俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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17話 特訓フェイズ

 先輩を鍛えるに当たって必要なもの、それは先輩の理想だ。

 テクニックなり何なりは後からどうにでもなるのだ。

 どういう面で強くなりたいのか、ゴールが見えている方が気持ちも引き締まる。

「やっぱり《ナチュル・エクストリオ》と戦いたい、かな」

 先輩の特訓では俺が主導し、他二人がサポートに回ることとなった。

「魔法・罠に対して強く出れる良いカードですね。ターン1の制限が無い上に、デッキ枚数がそのまま妨害になる強いカードです」

「でしょう? お爺――祖父もこのカードで戦い抜いたと聞いているの」

 展開を魔法・罠に頼るデッキにこれを出されたら苦笑いを浮かべるしかないだろう。

「では素材モンスターについての知識はありますか?」

「ううん。ここに掛かれた名前以外は全く」

「ネットにも載ってないですもんねぇ」

 このネット全盛期の世界において不思議なことにカードの情報は偏っている。

 通常モンスターや有名なカードについては無数に出で来るくせに、テーマやカテゴリーのエースカードともなると途端に情報量が減る。

 そのノーマルカードであっても効果がきちんと記載されていない場合も多い。

 何かしらの情報統制がされているようにも思えるほどに。

「では、こちらがその2枚になります」

 エクストリオの素材である《ナチュル・ビースト》と《ナチュル・パルキオン》を並べる。

「こ、この2枚って……」

 わなわなと戦慄する先輩。

「俺の私物ですが本物ですよ」

 だけど、これで驚いていては困る。

「さて、見ての通りどちらも(シンクロ)モンスターとなります。《ナチュル・エクストリオ》の強力な効果はシンクロモンスター2体を素材とすることで許されている訳ですね」

「し、シンクロなんて高度な技術が必要だったなんて……」

「いや、別に出すだけなら難しいことじゃないと思うんですがね」

 この世界ではエクストラモンスターの召喚方法に強い苦手意識がある。

 その理由としては素材コストの重さだ。

 一例を挙げるとすれば「ウォーリアー」Sモンスターだ。

 OCCでもその多くが召喚素材に特定の「シンクロン」チューナーモンスターを指定されていた。

 後に「シンクロン」代用モンスターの《クイック・シンクロン》が刷られるまで、「ウォーリアー」デッキの構築難易度は高かった。

 その分、強力な効果を持っている……それが常識であった。

 だが、この世界では違う。

 OCGにも存在しなかったカードが比率にして10倍以上存在するのだ。

 Sモンスターの一例を挙げると、素材の時点でチューナーとそれ以外のモンスターが名称指定されているなんてザラ。

 その癖、召喚したところで素の攻撃力が2,000を超えるのは珍しい。

 また、肝心の効果も攻撃力を少々上昇するなど、自己に作用するものが多い。

 ならば、《ジャンク・スピーダー》の様な展開補助モンスターといえばまったく見ない。

 これはシンクロだけでない、融合もエクシーズもリンクも、多くのカードが似たり寄ったりの性能なのである。

 厳し過ぎるというか、OCGに存在するカードが優秀なのだ。

 OCGで例えるならば《アクア・ドラゴン》や《レア・フィッシュ》レベルのカードがこの世界では主流なのだと言えば想像し易いか。

「見ての通り、エクストリオを召喚するにはシンクロからの融合と段階が存在します」

「そ、そんなに召喚難易度が高かったなんて……っ」

 この世界の住人でなくとも難しいよな。

 が、上手いこと解決するカードが存在する。

「そこで召喚難易度を下げるためにこのカード、《融合呪印生物-地》があります」

「ゆうごうじゅいん?」

「融合素材の一体を代用できるモンスターです。②の効果は名前の通り地属性融合に対応していまして、地属性融合モンスター《ナチュル・エクストリオ》の素材モンスターのどちらか一体と一緒にリリースすることで《融合》カード無しで疑似的な融合を行うことができるんです」

「つまりは《ナチュル・ビースト》か《ナチュル・パルキオン》のどっちか一体を場に用意できれば良いんだね? でも疑似的な融合って?」

「正規召喚ではないってことです。そこは今度説明するとして、とりあえず先輩は(シンクロ)召喚に慣れていただきます」

「慣れって、私のデッキはS召喚に対応してないよ?」

 チューナーが一体も入ってないからなぁ。

「こちらでハーフデッキを用意しましたので、今日はスピードデュエルで回数を熟しましょう」

「用意してあるの? デッキまで?」

 話している間に二人が準備を進める。

 今回は決闘場を使わずにテーブルデュエル主体で行う。

 ただ、錦壌先輩にはDPを稼いでもらう必要がある。

「いやぁ、決闘板(デュエルボード)を引っ張り出すのはいつ振りかな」

 叔父さんが持ってきたのは80センチ四方の機械の板だ。

 休憩所の机にギリギリ収まるそれにはカード枠が描かれていた。

 早い話、機械式のプレイマットだ。

「これには立体幻像(ソリッドビジョン)機能は無いけど音声認識機能やライフ計算、おまけにDPの生産ができるんだ。公式に大会記録とかも残せるぐらい優秀なんだけど、決闘盤には勝てなかったんだよね。でもこういう時には丁度良いとおもうよ」

 悲しい現実ではあるが今回は助かる。

「とりあえず、デッキの内容を確認して動きを考えましょうか。実際に決闘するのはそれからで」

「わ、わかったよ!」

 

          ●

 

