結構なことである。
「クソッ、あの野郎……!」
「二人もの女子と近い席だなんて許せねぇ……!」
周囲から放たれる殺気は気づかなかったことにしよう。その方が幸せになれるだろうから。
「万死に値する……!」
と、その中に聞き覚えのある声が混じっていることに気づく。
「誰かと思えば康太じゃないか。新学期始まって間もない今から覗きとはムッツリーニに恥じない行動だな」
そいつは畳に顔を擦りつけて、必至に島田のスカートの中を覗こうとしていた。
「……!!(ブンブン)」
思い切り首を横に振るのは土屋 康太。本人は己の行為を誤魔化そうという意志があるのだろうが、そのバレバレのスケベを隠す姿こそがムッツリだというのだ。
それにしても雄二、島田、秀吉、康太。見事に俺の仲間がFクラスに勢ぞろいしてるな。まあ、一人足りないんだが、どうせ遅刻だろう。
「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」
俺が悪友の最後の一人を思い浮かべたところで、教室の扉が勢いよく開き、底ぬけた明るさの声が聞こえてきた。
「早く座れ、このウジ虫野郎」
そして即座に飛ぶ雄二の罵声の言葉。奴は悪口の天才なのではないだろうか。
「聞こえないのか? あぁ?」
「……雄二。何やってるの」
教室の扉を開けた男が雄二に尋ねた。奴こそが俺の悪友の最後の一人、キングオブバカにしてバカの代名詞、吉井 明久である。どのくらいバカかというと、入学式の日にセーラー服を着てくるぐらいのバカである。
「先生が遅れているらしいから、代わりに檀上に上がってみた」
ああ、雄二が教壇に立ってるのってそういう理由だったのか。……あれ、明久でも疑問に思ったことを疑問に思わなかった俺ってもしかして……?
「先生の代わりって、雄二が? 何で?」
「一応このクラスの最高成績者だからな」
「それじゃ、雄二がこのクラスの代表者なの?」
「ああ、そうだ」
い、いやいやまさか。俺が明久以上のバカだなんてそんなことあるはずがない。そうだよな。落ち着け、落ち着くんだ佐々木 亮。
「これでこのクラスの全員が俺の兵隊だな」
……ん? 何か大事なことを聞きのがしたような。気のせいか?
「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」
響く覇気のない声。見てみると、明久の後ろで冴えないおじさんと表現するのが相応しい中年男性が立っていた。あれは確か……福原先生だったかな。
教室に入って来た福原先生に促されて、明久と雄二が空いていた席に座る。
「えー、おはようございます。Fクラスのみなさんの担任の福原 慎です。よろしくお願いします」
そう言って、先生が黒板に文字を書こうとして、止めた。どうやらまともなチョークがないらしい。こうなってくると何故黒板が導入されているのか逆に気になる。あれか。濡れ雑巾で授業しろってか。
「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されていますか。不備があれば申し出てください」
「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないです」
「あー、はい。我慢してください」
「先生、俺の卓袱台の脚が折れています」
「木工ボンドが支給されているので後で直しておいてください」
「センセ、窓が割れていて風が寒いんですけど」
「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」
さっきから出てくる単語がことごとく小学校の図工で使うようなものばかりである。酷い、酷すぎるぞFクラス。
「必要なものがあれば極力自分で調達するようにしてください」
