親戚の叔父さん視点が続きます。
早速デッキを取りに動き出した俺たちだったが、
「マスターのデッキならアタシが保管しているよ」
「右に同じく。私たちが管理することでストレスフリーなデュエルライフを提供できます」
リビングを飛び出したあたりでニュッとデッキを取り出す2柱。
どこからとは言わないが、確かに便利だこれは。
「あと、デュエルに関する物品も扱えることが判明してね。こんなのも仕舞えちゃうんだ」
俺の
確か自室の机に置いてた筈だが。
「そうだ!」
何を思ったのか決闘盤を展開する。
そのまま
「……一発芸、《星遺物への抵抗》」
アバターまで手伝わせてクオリティを高めてんじゃないよ。
「ニーサンにクリマクスされる前に止めとけ?」
「一発芸はともかく、その決闘盤。ただのプラスチックじゃない……これ本物?」
キラキラとした眼で見つめる真輝。
確か、玩具の決闘盤は持っていた筈だから違いが分かるのだろう。
「おうよ。立体幻像も搭載されているモノホンよ」
「いいなぁー! 本物の決闘盤いいなぁー! ちょっとアレンジされてるのも良いなぁー!」
「羨ましいだろ。叔父さんのお手製だぜ?」
「あの店長さんはメ蟹ックだった……?」
「趣味だって言ってたけど、そんなレベルじゃないよなコレ」
流石に一人で全て作ったわけじゃないだろうが、やっぱりクオリティの高さは驚くべきものがある。
「さ、決闘盤の前に
「うー、確かに決闘場を体験するのが先ね。決闘盤は後回しよ!」
そうして叔父さんと合流し、店に向かうのだった。
●
俺には嫁が居ない、けれども家族に価する家庭が二つある。
一つは兄とその妻子だ。
玩具屋として好き勝手に生きている自分には過ぎた兄と兄嫁だ。
特に甥はこんな自分に懐いてくれている。
大きくなれば疎遠になるだろうが、良い子で可愛い盛りだ。
もう一つは隣に住む紫藤一家であった。
娘を持つ家庭でありながら、俺を気に掛けてくれた。
店を構えた身として地域との関わり方に悩む俺を馴染ませてくれた。
繫盛とまではいかないものの、こうして生きていける程度に稼げているのは一家のおかげだ。
「準備はできたかい?」
楽しみで興奮しているのか息を切らせてまで駆け寄る姿は年相応のものだった。
「では二人を店で預かりますね」
両家庭に一言告げて家を出る。
二人はあれだけはしゃいでいたにもかかわらず、外に出た途端に大人しく後ろを着いてくる。
同じ年頃の少年少女なら楽しみの余りに走り回るものだと思うのだが。
元々車通りは少ないが、危険が無いとは言い切れない。
そう考えれば二人の落ち着き具合は驚くべきものだ。
困るものではないから良いのだが。
少し歩くだけで我が城たる『ホビーショップ“
デフォルメされた鶴が特徴の看板は玩具屋らしくて気に入っている。
そんなことを考えていると店の入り口に誰か立っているのに気付いた。
「お前は」
「……っ、やぁこんにちは。たまたま近くを通ってね。様子を見に来たら臨時休業だっていうからどうしようかと」
気さくに挨拶してきたのは旅行鞄を携える女だ。
ジーパンと無地Tシャツにジャケットを羽織るだけの服装。
最低限のお洒落で済ます彼女の正体はそこそこ有名なデザイナーというのが本人談。
大学時代からの後輩であり、今では長い付き合いだ。
また、店の看板をデザインしてくれた恩人である。
「ちょっと先日引っ越してきた兄貴一家とお隣さん一家の顔合わせがあってさ。その関係で臨時休業」
「ああ、お兄さんが引っ越してくるんだっけ。なら仕方ないわね……っと、後ろのお子さん達は?」
「甥とお隣の娘さんだよ。今、家庭の事情で暇してるからさ。ちょっと
「あら、よく話に出るあの」
そう言うと彼女は目線を二人に合わせる。
「どうも初めまして。デザイナーをやっている
「初めまして。叔父さんの甥の
「初めまして。お隣に住んでいる紫藤真輝です」
見知らぬ相手に対して二人は物怖じせず挨拶を返す。
