「なーんか最近、監視官気合入ってるねぇ。」
零係の部屋で、周がふとそんなことを呟いた。
ここ数ヶ月の凛翔の様子を見ていると、やけに免罪体質者狩りへの意気込みが凄まじい。
「確かに。そのくせ何のために免罪体質者を狩ってるのか、理由は教えてくれんがな。」
刀矢も周とは同じ印象を受けているようで、その理由を未だに教えてくれない凛翔に対する不満を口にした。
数ヶ月前にも一度、対外政策と免罪体質者狩りの関係性を聞いたことがあるが、彼の返答は「執行官が知る必要はない。」の一点張りであった。
「結局私たちって、何のために執行官やってるんだろうって最近思うようになっちゃった。」
「藍夏ちゃんは正義感強いからねぇ、零係の仕事は似合ってないかも。」
相変わらず飄々とした態度で周が茶化す。
一方で、周も刀矢も、藍夏が想定以上に精神を擦り減らしていることを知っていた。
「笑い事じゃないよ。中には普通に生活してるだけの人もいた。なのに理由もわからないまま捕まるなんて...。」
生得的に発現すると言われる免罪体質者。
シビュラの盲点でもあることから、公にはされていない特殊体質である。
免罪体質者=犯罪者というわけではなく、中には自分がそういった特殊体質であることに気づかない者もいる。
零係が確保した者の中にはそうした人も含まれていた。
その人にとっての日常が、公安局の都合で突然壊される。
そうした理不尽さを感じながら、藍夏自身の色相は確実に陰りを見せ始めていた。
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僕は生まれつき、シビュラシステムに見放された人間だ。
どんな辛いことがあっても、ストレスにまみれても、自分の色相は限りなくクリアだった。
システムに見向きされない人間。
ただその事実が、僕には辛かった。
だけど、僕以外にもそうした人間がいることを知った。
中にはそれを特権のように感じる人もいるみたいだが、僕と同じように孤独と感じる者も少なくなかった。
『学校で虐められてるのに、今日の色相チェックでも相変わらずのクリア。健康的だねって先生に言われたよ。』
モニターに表示されるチャット欄を見る。
海外のサーバーを用いて作られた、僕らのような特殊な体質を持つ者同士の交流サイトである。
ここで日頃抱える孤独感を語り合い、傷を舐め合うのである。
『結局この国は、何事も色相でしか判断しないんだ。』
そうなると必然、シビュラシステムの批判へと発展する。
一方でそれは、仲間外れにされた者の僻みも混ざっているのかもしれない。
「メール?誰からだろう。」
普段はサイトのメンバーとしか交流しない僕だが、珍しく外部の人からメールが届いた。
差出人は...
「公安局...?」
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「待たせてすまない。公安局だ。」
凛翔はその日、とある人物と待ち合わせをしていた。
執行官は連れず、単独での行動である。
「僕も先程来たところです。それで、公安局が何の用です?」
凛翔が呼び出したのは御手洗 彰(みたらい あきら)という人物。
免罪体質者である可能性が高いと目を付けていた人物である。
一通りの少ない通りの、小さなカフェにわざわざ呼び出したのは、外部に聞かれると面倒な話題を持ってきたためであった。
「君の色相、調べさせてもらったが特殊な体質をしているようだな。」
「...!」
いきなり免罪体質の話を持ちかける。
御手洗の反応からするに、彼は免罪体質者で間違いなさそうである。
「それと、君が参加している交流サイト。恐らく利用者は、君と同じ体質を持つ者達であると考えているんだが、どうなんだ?」
「それがどうしたって言うんです。何かの捜査ですか?少なくとも僕らは何もしてないし、色相も問題ないでしょう!?」
僕ら、と言ったことでサイトの利用者が免罪体質者の集まりであることは間違いないだろう。
「君の体質は、シビュラの盲点とも言うべきものだ。それを公安局が何もせず放っておくと思うか?」
その瞬間、彼の目は怯えた様子を見せた。
無理もない。
何も悪事を働いているわけでもなく、ただ特殊な体質を持っていると言う理由だけで公安局が動こうとしているのだから。
「1つ、君に提案がある。シビュラの真実と、その不遇な扱いからの脱却を得る機会を与えたい。」
「それはどういう...」
「詳しいことはこのメモに記した場所に来い。時間厳守だ。」
おずおずと御手洗はメモを受け取った。
その表情は半信半疑といった様子であり、半ば睨むようにこちらを見た。
「言っておくが、公安局は君らを放置するつもりはない。これだけは覚えておくことだ。」
御手洗は何も言わず、半ば逃げるようにその場を去っていった。
「さて、彼はどう動くか...。」
彼が免罪体質者であること、そして同じ体質者が複数人いることの確証が得られた。
やや分かりやすいが、免罪体質者を呼び出す罠も張った。
少なくとも、彼自身が免罪体質者であることと、複数人いることを勘付かれたこと、そして公安局の圧力が重なったことで、冷静な判断は困難となるだろう。
足元に控えていた、高機能小型ドローン通称ダンゴムシを拾い上げ、記録させたデータを確認した。
御手洗と話している間にダンゴムシを用いて、彼のデバイスをスキャンさせていたのだ。
自宅のPCとの同期履歴もあることから、解析に回せば例のサイトのログまで洗い出せる可能性がある。
「早く、早く政策を発動させなければ...。」
月城が言う、母国ドイツへの幸福の輸出。
それが実現するならば、腐った母国さえも変革を起こせるはずだ。
そのためなら、彼にとってこの国の正義などどうでもよかった。