機動戦士ガンダムZZ 第31.5話 「ピラミッドの謎」 作:J・バウアー
Ⅰ
ピラミッドの奥深くにある大きな扉。それを開けて中を覗き込むと、古代の遺跡とはとても思えない光景が広がっていた。
「なんなんだ、一体…」
ジュドーたちが絶句するのも無理はない。床は先ほどまでの年代モノの石畳ではなく、すべり止めのついた鉄板になっている。パイプやら得体の知れない機械が周囲を囲んでおり、さらにいかにも物騒なものが並べてあった。
「これって、ミサイルじゃない?」
物騒なものをルーは見上げた。高さはモビルスーツをはるかに超える巨大なものだ。ビーチャは少し離れて物騒なものの数量を確かめている。5本あるようだ。
「なんで古代の遺跡にミサイルが?」
ジュドーはプルと一緒に入り口で佇んでいた。と、ちょうどその時、ジュドーは後頭部に冷たいものを感じた。
「そのまま動くなよ…我らがジオン公国の秘密基地へようこそ」
ジュドーはゆっくりと振り向いた。ジュドーに銃口を突きつけていたのは、さっきのガイドだった。
「ニュータイプだか何だか知らんが、しょせんは子供だな。こんな子供だましに引っかかるとは。ハマーン様は何故こんなガキどもを恐れるのか、理解できん」
「おじさん、俺たちに何の用なの?」
何気なく放ったジュドーの疑問の言葉に、ガイドはカチンと来て、銃口をジュドーの額にぐりぐりと押し付けた。
「さっきから俺のこと、おじさん呼ばわりしやがって。俺はまだ二十代だ」
「悪かった、悪かったよ。お兄さん。お兄さんは、俺たちに何か用でもあるの?」
「お前たちには用はない。用があるのは、お前たちが乗ってきたやつだ」
ガイドにこう言い切られて、ビーチャは深いため息をついた。
「あ~あ、やっぱり。しょせん俺たちはガンダムのおまけってわけね」
ゴットンたちに請われてエンドラに乗り込んだはいいが、特別待遇どころか下働きとしてこき使われるハメに遭ったビーチャとモンドは、世の中うまい話なんてないということを、嫌というほど思い知っていた。ビーチャは、ふてくされたような目をしてガイドを睨んだ。
「俺たちが乗ってきたモビルスーツで、一体何をする気なんだ?」
「そんなこと、お前たちに教えてやる義理はない」
「そんな冷たいことを言わないで教えてよ」
とモンド。
「どうせ俺たち、身ぐるみ剥がされてしまうんでしょ。教えてもらったって、俺たち何にもできないって」
とジュドー。
「そうそう。子供に教えを授けるのは、立派な大人の役目ってもんだよ」
とビーチャ。ガキどもが次々に話しかけてくるから、ガイドの視線はめまぐるしく動いた。と、そのとき、
“ガン!”
と大きな音が響いた。そっとガイドの背後に忍び込んだエルが、一斗缶をガイドの頭目掛けて思いっきり振り下ろしたのだ。頭に衝撃を受けたガイドは、そのままぶっ倒れてしまった。ぶっ倒れたガイドにジュドーは冷たい視線を突き刺した。
「このおっさん、死んだかな?」
「さあな。それよりも、これからどうするよ、ジュドー」
ビーチャに尋ねられたジュドーは、腕を組んでしばらく考え込んだ。そこにエルが横槍を入れた。
「こんな辛気臭いところ、さっさとおさらばしようよ」
「さんせーい!私、お風呂に入りたい!」
エルの提案にプルが乗っかった。それに反対したのは、ルーだった。
「このままジオンの基地を放っておくなんて、やばくない」
「それだったら、モビルスーツを使ってこの基地を破壊したほうがいいんじゃないか?」
ビーチャの何気ない提案を聞いて、ルーは頷いた。
「そうね。それだったら、一旦イーノのところへ帰らないと…」
「ちょっと待った!」
まとまりかけた場に、ジュドーは待ったをかけた。
「俺たちは子供だ。子供がやることと言ったら、いたずらに決まっているだろ」
ジュドーはニヤリと笑った。
Ⅱ
ピラミッドの地下に築かれたジオンの基地は、たいしたものではなかった。しかも駐在している兵隊はさらに少なく、たった5人。本来であれば300人ほどで運営されるべき基地にそれだけの人数しかいないから、5人の兵隊さんたちは必然的に単独行動になる。いくら相手が兵隊さんであっても、一人が相手ならジュドーたちにとって苦にならない。チームワークを駆使してあっさりと兵隊さんたちを片付けたジュドーたちは、無人の司令室に入り込んだ。
