デュエルの省略描写を試してみましたが、こんなものでしょうか。
結果から言って、俺が評価できる腕前ではなかった。
正確に言えば“俺ごときには”だ。
「これは……」
「驚いたわ」
「――
あっという間に融合モンスターを場に召喚してしまった。
まだ1ターン目が始まったばかりだというのに。
《昇華騎士-エクスパラディン》というモンスターから始まり、《聖騎士の追想 イゾルデ》なるリンク召喚を絡めての融合召喚。
俺の知る決闘者は融合素材を集め、召喚するまでに数ターン掛けるのが常だ。
運が良ければ1ターン目から融合召喚を行うこともある。
が、それは手札を最低3枚も消費する諸刃の剣だ。
だが、彼は1枚の消費のみで融合召喚を行ったのだ。
手札はまだ4枚も残っている。
「このモンスターの効果は三つ。一つ、効果対象にされたら起動する無効破壊効果。二つ、場だけでの融合が成功したから2回の攻撃権、最後に戦闘時に墓地の魔法をコストに守備力の半分の攻撃力上昇効果を備えている。ふふふ、このデッキのエースだぜ」
「……中々厄介なのよね」
親し気に会話を行う二人だが、
「あのモンスターはそんなに効果を持っているのか。それに最後の効果はイゾルデで墓地に魔法カードを肥やせるからこそのシナジーか」
「中々強そうじゃない」
デュエルモンスターズは無数ともいえるカードプールが存在する。
全てを知る訳ではないが、ここまで充実した効果を持つモンスターはプロの大会ぐらいでしか見たことが無い。
そんなカードを持つことに驚くが、淀みなく召喚に繋げる腕前にも驚きだ。
凄まじい
「並みのモンスターを立てるよりは十分だろ? カードを2枚伏せてターンエンド」
だけど初心者が相手なんだぞ?
ターンが真輝ちゃんへと渡る。
こんな強力なモンスターを前にしたら初心者の彼女の心が折れてしまうのではないか。
そんな考えは、
「私のターン、ドロー!」
不敵な笑みの前では要らぬ心配であったと理解した。
「私は魔法カード《予想GUY》を発動! デッキから――」
「その効果にチェーンして手札の《増殖するG》を捨てて効果を発動!」
フィールドに開かれたカードから黒い影が飛び出す。
素早い動きは残像を残すのみだ。
「ぞっ《増殖するG》だとぉ!? あれには手札から発動する効果なんてあったのか!」
「あーアレが噂の」
問題のGシリーズじゃないか。
激レアカードの癖にイラストモチーフが最悪過ぎることで有名なカードだ。
使いたがる決闘者が希少なためにその効果を誰も知らない。
「来ると思ったわ。更にチェーンして《灰流うらら》を発動!」
「あ―っ、やっぱり持ってたか! こんな時に限って墓穴来ないんだが⁉︎」
和装の猫耳少女が現れたかと思えば黒い影を蹴り飛ばしてしまった。
「《灰流うらら》……これも手札から発動する効果なのか。しかし聞いたことの無いカードだ。《増殖するG》のカードの効果を無効にできるようだが……」
「あんな可愛いカードがあるのね。後で見せてもらえないかしら」
そんなやりとりを他所に
「結果として《予想GUY》の効果が通り、デッキから《磁石の戦士α》を特殊召喚!」
それは磁石をモチーフとした最古のテーマカードの1枚であった。
「ほぅ、“
初代
とはいえ、古くから存在するだけあって扱いが難しいと聞くが。
「へぇ、丸っこくて可愛いじゃない」
「ああ、そういう見方もあるのか」
確かにエースモンスターはともかく下級の磁石モンスターは丸みを帯びていたな。
まるまるとした形状はマスコットらしさを強調するのだろうか。
「場に《磁石の戦士α》が存在することで魔法カード《マグネット・インダクション》の発動条件は満たされたわ! 発動し、効果でデッキからレベル4以下の「マグネット」モンスターを1体――」
効果の処理に淀みが無い。
しっかりと自身のデッキに眠るカードの効果とシナジーを把握しているのだ。
場、デッキ、そして墓地すら活用する戦術は熟練の決闘者と相違ないレベルだ。
モンスターだけでない。
フィールド魔法すら活用する様はアマチュアでも上澄みだ。
「《
それは決闘王のエースの一体。
伝説の《青眼の白龍》をも超える攻撃力だ。
「バトルフェイズ! マグネット・バルキリオンでギルティギア・フリードを攻撃!
