俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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主人公のお母さんの口調を修正しています。


2話 日常回帰 《リターン・オブ・ザ・ワールド》

 赤。

 爆炎。

 焼ける。

 服が、肌が、友人が。

 守らなくちゃいけないあの人までが。

「うわぁ――おごっ!?」

 思わず叫んで跳ね上がる。

 直後、頭頂部に鈍い痛みが響く。

「ぐぉおおお……」

 頭を押さえ呻いていると、どこかからクスクスと笑う声が聞こえた。

 それは男女二人のものではあるが、あの二人ではない。

 かといって全く知らないというにはどこか聞き覚えがあった。

「痛たた……ここは?」

 頭を摩りながら周囲を伺えば景色が目に入る。

 しかしそれはありえない光景であった。

「――はっ?」

 そこは駅のホームではない。

 カーナビからラジオが流れるそこは、当時人気のあった車種である自家用車の後部座席。

 もっと詳しく言うならば、自身が幼い頃に父親が乗り回していた車だ。

 懐かしいのは車だけでない。

「凄い音がしたけど頭は凹んでないか?」

「昨夜は遅くまで起きていたからかぐっすり寝ていたわねぇ」

 運転席と助手席に座る二人の男女、それは――

「父さん、母さん……?」

 二度と会う事はない二人が居た。

「何で……」

 あり得ない。

 そんな言葉が頭の中を埋め尽くす。

 脳裏に浮かぶのは豪雨の中、大破する自家用車。

 それは買い換えたばかりで、父が自慢がてらに乗り回していた車。

 そんな父に付き合ってドライブに出かける母。

 高校の部活疲れで気怠いからと見送ったのが最後の姿であった。

「……だって、交通事故で――」

 思わず呟いた言葉に二人は笑う。

「おいおい、まだ寝ぼけているのか? 俺がそんな下手な運転する訳ないだろう?」

「来週からは中学生になるものね。それに生活環境も大きく変わって緊張しているのかしら?」

 二人が何を言っているのか理解できなかった。

「え、中学……何コレ、ドッキリ?」

 こちとら既に酒の味を知る、いい歳の大人だ。

 混乱する頭に追撃するかのようにラジオは告げた。

『さぁ、3月も後半に入り、入学式はもう目前。2007年の新たな節目を迎える今、新入生の皆も在校生の皆も、そして新社会人となる人たちも――』

 始めは聞き間違いかと思った。

 しかし、ラジオのDJが語る言葉は間違いなく西暦2007年に関するものばかり。

 オリコンチャートの紹介も、流れるニュースも、その全てが一度は聞いたことがあるものばかりだ。

 タイムスリップという単語が頭に浮かぶ。

 ラジオも車も両親も、何もかもが当時のままであり、そして何よりも、

「……若返ってる?」

 バックミラーに映り込むのは幼い自身の姿。

 呆然と両親を観察すれば、自身の記憶よりも幾分か若い。

「うーん、なんだか調子が悪そうだな。途中のコンビニで休憩するか?」

「そうね。新居までもう少し掛かるし、その方が良いかも」

 そんな様子に異変を感じたのか両親が心配する。

「――あ、大丈夫大丈夫。ちょっと考え事してただけ」

「本当か? 気分が悪くなったら言うんだぞ」

 訝しむ両親に心配を掛けないようにごまかす。

 これが夢だとしても両親に心配を掛けたくなかったからだ。

「う、うん」

 大人しく座席に座り、不審がられないよう小声で呟く。

「……何だこの状況は、走馬灯か何かなのか?」

 自身の肉体が焼けるショックで頭がおかしくなったのかと疑う。

 しかし、それにしては五感で感じる現実感は強く、夢幻とは思えない。

「というかこの状況、思い出したぞ。確か父さんの転勤に合わせて引っ越ししたんだっけ」

 中学への進学と同時期に父の転勤が決まったのだった。

 それに合わせて住居を変え、そして彼女と出会ったのだ。

「となると、この後は……って何でこれが?」

 ふと、右手に何かを握っていた事に気付く。

 見れば、そこには使い慣れたスマートフォン。

 爆炎の中でも手放さなかったようだ。

