俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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3話 誰が為に 《悪夢再び》

 その場所は家から少々離れた場所に位置するビル街。

 食事、買い物、遊びと、この近辺でも多くの施設が立ち並ぶそこは、若者達で賑わっていた。

 そんなビル街の裏路地を駆ける少年の姿があった。

「はぁっ……はぁっ……!」

 息を切らしながらもその足を止めない。

 止める訳にはいかない。

「何でっ……公園に居ないんだよ……っ!」

 彼女と初めて出会った近所の公園。

 当時と同じ時刻で訪れたそこには彼女の姿は無かった。

「クソッ……何もかもが同じって訳じゃないって分かっていたのに!」

 代わりとでもいうかのように公園の地面に落ちていたポシェット。

 可愛らしい人形や玩具が収まっていたそれは彼女の私物であった。

 当時のお気に入りであり、彼女が常日頃から身に着けていたソレ。

 ソレが地面に中身を散乱している光景、それは彼女に危機が迫っているという事だ。

「先に出会って回避する作戦だったのに!」

 想定していた最善策は彼女を誘導し、不審者から逃げる方法。

 待ち受ける危険から遠ざかる。

 それが最も労力も危機も少なく、安全な方法であった。

「散らばり具合からビル街の方向に逃げた筈」

 そこは記憶の中、彼女と駆けた道。

 時折、不自然にゴミが散乱している事から、彼女の抵抗の跡が見えた。

 脳内で地図を描けば、過去と変わらない道順で逃げているようだ。

「まだ捕まってはいないみたいだけど、このまま行くと――」

 しかし、この先は行き止まりであり、自身が鉄パイプ片手に不審者と大立ち回りを演じた場所となる。

「通報機能は……ちゃんと起動してるな。前は鉄パイプで近くの窓ガラスを割って、警備会社の人が来てくれたんだっけ」

 決闘盤の裏を覗けば、通報中を表すランプが点滅していた。

 このまま待てばGPS機能を頼りに警察官がやって来る。

「後は助けが来るまでの時間稼ぎか……ん?」

 足を止めずに駆けていると何やら声が聞こえてきた。

「――! ――!」

 それは、助けを求める叫び声。

 幼く甲高いその声は、紛れもなく彼女の声だ。

「近いっ!」

 速度を一段と上げ、少年は駆けだした。

 

         ●

 

「――ッ見つけた!」

 遠くに過ぎる二つの影。

 大小のそれは紛れもなくあの日と同じだった。

 急ぎその後を追いかける。

 そして駆け込んだのは一本道。

 途中を鍵の掛かったフェンス扉に遮られている道だ。

 角からのぞき込めば記憶通り、二人はフェンス前で向かい合っていた。

「警官は……まだ掛かりそうか」

 裏路地は入り組んでいるため、警官がやって来るまで時間は掛かるだろう。

 自分がやるのはそれまでの時間稼ぎだ。

「とりあえず武器になるもの……やっぱりパイプか?」

 近くの店舗の入れ替え作業中なのか、地面には工事の機材が置かれたまま。

 その杜撰な管理に疑問はあるが、この非常時に武器が手に入るのは有難い。

 肝心の鉄パイプは不審者の背後にあった。

「このまま気付かれない内にパイプを手にできれば……」

 見れば不審者の意識は完全に少女へと向けられていた。

 少女も不審者に怯えてこちらに気付いてはいない。

 ……よし、今だ!

