バカとテストと召喚獣 ~Fクラス戦記~ 打倒Aクラス! 作:神護景雲
FクラスとDクラスの試験召喚戦争は、姫路さんがDクラス代表の平賀を倒したことで決着がついた。それを受けて、歓声と悲鳴が廊下に入り混じる。
「凄ぇよ! 本当にDクラスに勝てるなんて!」
「信じられねぇ!」
そんな声を挙げているのはFクラスの面々。それもそうだろう。試験召喚戦争とはテストの点が物を言う勝負。その勝負に、最底辺である俺たちFクラスが勝てるなんて思ってもみなかっただろう。
「やっぱり坂本は凄いやつだったんだな!」
「坂本万歳!」
「姫路さん愛してます!」
皆の賞賛がFクラス勝利の立役者である雄二へ向けられる。……何故か姫路さんへの愛の告白も聞こえてきたんだが、聞かなかったことにしよう。
「あー、なんだ。そう褒められるとなんつーか……」
当の本人は向けられる賞賛の声を受けて、頬を掻いて照れ臭そうな表情を見せていた。これはあまり見ない光景だ。
「坂本、俺と握手してくれ!」
「俺とも!」
挙句の果てには、雄二との握手会が始まっていた。はは、すっかり英雄扱いだな。まあ、姫路さんというジョーカーがいたとはいえ、圧倒的に実力で劣っている勝負だったからな。戦力差をひっくり返したという点で言えば、確かに英雄かもしれない。
「僕も雄二と握手を!」
見れば、明久までもが雄二に握手を求めるべく走っていた。その手には包丁が握られているように見えたが、きっと気のせいだろう。
目に飛び込んできた光景を自分の中で処理して、俺は別の方向へと目を向ける。その視線の先には、一転した光景が飛び込んでくる。
「……」
負けたDクラス側は、当たり前というか何というか、Fクラスとは対照的な暗い雰囲気を醸し出していた。試験召喚戦争のルールに従えば、彼らはこれから試験召喚戦争が再びできるようになる3か月後まで、あの畳と卓袱台の教室に押し込まれるわけのだ。
天国と地獄とはまさにこのことだろうな。
「お疲れじゃったの、亮」
「ん? ああ、お疲れ、秀吉」
FクラスとDクラスの様子を見比べながら何とも言えない気分になっていると、秀吉が声をかけにやってきた。
「やれやれ。初めての試験召喚戦争、結構キツかったな」
「そうじゃな。それにワシらは点数で劣るから余計に苦しい戦いになるからのう」
お互いに初めての試験召喚戦争への感想を述べる。実際、これが正直な感想だ。初めての試験召喚戦争は、体力的にも精神的にも相当キツかった。
「まあ、お互いに戦死を免れただけでも幸運だったと言ってもよいじゃろう」
秀吉の言う通りだった。何せ、戦死になればあの鉄人の補習を、戦争が終わるまで受けていなければならなかったのだから。考えただけでも背筋が震えてくる。
「まさか姫路さんがFクラスだったなんて……。信じられん」
そんな話を秀吉としていると、ふとそんな声が耳に飛び込んできた。声の主は平賀だった。痛恨の表情を浮かべていた。
「あっ、その、さっきはすみません……」
姫路さんが謝罪の言葉を述べる。騙し討ちのような形になってしまったのを気にしているのだろうか。
「いや、謝ることはない。Fクラスを甘く見た俺たちが悪かったんだから」
平賀が言う。確かに姫路さんがFクラスだなんて想像もつかないだろうが、それにしたって結局は俺たちFクラスのことを甘く見て、油断していた。Dクラスの奴らの中にはその思いが少なからずあるのだろう。
「ルール通りに教室を明け渡そう。ただ今日はもうこんな時間だから作業は明日でいいか?」
そう言った平賀の顔には元気がない。クラス代表として責任を感じているのだろう。敗戦の将か……。その心中はどんなもんなんだろうな。
「勿論いいよね、雄二?」
平賀の様子が見ていられなかったのだろう。明久がその提案を受け入れることを雄二に確認する。俺もこれについては賛成だった。
しかし、雄二の答えは思いもよらないものだった。
「いや、その必要はない。Dクラスを奪うつもりはないからな」
……は? 待て待て。Dクラスは奪わないって、じゃあ何で俺たちはDクラスに攻め込んだんだ?