「ジオンの奴ら、俺たちをなめてんじゃないのか?」
「いんや、そもそもここが襲撃されるなんて、思ってもいなかったんじゃないか」
ビーチャのつぶやきに、ジュドーが答えた。端末が置いてある机を見つけたルーが、イスに腰掛けた。
「襲撃されることを想定していないにしても、人が少なすぎやしない?」
「ネオ=ジオンは人手不足なんだろうさ」
ゴットンにこき使われたことを根に持っているビーチャは、ネオ=ジオンに辛らつだ。ルーの疑問にビーチャが吐き捨てるように答えるのを見て、ジュドーは笑った。
「人手不足はネオ=ジオンに限った話ではないだろ。エウーゴだって似たようなもんさ。もし人手が足りていたら、ガンダムチームを俺たち子供に任せたりはしないさ。それよりも、」
ジュドーは端末を叩いているルーに視線を移した。
「ミサイルの数と使用目的が分からないか?」
「ちょっと待って」
しばらくすると画面に一覧表が現れた。
「ミサイルは全部で5発。衛星軌道上に展開するエウーゴの艦隊を狙っているみたい」
「エウーゴの艦隊?そんなもの、まだあったのか?」
「艦隊といっても、大した数じゃないわよ。2~3隻ってとこかしら」
「ふぅん。ところで、その近くにネオ=ジオンの船はないか?」
「そうね。探してみるわ」
ルーが端末を操作すると、別のウィンドゥに図面が現れた。円が地球。アフリカ大陸の一部も描かれており、現在地も表示されている。円の傍に点が二つ。一つがエウーゴの艦隊。あともう一つが…
「ネオ=ジオンの巡洋艦がいるわ」
「それじゃ、標的をエウーゴの艦隊からその巡洋艦に変更してくれ」
「おい、ジュドー。そりゃいくらなんでも、いたずらのレベルを超えちゃいないか?」
モンドが心配そうな声を上げた。そんなモンドにジュドーは笑って答えた。
「心配するなって。これだけ距離が離れていたら、いくら何でも気付くって」
「勝手なことしたら、艦長に怒られて独房に入れられるかも…」
「いいって、いいって。ルー、標的を変更してくれ」
「全弾変更すればいいのね?」
「そうそう。ミサイルが全部なくなってしまったら、アーガマが狙われる心配がなくなる」
「そういうことね。分かったわ。全弾、標的を衛星軌道上のネオ=ジオン巡洋艦に変更」
画面上の図面に、ネオ=ジオンの巡洋艦に向かうミサイルの軌道が描かれた。それを脇で見ていたビーチャが急に前にしゃしゃり出てきた。
ビーチャ:「よおーし、全員配置につけ~。これより敵巡洋艦にミサイルによる攻撃を行うぅ。モンド!用意はいいか」
モンド:「用意って、何をすればいいのさ?」
ビーチャ:「そ、それはだな…、おいルー。次に何をすればいいんだ?」
ルー:「あっきれた~。何も分からないくせにこの場を仕切ろうとしたわけ?」
ビーチャ:「別にいいだろ。俺だってなぁ…」
ジュドー:「ビーチャ、こんなところでブライトキャプテンの真似なんかしなくていいだろ。どうせあとは全自動で全弾発射されるから、放っておけばいいんだ」
ビーチャ:「何だよジュドー。それだったらそうと先に言えよ」
ジュドー:「はいはい分かった分かった。俺が悪かった。ところでルー、セット終わったか?」
ルー:「……はい、はい、はいっと。セット終わったわよ」
ジュドー:「それじゃ、こっからずらかるか」
プル:「ねぇジュドー、ここすごくほこりっぽいから、はやくお風呂に入りたーい!」
ジュドー:「分かった、分かったよ、プル。もう帰るから、しばらくおとなしくしていなさい」
プル:「は~い。じゃあ、おんぶして」
ジュドー:「な、なんで、おんぶ??」
プル:「だって~、あるくと汗かいて気持ち悪いんだもん」
エル:「プル!わがまま言わないの。ジュドーだって疲れてるんだから」
プル:「なによ、エルのいじわる。イーだ!」