 覚悟を決め、一歩踏み出した瞬間。

「鉄パイプは危ないからねぇ」

「――っ」

 その言葉は明らかに少女に向けたものではなかった。

「なっ!?」

 気づかれていた、と知った時には背後から襟首を掴まれた。

 誰何の為に振り向き、そして少年は目を丸くする。

 この現代社会において全身に鎧を纏う人間などそうは居ない。

 ましてや、その姿は、

「……ヴェルズ、ヘリオロープ?」

 1万種以上存在する遊戯王カードの中の1枚。

 よく利用される有名なカードのイラストそっくりの姿だった。

 抵抗するが、子供の体格では程度が知れる。

 かといって大人であっても、目の前のモンスターに抵抗できたかどうか。

「――っ!?」

 掴む手は解けず、そのまま投げ飛ばされる。

 子供とはいえ、数メートルもの距離を投げ飛ばすその腕力は人間ではありえない。

 受け身も取れず、コンクリートの地面に身体を打ち付けながら転がる。

「――痛ぅ」

「だっ大丈夫!?」

 痛みに呻いていると声を掛けられる。

 見上げれば幼い彼女が不安な瞳でのぞき込んでいた。

「だ、大丈夫。警察は呼んだから、あと少しすれば助かるよ」

 決闘盤はコンクリートに打ち付けたものの通報機能は無事だ。

 まだ希望はある。

 それを見たためか彼女の不安は多少拭えたようだ。

 ただこの場を切り抜けるための武器を掴めなかった。

「そうだ、あいつは――っ」

 立ち上がり路地の入口を見ればコートに身を包む男が立ち塞がっていた。

 自身を投げ飛ばしたヴェルズ・ヘリオロープは既にその姿を消していた。

「おんやぁ? 今回は君と出会う前に動いたのに追いかけてくるとはねぇ。君も二周目なのかぁ?」

「二周目? いや、それよりも俺の事を知っているのか?」

 この世界において目の前の不審者と出会うのはコレが初だ。

 しかし、男は自身の事を知っている様子だ。

 自身を見つけたことと良い、選択しようとした武器まで把握している理由。

 それが自身と同様に、この世界にやって来たのだとすれば当然だ。

「キヒヒィ。またも君は私の邪魔をするのだねぇ」

「当たり前だ。お前のせいで彼女は傷ついたんだ! そんなの許せる訳がないだろ!」

 確かに彼女に対する直接的な被害は無かった。

 しかし、その風評と異性に対する恐怖はいつまでも彼女を苛むのだ。

 だからこその啖呵であったが、怒りに顔を歪ませるのは少年だけではなかった。

「そうだねぇ。その啖呵通り、前回は守られちゃった訳だ。……それからだよ。私の全てが上手く行かなくなったのはねぇ」

 男は語る。

 警備員からは逃げきれたものの警戒が強まり、今まで通りに犯行を行えなくなったこと。

 まだ発散できなくなった情動により、仕事でのミスが増え職場での昇進の機会と立場を失っていったこと。

 最後には抑えが効かず、場当たり的な犯行で捕まったことなどを。

「自業自得じゃねぇか」

「うるさい! お前さえ邪魔しなければ全て上手く行ってたんだ!」

 男は猛る。

「これは復讐だ! 邪魔してくれたお前も、私を馬鹿にする女達も、ゴマすり野郎を優遇する馬鹿な上司たちに対する!」

 少年は言葉を返せなかった。

 あまりにも身勝手なその言葉に。

 他人に対する思いやりの欠片もないそのエゴイストな考えに呆れてしまったのだ。

「君は絶対に許さない相手の一人だ。今ここで始末したい程にねぇ」

 そう言うと男はコートを開く。

 すわ露出かと少女の顔を手で塞ぐが、そうではなかった。

「私の人生を滅茶苦茶にしてくれた君は逃がさないよぉ」

 コートの裏はカードホルダーになっており、幾つものカードが差し込まれていた。

 少年は一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思った。

 コートに差し込まれているのは遊戯王のカード。

 それも効果の無い、通称バニラと呼ばれる通常モンスターカード。

 しかしそのイラストに描かれているのは怯える女性たち。

 まるで写真のようなそれは、公式が発行したものではないのは明らかだ。

「なんなんだ、それは……」

「女さ。私の獲物だったねぇ」

 男はカードを指先で撫でる。

「君も決闘盤を着けているあたり、既にこの世界の異常性には気付いているんだろぅ?」

「……遊戯王デュエルモンスターズ」

 この世界の異常性とはその一言に尽きる。

 数あるカードゲームの一種である遊戯王OCG。

 “世界一販売枚数の多いTCG(トレーディング・カードゲーム)”というギネス記録を持つとはいえ、これほどまでに世界に影響を及ぼす訳ではなかった。

「そう! ここは“遊戯王”という概念を基礎に創り直された世界だぁ! 故に漫画やアニメでしか存在しなかった法則すら実在するぅ。例えばぁ、“闇のゲーム”とかもねぇ……」