「それはどういうこと? せっかく普通の設備が手に入れられるのに」
明久も設備を交換しないことを疑問に思ったのだろう。雄二に尋ねる。それに対し、雄二はさも当然のことであるかのようにこう答えた。
「忘れたのか? 俺たちの最終的な目標はAクラスを攻め落とすことだ」
それはそうだ。だが、それとこれと何の関係があるのか分からない。
「なら何で最初からAクラスに攻め込まなかったんだ?」
疑問に思ったので、口に出して聞いてみた。それに対して、雄二はこう答えた。
「亮。昼休みに作戦を立てている時に俺が言ったことを覚えているか?」
「昼休み?」
会話の内容を思い出してみる。確か、あの時雄二は……。
「Aクラスを倒すのに必要なプロセス?」
「そうだ。だから条件はあるが、教室の設備を交換するつもりはない」
「条件?」
条件という言葉に平賀が反応した。
「ああ。俺が合図をしたら、Bクラスの室外機を壊してほしい。設備を壊せば教師には睨まれるだろうが、設備を守れると思えばそう悪い取引じゃないだろう?」
「確かにこちらとしては願ってもない提案だが……。何故そんなことを?」
「次のBクラス戦に必要な作戦なんでな」
「そうか……。なら有難くその条件を飲ませてもらうよ」
「タイミングについては後でまた話す。今日はもう行っていいぞ」
「ありがとう。FクラスがAクラスを倒せるよう願っているよ」
「ははっ、無理すんな。どうせ勝てっこないと思ってるんだろ?」
「そりゃそうだ。ま、社交辞令ってやつだな」
そう言って、平賀はDクラスの奴らと共にその場を去って行った。
「さて、皆! 今日はご苦労だった! 明日は今日消費したテストの点を補充するから、今日のところは帰ってゆっくり休んでくれ!」
雄二が号令をかける。今日補充しなかった点数は明日に回すようだ。どうやら明日は一日テストになりそうだな。
「行こうぜ、秀吉。今日はもう帰るだろ?」
「うむ」
俺たちも、流れに従って教室へ向かう。その道すがら、俺たちは先程の雄二が平賀と交わした取引の話になる。
「雄二は何を考えておるのかのう」
秀吉も先程の話は聞いていたし、雄二の考えるところが気になっているようだ。
「あいつ、次はBクラスを攻めるって言ってたもんなぁ」
雄二にとってはAクラスを倒すために必要なプロセスらしいが、俺には何のためなのかさっぱりである。
「まあ、ただ」
ただ、一つだけ言えることがある。
「俺たちならきっと勝てるよ」
これだけは不思議に言い切ることができた。次のBクラスにも、そしてAクラスにも俺たちは勝てるんじゃないか。もしかしたら今日勝って気分が大きくなっているだけかもしれない。だが、それでも今は本当にそう思っていた。
俺の言葉を聞いて、秀吉も笑いながら頷いてくれた。
「そうじゃな。そうなるように、次も頑張らねばな」
こうして、俺たちの慌ただしい新学期が幕を開けた。
その日の夜、家に帰った俺は翌日のテストに備えて申し訳程度に勉強していたのだが、母親から晩飯の準備ができたことを告げられ、家族揃って食卓についていた。今日のメニューはカレーだった。
「「「「いただきまーす」」」」
さて問題。今の声から察するに我が家は何人家族でしょーか!? ……何か言ってて空しくなってきた。あ、俺んちは4人家族です。父と母と妹がいるのだ。
では、ここで俺の家族を紹介しよう。父の悟、母の英子、妹の鈴音である。解説終わり。
え、人柄について……? 至って普通ですよ? 普通の家族。
「フフフ……。我が精魂込めて作り上げた料理の味、今宵も存分に味わうがいい!」
……ええっと。このイカれたような話し方をする人は全く知らない人で、断じて私の母親などではございません。
「美味い! 美味いよ、母さん! 世界で一番のカレーだよ!」
……ただの普通のカレーを喜んで平らげてるこの男性もきっと知らない人です。僕の父親じゃないと思う。
「……頭が悪そうな会話」
今、毒舌を吐いた人もきっと知らない……。もうやだ! 喋り方が変な母に、妻にデレデレの父に、自分の親にすら毒舌な妹! 何なんだ、この家は!?