どうやら必要なものは自給自足らしい。この惨状、世間で問題になったりしないのかなぁ……。我が学校ながら不安である。
「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。廊下側の人からお願いします。
先生に指名されて、廊下側の生徒から自己紹介が始まる。さて、Fクラスはどんなクラスなのかな。
「木下 秀吉じゃ。演劇部に所属にしておる。今年一年よろしく頼むぞい」
「……土屋 康太。……趣味はと、何でもない」
「島田 美波です。育ちがドイツだったので、日本語の読み書きは苦手です。趣味は吉井 明久を殴ることです☆」
「佐々木 亮。何かと世話かけるかもしれんが、よろしく頼む。あ、この中でデジモン好きな奴いない!? 語り合おうぜ! もちろん別のアニメの話も大歓迎だ!」
「えーっと、吉井 明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでください」
『ダァアーリィーン!!!』
「失礼、忘れてください。とにかくよろしくお願い致します」
……これは、想像以上に個性的な面子だ。まったく、この中では俺がまともに見えちまうぜ。とはいえ、ここまで濃いのはあくまで一部。他の人の自己紹介はそこそこの個性はあれども、割と淡々と進んでいく。
「須川 亮です。趣味は……」
あ、あいつ。俺と同じ名前だ。自分と同じ名前のやつがクラスにいると妙な気分になるよな。親近感が湧くような、ちょっと嫌な気分もするような不思議な感じ。
そんなことを考えている内に、須川の自己紹介が終わる。そして、次の奴が立ち上がろうとしたところで突然教室のドアが開いた。
「あの、遅れてすみません……」
『え?』
息を切らしながら、教室に駈け込んで来た女子に対して、何処からともなく驚いたような声が上がる。それは俺もだった。何故、彼女がここにいるのか。
教室が騒然とする中で、一人落ち着いている先生が声をかけた。
「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」
「は、はい。姫路 瑞希といいます。よろしくお願いします……」
小柄な体を更に縮めるようにしながら、突然このFクラスに現れた女子、姫路 瑞希が頭を下げる。
「はいっ! 質問です!」
「はっ、はいっ。何でしょう……?」
「どうしてここにいるんですか?」
一人の男子高校生がぶつけた質問は、聞きようによっては失礼なものだったが、おおよそクラス全員を代表するものであったことは間違いない。
姫路 瑞希は俺のデータベース(記憶)に残っている限り、学園トップクラスの成績を納める、超がつくほどの優等生であったはず。つまり、言ってみれば底辺の集まりであるこのクラスに彼女がいるはずがないのだ。
彼女がFクラスにやってきた真相は、次の姫路さんの言葉により明かされることとなる。
「その……。振り分け試験の途中に熱を出してしまいまして……」
ああ、なるほど。姫路さんの言葉を聞いて納得する。この学校は学力至上主義であるが、その試験は大学入試を見据えたもので、途中退席した場合は0点扱いになるのだ。姫路さんは恐らくそのルールに引っかかったのだろう。
「そういえば、俺も熱が出たせいでFクラスに」
「ああ。化学だろ。アレは難しかったな」
「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて」
「黙れ一人っ子」
「前の晩、彼女が寝かせてくれなくて」
「今年一番の嘘をありがとう」
クラスから次々に言い訳の声が挙がり始める。黙れ愚民ども、と言わざるを得ない。姫路さんとお前らを一緒にするな。
「ああ、でも俺も前日スラムダンクを見すぎて勉強が手につかなくて」
「自業自得というやつじゃの」
シッ! 秀吉、静かに! 反論の余地もない指摘はやめてよね!