 闇のゲーム。

 それは生命や精神を掛けて行われるゲーム。

 遊戯王シリーズにおいては、名称こそ違えど主人公たちが幾度となく生命を掛けて行ったものだ。

 そして敗者には死に等しい罰が与えられる。

「ま、まさか……そのカード達は……」

 少年の背筋に冷たいものが走る。

 漫画、アニメで行われた闇のゲーム。

 敗者への罰は幾つもあるが、その中にはカードゲームならではのものがある。

 そう、敗者のカード化だ。

「気付いたようだねぇ。お察しの通りぃ、これらは私に敗北した女たちの末路なんだよぉ!」

 漫画、アニメでも初代遊戯王は魂を、五期遊戯王のARC-Vでは体丸ごとをカードに封じられていた。

 もし、それらと同等の現象を操れるというのなら、これ以上恐ろしいことは無い。

「見えるだけでも三十人以上……それだけの人数を襲ったのか」

 出かける直前に聞いた婦女子の行方不明事件。

 それらの犯人は目の前の男であったのだ。

「君も決闘盤を装着していることだしぃ、決闘(デュエル)といこうか。私が勝てばカードにした上で破り捨ててあげるよぉ」

 ニタリと笑みを浮かべると左腕を突き出した。

 すると漆黒のヘドロのような何かが巻き付き、決闘盤を形成する。

「さぁ、君も決闘盤を展開しないと戦闘の意思無しと見做してカード化されちゃうよぉ?」

「問答無用かよクソッたれ!! デュエルスタンバイ!」

 決闘盤を展開し、男と対峙する。

「さぁ始めようかぁ。楽しい楽しい闇のゲームをねぇ」

 

          ●

 

 決闘盤にLP(ライフポイント)が表示されるが、

 

「ライフは4,000? アニメ仕様かよ!?」

 

 LP4,000というのはアニメか特殊ルールであるスピードデュエルでしか聞いたことがない。

 本来の山札(デッキ)40枚から60枚、場には魔法・罠、そしてモンスターゾーンが5ヵ所という環境(マスタールール)ではその程度、有るようで無いものだ。

 近年のカードプールを考えれば、初手から総ダメージ4,000を超えるのなんて容易いのだ。

 勿論、守りに徹すればある程度耐えられるが、LPをコストにするカードがある以上、心許ない数値だ。

 

「クヒヒヒッ。この世界での決闘は初めてかなぁ? おやぁ、私が先行だぁ」

 

 男の決闘盤のランプが点灯する。

 ターンプレイヤーを表すものだ。

 じゃんけんやサイコロを振ることなく、先後の手順が決められるのは楽でいい。

 宣言するだけで決定されるアニメ仕様ではないようでホッとする。

 

「ここじゃあLPは4,000でねぇ、前の世界で言う11期以降のマスタールールが主流なんだよぉ。――それじゃあ、(フィールド)にモンスターが居ないのでぇ、手札から《インヴェルズの魔細胞》を特殊召喚だぁ」

 

 手札から一枚、カードを決闘盤に置くとコンクリートにヘドロのような闇が溢れ出す。

 その中からテントウムシを連想させる小さな球体のような虫が現れた。 

 

「続いてぇ《ヴェルズ・カストル》を通常召喚。そしてぇ、カストルの効果によって増えた「ヴェルズ」の召喚権で《ヴェルズ・ヘリオロープ》を召喚だぁ」

 

 続々と現れるのは剣を持ち鎧を纏う人型の化け物。

 決して広くはない裏路地に異形が所狭しと並ぶ。

 その中にはつい先程、自身を投げ飛ばしてくれた化け物も混ざっていた。

 

「現れろぉ、全てを侵すサーキットォ! アローヘッド確認ン。召喚条件は「ヴェルズ」モンスター2体ぃ。私はぁ、魔細胞とカストルをリンクマーカーにセットォ。サーキットコンバイィン!」

 

 虫と異形の1体がその姿を光の玉へと変える。

 光が向かうのは宙に現れる8方向の矢印(リンクマーカー)を示す(サーキット)

 2つの光はサーキットへと飛び込む。

 すると上下二ヵ所のリンクマーカーが点灯し中央の門が開かれた。

 

「リンク召ぅ喚! 現れろぉ、リンク2《インヴェルズ・オリジン》!」

 

 サーキットより現れるは煙のような何か。

 煙は一点に集まると異形の形相を浮かべた。

 

「オリジンはぁ、そのリンクマーカー先にモンスターが居る場合にぃ、カード効果の対象にならずぅ、戦闘と効果で破壊できないのだぁ。そしてぇ、リンク先にはヘリオロープが居るからその効果は適用されるぅ」

「召喚に名称縛りがあるとはいえ破壊耐性を簡単に付け過ぎなんだよな」

 