先程の普通の家族とは大嘘も良いところである。俺の家族は、これが自分の帰る場所だとは認めたくないほどおかしな家族です。はい。
「……はぁ」
ため息交じりに目の前のカレーを口に含む。世界で一番美味しい……ということはなく、至って普通の味である。美味しいことは美味しいのだが、親父の褒め方はやっぱり異常だ。
「息子よ。我が料理はどうだ、美味かろう?」
母さんが俺に料理の感想を聞いてくる。どうって……。
「至って普通のカレーだよ」
カレーの味なんかよりその喋り方をどうにかして欲しい、という言葉は飲み込んだ。今更言っても手遅れだから。
「貴様! 母さんのカレーを何と心得ている!」
俺の感想が気に食わなかったのか、親父がキレた。そうは言いますがお父さん。僕はあなたのようにはなれないんです。
そんなやり取りを聞いて、鈴音が一言こう言った。
「……揃いも揃って馬鹿ばっかり」
おい待て、その中に俺が入ってるのは納得いかないぞ。
「何よ?」
不満げな視線を向けていると、それに気づいた鈴音がふてぶてしい態度を取る。
「別に、何も」
俺はそう答えたが、内心そんな訳もなく、それが口調に出る。それを感じ取った鈴音は俺を少し睨みつけてきた。食卓に険悪な雰囲気が流れる。
その雰囲気を変えたのは、母さんだった。
「二人とも、今日から新学期であったが、学校の方はどうであったか」
ここで学校の話か。雰囲気を変えるには丁度良いかもしれない。こういうところは普通の母親である。後はその大仰な喋り方さえ止めてくれればなぁ……。
「私は特に変わりなし」
鈴音はまだ少しむすっとした顔はしていたが、母の雰囲気を変えようという意図を読んだか、あるいは単にこれ以上俺と話をしたくなかったか、会話に乗って来た。
「亮の方は?」
親父が俺に問いかける。
「俺は順当にFクラス。一年の時から仲が良かった奴らも一緒」
「へぇ、Fクラスってバカの集まりなんでしょう? 類は友を呼ぶって本当なんだ」
俺が自分の新学期を報告していると、鈴音が口を挟んできた。
「おい、訂正しろ」
思わず、強い口調で言ってしまう。こいつ……! 何てことを言いやがる!
「俺がアイツラと同類だと!?」
「だってアンタ馬鹿じゃん」
「否定しようがないであるな」
「うん、否定できないね、母さん」
家族揃ってこれである。この人達は本当に俺の家族なのだろうか。そんなことを思わずにはいられなかった。
「っていうか、アンタのクラスなんかどーでもいいよ。友香ちゃんはどのクラスに入ったの?」
「ユウカチャンッテダレダイ? ボクノシラナイヒト?」
「アンタと同じ小学校だった小山 友香ちゃんのことよ」
小山 友香。あまり聞きたくなかった名前である。小学校の時の同級生で、何故か鈴音とは仲が良いらしいが、俺は正直関わりたくない。だってあいつ性格悪いんだもん。小学校の時はそうでもなかった気がするんだけどなぁ……。あの時は俺もあいつと仲良かった気がするし。
まあ、俺の小山 友香という人物に対しての評価はそんな感じ。向こうも俺とはあまり関わろうとしないし、今ではほとんど交わりもないのが実情だ。当然、アイツがどのクラスになったのかなど、知らん。
「分かんね」
なので、正直に答えてやったら、鈴音は一瞬こっちを役立たずとでも言いたげな視線で見た。が、すぐに考えを変えたらしく、「後でメールで聞けばいっか」なんて言って、その後はこちらに目もくれず、カレーを食べ始めた。
俺もこれ以上この話題を続けるつもりはなかったので、それ以上は何も言わず、カレーに口を付ける。うん、至って普通の家庭のカレーの味だ。世界一ではないが、だからと言って何ら不満はないレベルだ。……作ってる人は世界一変人かも知れんが。
「亮。今しがた我に対して失礼なことを考えなかったか?」
「ははは、嫌だな母さん。そんなわけないだろ」
クラス分けの時の鉄人、島田、母さん。俺の身の回りには読心術者が複数存在しているようだ。その後は特に大した話もなく(大したことないとはあくまでこの家族にしてはである)晩飯を食べ終わり、俺は部屋に戻った。
「むむむ……。勉強する気が起きん……」
部屋に戻ったのだが、勉強しようという気になれなかった。ご飯食べた後ってそういう時があるんだよな。
「ええい。休憩しよう」
そう思い直して、俺は学習デスクを離れ、ベッドに寝転がる。天井を見つめながら、ぼんやりと今日一日のことを振り返ってみた。正直、新学期初日から試召戦争をやることになるとは思ってもみなかった。
「疲れた……」
そうしている内に、溜まっていた疲労が眠気となって一気に押し寄せてくる。段々と瞼が下がっていくのが自分でも分かった。
「ダメだ、もうちょっと勉強しないと……」
呟いてはみるものの、眠気は収まらなかった。学習机に戻ることもできないまま、俺の意識は段々と薄れていくのであった。
バカテスといえば、おバカな家族だと思います。この家族はどこまでおバカになりきれるんでしょうか……?
ありがとうございました。