「で、では、一年間よろしくお願いしますっ」
そう言って自己紹介を締めくくり、姫路さんは逃げるようにその場を離れ、空いている席へと向かった。隣は……明久と雄二か。雄二はともかく明久は本望だろうな。羨ましい奴らめ。
「チッ、妬みで人が殺せたら……」
「何呟いてるのよ、佐々木」
何でもないっすよ、島田さん。男の本音ってやつだから。
「はい。では次の方、前に出て自己紹介を……」
姫路さんが下がり、先生が次の生徒に自己紹介を促したその瞬間だった。
『バキッ バラバラバラ……』
乾いた木の音……? この音は一体……。
「え~、教卓が壊れてしまったので、替えを用意してきます。少し待っていてください」
気まずそうに告げると、先生は廊下の方へと姿を消していった。……何もしていないのに壊れる教卓って。せめて教師にはまともな設備用意してやれよ。そう思わずにはいられなかった。
先生がいなくなって程なく、教室には歓談の声が挙がり始める。見ると、明久や雄二も姫路さんと会話を始めている。俺も島田や秀吉と話を……。
「ふあぁ……」
と思ったのだが、そういえば一時間しか寝てなかったのを今のあくびで思い出した。中途半端に寝てしまったせいで、そのツケとして眠気が回って来たのだ。
「……おやすみ」
先生が帰ってきたら誰か起こしてくれる。そう考えてから、俺が睡魔に誘われるまで時間は幾何もかからなかった。
『……を……執れ! ……の……じゅ……だ!』
『おお!』
……ん? 何だ……? やけに盛り上がってんな……。
『俺たち……ない! ……だ!』
『おぉぉぉー!』
「うおっ!?」
二度目に上がったクラスメイトの雄叫びに、思わず目が覚める。顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは、Fクラスのみんなの拳を掲げた姿だった。
「お、おー……」
気おされて、俺も思わず拳を掲げる。
「明久。お前にはDクラスへの宣戦布告の使者をやってもらう。無事に大役を果たせ!」
「……下位勢力の宣戦布告の使者って、大体酷い目に遭うよね?」
「大丈夫だ。やつらがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」
下位勢力? 宣戦布告? 使者? 何のこっちゃ。
「本当に?」
「もちろんだ。俺を誰だと思っている」
寝起きの頭で状況を必至に整理する。取りあえず、これはおそらく夢ではないはず。俺は一応目覚めている。で、宣戦布告ってのは、主に戦いを挑む時にするものであって……。今この場で出てくる意味は……。分からん。頭がハッキリしない。
「俺を信じろ。俺は友人を騙すような真似はしない」
絶対ウソだ。寝ぼけた頭でもこれだけはハッキリと断言できた。
「わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」
「ああ、頼んだぞ」
悲しいかな、雄二の虚言に踊らされ、明久は意気揚々と教室を出ていった。バカだけど、いいやつだったな……。
「……なぁ、島田。秀吉。どういう状況なんだ」
自分の頭では整理しきれなかったため、前に座る二人に声をかける。
「何じゃ。亮よ、今までの話を聞いてなかったのか」
「ぐっすり寝てたわ」
「呆れた……」
島田が所謂ジト目というやつになって俺を見つめる。ね、眠たかったんだよ! しょうがないじゃないか!
「ウチらFクラスはDクラスに対して試験召喚戦争を仕掛けることになったのよ」
相変わらず呆れたような目線を向けながらも説明してくれる島田。
「試験召喚戦争、だと……?」
試験召喚戦争とは文月学園独特のシステムである試験召喚システムという、自分の学力に応じた強さを持った召喚獣を呼び出し、戦うクラス対抗戦とでも言えばいいか。科学とオカルトと偶然により完成されたという詐欺みたいな話のシステムを使用しているが、この制度には一つのメリットがある。
上位のクラスに勝てば、教室の設備を交換することができるのだ。来る時は見逃していたが、Fクラスの惨状から考えてみるに、その逆であるAクラスにはかなりの設備が整っているはずである。我らFクラスに限らず、それを奪い取るチャンスがあるとなれば下位クラスにとっては勉強に対するモチベーションになる。まあ、代わりに下位が負けたら設備のランクが一段階下がるし、試召戦争も三か月待たないとできないというデメリットがあるのだが。最も、このクラスの設備がこれ以上下がりようがあるかは甚だ疑問である。