 その動きは動画やショップの大会でよく見る動きであった。

 

「最後にカードを一枚伏せてぇ、ターンエンドだぁ」

 

 カードがコンクリートの床と平行に伏せられる。

 

          ●

 

 不審者 LP4,000 手札1枚 伏せ1枚 魔0 罠0

E右:インヴェルズ・オリジン:L2 攻2000 上/下

攻撃:ヴェルズ・ヘリオロープ:☆4 攻1950 守 650

 

〇少 年 LP4,000 手札5枚 伏せ0枚 魔0 罠0

 

          ●

 

「不審者の撃退に来たら闇のゲームをすることになるとはな……俺のターン! ドロー!」

 

 闇のゲーム。

 それを恐れるのはLPが自身の生命力に直結している点だ。

 このゲーム中に発生するダメージは虚構ではなく実体化するのだ。

 例えば今、場に居るヘリオロープに攻撃されれば、攻撃力1950という数値分の痛みが実際に発生するのだ。

 彼の武器は剣であるから実際に切り裂かれる痛みを味わうことになるだろう。

 火に焼かれれば熱いだろうし、電撃を浴びれば感電するだろう。

 そこで意識を飛ばせばゲームの放棄ということで敗北してしまう。

 苦痛に耐えながらゲームを進めるという、ある種の根性論が適用されるのだ。

 

「場にモンスターが存在しない時、手札から《番猫(ばんびょう)-ウォッチキャット》を特殊召喚! そして手札から《黄泉ガエル》を通常召喚。何もなければリンク召喚を行いたいんだが?」

 

 自身の決闘盤にカードを置けば、光の粒子を巻き上げモンスターが現れる。

 一匹は天使の輪と羽を持つそのカエルは宙に浮かび、今にも昇天しかねない勢いだ。

 もう一匹は懐中時計を首から下げた猫。

 香箱座りする猫は浮かぶカエルに興味津々だ。

 

「これ以上の展開は防ぐぅ。黄泉ガエルの召喚に反応(チェーン)して罠カード発動ぅ! 《激流葬》だぁ! 場のモンスターを全て破壊するぅ!」

「やっぱりあったか!」

 

 伏せられたカードが立ち上がり、そのイラストを見せる。

 荒れ狂う津波のイラストは実体化し、全てを押し流さんと少年を襲う。

 

「――ッ、マズイ!」

「キャッ!?」

 

 振り返り少女を抱えて波から守る。

 次の瞬間には裏路地に散らばる廃材やゴミが少年を襲う。

 全身に襲う痛み、それはゲームとは関係ない物品であったため少年の体を容赦なく傷つける。

 

「あぐぅっ!?」

 

 それでも少女の頭だけでも守るべく強く抱きかかえる。

 しかし、津波の勢いは強く、子供の身は非力であった。

 ゴミの混ざる津波はフェンスの扉を突き破り、少年たちをその奥へと押し流す。

 押し流された先は開けた広場。

 どうやら密集したビルの隙間に設けられた休憩所のようだ。

 

「おっぷぇ、少し飲んじゃった。――それはさておき、大丈夫か?」

 

 腕に抱く少女に目立つ傷は無い。

 ゴミが渦巻く激流の中で多少の打撲はあるだろうが、傷が残ることはなさそうだ。

 

「――ケホッ、コホッ。う、うん、大丈夫……って、手が!?」

 

 少女は悲鳴を上げる。

 自身を守った少年の手が血に塗れていたからだ。

 

「ああ、これか。ちょっとゴミで手の甲を切っただけだから問題ないよ」

 

 嘘だ。

 本当は泣きたいほどに痛い。

 前回は乱闘の末によるガラス片による裂傷であった。

 結果、それは勲章ではなく呪いとなってしまった。

 

「必ず、守るから」

 

 今回、堪えられているのは、以前の経験とちっぽけな男としてのプライドだ。

 呪いではなく勲章となれるように。

 惚れた相手を守るために。

 歯を食いしばって立ち上がる。

 

「クヒヒッ。これで気絶してればぁ、不戦勝で簡単にカード化出来ていたんだけどねぇ」

 

 二人の後を追うように男が裏路地から現れる。

 それに追従するように漂うのは《インヴェルズ・オリジン》だ。

 

