俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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申し訳ありません。
書き溜めが切れたので次回は遅くなってしまいます。


21話 勝利の後に

 決着が付き、終了のブザーが決闘盤から鳴り響く。

 敗者である不良は膝を着き、勝者である錦壌実穂は、

「私……勝てたの?」

 呆然と震える手を眺めていた。

「やりましたね部長!」

「事実上の初勝利! おめでとうございます!」

「短期間とはいえ、デッキと対話し続けていた部長の熱量の勝利ですね」

 後輩たちの言葉で実感がふつふつと湧いてくる。

「――勝ったんだ。うん、勝てた! 勝てたよ皆!」

 喜びに突き動かされるまま拳を突き上げた。

 ただ、喜んでばかりもいられない。

「っと、私が勝ったんだから彼のカードを返して貰うよ!」

 不良に対して勝者の特権を主張する。

 未だに膝を着く不良は顔を顰めた。

「……こんなゴミカード。要らねぇよ!」

 忌々し気に吐き捨てたかと思えば、あらぬ方向へとカードを投げたではないか。

「ちょっと何を!?」

 慌ててカードを追いかける錦壌。

「こんな時に風が!?」

「あばばば、そっち行った!」

「くっ、指先が掠ったのに!」

 しかし、突風に煽られ空中を右に左と飛び回ってしまう。

 後輩たちもカードの軌道を読んで先回ろうと右往左往する。

「――チィッ」

 あたふたする彼女らを横目に不良はその場を走り去った。

「…………」

 その後ろ姿を見られているとも気付かずに。

 

          ●

 

 人気の無い住宅街を彼は歩いていた。

 まるで酒に酔ったかのように、その足取りは覚束ない。

「負けた、だと……この俺が? ありえねぇ!」

 コンクリート塀に拳を突き立てる。

「統一テーマにレアカードも入れたデッキだぞ……」

 先程の決闘の結果が受け入れられないのか、零れ落ちる言葉にはドロリとしたものが籠っていた。

「あのレアカードさえあれば……新しいヴェルズカードだって手に入った! それを……」

「ふーん。ヴェルズを配ってる誰かが居るんだね」

「――っ、誰だ!」

 振り返れば一人の少年が立っていた。

「お前は、さっきの……」

 先の決闘相手を部長と呼び親しんでいた内の一人だ。

 その時の人畜無害そうな顔はどこにもなく、鋭い眼光を浮かべていた。

「やあ、後を着けるような真似をしてゴメンね。でも、さっさと居なくなるそっちにも問題があると思うよ?」

「テメェ、一体何の用だ?」

 年齢に似つかわしくない雰囲気に警戒心を露わにする。

 同年代ですら一歩下がる程の威圧感は年下の少年には何の意味も無かった。

「いやね、貴方がさっきの決闘で使った《幻魔の扉》について聞きたくて。あんなのどこで手に入れたんだい?」

 それは必死の思いで手に入れた超絶レアカードだ。

 もとより入手元の秘匿を厳命されているが、説明してやる程の気分でもない。

「……それを答える義務は無ぇな」

「だろうね。もちろんタダで教えて貰う気は無いさ」

 そう言って懐から取り出したのは二枚のカードだ。

「《死者蘇生》と《聖なるバリア -ミラーフォース-》。最初期のフォーマットの完全美品。この二枚で一体どれ程の価値が付くか、レアカードを集めているなら分かるんじゃない?」