「ふーん。じゃあ、Dクラスの設備を奪い取ろうってことか」
「いや、どうも雄二の口振りから察するに最終目標はAクラスの設備のようじゃな」
俺の言葉に、秀吉が解説を加えてくれる。Aクラスの設備だって? そりゃまた大きな目標だな。
「勝てるのか?」
「坂本には勝算があるみたいよ」
「勝算?」
島田の言葉は俄かに信じがたい。俺たちは学力底辺のFクラス。Aクラスとの戦力差が歴然であることぐらいは俺たちにも分かる。それを覆す方法があるとは俄かに信じがたいが……。
「まあ、でも雄二は結構“キレ者”だしな。アイツが言うならあり得なくもないってことか」
去年一年間つるんできた感想としては、普段こそバカをやってるものの、雄二は相当に頭の回る人間だ思われる。天才といってもいいかもしれない。アイツがFクラスにいるのは恐らく単純に勉強しないからだろう。何故しないのかまでは知らんが。
「ところでAクラスの設備ってのはどんなもんなんだ?」
ここで、別の疑問点を解決しておきたい。クラスのみんながこんな現実味のない話にあそこまでやる気になったのは、恐らくそこも関係していると思ったからだ。少なくとも、並の設備程度ならDクラスはともかくAクラス相手にやる気になるとは思えない。
「そんなに豪華なのか?」
「冷暖房完備、座席はリクライニングシートらしいわよ」
「……なるほど」
見渡せばオンボロ屋敷並の教室もどきが広がるFクラス。聞いただけでも快適な環境であることが分かるAクラス。これが格差というやつか。それが手に入るかもしれないと言葉巧みに焚きつけられれば、そりゃあ火もつくもんだ。
「試召戦争か……。いよいよ一年の時の召喚獣の扱いの訓練の成果が日の目を見るってワケだな」
「そうね。一年生のころは、こうして実際に試召戦争をやるなんてあまりリアルに考えられなかったけど」
「そう考えると、ワシらも二年生になったという実感が湧いてくるのう」
二年生、か……。俺がこの学校に入ってからもう一年経ったのか……。そんな感慨に浸っていたところだった。
「騙されたぁっ!」
叫び声と共に、明久が教室に転がり込んできた。息を切らすその姿は、まさに命からがらといったところだ。
「やはりそうきたか」
雄二が特に表情も変えずに言った。
「やはりってことは、使者への暴行は予想通りだったってことじゃないか!」
「当然だ。その程度も予想できずに代表が務まるか」
「少しは悪びれろよ!」
お前は何か月雄二と付き合いがあるんだとも思うが、それを差し引いても同情するぞ、明久。奴は人を騙すのにためらいがなさすぎる。やはり奴は読めんところがある。
「吉井君、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。かすり傷だから」
ボロボロの明久を見かねた姫路さんが駆け寄る。姫路さんは優しいなぁ。そんなバカ、ほっといても構わないというのに。
「吉井。本当に大丈夫?」
「平気だよ。心配してくれてありがとう」
島田まで明久の心配をしている。趣味は明久を殴る☆とか言いつつも、なんだかんだで島田は明久のことを……。
「良かった……。ウチが殴る余地はまだあるんだ……」
「ああっ! 体が痛い! 死んじゃいそう!」
島田は優しいなぁ。そんなバカ、ほっといても構わないというのに。(震え声)
「大丈夫かよ、明久」
冗談はほどほどにしつつ、明久に声をかけにいく。
「あ、亮。おはよう。ありがとう。大丈夫だよ」
そういえば、明久とは今日初めて話したことに挨拶で今更気づく。ま、それはいいとしてだ。改めて見ると、確かにかすり傷ばかりだな。これぐらいなら別に明久も大したダメージではないだろう。……まあ、入って来た時の姿から察するに、Dクラスの様子がヤバそうだったのは分かるが。念のために聞いとくか。
「Dクラスの奴ら、どんな感じだった?」
「すごい勢いで掴み掛って来たよ……」
明久が肩を落としながら言った。
「なるほど、そりゃ大変だったな」
「本当だよ……」
「そんなことはどうでもいい。それより今からミーティングを開くぞ」
俺と明久が会話しているところに、雄二が言葉を割って入れる。ミーティング? ってことは……。
