俺と邪神のデュエルモンスターズ   作:水混汁

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タイトルの邪神がまた活躍?する回です。



9話 神対邪神 前編

「凄いな……もう何戦目だ?」

 彼らの1回あたりの決闘(デュエル)スピードは大したものだ。

 早くて五分も掛からず、遅くても十分程度。

 お互いがお互いのデッキを深く知り尽くしているからとしか思えない速さだ。

 それをデッキを切り替えながら行っているのだから舌を巻くしかない。

「すまん、遅くなった」

「お、兄貴」

 新たな来客、それは二人の両親達だ。

 挨拶は終わったようだ。

「子供たちをお任せする形になってしまって……」

「いえいえ、こちらも良いものを見せてもらっています」

「ところで、そちらの方は?」

 紗綾の方に視線が向く。

 そういえば初対面だったか。

「兄貴には以前話したこともあるけど、深弥くんの決闘盤やこの店の看板のデザインをしてくれたデザイナー。俺の古くからの友達」

「お邪魔しています。彩鳥紗綾です。ちょっとしたデザイナーをやらせてもらっています」

 男性陣はピンと来ていないようだが、女性陣は彼女を知っていたようだ。

「確かあの看板って有名なデザイナーが作ったって聞いた記憶があるんだけど。……紗綾ってまさかあの“サーヤ”!?」

「まぁ! あのブランドデザインを担当されている方ですか!」

 ファッション関係が主な仕事だからか女性陣の方が馴染み深いようだ。

「今日はたまたま近くで仕事が終わったので旧知の彼のところに遊びに来たんです」

「まあ!」

 気付けば夫妻らは子供たちと同じくニンマリとした笑顔を浮かべていた。

 いや、だから何だよその“分かってます”って顔は、

「そっか、あの弟にも縁は有ったか……とりあえず、ウチの深弥の腕前はどうだ?」

 おい、前半の一言は何なんだ。

「真輝は上手く遊べているかい?」

 問い質す前に聞かれては答えるしかない。

「二人とも一人前の決闘者(デュエリスト)としか言えないですね。少なくともウチの常連じゃ二人の相手は荷が重いでしょう」

「そ、そんなになのか?」

「見ていれば分かるさ。ほら、もう次の決闘が始まりますよ。さ、皆さんも座って見てください。下手な大会よりも面白いものが見られますよ」

 

          ●

 

「これでトドメ! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

「ぬわ――!」

 ライフポイントが0になり、立体幻像(ソリッドビジョン)が消える。

 これだけ決闘に集中したのはいつ以来か。

 少し前の大学生だった頃は休憩を挟まないと連続してはできなかったと思う。

 これが若さか。

「あれ? 父さん、母さんもいつの間に」

 ふと横を見れば飲み物片手に両親が観戦しているではないか。

 その隣には紫藤夫妻も居た。

 俺の様子から真輝も気付いたようだ。

「え、いつから見ていたの?」

「何戦か前からよ。貴女たち声を掛けても気付かない程に集中していたのよ?」

「うっわ、何か恥ずかしい」

 気持ちは分かるぞ。

 ぶち上がったテンションで変なことを口走ってないか心配だ。

「となると、キリも良いしこれで終わりか―」

「そうだな」

 片付けのためにカードを纏めていると、

「まだ元気があるなら、あと一戦遊ぶと良いよ」

 叔父さんからの提案であった。

「遊んで良いのは嬉しいけど、どうして?」

「それは丁度良いからさ。理由は決闘が終わった後に説明するよ」

 疑問はあるが、後で教えて貰えるのなら良いか。

 真輝に視線を向ければ彼女も同じ考えのようだ。

「じゃあ、最後に一戦遊ばせてもらうね」

 最後ならどっちのデッキにしようか。

 そう考えていると、

「いやいやいや、大トリを飾るならアタシが居るじゃん!」

 ゾークがデッキを叩きつける。

 自分のカードが入ったデッキをぞんざいに扱うなよ。

「身内とはいえ家族の前で邪神を使うのは――」

「あ――! それって差別だよ、邪神差別ぅ! あれだけ白熱する決闘を見せつけておいてお預けなんて何て酷いマスターなの! 鬼! 悪魔! ボチヤミサンタイ!」

「最後のは違うじゃん。……まあ皆に影響を及ぼさないのなら――」

「はいはいはいはい! ちゃんとコントロールして安心安全な良い子の邪神ちゃんで居ますからお願いします!」

「そこまで言うなら分かったよ。――んじゃ、ラストは“闇の支配者”で行くぞ」

 真輝に邪神のデッキを使うことを比喩で伝えると、

「ああ、やっぱりそっちもなんだね」

 苦笑する真輝の隣でホルアクティがファイティングポーズを取っていた。

 どうやら向こうも同じ状況のようだ。

 ……対抗して威嚇するんじゃないよ。

 シャッフルしたデッキをセットする。

 決闘システムが起動したことを確認して俺たちは叫ぶ。 

決闘(デュエル)!』

 

          ●

 

 先程までと違い、両者共に静かな立ち上がりであった。

「ここに来てデッキの毛色が変わった?」

 深弥くんは“戦士族”でも“真紅眼”でもない“闇属性”のモンスターを展開する。

 対する真輝ちゃんは“磁石の戦士”や“ブラック・マジシャン”ではなく、その弟子たる《ブラック・マジシャン・ガール》を主体とする“マジシャン・ガール”モンスターを並べた。