 分かるなんてものではない。

 デュエルモンスターズの歴史館にでも飾られるレベルだ。

 資産価値として見ても、サラリーマンの年収数年分に価する。

「それをくれるっていうのならいくらでも教えてやってもいいぜ」

 秘匿については後が面倒だし嘘の情報を教えればいい。

 そう考えてカードに手を伸ばす。

 指先が触れそうになった瞬間だ。

「おっと、流石に渡すにしたって条件があるよ」

 カードを引っ込めたかと思えば距離を取られる。

「あン?」

「正直、貴方の口からの情報は怪しいところがあるからね。ボクとしては現物が欲しいんだよ」

「物々交換ってか。ハッ、大金を積まれてもそれは出来ねぇな」

 先の決闘では不覚を取ったが、相手の場を更地にした上にエースモンスターすら奪えるその性能は破格なんてものではない。

 更には相手は妨害効果すら発動できないという出し得カードでもある。

 そして彼の勝利を支えてきた要因でもある。

「だろうね。だから、貴方の流儀に合わせようと思うんだ」

 いつの間にか装着していた決闘盤を展開する。

 旧デュエルアカデミア仕様のそれを見れば思惑は一目瞭然であった。

「DPもカードも全賭け。100か0か、さっき貴方が言った通りだ」

「……ああ、簡単な話だ」

 対抗するように決闘盤を展開する。

「だけど気に入らねぇ。お前らのセンパイが勝ったから自分も勝てそうだと思ってんのか?」

 美味い提案はともかく、明らかに対等でもあるかのような立ち振る舞い。

 それが腹立たしい。

 怒りを滲ませる男に少年は口端を上げた。

「負けるつもりで決闘を挑んだりはしませんって。ただ、幻魔(・・)と名の付くカードをこれ見よがしに使われては、ね」

 互いに一定の距離を取る。

 そして両者は叫んだ。

『決闘!』

 

          ●

 

 奪われたカードは無事に持ち主の少年へと戻った。

「決闘盤、貸してくれてありがとう」

「こちらこそありがとうございました。これは大事な友人から貰ったカードだったんです」

「うん、無事に取り返せて本当に良かったよ」

 そんなやり取りを経た後、少年とは大通りで別れた。

 裏通りに先程の男のような人物が二人と居ないとは限らないからだ。

 少年が繁華街の中に消えるのを見送る。

「さて、翡山君はさっきの男の人を追いかけて行ったけれど、どうしたのかな? 祁ノ内君や紫藤ちゃんは何か知っている?」

「あ、部長、気付いていたんですか?」

 カードの確保でいっぱいっぱいだったと思っていたが。

「部長としては部員に気を配るのは当然ですから。でも真剣な表情をしていたから止めるに止められなかったのもあるかな」

「理由としては私たちにとって無視できないカードが使われましたからね。出所の確認はしておきたいっていうのがあります。例え部長のように決闘することになっても」

「そこはあの青眼(ブルーアイズ)にワンターンキルされた身としては心配していないよ」

 たはは、と苦笑いを浮かべた。

 あの一戦は相当な衝撃だったようだ。

「君たちが気になる程のカード……あ、分かった! 《幻魔の――」

 直後、大地を揺らすような轟音が鳴り響く。

「何々!? 雷!? こんなに晴れているのに!?」

 音からして相当近くだ。

「あー、失楽の――じゃなくて晴天の霹靂ですねぇ」

「いやー驚きですねぇ」

「君たち、いやに落ち着いてない?」

「まあまあ、こういう事もありますよ」

「晴れの日の雷は相当に珍しいと思うんだけれど?」

「まあまあ」

「私への対応が雑になってない?」

「まあまあ」

「ちょっと?」

 二人で部長を宥めていると件の翡山が裏通りから戻って来る。

「すいません。お待たせました」

「うん、怪我は無さそうだね。良かったぁ」

 何にも変わりない様子に胸を撫で下ろした。

「心配掛けちゃいましたか」

「うん。決闘の腕は心配していないけれど、逆上した相手が暴力に訴えないとも限らないからね」

「……ああ、確かにそういう可能性もありましたか。ですが、ちゃんと話は着きましたよ」

 懐から取り出すのは一枚の魔法カード。

 《幻魔の扉》だった。

「あ、そのカードは……あれ? さっきと効果が違うような? ライフ半分のコストなんて無かったような?」

「その辺りについては外で話すようなものではないんで、ショップで説明しますよ」

「ええ、後ろ暗い話ってこと? ちょっと怖いけど、全員揃ったわけだし予定通りショップに行きましょうか」

 そうして一行がショップへと向かう途中。

「あ、救急車」

 大通りをサイレンを鳴らして救急車両が駆け抜けた。

「方角からして住宅街だね。さっきの雷で何かあったのかな?」

「驚き過ぎて気絶した人でも居るんじゃないですかねー?」

「いやいや翡山君。確かに私もビックリはしたけどそこまでじゃ……いやご高齢ならワンチャン?」

 そんな一幕があったとか。

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