 内容を確認してからはひたすら実践あるのみだ。

 スピードデュエル方式でひたすら決闘する。

 勝敗が主目的ではない。

 俺たちは交代で先輩と対峙し、シンクロ召喚を妨害することに集中する。

 対する先輩は妨害を退けながらシンクロ召喚を行うことが目標だ。

 対面に座らない時は先輩が困った時のアドバイザーとして手助けするのだ。

「えっと、レベル3のチューナーモンスター《デルタフライ》とレベル3モンスター《ハウンド・ドラゴン》をチューニング! レベル6《氷結界の龍 ブリューナク》をS召喚!」

 ハーフデッキで唯一のエースカードたるシンクロモンスターを召喚する。

 決闘板がカードを認識したのを確認し、先輩は一息吐く。

「ふぅ、何回やってもこの瞬間が不安になるよ……」

「さっきは《デルタフライ》のレベル変動効果でレベル合わせに失敗してましたしね」

「あのエラー音はもう聞きたくないよ……。ブリューナクの効果を発動するよ。残りの手札、2枚全部を捨ててセットカードを手札に戻す(バウンス)するよ!」

「あっちゃー。妨害に集中し過ぎちゃったか」

 セットカードが真希の手札に戻る。

 セットモンスターが残っているが、罠カードの方を警戒したようだ。

「よし、ブリューナクでセットモンスターに攻撃!」

「あ、《ハネハネ》は破壊されますが、リバース効果が発動したのでブリューナクをバウンスしますね」

「は、ハネハネ――!?」

 S召喚に集中し過ぎた結果、モンスターへの警戒が疎かになってしまっていた。

 相手の墓地を確認していれば警戒すべき罠は全て落ちていたことに気付けただろうが仕方がない。

 今回の決闘ではエースカードが排除され、勢いを失った先輩は負けてしまった。

「《ハネハネ》――! 貴方は本当に優秀なカードだよぉ!」

 叫びたく気持ちは分かる。

 低速環境だと輝くよね。

「おーい君たち、時間は大丈夫かい?」

 通りすがった叔父さんが声を掛けてきた。

 時計を見れば部活動時間の終わりが近づいていた。

「もう、こんな時間なんだ。もう少し続けたかったけど、門限があるから部活は時間通り終わりにして解散だね」

 S召喚に慣れてきたところだったのだが、門限があるならどうしようもない。

 錦壌先輩を見送って3人で集まる。

「S召喚自体には慣れたみたいだし、明日はもう少し難易度を上げるか?」

「うーん。モンスターの効果を覚えるのに時間が掛かるから、デッキに手を加える方向は止めた方が良いかも」

「ならミラー戦はどうかな。今日はこっちの妨害を防ぐだけだったけど、自分も妨害をすることでシンクロの特性を理解しやすくなると思うんだけど」

「それ良いな!」

「ならシンクロ用のハーフデッキをもう一つ用意しなきゃいけないね」

 そんな光景を叔父さんは遠い目で見つめていた。

「どうしたの叔父さん」

「いや、あの、シンクロのハーフデッキを作るって聞こえたんだけど……」

「うん。内容は全く同じやつ」

 その言葉を聞いた叔父さんが煤ける。

 何でよ。

「……あのね。君たちの用意したハーフデッキ。レアカードも含めた価値がどれぐらいか知っているかい?」

「え、レアカードって《氷結界の龍 ブリューナク》や《コード・トーカー》ぐらいでしょ?」

「あ、そこからなんだ」

 エクストラモンスターは軒並みレアカード扱いじゃないの?

 俺たちの共通認識はそうなのだが。

「その2枚はね、正確にはレアカードじゃないんだ」

「え、そうなの?」

「そう。正確には超絶レアカード。1枚でうん十万するんだよ」

「へっ」

「レアカードはメインデッキの《ゴブリンエリート部隊》や《ハウンド・ドラゴン》の方だね。これらだって数千円はするから――」

 ポケットから取り出した電卓に数字を打ち込む。

「……概算になるけど、シンクロ用のハーフデッキ一つの価値はこれだけはするね」

 3人で電卓を覗き込む。

「6桁あるんだけど? マジで?」

「中古の安い車なら買えそうだねぇ」

「ハイエンドモデルのゲーミングPCは余裕で買えちゃうね」

「これで分かったかい? 君たちの所有するカード資産は相当なものになっているんだ。こういうのは経験の長い決闘者が抱える悩みなんだけどね」

 いくらカードが資産になる世界とはいえ、ここまで高騰するのか。

「だから、ご両親からも言われているだろうけど、カードの管理には気を付けて欲しいんだ。特に、他人に対して自分のカードプールを吹聴することはね。錦壌さんは他人に言いふらしたりしないだろうけど、悪い人間はどこに居るか分からないからさ」

「……うん、気を付けるよ」

 俺たちには生きたカード保管庫たる精霊が居るけれど、普通は金庫でも用意する必要があるか。

 思い出すのはMTG(マジック:ザ・ギャザリング)という偉大なるカードゲームの先駆者。

 MTGにはパワーナインと呼ばれる超高額の9種類のカードが存在していた。

 ヴィンテージという大会形式では最高価格で三千万もするそれらを投入したデッキが運用されるなんて恐ろしい話もある。

 真偽は不明だが「宝石はマナを生まないが、カードはマナを生む」なる迷言すら耳にするほどだ。

 そう考えれば、俺たちもある意味宝石を振り回している状況なんだが、それを許容してくれている両親には頭が上がらない。

 ……だからといって、カードの出し惜しみをするつもりも無いが。

 支援者なる敵と思わしき存在を思えば、手加減なんて出来るわけが無い。

 しかし、この世界で生きる上では頭に入れておいた方が良い情報ではあるのは確かだった。

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