俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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14話 決闘部の長

「よ、ようこそ決闘部へ! ただ、今は文芸部の部室を間借りさせてもらってまして、騒がしくするのも悪いので場所を移しても良いですか?」

「私は構いませんのに」

「こちらの事情でそちらの活動を邪魔する訳にはいきませんから」

「その辺りはあの人たちと違って真面目ですねぇ。でも、他にも体験希望の人がお越しになるかもしれないのだから、貴女が不在では困ってしまいますよ」

「あう」

 そういう経緯があり、隅を借りての活動となった。

「えっと、貴女は“決闘部”の体験を希望ということでよろしかったですか?」

「はい! 私だけじゃなく後ろの二人も体験どころか入部したいのですがどうですかね? 実力を証明したりする必要があったりしますかね!?」

 仮にも年上相手にグイグイ向かう真希。

 まあ学業の一環として遊戯王を遊び倒せる機会なんて無いけどさ。

「うぇ!? いえいえ、そんなことしなくても入部は大歓迎ですよ! ……ですが、伝えなければならないことが」

 歓喜の表情から一転して意気消沈する。

「決闘部の活動内容は、カードや戦術を研究して大会等で成績を残す、というものです。以前は部費で購入したパックから排出されるカードを研究、分配することで決闘者としての成長を目標としていたのですが……」

「あ」

 思えば文芸部の部室を間借りしているとはいえ、荷物が無さすぎる。

 彼女の私物だろう鞄以外に何も無いのだから。

 カード一枚が万札になりかねないこの世界において、カードの管理は金庫でも用意して厳重に行われるべきだが。

「決闘部が所有していたカードは諸事情で全て売り払われてしまって一枚も無いのです。ですので貴女たちのデッキを用意することもできないんです」

 俺たちは唖然とするしかなかった。

 転校した先輩方の悪行は思っていた以上であった。

「今年の部費はペナルティにより剥奪されていまして、パックを手に入れるには自費で購入する必要があるのです……あ! もちろん、お金は私が負担するので貴女たちへの痛手はありません! ただ、バイトをするにしても購入できるパックの数がどうしても少なく――」

「先輩! 私たちそれぞれ自前のデッキがあるんで大丈夫ですから! 一人で抱え込まないでください!」

 おかしいな。

 部活に入って二度目の青春、とか考えていたんだけど。

 一歩目から随分な大事が待っていたな。

「あ、ありがとうございます。えっと……そうですね、場所が場所ですし今日はカードの研究をしていきたいと思います」

「え、でも、今カードは無いって」

「はい。なので私のデッキを使います」

 鞄から取り出したデッキを机に広げる。

「一応、去年の大会でも使ったデッキなんだけれども……」

「あー、はい、なるほど」

 どう見ても初心者に毛が生えただけのデッキだ。

 種族も属性もシナジーも何も無い。

 ただ、上級モンスターをアドバンス召喚するだけのデッキであった。

「……」

 思わず視線が重なる。

 ……え、これどこまで言っても良いの?

 そんな思いだけがここにあった。

「ど、どんな意見でも良いですよ」

 最初に口を開いたのは漣であった。

「えっと……上級モンスターが多いようですが、このデッキのエースカードはどれですかね?」

「エースですか? それならこの《サイバティック・ワイバーン》ですね。レベル5でありながら上級モンスターの中でも上位の攻撃力を持つ、このデッキの最強格です」

「……成る程、そういったことでしたか」

 どうしよう。

 攻撃力云々や効果モンスターではないのはともかく、サポート無しの単体で棒立ちするだけなのはどうしても厳しいものが……。

 とりあえず、俺も何か言わないと。

「えっと、相手のカードへの除去札が少ないように見えますが、どういった意図が?」

「あ、それはその、取られ――じゃなくて私の手持ちが少なくてどうしても枚数が限られてしまうんです」

「そっ、そうだったんですか。それじゃ仕方ないですよね」

 やばいなコレ。

 下手に質問すると闇が垣間見えるんだが。

「あの、その融合モンスターはどうして入っているんですか?」

 真希が指すのはたった一枚のエクストラデッキのモンスターだ。

「この《ナチュル・エクストリオ》。召喚の為の《融合》も素材モンスターも入っていないようですが」

 錦壌先輩はそのカードを手に取る。

 どこか愛おし気な手付きに他のカードとは別格の扱いを感じる。

「このカードは今は亡き祖父から譲り受けたものなんです。本当なら決闘で活躍できるようにしてあげたいんですが、どうしても融合素材になるカードと巡り会えないんですよね。こうして召喚も出来ないデッキに入れてしまっていますが、私はこの子と戦いたいんです」

「もしかして錦壌先輩が決闘部に所属しているのって」

「ええ、お察しの通り、この子を活躍させてあげたかったんです。決闘部ならパックを剥く機会も多いと思ったので」

「錦壌先輩……」

 転校した連中はそんな先輩をいいように扱き使っていたのか。

「――っと、変な空気になってしまいましたね。私の身の上話は横に置いといて、カードの研究を続けましょうか。例えば、この《ハネハネ》はリバース効果が優秀でして――」

 結局その日は錦壌先輩のデッキ紹介で終わった。

 それから体験入部が終わるまで毎日顔を出したものの、俺たち以外の入部希望者は現れなかった。

 

          ●

 

 時は戻って体験入部初日。

 俺たちは下校したその足で鶴寿に向かった。

 閑散とした店内で商品のチェックをしていた叔父さんを捕まえる。

「という訳で叔父さん助けて!」

「ごめん。私は超能力者(サイキッカ―)じゃないから頭の中を読み取ることができないんだ」

「あら深弥くんに真輝ちゃん。それとお友達かしら? こんにちは」

「あ、彩鳥さん、こんにちは!」

『こんにちは』

 叔父さんはともかく彩鳥さんは帰らなくて大丈夫だろうか。

 なんか叔父さんと一緒に商品チェックしているが。

 それとも叔父さんを捕まえたのだろうか?