 しかし、2007年の3月といえばiPhoneのオリジナルモデルが発表されたばかりだ。

 そしてこのスマートフォンはアンドロイド製。

 この時期に開発されていたアンドロイドは、ボタン付きの形状であった筈だ。

 どう考えてもこの時代に青色LEDや洗練されたデザインのスマートフォンが存在する訳がない。

 またiPhone自体が高額なため、類似形状のこのスマートフォンが両親に知られれば騒ぎになるのは間違いない。

 隠れて起動すれば、問題無く動き出す。

「おいおいマジかよ……」

 見慣れたホーム画面。

 そこに表示される時刻は2007年である今日の日付だ。

 しかし、それ以外に存在していたアプリケーションの大半が消えていた。

 電話もメールも基本的な機能すらも消えていた。

 残ったものはデッキメーカーと遊戯王カードWikiのブックマークだけだ。

 そして弄って気付いたが、電波の受信が行われていないにも関わらず、それらへのアクセスは可能であった。

 遊戯王カードWikiには最新パックの情報が追記されている上、情報の更新は現在進行形で行われているのだ。

「更新時間は電車待ちをしていた後……つまり、このWikiは2020年の最新情報そのまま?」

 掲示板にコメントを残せないか試したが、記入以前に掲示板自体が存在していなかった。

「掲示板も無いし編集もできない。これじゃカード情報を確認するぐらいしかできないか……いや、今の時代で未来のカードプールを知ってもどうしようもないだろ。確か、アニメはGXの3期の時期だったか?」

 記憶は既にあやふやではあるが、当時はリアルタイムで視聴していた。

 当時の思い出に耽っていると、ある物が目に入った。

 自身の横、そこに鎮座するバッグ。

 それは遊戯王という作品のコラボ商品であり、主人公である武藤遊戯をモデルにしたバッグだ。

 手元に届いて以来、プライベートで愛用している一品だった。

「……このバッグの通販予約が開始したのは2019年の11月頃だぞ」

 そのまま中身を確認して確信する。

 このバッグは自身が通販で購入したものであり、愛用していた物だと。

「中身は記憶通りだけど、これってどうなってるんだ?」

 長年愛用しているプラスチックのケースには記憶と同じ位置に細かい傷があった。

 更にガチャの紙箱の中身もカードショップで確認したままだ。

 しかし、そのカードの紙質がおかしい。

 触れれば滑らかでしなやかな硬さを持つ。

 この様なコーティング加工は一部のパックやレアリティのカードのみだった筈だが。

「オマケに中身の嵩が増してると思ったら、家に置いてた保管ケース(ストレージ)まで入ってやがる。流石に全部じゃないけどよく入ったなこれ」

 一箱で千枚前後のカードを収められるそれ。

 種類別に用意してあったそれらが、バッグにみっちりと詰められていた。

 全てではなくとも結構な量になる。

「生地が痛んでないよなコレ?」

 恐る恐るケースを取り出し確認するが、生地にはまだ余裕があるようだ。

 流石の容量を持つ鞄に一安心だ。

 ケースを開けて中を改めれば、やはりというか中身全てのカードも同様に変化していた。

「ノーマルも含めたカード全部の紙質も大分良くなってる、か」

 色褪せたり黄ばんだりと、痛んでいたカードも全てが新品同然であり、未知の加工がされていた。

 変化はそれだけでない。

「……スリーブが無くなってんのもアレだけど、一部のカードも無くなってんな。ダリベとかホープとか月華竜とか、汎用性が高いのが軒並み無くなってんじゃねーかよ……いや、確かにこの時代だとまだ存在すらしてなかったけどさぁ。――あ、ゴールドラットはあった、ナンデ?」

 再収録等で安くなったりしたものの、汎用性が高いカードは価格も相応だ。

 消えたカードの総額を考えると血の気が引く思いである。

 しかし、探そうにもこの狭い車内に落ちている様子もない。

「うーん、かなり痛いけど、今が過去だとすると収録パックの発売まで待つしかないか? たしか5D'sが来年から始まるはずだし、シンクロ関係はそう遠くは無いか。でも、そうとなると今は出来る事は無いし……よし、邪神デッキの構築でもするか」