「すぐに始めるわけじゃないってことか」
「当たり前だ。全員に作戦を浸透させなきゃならんからな」
そりゃそうか。バラバラに動いてちゃ、烏合の衆にもほどがあるもんな。そういうわけで、俺たちは屋上へと場所を移し、来たるDクラスとの試召戦争に備えることとなった。
……ちなみに、康太によると姫路さんの下着は水色らしい。流石ムッツリーニ。
「いいか。開戦は今日の午後だ」
暖かい春の日差しを浴びることのできる屋上で、弁当に箸をつけながら雄二が言った。
「今日の午後? 明日じゃなくて?」
疑問に思ったので、とりあえず口に出してみる。
「ああ、鉄は熱いうちに打てというだろう」
「確かに。勢いのあるうちに取りあえず一戦かまそうってことか」
元々バカの集まりだ。勢い以外に大した取り柄もないしな。まあ、そのバカが勢いに乗ると結構すごいパワーになることもあるんだけどな。
「そういうことだ」
「それじゃ、開戦はお昼の後ってことだね」
明久が頷いて見せる。
「そうだ。明久、今日ぐらいはちゃんと昼飯は食えよ」
「そう思うならパンの一つぐらい奢ってくれると嬉しいんだけどな」
雄二の忠告に、明久が軽口を叩く。
「えっ、吉井くんってお昼食べないんですか?」
姫路さんが驚いたような声を出した。まあ、見るからに規則正しい生活送ってそうだし、想像しづらいだろうな。
「いや、一応食べてるよ」
姫路さんの言葉に対して、明久が答える。しかし、俺はその言葉にダウトを突きつける。
「食ってるって、お前の主食水と塩じゃん」
「砂糖だって食べているさ!」
「吉井、アンタそれは食べてるんじゃなくて舐めてるっていうのよ」
「主食とは程遠いのう」
「……(コクコク)」
全員に総ツッコミを食らう明久。まあ、当たり前と言っちゃ当たり前だ。
「ま、飯代までゲームに注ぎ込んでるお前が悪いよな」
雄二の指摘が入る。まったくもって正論だった。
「し、仕送りが少ないんだよ!」
「明久。その弁明は苦しいぞ」
普通は生活費を優先的に考えるはずだからな。自業自得ということだ。
「あのっ、良かったら私がお弁当作ってきましょうか?」
だというのに、姫路さんが明久を見かねたのか、そんな提案を持ちかける。バカな! 明久に女の子の手作り弁当だと!?
「え、いいの?」
「はい。明日のお昼で良ければ……」
「その必要はないよ姫路さんわかるかい明久が昼飯を食えないのは明久の浪費が悪いのであって君がわざわざ手を割く必要はないんだそもそもこの辺で明久には生活能力というものを身につけさせないと」
「落ち着け、亮。姫路が軽く引いてるぞ」
早口でまくし立ててると、雄二の指摘が入った。見ると、確かに姫路さんは完全に苦笑いをしていた。しまった。やり過ぎたな。
「だって羨ましいですやん。女の子の手作り弁当なんてずるいですやん」
明久ばかりが幸せを享受するなんて許さん! 妬ましいから。
「お前は何人なんだ」
雄二がコイツはバカか、と言わんばかりの表情をする。
「あ、でしたら皆さんにも……」
と、ここで姫路さんがこんな提案をしてくれる。え、いいの!?
「よいのか? 手間がかかるじゃろうに」
秀吉が言うように、これだけの人数の弁当を作るのは本当に手間がかかる。発言した本人としてこれは申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
「大丈夫です。もし嫌でなかったらですけど……」
「嫌だなんて全然そんなことないよ! なぁ、雄二」
「ああ、そうだな」
「楽しみじゃのう」
「……(コクコク)」
「……お手並み拝見ね」
みんなが姫路さんが弁当を作って来てくれることに期待の言葉を述べる。……島田だけが挑むような口調だったのは置いておこう。あいつは乙女だから。
「姫路さんって優しいね」
そんな姫路さんに明久が言うが、まさにその通りだと思う。彼女はFクラスに舞い降りた天使と言っても過言ではないだろう。もしくは女神だ。男ばかりのFクラスだが、島田、秀吉、姫路さんの三人の女子がいるというのは、きっと神様の慈悲に違いない。
「そ、そんな……」
明久の言葉にも、姫路さんはただ照れくさそうにするばかり。謙虚な娘だねぇ。
「今だから言うけど、僕、初めて会う前から君のこと好き……」
と、ここで明久が謎の決め顔と共に口上を述べ始める。おっ、まさか明久のやつ……いく気か!?