「なら墓地の魔法カード、《融合》を除外しギルティギア・フリードの効果で守備力の半分の攻撃力上昇! これで攻撃力は互角!」
強大な力を持ったモンスターがぶつかり合い、大爆発を起こす。
「くぅっ、だけど《マグネット・インダクション》の残存効果により「マグネット・ウォリアー」モンスターと「磁石の戦士」モンスターは戦闘と相手の効果では破壊されないわ。……てっきり返り討ちにしてくると思ったけれど?」
「《マグネット・フィールド》を貼っておいてよく言うよ。返り討ちにしても②のバウンス効果で戻されるのが目に見えているからな。下手にカードを消費するよりはマシだ」
「あら、バレてたのね」
傍から見れば真輝ちゃんが大型モンスターを立てて逆襲したように見えた。
けれど会話を聞く限り、彼らの中では別の攻防戦があったようだ。
そのまま彼らの攻防戦は繰り広げられ、僅差で深弥くんが勝利することとなった。
「いやぁ、凄かった」
過去のショップ大会でも中々見ないハイレベルな戦いであった。
まるで一つの大作映画を見終えたような気分であった。
「ねぇねぇ、叔父さん」
「ん? どうしたんだい?」
「もう一回で決闘してもいい?」
あれ程の接戦を演じておきながら、未だ元気一杯な様子。
真輝ちゃんも同様であることから若さというエネルギーの凄まじさを実感する。
「今日はお客さんは来ないからね。飽きるまで使って良いよ」
「本当!? ありがとう叔父さん!」
「ありがとうございます!」
礼を言うや否や次の決闘が始まる。
盤面を埋めるように互いの戦士が召喚されていく。
先程も見たモンスターも居れば、知らないモンスターも現れる。
「手札の《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》と《
「それ、正規召喚すんのかよ!?」
「浪漫の《融合》をピン刺ししてて良かったー!」
それは流石に未知が過ぎた。
誰か飲み物を噴き出さなかったのを褒めて欲しい。
この凄さは決闘者しか分からないだろう。
攻守共に4000という戦闘において強力無比なステータス。
この店の常連でも正面突破できる者は居ないと断言できる。
搦め手を用いようにも魔法と罠によるサポートが難易度を跳ね上げる。
結果として深弥くんは押し切られてしまう形となった。
「いやー。マジで出るとは思わんて」
「でも、立体幻像でインペリオンを見たいじゃない?」
「それはそう」
会話しながらも彼らは次の決闘の準備を始めていた。
「肩慣らしも済んだし、今度はマイフェイバリットデッキで勝負だ!」
「ほほぅ。
それどころかデッキすら切り替えたではないか。
「へぇ、今度はどんなカードを使うのかしら」
デュエルモンスターズに詳しくない紗綾は呑気なものだ。
俺としては混乱の最中だ。
多くの
カードの入れ替えによる戦術の変更こそあれど、デッキ自体は一つのまま。
多くの理由としてはエースカードを主軸にどうやってデッキを洗練していくか。
これが大半の決闘者のポリシーである。
……まあ、実践レベルのデッキを複数組めるほどのカードが揃えられないという現実もあるが。
ノーマルカードを集めても似たり寄ったりの初心者レベルのものしかできないのだ。
もちろん複数のデッキを持つ者も存在しない訳ではない。
が、余程の深い知識を持つ学者気質な者か、レアカードを複数枚手に入れた幸運な者がほとんどだ。
『決闘!』
呆気に取られている内に次の試合が始まった。
どうやら深弥くんが先行のようだ。
「《
「あら、今度はドラゴン? 中々格好良いじゃないの」
「レッドアイズ……まさか」
俺の驚愕なんて知ったことではないとばかりに盤面は進む。
「場の《ストライカー・ドラゴン》を除外し、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚! さらにレダメの効果で手札の《
「れ、《真紅眼の黒竜》!?」
「わっ、いきなりどうしたのよ」
「す、すまない。取り乱した」
《真紅眼の黒竜》……それはデュエルモンスターズ初期から存在するレアカードの一枚。
長き年月の間でイラスト違いが何度か再録されたという噂はあったが、あくまで噂。
こうして実物を見ることができるとは思わなんだ。
というか《
「そして手札から魔法カード《
「ライフ4000でそれは無法でしょ!? にゃ――っ!?」
火炎弾が真輝ちゃんを襲う。
立体幻像だから痛みや熱とかは無いけれども、あれだけ派手に爆発すると普通にビックリするよね。
「いや、これは正当なルールの範囲内なんで……つまり、俺は悪くない。真紅眼とレダメのドラゴン族二体で《天球の聖刻印》をリンク召喚! カードを伏せてターンエンド!」
「……真輝ちゃんは大丈夫か?」
まさかの先行一ターン目でライフを半分以上失ってしまった。
ショックを受けていないか心配だった――のだが、
「ふ、ふふふ……よくもやってくれたわね?」
ギラギラと輝く瞳には闘志が燃えていた。
「私の番! ドロー! 手札の《マジシャンズ・ソウルズ》の効果! デッキからレベル6以上の魔法使い族――《ブラック・マジシャン》を墓地に送りソウルズを特殊召喚! そのまま②の効果で手札の《魂のしもべ》と《光の護封霊剣》を墓地に送り、二枚ドロー! そして《黒の魔導陣》を発動してデッキの上から三枚を捲り……その内から「ブラック・マジシャン」の名が記された罠カード、《永遠の魂》を回収するわ!」
「ぶ……ぶん回っておる」
「ぶ、ぶぶぶ《ブラック・マジシャン》まで!?」
「あ、私も知っているわ。子供の頃観た賢者の石のミュージカルを思い出すわねぇ」
そう、紗綾でも知る程の超有名レアカード。
初代決闘王が愛用したともあって市場では莫大な金で取引される程だ。
それをサポートカードまで揃えたあのデッキ……。
資産価値にして家を建ててもお釣りが帰ってくるだろう。
「一応、親御さんには伝えておかないといけないか」
たかがカード一枚とはいえ、お金に関わる事柄だ。
親御さんも知っておいた方が良い。
「しっかし……これは凄いな」
真紅眼にブラック・マジシャン。
デュエルモンスターズ黎明期の伝説が目の前に蘇ったのだ。
常連に自慢すれば血の涙を流して悔しがるだろう。
お互いに一歩も引かない攻防が続くが、終わりは来た。
「私は魔法カード《ティマイオスの眼》の効果で場の《ブラック・マジシャン》を墓地に送って融合召喚! 来て! 《超魔導剣士-ブラック・パラディン》!」
「真紅眼に“
「これは正当なルールの範囲内よ? つまり、私悪くないもん! 行けっ! 超魔導無影斬!」
「ギャ――!」
言える事といえば……自業自得というのはあるものだ。