 デッキのレシピは完成しており、見たところ目の前のカードケースに必須カードは揃っている。

 ならば作るべきだろう、決闘者(デュエリスト)としては。

 まぁ、実際は現実逃避の一環に過ぎないんだろうが。

 そうしてカードに集中していたために気付かなかった。

「移動中でもデュエルモンスターズか。親の欲目かもしれないが将来はプロ入りするかもなぁ」

「それも良いかもしれないわね」

 そんな会話を交わしている事を。

 そして両親の視線の先、公園内に出現したクリッター(モンスター)の存在にも。

 

          ●

 

 それから一時間程掛け、お昼になろうかという頃に目的地に着いた。

「さぁ、着いたぞ。今日からここが我が家だ」

 長時間の運転にも関わらず、疲れを見せない父に若さを感じる。

 それはさて置き、目の前には二階建ての一軒家。

 感慨深い我が家だ。

 人生で三度、自宅を変えたが、その中で一番思い出深い家でもある。

「やぁ、遠くから遥々お疲れ様。今日から叔父さんがお隣さんになるんだ。よろしくね」

 出迎えてくれたのは父の弟である叔父だ。

 一軒家の裏に構えるホビーショップの経営者であり、この一軒家の持ち主でもあった。

「いやぁ、何だかんだで店で寝泊まりする機会が増えてたからね。兄さんが家の管理者になってくれて助かったよ」

「休憩用の給湯室や仮眠スペースに力を入れてた時点で結果は見えてたんだよなぁ……」

 兄弟のそんなやり取りも懐かしい。

「おっと、いけない。長旅で疲れただろう? お菓子を用意してあるから一息つくといい。昼ご飯は近くの蕎麦屋に出前を頼んでいるから楽しみにしててね」

「そうだな。車の荷物を運んで休憩にするか」

 車の中の荷物を我が家に搬入する。

 例のバッグについては両親は首を傾げてはいたが、

「うーん、引っ越し前に処分した物の中にこんなのがあったような?」

「大きいですがそこまで派手なデザインじゃないし、長く使えそうね。あげても良いんじゃない?」

 そんな感じで許された。

 それで良いのかと思うが、今回は助かった。

「貴方の部屋がどこか覚えてる?」

「覚えてるって!」

 自室の場所は記憶と同じ、中に入れば記憶よりも真新しい。

 懐かしさに溢れる自室ではあるが、記憶とは違う点があった。

「何だこの段ボールの山」

 部屋の隅に積み重ねられたそれら。

 そんな物は当時は無かった。

 スマートフォンや鞄の件を考えれば、それもこの異常事態に関係するものだろう。

「中身は……なぁにこれぇ」

 開封し、目に飛び込むのはびっしりと詰め込まれた漫画。

 問題は、それが高橋和希先生の原作を始めとした遊☆戯☆王の漫画であり、これまでに買い集めたそれらが揃っていることだ。

 念のために他の段ボールも開けてみれば、

「こっちはDVDとブルーレイ。そしてこっちはゲーム・書籍含めた関連グッズか……あ、スリーブはここにあったのか。それに鞄に無かった残りのカードケースも入ってら」

 それらは今までに買い集め、自宅に置いてあったものだ。

 しかし、雑多に物が置かれていた自宅から、こうも遊戯王関連の物品ばかりが手元に集まるのはどういうことか。

 謎の現象に困惑していると、階下から声が掛けられた。

「お茶が入りましたよ。降りてきてください」

 待たせて不審に思われては困る。

 荷物を置いてリビングに降りれば両親と叔父が揃っていた。

 その中で、叔父の背後に置かれた包装箱が目を引く。

 用意されたお茶とお菓子を食べていると叔父が話を切り出した。

「中学への進学祝いということで、叔父さんこんなのを用意してみました」

 一抱え程の包装箱を渡される。

 記憶ではホビーショップの店長という事で、以前から欲しがっていた玩具が入っていた筈だ。

「開けてもいい?」

「どうぞ。喜んでくれるといいんだけれど」

 子供らしさを意識して包装を剥いていくと、真っ黒な箱が現れた。