「オリジンは破壊耐性を持っているから破壊を免れるぞぉ。そしてオリジンが持つ三つの効果ぁ、その内の一つを発動するぅ。フィールド(・・・・・)、つまり君のモンスターを含めて戦闘・効果で破壊された時ぃ、その破壊された数までデッキからレベル4以下の「ヴェルズ」モンスターを守備表示で特殊召喚できるのだぁ。私のヘリオロープと君の黄泉ガエルとウォッチキャット、つまり3体だぁ」

 

 男はデッキから突き出た三枚のモンスターを召喚する。

 

「呼び出すのは《ヴェルズ・ケルキオン》、《ヴェルズ・サンダーバード》、《ヴェルズ・オランタ》だぁ。ケルキオンはオリジンのリンク先に出すぞぉ」

「ヴェルズの中でも強力カードを呼び出しやがったな」

「クヒヒッ、このカードの効果を知っているようだねぇ。さぁ私の効果の処理は終わりだぁ。君のターンを続けなよぉ」

「人のターンで展開しておいて抜け抜けと……!」

 

 決闘盤の除外スペースからカードを取り出す。

 咄嗟の判断であったが、荒れ狂う津波の中で手札を失くす愚行を犯さずに済んだ。

 多少の血が付いてしまったが、拭きとる余裕はない。

 

「《ジェスター・コンフィ》を自身の効果で特殊召喚!」

 

 玉乗りをするピエロがフィールドに現れる。

 腹は膨れ、腕は太くあるものの、細く短い両足というアンバランスな体系。

 口の端から垂れる涎の化粧は見る者に不快感を与えるだろう。

 

「コイツは同名カードを場に並べられないが、ノーコストで特殊召喚できる!」

「まぁたレベル1モンスターで展開するつもりかぁ?」

「そうだ! そして俺はジェスター・コンフィ1体でリンク召喚!」

 

 ピエロはその姿を光へと変えて門へと飛び込む。

 点灯するリンクマーカーは下。

 

「召喚条件はレベル1モンスター1体! 現れろ《リンクリボー》!」

 

 リンクマーカーに導かれて現れたのは矢印の尻尾と二つの足を持つ球体。

 どこかメカニカルなそのモンスターはデフォルメされた双眼でオリジンを睨む。

 

「このまま俺はターンを終了する」

 

          ●

 

〇不審者 LP4,000 手札1枚 伏せ0枚 魔0 罠0

E右:インヴェルズ・オリジン :L2 攻2000 上/下

守備:ヴェルズ・ケルキオン  :☆4 攻1600 守1550

守備:ヴェルズ・オランタ   :☆4 攻1650 守1250

守備:ヴェルズ・サンダーバード:☆4 攻1650 守1050

 

 少 年 LP4,000 手札3枚 伏せ0枚 魔0 罠0

E2:リンクリボー:L1 攻 300 下 

 

          ●

 

「なんだぁ。頑張ってモンスターを展開したのに出てきたのは攻撃力たったの300ぅ?」

「うるさい。モンスターの価値は攻撃力だけじゃないだろ」

「ふぅん、負け惜しみじゃあなさそうだねぇ。私のターン、ドロー。ふぅむ、それだけ自信満々なら厄介な効果を持っていそうだぁ。念のためにぃ《ヴェルズ・オランタ》の効果ぁ。自身をリリースしぃ、相手フイールド上に表側表示のモンスター1体を選択して破壊するよぉ。選択するのはリンクリボーだぁ」

 

 岩のような両腕を持つ異形がリンクリボーを捕まえると足元に闇を広げる。

 そのままリンクリボーを抱えたまま闇に沈み始めた。

 リンクリボーは抵抗するが、逃れられず共に闇に沈んだ。

 

「ではぁ、ケルキオンの効果の発動だぁ。墓地の魔細胞をゲームから除外しぃ、墓地のヘリオロープを回収するぅ。そしてぇ、ケルキオン効果で増えた「ヴェルズ」の召喚権で2枚目のカストルを召喚しぃ、更に増えた「ヴェルズ」召喚権で回収した《ヴェルズ・ヘリオロープ》を召喚だぁ」

 

 インヴェルズ・オリジン :L2 光属性 悪魔族   攻2000 上/下

 

 ヴェルズ・カストル   :☆4 闇属性 戦士族   攻1750 守 550

 

 ヴェルズ・ケルキオン  :☆4 闇属性 魔法使い族 攻1600 守1550

 

