“ゾーク”との邂逅から翌日。
入学目前で未だ春休みである今しかできないこと。
ゾークを相手にフリーデュエルを繰り返すことだ。
デッキの完成度を確かめるのは実戦が一番だ。
一人回しも良いが相手が居た方が何倍も効率が良い。
「回らなくなっちゃったな」
「ならモンスターを増やせるカードを差してみたら?」
「そうだな……とりあえず《ワンチャン!?》を1枚刺してみるか。んじゃ頼むわ」
「はいよー」
ゾークが伸ばした手から《ワンチャン!?》が生えてくる。
見た目が凄いことになっているが理由がある。
俺が所持していたカードは全てゾークの依り代となっている。
その結果、ゾークは実体と非実体を切り替えられ、物理的干渉も可能となっている。
デメリットとしてはカードを並べて眺めることができないことだろうか。
それを遥かに上回るメリットがある。
まずカードは意外と嵩張るので収納してくれれば置き場所に困らないし、所持カードの在庫把握だけでなく出し入れも一瞬で済む。
最大のメリットとしては対戦相手として申し分無いってことだ。
何故か繋がる遊戯王wiki等からデッキを構築して、様々なタイプのデッキと戦える。
今まで自身が集めたカードという制限はあるものの実戦に勝るものはない。
デッキの完成度が自衛力に直結する今、最高の対戦相手だ。
そんな感じで午前を過ごしていたら、
「――挨拶?」
「ええ、貴方が助けた女の子。彼女はお隣の娘さんだったの」
そういえば、事件の直後に顔を合わせていたっけ。
今回は気絶していたせいで挨拶が遅れたのか。
「元々引っ越した日に挨拶する予定だったのだけど、あんな出来事が起こったからね。元気になってからって話になったの。調子も完全に戻っているみたいだし、午後にでも挨拶に伺うわよ。急だけど今日で休みが終わっちゃうから家族全員で顔を合わせる最後の機会になるのよ」
有休も含めて引っ越し連休を取っていた父さんだがそれも今日で終わり。
社会人というのは大変だ。
「分かった。何時に行くの?」
「お互いに身支度もあるし、13時頃よ。そのぐらいには出発できるよう準備しておいてね」
そんな会話があり、今は自室で外着に着替えているところだ。
「……んで、記憶が戻っているっていうのは確かなのか?」
「間違いないよ。あっちにはアタシと同じのが憑いているし、定期的に情報交換はしているから」
「同じ……まさか三幻神の」
三邪神のカードとゾークがセットだったことを考えればおのずと答えは出た。
「その予想通り、三幻神を束ねた存在……《光の創造神 ホルアクティ》さ」
●
実家と同じぐらいに勝手を知っていて、けれども今日が初めての来訪となる家。
幼馴染の彼女の家だ。
両親を事故で無くしてから、彼女の両親にはとても良くしてもらった。
そんなおじさんとおばさんは今俺に頭を下げているわけだが。
「この度は娘を助けて頂いて本当にありがとう」
「君が居なければ娘はどうなっていたか」
「あ、いえ、助けられて良かったです?」
幼いこの身ではいえいえと謙遜するしかない。
これほどまでに感謝されると恐縮するしかない。
父さんもどう対応したものか困っている。
それ以上に困っているのが、
「あのー?」
「…………」
出会い頭に俺の胸に飛び込んだまま固まった彼女の扱いをどうするか。
鼻をすする音や吃逆が聞こえてくるし、胸元が湿っているあたりガチ泣きしている様子。
宥め賺すのは良いのだが、真横から黙って見つめてくる金髪金眼色白というゾークと対照的な少女。
お互いの両親がその存在を認識していないあたり、やっぱり彼女が“ホルアクティ”なのだろう。
微笑みというかアルカイックスマイルを浮かべるのみで何も言葉を発さない。
俺に対して悪感情は無いようだが、顔の良さと人ならざる存在特有の圧が凄い。
あ、ゾークに引き摺られていった。
「まあまあ、
ここで声を上げたのは叔父さんだ。
親父と幼馴染の一家両方と面識がある。
彼の取り成しのおかげでようやく落ち着いて会話できるようになった。
お互いの両親が大人の会話をしているため俺はリビングのソファで休ませてもらっている。
現在引っ付き虫と化した幼馴染は泣き止んだものの未だ動く様子は無い。
とりあえず背中を撫で続けてはいるが、体は幼いものの