「何これ?」

 それは記憶にあった物とは違う。

 少なくとも艶のある高級感漂わせるモノではなかった。

「ふふふ、開けてみてのお楽しみだよ」

 促されるまま蓋を持ち上げる。

 中には玩具は入っておらず、自身が知る限りあり得ない物が鎮座していた。

「これは……」

 小さな長方形の液晶が中央にある円盤型の筐体、その側部には大小の羽型のプレートが収まっていた。

 プレートには左右合わせて、計5ヵ所のスリットがある。

 サイズとしてはヨコ59mm×タテ86mmの紙片がすっぽり収まる。

 筐体自体にも同様の紙片が収まるスロットが二ヵ所存在している。

 黒を基調に紅の装飾が派手過ぎず、かといって地味にならない程度に施されたそれ。

 それは自身の記憶から推察する事が出来た。

「デュエル……ディスク? え、マジで?」

「マジだよ。マジマジのマジでね」

 誰にともなく呟いたその言葉を叔父が肯定する。

「兄さんから聞いてたけれど闇属性モンスターをよく使うって聞いたからね。デザインは知り合いのデザイナーに頼んだから悪くはないと思うんだけれど……」

 伺うような叔父の視線を感じながら箱から取り出す。

 サイズは小さく、今の幼い体に丁度良い。

「何これカッコイイ……」

 デザインは多少違えど、基本の形状は間違いなく初期の決闘盤(デュエルディスク)

 初期といっても決闘者の王国編ではなくバトルシティ編の物だ。

 遊戯王ファンの決闘者としてこれ以上の贈り物があるだろうか、いや無い。

「気に入ってくれたようで何よりだよ。オートフィット機能が付いているから今からでも使えるんだ。試しに腕を通して、裏にある手前のボタンを押してごらん」

 指示通りにディスクの下部に手を通すと、僅かな圧迫感の後に腕に固定された。

「そしたら、裏の奥のスイッチを入れるか、『デュエルスタンバイ』と音声入力するとフィールドが展開するよ」

「デュエルスタンバイ!」

 間髪入れずに叫ぶとプレートが手の甲の上で連結し、一枚の(フィールド)となる。

 そのまま左に回転し、アニメオープニングの再現を果たした。

「ふぉおおお……!!」

 あまりの興奮に声が漏れる。

 ここまで完璧に再現するなど、一体どれほどの技術力が要るのだろうか。

「ちゃんとEX(エクストラ)モンスターゾーンもあるし、フィールドの左側にEXデッキゾーンも設けてある。除外カードは本体の端に収納スペースを設けたから最大数の75枚でもキチンと収まるよ」

 叔父の説明を聞きながら各機能を確認する。

 不知火やダ・イーザのような除外に特化したデッキでも十分対応できそうだ。

「……ん? EXモンスターゾーンがある?」

 EXモンスターゾーンというスペースが新設したのは、今より10年後の2017年3月25日に施工された“新マスタールール”からだ。

 今の時代はそれよりも三世代前の“新エキスパートルール”だった筈だ。

 EXデッキゾーンは融合デッキゾーンと呼ばれ、EXモンスターゾーンなんて影も形も無かった。

「そりゃ在るさ。見た目こそ昔の骨董品(アンティーク)モデルだけど、機能や中身はちゃんと最新ルールに適用してあるからね」

「骨董品モデル?」

 遊戯王の連載が始まったのは1996年であり、決闘盤(デュエルディスク)という概念が漫画に記載されたのはその数年後だ。

 そして玩具として商品化された事もある。

 骨董品と言うにはまだ早い。

「そうさ。初代決闘王(デュエルキング)である武藤遊戯が使っていた初期モデル。今ではディスクの小型化や多機能化が主流だけれど、純粋に決闘(デュエル)の為だけに作られたその形状は現代でも人気があるモデルさ」

「武藤……遊戯……」

 まるで過去の偉人を語るかのようなそれに嘘は感じられない。

 ここまで来れば嫌でも気付く。

 この世界は自身の過去ではありながら、何かが決定的に違うのだと。

 

          ●

 