 ヴェルズ・ヘリオロープ :☆4 闇属性 岩石族   攻1950 守 650

 

 ヴェルズ・サンダーバード:☆4 闇属性 雷族    攻1650 守1050

 

 瞬く間に異形が立ち並ぶ。

 総攻撃力はオリジンを含め4000を超えた。

 圧倒的に不利な状況ではあるが、少年に不安の色は無い。

 

「クヒヒヒヒィッ! このままバトルフェイズゥ!!」

 

 男の宣言に異形の者たちの士気が上がる。

 

「唯一の壁モンスターを失ってどんな気持ちなんだぁい? まぁいいや、ケルキオンとサンダーバードを攻撃表示にしてぇ……フィールドはがら空き、トドメを差してしまえっ、私のモンスターたちぃ!」

 

 それぞれの武器を構え、突撃する異形のモンスター。

 殺意に満ちるその迫力は恐ろしく、背後の少女は悲鳴を上げた。

 しかし、少年はモンスターを見据え……笑った。

 

「相手の直接攻撃(ダイレクトアタック)宣言時! 手札から《バトルフェーダー》を守備表示で特殊召喚し、バトルフェイズを終了する! 例え汎発感染を握ってようが無意味だ!」

 

 少年へ後僅かの距離まで迫った脅威は、鐘の音に止められた。

 それは少年の眼前で鐘を振り子のように揺らす悪魔の秤。

 その鐘の音は見えない壁となって異形たちを押し返した。

 

「……手札誘発を握ってたのかぁ。仕方なぁい、場のヘリオロープとケルキオンでリンク召喚! 現れよぉ! 2体目の《インヴェルズ・オリジン》!」

 

 男の上に浮かぶ異形の塊が2つに増える。

 お互いにリンクマーカーを指し示す配置、つまり2体共に破壊耐性を得る。

 

「更にィ! レベル4のサンダーバードとカストルをオーバーレイィ! 2体の「ヴェルズ」モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築ゥ!」

 

 ケルキオンとカストルが紫色の光玉となって渦巻く銀河に飲み込まれる。

 

「エクシーズ召喚! 《ヴェルズ・オピオン》!」

 

 渦から立ち昇る光から堕ちた神竜が現れる。

 伝説の槍を冠したかつての神竜は邪念に侵され、その身を黒く染めていた。

 その神竜の周囲には力の元となる紫の光玉が円を描く。

 

「オピオンの効果ぁ! オーバーレイ・ユニットとなったカストルを取り除きぃ、デッキからぁ「侵略の」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えるぅ。加えるのはぁ《侵略(しんりゃく)汎発感染(はんぱつかんせん)》だぁ」

 

 神竜は光玉の一つを飲み込むと翼を広げた。

 その翼から抜け落ちた羽の一枚がカードとなって男の手に収まる。

 

「私はぁ、カードを1枚セットしてターンエンドだぁ」

 

          ●

 

 不審者 LP4,000 手札1枚 伏せ1枚 魔0 罠0

E右:インヴェルズ・オリジン:L2 攻2000 上/下

MZ(モンスターゾーン):インヴェルズ・オリジン:L2 攻2000 上/下

攻撃:ヴェルズ・オピオン  :★4 攻2550 守1650 ORU(オーバーレイ・ユニット)

 

〇少 年 LP4,000 手札2枚 伏せ0枚 魔0 罠0

守備:バトルフェーダー:☆1 攻 0 守 0

 

          ●

 

「俺のターン、ドロー、そしてスタンバイフェイズに墓地の黄泉ガエルの効果を発動する。自分フィールドに「黄泉ガエル」が存在せず、また自分フィールドに魔法・罠カードが存在しない場合に墓地から特殊召喚できる」

 

 いつの間にか墓地ゾーンに置かれていた黄泉ガエルをフィールドに再度召喚する。

 どうやら、闇のゲームではカードの移動はある程度自動で行われるようだ。

 

「そして墓地のリンクリボーの効果を発動。自分フィールドのレベル1モンスター1体、黄泉ガエルをリリースして墓地から特殊召喚。そして黄泉ガエルの効果に回数制限は無い。再度効果を発動して守備表示で蘇生」

 

 少年の場にモンスターが増える。

 

「そしてメインフェイズ! 魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札からモンスター1体、《儀式魔人ディザーズ》を墓地に送り、手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。召喚するのは《妖醒龍(ようせいりゅう)ラルバウール》!」