ビーチャ:「さっきから何でジュドーばっかり、ちやほやされるんだ。俺たちのどこが悪いっていうんだよ」
モンド:「…顔か?」
ビーチャ:「そんなこというなよ。おれ自信なくなってしまう」
モンド:「まさか、お前、自分の顔に自信持っていたってのか?」
ビーチャ:「お前よりはいいと思ってるぜ」
モンド:「な、何だとお!!」
ジュドー:「あ~~!!うるさいうるさい!さっさとずらかるぞ」
プル:「ジュドーぉぉ。お~ん~ぶ~~」
エル:「だから、やめなさいって言ってんの!」
…こいつら、敵の基地で一体何やっていやがんだ!?さっさとイーノのところへ帰れよ…
Ⅲ
うって変わって、ここは宇宙。地球の周回軌道上である。
ネオ=ジオンの女性士官イリア・パゾムは、愛機リゲルグのコクピットで、母艦“エンドラⅡ”からの通信を受け取った。
「地球からミサイルらしき飛行物体をキャッチ。本艦へと向かってきます」
「何だと」
エンドラⅡから送られてきた座標を入力すると、360度スクリーンの一角が拡大表示された。確かにミサイルだ。しかも見覚えがある。
「あれは、我がジオンのものではないか。なぜ…?」
と疑問に思ったが、今更追及しても仕方がない。ただ、明らかなことがたった一つある。あのミサイルを放っていたら、母艦が沈められてしまうということだ。
「マシュマー様からのご命令は?」
「ありません。ありませんが…」
とイリアの質問に対して通信士の歯切れが悪い。イリアがイラっとして声を上げようとしたその機先を、通信士が制した。
「ご命令はありませんが、いきなりご出撃なさいました」
「はぁ??」
あんのバカ。指揮官らしく落ち着いて艦長席に座っていられないのか?
この言葉が、喉の手前0.01mmのところまで出かけたが、イリアは理性をフル動員して何とか押さえ込んだ。あのバカがモビルスーツで出撃してしまった以上、艦砲射撃による撃墜はできない。
「モビルスーツ隊を全機発進させよ。マシュマー様を援護するのだ。私もマシュマー様の後を追う」
「了解いたしました」
通信が切れた。切れたことを確認すると、イリアは思いっきり舌打ちをした。
ネオ=ジオンのエンドラ級宇宙巡洋艦“エンドラⅡ”の艦長マシュマー=セロは、二十歳そこそこの若い男性士官だ。好きな人物第一位、ハマーン様。第二位、ハマーン様。第三位、ハマーン様。気になる人物、ファ=ユイリィ。嫌いな人物、キャラ=スーン。と、彼の関心は常に女に向いている。本人は全否定するだろうが、彼は無類の女好きだ。煩悩に悩まされている彼は、欲求不満と戦っているうちにあらぬ思考回路にはまる傾向があった。
「ミサイルごとき、この私が叩き落してくれるわ!!」
大笑いとともにマシュマーは、大声を上げて豪語した。だが、マシュマーがいるのは、愛機ハンマ・ハンマのコクピットの中。いくら豪語しても、誰も聞いていない。やっぱりこいつ、欲求不満が溜まっている。
マシュマーは射程距離内に入ったミサイルに照準を合わせると、ボタンを押した。ハンマ・ハンマの爪状になっている手のひらの中央から、ビームが伸びる。直撃!ミサイルは爆発とともに消滅した。
「わぁ~っはっは~~~っ!ミサイルごときで私を倒せるかぁ!!」
とマシュマーが大笑いしていると、爆光の中から第二弾のミサイルが現れた。
「ちょこざいな!このマシュマーに不意打ちをかけたつもりか??」
こいつ…独り言ばっかり言って、本当に大丈夫か?
再びハンマ・ハンマの手からビームが撃たれた。直撃!ミサイルは爆発四散した。ただ今度は、距離が近かったため、ハンマ・ハンマは爆風の直撃を受けた。
「どわぁぁ!おのれぇ、ミサイルごときがぁ」
スラスターを噴かせて、爆風に吹き飛ばされたハンマ・ハンマの体勢を整える。そうこうしているうちに、ミサイルの第三、第四弾が、ハンマ・ハンマのそばを通過していった。
「し、しまったぁ!!」
ミサイルは、ハンマ・ハンマからすごいスピードで離れていき、そしてすごいスピードで“エンドラⅡ”へと近づいていく。そんなところにいて、これらのミサイルをどうするんだよ、艦長さん?