「明久。今フられると弁当はなしだぞ」
「好きにしたいと思ってました」
「明久よ。それでは欲望をカミングアウトした変態じゃぞ」
どうやらただの変態告白だったようだ。
「……ゴホン。話が逸れたな。試召戦争に戻ろう」
雄二に言われて初めて思い出す。そういえばこれ、試召戦争のミーティングだったな。
「雄二よ。一つよいか? 何故、Dクラスなのじゃ? 段階を踏むならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」
秀吉の疑問はもっともだった。一つ格上のEクラスでもなく、目標のAクラスでもなくDクラスに挑む理由。そういえば、俺も教室では納得してたが、確かに言われてみると何故Dクラスなのか。その疑問に対する雄二の解説が入る。
「簡単だ。他のクラスにとってもそうだが、これは俺たちの初陣だ。Aクラスを目標にするにあたって、ここは一発派手に勝って勢いをつけたい」
「けどそれならEクラスでいいじゃない」
島田が割って入ったが、彼女や最初に秀吉が言った通り、景気づけならEクラスでもよいのでは。そう思っている俺たちに、雄二はいとも簡単に言ってのけた。
「簡単だ。Eクラスとは戦う意味がないからな。何故だか分かるか、明久?」
「いや、全然」
「少しは考えろよ……」
即答する明久に雄二が呆れ、手を頭にやってため息を吐く。
「確かに、振り分け試験の段階では俺たちの方が格下だ。しかし、今の俺たちには万全の状態の姫路がいる」
「ああ、そういうことか」
明久が手を叩いた。実のところ、俺も今の説明でピンときた。つまり、姫路さんがいるから戦力的にはEクラスを凌ぐことは簡単。練習相手にもならんということか。
「それにAクラスを倒す作戦の必要なプロセスの一つだしな」
弁当のウィンナーに手をつけながら雄二が一言付け加えた。どうやら奴の頭の中では本当にAクラスに勝つためのプロセスが出来上がってるらしいな。大したもんだ。
「いいか。お前ら」
雄二が、空になった弁当の蓋を閉じ、立ち上がる。180センチ強はある長躯に、その場の全員の視線が集まる。
「お前らが協力してくれるなら、必ずDクラスにも、Aクラスにだって勝てる」
断言する雄二。その目に迷いはない。
「俺たちのクラスは、最強だ」
最強。最底辺のFクラスが最強、か……。バカらしい、実にバカらしい発言だ。が、何でだろうな。コイツの言葉を聞いてると、やってみようじゃないかって気になっちまう。
「いいわね……。面白そうじゃない!」
「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやろうかの」
「……(グッ)」
「が、頑張りますっ」
それぞれが頷き合って、この試召戦争に対する意気込みを表現する。
「新学期早々、退屈することはなさそうだな」
もちろん、俺だってこれに期するものはある。この学校の学力至上主義と、それに胡坐を掻いた奴の鼻を明かしてやりたいとは思うし、それとは別に、誰にも言ったことはないが、見返してやりたいと思う奴もいるからだ。
「やろう、みんな!」
明久が拳を握りしめる。“イイ顔”をしているな、と思った。やってくれる男の顔だ。面白くなってきた。
全員を見渡して、雄二が野性味溢れる笑みをむき出しにして笑った。
「よし、作戦を説明するぞ!」
感想、ご指摘などよろしくお願いします。