 

 少年の場に現れるのは小さな龍。

 小さくともやはり龍、足元に展開する魔法陣からは紫電を走らせ、手からは蒼炎を巻き上げる。

 

「そして、ラルバウールが特殊召喚に成功した場合、フィールドの表側表示モンスター1体、バトルフェーダーを対象として発動する。俺は手札の《クリボール》を捨て、バトルフェーダーと同じ悪魔族・闇属性のモンスターを手札に加える。加えるのは三邪神の1体! 《邪神アバター》!」

 

「……成る程ぉ。君が持っていたのは三邪神かぁ」

 

 男はニチャリと粘着質な笑みを浮かべる。

 笑顔でありながらも嫌悪感を抱く表情に、少年は思わずたじろいだ。

 

「な、何だ。これは雑誌の付録カードだし、再録もされてるからそこまで珍しいものでもないぞ」

 

 邪神イレイザーに至っては、十把一絡げのストレージで何度か見かけた程だ。

 

「そうだねぇ。前の世界じゃその程度の価値しかなかったろうねぇ。でもぉ、それが原作から劣化したレプリカだとしてもねぇ、この世界じゃ三邪神の価値は計り知れないんだよぉ。少なくとも私のクライアントが血眼になって探す程度にはさぁ」

 

「クライアントだと?」

 

 男のいう事を鵜吞みにするならば、男は誰かから指示を受けてカードを探している。

 それも大量に刷新されたであろうカードをだ。

 

「ああ、そうさぁ。ブタ箱から私を逃がしてくれてぇ、更にはこの素晴らしいぃ世界に連れてきてくれたぁ、ありがたぁいクライアント様が居るんだよねぇ」

 

「俺とは違うのか……」

 

 自身の記憶に残る爆炎の残滓。

 男のクライアントは少なくとも生命を失うことなく、世界を渡る技術を持つ存在らしい。

 

「クライアントからの依頼はたった一つぅ。力あるカードの収集だぁ。有名どころでいえばぁ、君の持つ三邪神だけじゃなぁい。三幻神、三幻魔、シグナー竜、三極神、ナンバーズ、覇王竜、エトセトラァ。それらを集めるためにぃ、クライアントからこのデッキとルールブックを渡されたのだよぉ。けれどねぇ、ルールが難しくて直ぐには覚えられなかったよぉ……これはぁ、本当に子供向けのカードゲームなのかぁ?」

 

 最後の言葉には少年も内心で同意した。

 近年はテキストの書式変更や複雑な効果を内蔵するカードが増え、ルールが複雑化しているのだ。

 あと、サイレント修正は止めて欲しい。

 

「……三魔神は?」

「何だぁそれはぁ?」

 

 思わず少年は天を仰いだ。

 

「それが何だか知らないがぁ、それらを集めれば私は報酬を貰えるのだよぉ。人をカード化するこのデュエルディスクをねぇ」

 

 男はコートを捲って女性が描かれたカードを示す。

 

「そしてぇ、このデュエルディスクは特別性でねぇ。この封印カードをセットすれば封じた人間を実体化するのだよぉ。実体化した人間はコントローラーである私に逆らうことはできなぁい。つまりぃ、コレさえあれば何時でも何処でも女を好きにできるんだよぉ、クヒヒッ」

「……お前はっ‼」

 

 少年は男の下劣な目的を完全に理解した。

 そして、ここで負ければ自身は殺され、少女は男に人の尊厳を奪われるのだ。

 

「お前は俺がここで倒す!」

 

 右手が熱を持つ。

 それは負傷によるものではない。

 得体の知れない何かが、傷を通して活力を流し込んでくる。

 

「場のバトルフェーダーとラルバウールでリンク召喚、召喚条件はモンスター2体!」

 

 点灯するリンクマーカーは上下。

 

「リンク2《スペース・インシュレイター》!」

 

 現れるのは近未来的な装甲に身を包む戦士。

 その姿は日曜の特撮ヒーローを連想させる出で立ちだ。

 

「更に! サイバース族であるリンクリボーとインシュレイターの2体でリンク召喚!」

「連続リンク召喚かぁ!」

「召喚条件はトークン以外の同じ種族のモンスター2体!」

 

 リンクマーカーは同じく上下。

 

「現れろ、リンク2《アカシック・マジシャン》!」

 