「ズサ隊第一分隊はミサイルの第三弾、第二分隊は第四弾を迎撃」
イリアの指示により、ミサイルの迎撃は成功した。イリアさんがいてよかったな、マシュマーさんよ。
ちょうどハンマ・ハンマの姿勢が整ったときに、ミサイルの第五弾が現れた。
「今度こそ、目にもの見せてくれる!」
一体誰に何を見せるんだ?ミサイルには誰も乗っていないぞ。
マシュマーは、ミサイルに向けてハンマ・ハンマの腕を飛ばした。爆風に巻き込まれないよう、離れたところから攻撃をかけるつもりなのだろう。ちなみに腕と体は有線でつながっている。
もっと離れたところからビームを撃つべきだった。
「ぬあ~!なんだこれは!!」
ハンマ・ハンマの腕がミサイルに絡まり、マシュマーは身動きがとれなくなった。
「このぅ!我が行く手を阻む狼藉者!成敗してくれる!」
何をトチ狂ったか、マシュマーはミサイルに向け、もう一方の手のひらからビームを撃った。大爆発が起こり、ハンマ・ハンマは爆発に巻き込まれ、原型をとどめることがないくらいに破壊されてしまった。
「マシュマーめ、強化が足りなかったようだな…」
リゲルグのイリア・パゾムはマシュマーの脱出ポッドを回収し、母艦のエンドラⅡへと向かった。
Ⅳ
ネオ=ジオン軍のエンドラ級宇宙巡洋艦“ミンドラ”。このフネには貴賓室がある。広い空間に上等な寝台、執務デスクを含む調度品は全て高級品だ。艦長室よりもランクが上のこの部屋に、グレミー・トトがいる。青の部隊がエウーゴのガンダムチームに敗れ去ったあと、“ミントラ”と合流して、これを座乗艦としていた。
“ミンドラ”に乗り込んでからグレミーは、貴賓室に閉じこもり、執務デスクの端末を開いて作業に没頭していた。そんなある時、端末に呼び出しが入ったことを示す表示が現れた。呼び出し者の名前はオーギュスト・ギダンだった。
「…あの辛気臭い男、一体何の用だ」
顔色の悪い痩身の中年男。こいつが、我らネオ=ジオンの総帥ハマーン・カーンが放った自分の監視役ということを、グレミーは知っていた。端末を通して交信中の相手に、後ほど連絡を入れる旨を伝えて交信を遮断し、呼び出しをかけているオーギュストを画面に開いた。
「お忙しいところを、申し訳ありません」
「何の用だ、オーギュスト」
グレミーの声には毒が充満していた。今まで私が何をしていたか、どうせ盗聴していたんだろう?別に盗聴されても困ることではない。ハマーンに命じられていることを実行しているだけなのだから。だが、思っていることを口に出すような稚拙な真似をするグレミーではない。そのグレミーから冷たい視線を浴びた相手は、臆することなく淡々と用件を伝えた。
「総旗艦“サダラーン”から通信が入っております」
「分かった。すぐにつなげ」
「はっ」
グレミーは襟を正して立ち上がった。総旗艦から直接グレミーを呼び出す相手は、たった一人だ。その人物が、オーギュストと入れ替わって端末の画面に現れた。
「…しばらく姿を見かけなかったが、一体何をしていたのだ」
ネオ=ジオンの事実上の総帥であるハマーン・カーンは、凍氷の剣のような視線をグレミーに突き刺した。短いながらも威圧感のこもったハマーンの声に屈したかのように、グレミーは深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。アフリカの情勢を現地で調査しておりました」
青の部隊と接触するなど、アフリカの旧ジオン勢力と接触していたのは事実だから、まんざら嘘ではない。しばらく沈黙が流れたが、ハマーンはグレミーの方に向き直った。
「まあ、よい。ただ、衛星軌道上にいる“エンドラⅡ”のイリアから報告が入ったのだが…」
なんで艦長のマシュマーではなく、親衛隊のイリアなんだ。ハマーンの親衛隊びいきにグレミーは心の底で舌打ちしたが、あくまで表情は平静を装い、ハマーンの言葉に耳を傾けた。
「…アフリカ方面からミサイル攻撃を受けたということだ。あそこにはセルケト基地があったと思うが、まさか敵に奪われたりはしていないだろうな」
「そういう報告は受けておりません。改めて調査、ご報告申し上げます」