「そうだった。深弥くん、君にあげた決闘盤のデザインをしたのは彼女なんだ」
「え、そうなんですか!?」
「噂の
「は、はい! 格好良くて気に入ってます!」
「そっか、それは良かった」
彼がどれだけ気に入ってくれたか、それは渡した当日の様子で十分に理解できた。
ただ、
「やっぱり、いいなぁ……」
真輝ちゃんが羨ましがるのは予想外だった。
これまでカードパックを剥きこそすれど、
元より異性を怖がっていたし、来店時も両親か女友達と一緒の時だけだ。
だからこそ、決闘に関する道具を気に入るとは思えなかった。
また彼女に頼めば良い……とは言えない。
今回の件はこれまでの積み重ねに応えてくれた結果だ。
本来、彼女はデザイナーとして忙しい身だ。
組み立ては俺だとしても、デザインを特別に引き受けてくれたのだ。
「ごめんな。真輝ちゃん」
「ううん。今まで決闘したことはなかったもん。それにクリボー五兄弟のぬいぐるみっていう素敵な贈り物を貰ったもん」
そんな会話を彼女に聞かれてしまった。
「ちょっと! こんな可愛い子もいるなんて聞いてないわよ! 決闘盤のデザインの一つや二つ……いや、この前新しい仕事が入ったんだったわ」
この通り、多忙なのだ。
再度頼むのは難しい。
「落ち込んでるところ悪いが、仕事は大丈夫なのか?」
「今日の予定はもう無いわ。だから貴方の店に遊びにきたのだけれども、休みなら引き返した方が良いかしら」
「いや、折角来てくれたんだ、店でゆっくりしていくといい」
「良いの? 休みなんでしょう?」
「俺の店なんだ。俺がルールだ」
「……ならお言葉に甘えてお邪魔させていただくわ」
咄嗟に引き留めてしまったが、二人に確認を取っていなかったな。
二人に目を向ければ、ニンマリとした笑顔を浮かべていた。
いや、何だよその“分かってます”って顔は、
「うん。折角だし見てもらおうよ」
「私の初めての決闘を見て行ってください」
「あら、凄いタイミングに立ち会っちゃったのね。むしろ見学させてちょうだい」
そういうことになった。
●
店に入ればショーケースが出迎える。
商品の割合は玩具4割、カード6割と半分カードショップにはなったが、目玉となるレアカードの在庫や入手ルートも無いので主な売り上げは玩具である。
目的は二階の休憩所兼決闘スペースだ。
一階とは違って広々としたスペースを確保している。
長机と自販機を用意して休憩所とショップ大会用のスペースを確保している。
そんな二階の半分を占めているのが、この店の目玉であり二人が楽しみにしている決闘場だ。
「これで小型?」
目を輝かせて甥は言う。
「そうだよ。中型の時点でテニスコートぐらいの広さが必要になるからねぇ。この店だと小型一台で精一杯なんだ」
「すっごーい! 赤と青で原作そのままだよ!」
「原作?」
漫画か何かの題材にでもなっただろうか。
「あーっと叔父さん、もう使えるの?」
「あ、ああ。今はスリープモードだけどデッキをセットすれば起動するよ」
「じゃ、俺は赤で」
「なら私は青ね」
駆け足で二人は持ち場へと向かっていく。
「じゃあ、俺たちはこっちだな。そこのソファに座ってくれよ」
紗綾を観覧用に用意したソファに座らせる。
その間に自販機からジュースを買う。
彼女の好みはオレンジジュースだったか。
「あら、悪いわね」
「気にするな」
隣に座れば決闘場が起動するところだった。
「確か、深弥くんは闇属性のカードを主に使うんだったかしら?」
「ああ、それと戦士族やドラゴンを組み合わせていたって聞いてたな」
「男の子ねぇ。なら真輝ちゃんは何を使うのかしら?」
「パックを剥いた時は可愛い系のモンスターが出たら喜んでいたけど……」
女の子は大体そうだから指針にはならないか。
そんな予想をしていると深弥くんのターンランプが光る。
「お、始まったぞ」
彼らの決闘者としての腕前が如何程か。
小さくも大会を何度か開いた身としては気になってしまうのだった。