 前回はそんな話は一切聞かなかったから気になるんだよな。

「学校の決闘部が思ったよりヤバかったから助けて!」

「えぇ……まだ入学して翌日だよ?」

「私たちも驚きですよ。実は――」

 真希が聞いた話と実際に錦壌先輩と会話した情報を叔父さんに伝えた。

 二人の表情が驚きから徐々に怒り混じりのものへと変化していく。

「それは……なんて酷い」

「罰はともかく、その錦壌さんに学校側からケアや補填は無かったの?」

「犯罪行為に加担していたのを見逃した上で部の存続を許すのが最大の温情らしいです」

「何よソレ。元々は教師の監督不行き届きが原因なんでしょ? それはあんまりじゃない!」

 転校した連中の事件はこの世界の常識においても行き過ぎらしい。

「だからこそ協力をお願いしたくて」

「うーん、可哀想だと思うけどカードの融通とかはできないよ?」

「そっちは大丈夫。お願いって言うのは場所を貸して欲しいんだ」

「場所……そっか部室が無いんだっけ。それじゃ戦術を立てるにも模擬戦するにも落ち着いてできないよね」

 何だかんだカードゲームって騒がしくなるからね。

 文芸部の皆さんの創作活動に影響を与える訳には行かないし。

「……心情的に場所を貸すのは賛成だけど、ウチも商売だからね。他のお客さんの手前、無料で貸すわけにはいかないし、ずっとって訳にはいかないかな」

「何言ってるのよ。週末と季節の行事以外は閑古鳥が鳴いているのに」

「知ってる? 真実は時に人を傷つけるんだよ?」

 彩鳥さんの言うことは確かだ。

 デュエルモンスターズのカードを取り扱っておきながら決闘者の客が中々来ない。

 理由は幾つかあるが、大きいのは商品と立地の質か。

 商品に関してはいわゆるレアカードの在庫が少ない。

 俺も見覚えがあるカードから全く聞いたことの無いカードまで、それらが陳列する殆どがパックで無数に手に入るノーマルカードだ。

 基本的に通常モンスターばかりで、効果モンスターは希少で割高の傾向がある。

 そして立地だ。

 住宅街の傍ということで近所の子供たちが玩具目当てに遊びにくることはある。

 しかし、交通の便を考えれば学校近くのカードショップが遥かに優れている。

 人の出入りが多いということはカードの売買も盛んであるということ。

 商品の質は自然と高まるだろう。

 つまり鶴寿には目玉となる特徴が無いのだ。

「――以上の問題点を解決するための目玉を提案するよ。もし、それがお目に敵ったら貸し出して欲しいんだ」

「いや、あの、事実陳列罪という言葉があってだね?」

「期間は一年間。対価としてお試しデッキシステムを提案します」

「あ、聞いてないのね……お試しデッキ?」

「そう、お試し。このお店に来るとデッキを貸りて遊べるっていうのは目玉になるでしょ? デッキも無い人たちも決闘できるようになるし、対価としてDPは店が回収するとかなら店も損しないと思うし」

「そりゃ、素晴らしい案だね。他のデッキに触れることで決闘者としての幅が広がるだろう。問題はそんなデッキを用意するのが――」

「というわけで、こちらがお試しデッキになります」

 二つのデッキを机に置く。

「じゅ、準備が良いね?」

「流石に準備も無しでお願いはしないって。で、説明するとまずデッキは20枚で構築されたスピードデュエル用のハーフデッキだよ」

 叔父さんは手に取って内容を確認する。

「スピードデュエル……成る程、初心者がお手軽に遊ぶには丁度良いね。でも借りて遊びたくなる程の構築がされているか――」

 その顔色が徐々に変化する。

「《エレキテルドラゴン》に《デーモンの召喚》? こんなレアカードまで……」

「一応、初心者用だからさ。上級モンスターがエースカードになるような構築で、デッキパワーがほぼ同じになるようにしてあるんだ」

 元は公式が新規の参入を促すために用意したデッキだ。

 慣れた者には物足りないだろうが、初心者には丁度良い。

「成る程、切り札は違えど構築内容はほぼ同じ。デッキパワーが拮抗している以上、純粋な腕での勝負になるのか。確かにこれは目玉になるね。どっちもレアカードも入ってるしこれなら――」

「んで、こっちが慣れてきた人用。《六芒星の呪縛》が《鎖付きブーメラン》に差し替えられただけじゃなくて、エクストラに《コード・トーカー》も追加されることで戦術の幅が広がるんだ」

「こ、コード……え?」

「そして一人前用。内容も一新して。それぞれのエクストラに《コード・トーカー》、《氷結界の龍 ブリューナク》を搭載したリンク、シンクロを楽しめるハーフデッキだよ」

「あっ……あっ……あっ……」

「デッキパワー的にそれぞれセットで運用した方が勝負が拮抗して楽しめると思うんだけど、どうかな?」

「私の負けだ。煮るなり焼くなり好きにするといい」

 そのまま叔父さんは遠くを見つめたまま動かなくなってしまった。

 何で?

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