 晴れた昼下がりの午後、配達された蕎麦で昼食を取り、叔父と共に決闘盤の機能を把握する。

「――という訳で防犯機能もバッチリさ」

 GPS機能に対応していたりと、意外にも高機能であった。

 そして何よりも驚いたのが、叔父のお手製だという事だ。

「……叔父さんはメ蟹ックだったの?」

「本業は経営だから趣味の範疇だけどね。でも最新型に引けを取らない性能なのは保証するよ」

 ……引けを取るどころか勝ってるんだよなぁ。

 頭に思い浮かぶのは最も新しく発売された合成樹脂製のディスク。

 アレに比べれば本人音声こそないものの、それ以外では上回っているだろう。

「それじゃあ、試しにデッキをセットしてみようか。部屋からデッキは持ってきたかい?」

「うん」

 居室から持ってきたのは車の中で構築した邪神デッキだ。

 選んだ理由としては直ぐに手に取れる位置にあったからだ。

「えっと、こうかな」

 デッキ置き場に差し込めば過不足なく固定される。

 そして手を離せばシャカシャカとデッキの中身がかき混ぜられた。

 念のために決闘盤を逆さにしてもデッキが落ちる事は無い。

 最後にEXカードを差し込めば、これで何時でも遊べる状況だ。

「よし、今度は立体幻像(ソリッドビジョン)が機能するかだ。適当なカードを置いてごらん」

立体幻像(ソリッドビジョン)……」

 それは漫画やアニメの中では当たり前であり、現実ではオーバーテクノロジーであった技術。

 技術の進歩した2020年ですら、AR技術を用いた3Dモデルが限界であった。

 それよりも過去であるこの2007年で実用化されているとは到底思えない。

 しかし、叔父の反応を伺えばごく当たり前に普及しているように聞こえる。

 そしてそれは間違いではないのだろう。

「とりあえず、コイツかな」

 一枚のモンスターカードを決闘盤のプレートにセットする。

 すると目の前にセットしたカードと同じ立体幻像が出現する。

 カードからは光の粒子が巻き上がり、イラストと同じモンスターが出現した。

「おおっ!」

「中々に可愛らしいカードだね」

 それは禍々しい桜色の鎌を持つ少女。

 腰と鎌の石突に巻かれたピンクの大きなリボンはオシャレの一つか。

 他にも彼女の周囲に浮かぶ紫・白・黒・紺と色とりどりの髑髏たち。

 その色合いはカードの種類を表しているとの話だ。

 そんな彼女は邪神デッキにおける数少ないアイドルカードの一枚。

 試験の為に手乗りサイズに縮小されてはいるものの、決闘盤一つで眼前の空間に投影されているのだ。

「このモデルも中々に作りこまれてるな」

 精度の確認のため、下から覗き込もうとしたが、手で遮られて確認はできなかった。

 頬を赤らめて睨む様なんて中々手が込んでいている……うん、悔しくなんてない。

 次に頭を撫でれば感触こそ無いものの、目を細めて気持ちよさそうにしている。

 正直これだけで一大事業を立ち上げられるのではないだろうか。

「叔父さん……貴方が神か」

「そこまで喜ばれるとは思わなかったなぁ」

 例え決闘機能が無くとも、この投影機能だけでも大きなお友達に大好評間違いなしだ。

 更に、コレが決闘(デュエル)中であれば等身大になるのだから、美少女カードを集めたデッキはさぞ華やかな事だろう。

 次は閃刀姫とウィッチクラフトを使おうと少年は心に決めた。

 

          ●

 

 決闘盤の試験の後、少年は自室にて黄昏ていた。

「……実用化レベルの立体幻像といい、記憶と違うと思ったら、まさかの遊戯王世界かよ」

 その手に持つのは新聞紙。

 日付は昨日のものと少々情報が古くはあるが、現状を知るのには十分であった。

 何故なら、紙面に載る情報の大半が遊戯王に関わるものだからだ。

「遊戯王が野球よりも遥かにメジャーな遊戯(ゲーム)って違和感が凄いな」

 新聞紙の一面に載るのはカードゲームの全国大会結果だ。

 他にもドラフト会議で球団同士が決闘で優先権を掛けていたり、宝石強盗ならぬカード強盗が出没するなど、中々に混沌としている。

「それに“遊戯王”じゃなくて“デュエルモンスターズ”呼び。そこは原作と同じか」

 どれだけ紙面を捲ろうと“遊戯王”という単語は見当たらない。

 その代わりとでも言うように“デュエルモンスターズ”という単語が現れる。

 漫画やアニメでも、作中では“遊戯王”ではなく“デュエルモンスターズ”と名称付けられていたが、この世界でも同様のようだ。

「一部の汎用カードが無くなった理由はハッキリしたな。アレらは確か世界に1枚のレアカードだった筈だ。だからこそシグナー竜を始め色んなカードが無くなっている訳だが……何でランク1のナンバーズは残ってんだ?」