ふと、視線を下に向ければ朱く染まった耳が目に入った。
「あー、これはアレですね。感極まって抱き着いたのは良いものの、冷静になって羞恥で身動きできなくなった状態ですね」
気が付けば隣に金髪色白の少女が座っていた。
「あ、どうも。私は《光の創造神 ホルアクティ》と申します。この度はマスターを助けてくださりありがとうございました」
両親たちに聞こえないように小声で返事をする。
「どういたしまして、で良いのかな。……えっとウチのゾークはどうしたんだ?」
「ああ、彼女ならあちらに」
指さす方に目を向ければ家具の死角に隠れてシュークリームを頬張っていた。
大邪神が食べ物で釣られてんじゃないよ。
「私たちって基本的に食事は不要なんですが、驚くことに実体化することで食事ができたりするんですよ。毎食とは言わずとも時折食事の機会を頂けると彼女も喜ぶと思いますよ」
食事がどれだけの幸福なのかは満面の笑みを浮かべながら頬張るゾークを見れば分かる。
「あの様子を見た上で絶食させる趣味は無いよ……んで、そろそろ落ち着いたか?」
「……うん。ただ、酷い顔してるから動けない」
「では私が目隠ししますので、その間に」
目を白魚のような手で塞がれる。
視界が完全に遮られたところで腹の重みが消えた。
トタトタとでも形容するような音が遠ざかったところで視界が解放される。
服については酷い状態とだけ言っておく。
彼女はタオルを手にすぐに戻ってきた。
涙や鼻水は既に無いが、腫れぼったく充血した瞳だけが跡を残していた。
「ごめん、汚しちゃったね」
「いや気にしてないから大丈夫」
濡らしたタオルで服の汚れた部分を拭う。
ある程度綺麗になったところで気付く。
両親達の生暖かい視線に。
俺の様子に彼女も気付いたようだ。
「な、何なのお母さんその目は」
「いえ、
「なっ何言ってるのお母さん! 助けられたんだからこれぐらい普通でしょ!」
顔を真っ赤にして言い返すその様子は前回と変わらない光景だ。
「深弥も何笑ってるのよ」
「いや、変わらないなって」
二度目であっても変わらない光景に思わず笑みが零れてしまった。
そんな気持ちは彼女に伝わったようで、
「もぅ!」
顔を赤らめて軽く小突かれる。
流石に大学まで付き合った仲だ。
これぐらいの軽いじゃれあい程度は慣れたものだ。
だが、
「……いや、本当に仲が良いですね?」
「異性が苦手なあの子がここまで気安く接するとは」
おばさんとおじさんが目を丸くする。
そうですね。今の俺たちはほぼ初対面でしたね。
「デュエルモンスターズに夢中だった息子にこんな機会があるとはな。深弥よ、この出会いを逃すなよ。幼馴染というアドバンテージは唯一無二のォッ!?」
「幼い子供に何を言ってるのよ。まあ深弥も女の子との付き合い方を学ぶ良い機会ではあるか」
脇腹を抱えて悶絶する父さんと澄まし顔の母さん。
元とはいえ格闘技選手、貫手が早すぎて見えなかったぞ。
当の幼馴染は顔を真っ赤に染めてプルプル震えていた。
「あら、深弥くんはデュエルモンスターズを遊んでいるので?」
「そうなんですよ。お小遣いも大半を費やしていまして、引っ越しする前は近所のお友達とも頻繁に遊んでいたんですよ」
「でしたら、真輝もそうなんです。丁度良い機会ですし一緒に遊んでみたらどうでしょうか?」
まさに名案とばかりに手を打つおばさん。
「深弥くんもどうかな? おばさん達は難しいお話をするから待っている間はつまらないと思うの。その時間の暇潰しとしてウチの真輝の遊び相手になってもらえませんか?」
まぁ、彼女とのデュエルは数えきれないくらい行っているので今更何もないのだが。
「ふむ、デュエルをするんなら叔父さんの店でやるかい? 小型だけれども
立体幻像付きとなると聞き捨てならない。
不審者とのデュエルで体験済みだが、純粋に楽しむ機会ではなかった。
幼馴染の真輝に視線を向ければ、
「立体幻像付きで!? やる! やるやる!」
目を輝かせている。
気持ちは凄く分かるぞ。
「なら、二人ともデッキを用意してお店に行こうか。……二人は僕が見ているから安心してください。話が済んだら応援に来てあげてくださいね」
叔父さんが言い終わる頃には俺たちはデッキを取りに動き出していた。