「お前は指揮官だ。なのに、こんな大事な情報を聞いていないとは。たるんでいるのではないか?」
何が指揮官だ。グレミーは、またも心の奥底で舌打ちをした。旧ジオン軍、旧ティターンズの勢力を調査して吸収し、部隊として編成する作業は大変だった。自分よりはるかに年上で軍歴も長い指揮官たちとの交渉は、ネオ=ジオンの威光を借りていたとしても肉体的にも精神的にもつらかった。やっとの思いで交渉をまとめ部隊編成をしたと思ったら、ハマーンの奴は、使えそうなものを根ごそぎ取り上げ、その挙句、使えない人間とか基地とかを押し付けてきやがった。だいたい、セルケト基地なんて名前を聞いたのは、ついこの前だ。しかも、極端に人員が少ないから補充の要請をしていたはず。そんな員数不足で役に立たない基地のことなど知ったことか。しかも、この私に対してたるんでいるだと!?その言葉、マシュマーとかキャラとか、私よりも先に言わなければいけない奴がたくさんいるだろうが!取り立ててくれたはいいが、雑用やら面倒事ばかり押し付けてくるハマーンに、近頃グレミーは反感を抱き始めていた。だが、表情には一切出さず、グレミーは頭を垂れ短く、
「はっ」
とだけ答えた。グレミーの殊勝な態度に、ハマーンは一定の満足を得たようだった。
「今回のことは大目に見る。報告せずとも良い。それよりも、アーガマの動きについて情報が入った」
「アーガマ、ですか…」
ハマーンはアーガマに対してこだわりすぎているのではないか、とグレミーは思う。アーガマは敵であるエウーゴの巡洋艦だ。戦艦でも空母でもない、ただの巡洋艦だ。エンドラ乗り組みの一平卒であった頃は、巨大な敵に思えたが、旧ジオン軍や旧ティターンズの指揮官たちと渡り合ってきた今となっては、小さく見える。アーガマなんぞ、ラカン大尉あたりに任せておけばいいではないか。ネオ=ジオンの事実上の総帥であるハマーンが、なぜここまでアーガマにこだわるのか、グレミーには理解できなかった。だが、グレミーはそんな思いを表に出さず、ハマーンに追従した。
「…アーガマはエウーゴの要です。そろそろ本格的に叩いたほうがよろしいのではありませんか」
「その通りだ。そのアーガマは、いずれ連邦の高官と折衝するためダブリンへと向かうようだ」
「ダブリン…ですか」
「あそこは、連邦政府保守派の巣窟だ。我々への敵愾心も強い。現在、ダブリンへのコロニー落としの計画がある」
「な、何と!」
グレミーは絶句した。グレミーはジオンに組しているが、ジオンのお家芸とも言えるコロニー落としは大嫌いだった。巨大な破壊力を持つが、破壊が起きるまで長い時間がかかるため、自家用機などを持っている高官や富裕層は、簡単に逃げ出すことができる。被害を受けるのは、自家用機などをもたない非力な一般市民だ。一般市民に巨大な災厄をまきちらすだけのコロニー落としなんかするから、ジオンは一般市民に支持されないのだ。そんなコロニー落としをやろうとするとは…。アホな連邦政府の高官たちに囲まれて、ハマーンの思考回路は鈍ってしまったのではないか?思考回路が鈍ってしまったハマーンが相手なら、ひょっとすると…
グレミーの内心なんか気付きようもないハマーンは、グレミーの驚く顔を見て微笑んだ。
「そこでグレミー、お前は引き続きアーガマを追跡し、アーガマをダブリンに足止めせよ。方法は任せる。補給が必要ならキリマンジャロへ行っても構わん」
「今のところ、大規模な補給は必要ありません」
「そうか。久しく顔を見ていないから、楽しみにしていたのだがな」
「ハマーン様、キリマンジャロへ向かわれておられるのですか?」
「そうだ」
ダカールでお祭り騒ぎを満喫したから、面倒ごとを人に押し付けて宇宙に帰るのか?一つ不満を覚えたら、ハマーンの言動の何もかもが悪く思えてくるグレミーだった。だがやはり、表情には全く出さない。
「もうしばらくだけアーガマの追跡を続けますが、時機を見てキリマンジャロへと向かいます」
「分かった。お前に任せたいものもあるから、なるべく早くキリマンジャロへ来るように」
「はっ、かしこまりました」
グレミーは深々と頭を下げた。このとき、グレミーがどのような表情をしていたのか、ハマーンには見えなかった。
(了)