 汎用性が高く、愛用してきたカード群。

 それらは原作において、何かしらの曰くを持つカードばかりであった。

 そして、それらは遊戯王の世界において2枚とないカードであった。

「はぁ、全く何が起きているのかサッパリ分からない。けど、俺がココに居るって事はあいつ等は……」

 思い出すのは全てを焼き尽くすような爆炎。

 少なくともあの灼熱の中で助かる可能性は限りなく低く思える。

 かといって自身の様に、過去であり異世界でもあるこの世界に存在するというのは考え難い。

 つまりは同じく爆炎の中に居た、守るべき彼女とかけがえのない親友を失ったのだ。

「――クソッ!」

 やり場のない怒りをベッドにぶつける。

 彼女を守ると誓ったにも拘わらず、自身だけのうのうと第二の生を謳歌するのか。

 そんな事出来る訳がない。

「……いや、悲観するのは後だ」

 過去に戻ったからこそ、やるべき事がある。

「もし今日が……遊戯王に関する事柄以外があの日と同じだっていうのなら……」

 時計を見ればそろそろおやつの時間。

「あと2時間か……」

 それは、初めて彼女と出会い、そして後悔を残した事件までのタイムリミットだ。

 左手で右手の甲に触れる。

 そこに傷は無く滑らかな肌だ。

「今度こそ」

 拳を握り、意思を新たに少年は立ち上がる。

「守るんだ」

 

          ●

 

「ちょっと近くを散歩してくる!」

「あ、待ちなさい」

 玄関へ向かう途中、母に止められる。

「な、何?」

 記憶では、多少の小言は有れどそのまま出掛けていた筈だったが。

「近頃、この付近で不審者が現れるという情報が出回っているの。出かけるなら大人と一緒にね」

 それは過去にも聞いた。

 だが、今回はその不審者と関わる事になるだろう。

「そうだね。オマケにここ最近は近辺で行方不明者が出ているって話があるんだ」

「え?」

 近くにいた叔父が言葉を挟む。

 そしてその情報は過去と現在において初めて聞くものだった。

「でもそれは婦女子ばかりで、単純に家出じゃないかってのが警察の見識じゃなかったか?」

「それにしては不審な点が多すぎるって話だよ。監視カメラで追跡しても、路地裏で忽然と消えられちゃ警察もお手上げってことだね」

 途中で会話に混ざった父と叔父の会話は初めて聞いたことばかりだ。

 しかし、この流れはマズイ。

 外出が出来なければ助ける以前の問題だ。

「けれども決闘盤を持ってるなら、有事の際は警察も呼べるし、決闘で身を守る事もできる筈だ」

 叔父の言いだした言葉は流石に無理がある。

 確かに防犯機能は付いているが、決闘でどうやって身を守るというのだ。

「うーん、確かにそれは一理ありますね」

「……確かに決闘の腕は同年代でも中々なものだとは聞いているが」

 ズッコケなかった自分を褒めたかった。

 そうだった、ここは遊戯王世界だ。

 大なり小なり、争い事を決闘で決めるのだ。

 身近なところでは購買のパンの購入権や、チラシに記載されていたようにレストランでのランチの値引きを掛けたりだ。

 これらのケースが大きくなると新聞紙で見たように球団ドラフトのような利権争いにすら用いられる。

 アニメでは、その果てに世界の命運すら掛けて行われていた。

 詰まるところ、この世界は決闘に強ければ子供でも大抵の困難は排除できてしまうのだ。

 それこそたかが不審者を撃退できてしまうぐらいに。

 ……とはいえ、俺はただのファンデッカーだぞ。エルシャドールや真竜とかのガチデッキ使いとかが襲ってきたら逃げるしかないんだが。

 不安はあるが、それを口にすれば外出を止められるのは確実だ。

「そこまで言うなら……GPS機能も有るし大丈夫かしら。……道路は気を付けて、不審な人には関わらないように、そして夕飯までには戻るのよ?」

「うん、わかった。行ってきまーす」

 決闘盤を腕に装着し、家を飛び出す。

 全ては彼女を助ける為に。




次話投稿は18日の朝8時を予定しております。
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