 現れるのは赤の長髪を頭頂部から二本に分けた少女。

 助手であろう幼い男女のホムンクルスを引き連れている。

 そしてそのリンクマーカーが指し示す先は、

 

「私のオリジンのリンク先にぃ?」

「本来はリンク先の相手モンスターを利用するためのマーカーが仇になったな! アカシック・マジシャンのリンク召喚に成功した場合の効果! このカードのリンク先のモンスターを手札に戻す! これは対象を取らず、破壊する効果ではない!」

 

 マジシャンの名を持つ少女は杖の一振りでオリジンを吹き飛ばす。

 

「わ、私のオリジンがぁ!?」

「これで、メインモンスターゾーンのオリジンはリンク先を失った事で破壊耐性を失う!」

 

 心なしかオリジンの表情が弱気になる。

 

「まだ終わらない! アカシック・マジシャン1体でリンク召喚、召喚条件はリンク2以上のリンクモンスター1体! 現れろ、リンク1《リンクロス》!」

 

 マーカーは下、十字を象るモンスターが現れる。

 

「リンクロスのリンク召喚に成功した場合の効果! リンク素材にしたリンクモンスターのマーカーの数だけトークンを生み出す! アカシック・マジシャンのマーカーは2、リンクトークンを2体特殊召喚!」

 

 リンクロスが光ると全く同じ姿のモンスターが少年のフィールドに出現する。

 

「そして、俺はまだ通常召喚を行っていない! リンクロスとトークン2体を生贄(リリース)し、手札の《邪神アバター》を召喚する!」

 

 その異変は明らかだった。

 ビルの隙間から見えていた青空は黒く染まり雷雲となる。

 辺りには黒い靄のようなものが漂い、陰鬱とした雰囲気に包まれる。

 その中で、存在感を放つ物体。

 黒、いやそれよりもなお昏く深い球体、それが邪神アバターだ。

 

「アバターの召喚時の効果を発動。このカードの召喚に成功した場合、相手は2ターンの間、魔法・罠は発動できない。更にこのカードの攻守は「邪神アバター」以外のフィールドで攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力+100の数値になる。最も高い攻撃力を持つオピオンのプラス100、つまり2650となる」

 

 アバターはその姿をオピオンと同じものに変える。

 かつては青と白の姿だった神竜は闇に堕ちて黒に塗れた。

 しかし、アバターの姿はそれよりもなお黒く深い漆黒だ。

 そして雄たけびを一つ上げた。

 

「こ、これが邪神……」

 

 レプリカでありながら、心の弱い人間であれば気絶しかねない威圧感を持つ。

 元が雑誌の付録とは思えないその存在に男は冷や汗を流す。

 

「――あふぅ」

「おっと、流石にこれは刺激が強すぎるよなぁ」

 

 だが、少女はその威圧感に耐えられず、その意識を手放した。

 少年が無事なのはその威圧感を向けられていないからだ。

 それでも肌がひりつく様な感覚は感じていた。

 気絶する少女をゲームフィールドから離れた場所に寝かせ、少年はゲームを続行する。

 

「バトルフェイズ! 邪神アバターでオリジンに攻撃! ダークネス・グングニル!」

 

 アバターは漆黒の槍を作り出すとオリジンに向けて射出した。

 オリジンはその身に穴を開け、爆散する。

 貫通した槍はそのまま男へ突き刺さる。

 攻撃力の差は650。

 差分のダメージの痛みが槍を通して男を襲う。

 

「うぎぃいいい――!?」

 

 LP4,000 → LP3,350

 

「メインフェイズ2。俺は手札から永続魔法《アドバンス・ゾーン》を発動。そのままエンドフェイズに移行。そしてアドバンス・ゾーンの効果、このターンに生贄(アドバンス)召喚に成功した場合にその数に応じた効果を発動できる。1体以上の場合、相手のセットカード1枚を破壊する。俺はその伏せカードを破壊する!」

 

 デュエルディスクの液晶でカードを指定すると、アバターが槍を飛ばして伏せていたカードを貫いた。

 

「そして2体以上の場合、デッキから1枚ドロー。そして3体以上の場合は墓地からモンスターカードを1枚回収する。回収するのは……《ジェスター・コンフィ》。これで俺の効果処理は終了だ」

「ぐぅっ、よくもやってくれたねぇ……」

 

 痛みに呻く男。

 だが、その瞳から悪意は消えていなかった。




次話投稿は夜8時を予定しております。
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