 どちらも今までの決闘で姿を見せなかったモンスターばかりだ。

「……ねぇ、何か感じない?」

 紗綾に問われて気付く、何かが圧し掛かるような重圧――いわゆるプレッシャーに。

「もしかしたら、この決闘は今までと何かが違うかもしれない」

 無意識に呼吸が浅くなっていた。

 兄貴夫妻や紫藤夫妻も似たようなものだ。

 真剣な面持ちで決闘を見守っていた。

 そして、火蓋を切ったのは真輝ちゃんであった。

「闇の支配者を相手にするなら最初から本気で行かないとね」

 

 瞳に闘志を燃やす彼女の姿は普段の物静かな印象とは真逆であった。

 心なしか彼女の額が輝いているように見えるのは何だろうか。

 隣の紗綾も気付いているだろうか。

 

「な、なあ。真輝ちゃんのおデコ……光ってないか?」

 陽光の様な温かな光だ。

 それは模様を描き、まるで瞳のようなマークにも見える。

「いきなり何言ってんのよ。人体が光るわけないでしょ」

「だ、だよな? 気のせいだったわ」

 それとなく兄貴にも話を振ったが、同じような反応が返ってきた。

 どうやら光っているように見えるのは俺だけのようだ。

 疲れてるのかな、俺。

 

「私は場のモンスターを3体! 生贄に捧げ!」

 

「モンスター3体を要求するカード!?」

 通常、リリースを要する最上級モンスターであってもモンスター2体のリリースで召喚できるのがルールだ。

 しかし、召喚に3体を要求するモンスターは存在する。

 有名どころでは《ギルフォード・ザ・ライトニング》や《モイスチャー星人》か。

 この2枚は二体のリリースで召喚可能なのだが、3体をリリースすることで強力な効果を発動する。

 それぞれがモンスターや魔法・罠を全破壊するのだから一度決まればゲームエンドまで持っていける。

 けれど、本能が“違う”と告げている。

 召喚のために3体を必ず(・・)リリースする必要のあるカードなぞ――

 

「《オシリスの天空竜》降臨!」

 

 伝説の三幻神しか存在しないのだから。

 何故失われた伝説がここに存在するのか、そんな疑問を吹き飛ばす圧倒的な神々しさ、そして重圧。

 観戦していてもなお、息苦しくなるほどのプレッシャー。

 それを正面から受け止めた彼は、

 

「来たな、神が!」

 

 歯を剝き出しにして笑っていた。

 

「オシリスの攻撃力は手札の枚数を参照するため攻撃力は4000! このままバトルフェイズ! オシリスで守備モンスターに攻撃! 超電導波雷撃砲(サンダーフォース)!」

 

 彼を護る壁モンスターが弾け飛ぶ。

 見ているだけで肝が冷える光景だ。

 

「知っての通り、オシリスの前で召喚された攻撃表示モンスターは攻撃力が2000下がり、攻撃力が0になったモンスターは破壊される。さあどう突破する?」

「ははっ。流石の重圧だが、俺のデッキは三幻神に対するカウンターが眠っているんだ」

 

 それでも彼は一歩も引くことなくそこに居た。

 

「俺のターン、ドロー! ……オシリスを相手にするならコイツだな」

 

 引いたカードを見て彼は笑った。

 というか彼の包帯が巻かれた右手も濃い紫色に光っているように見えるのだが。

 これも見えているのは俺だけのようだ。

 本当に疲れ……いや流石におかしくね?

 

「場のモンスター3体を生贄に!」

 

「ま、まさか彼も三幻神を!?」

 普通なら笑い飛ばすような妄言だ。

 ただ、彼はそんな予想を上回った。

 

「さあ、三邪神の役目を果たせ! 先方は《邪神イレイザー》! その降臨だ!」

 

 それは決闘場の地面に広がる闇、そこから現れた。

 天空竜と似たような長い尾を持つ邪竜だ。

 ともすれば凍るような殺意すら感じる。

 また彼は“三邪神”と言った。

 そして“カウンター”という発言も。

 つまりは強大な“三幻神”に対する“カウンター”たる存在が“三邪神”なのか。

 

「俺のイレイザーは相手の場のカード数で攻守が決まる。現状は“オシリス”とセットカードが3枚存在するから攻撃力は4000。そして攻撃表示で召喚したということは、そう――」

「オシリスの強制効果が発動する……けど」

 

 天空竜から放たれた雷球が邪神を襲う。

 邪神は雷球を受け、雷撃に包まれた。

 

「イレイザーの攻撃力は常に場のカード数が参照される。相手に依存する効果だけどある意味攻守の影響を受けないということでもある」

 

 雷撃により攻撃力が2000まで下がるものの、

 

「――!」

 

 咆哮と共に雷撃を掻き消せば4000に戻っていた。

 

「これで、オシリスの攻撃力と同じ……だがイレイザーの本領は戦闘では無い。イレイザー、第二の効果を発動! 自分自身を破壊する!」

「そこは神同士で相打ちするところでしょ!?」

「だって、下手に攻撃してマジシリとか踏みたくないし……」

 

「自壊効果? どうしてそんな効果が? いや、何故自分から神を失うようなことを……?」

 少なくないコストを掛けてまで召喚した唯一の戦力の筈だ。

 疑問を浮かべている間に、邪神は主人の命を全うする。

 場に闇を広げたかと思えば、自ら沈んでいった。

 邪神が退いたことで深弥くんの場はがら空きとなる。

 しかし真輝ちゃんの表情は浮かばれない。

 それどころか深弥くんの方が笑っていた。

 

「破壊され墓地に送られたことでイレイザーの第三の効果が発動! 互いの場のカードを全破壊する!」

 

 場に残ったままの闇が真輝ちゃんの場まで広がる。

 そのまま闇は場の全てを飲み込み、大空を揺蕩う天空竜ですら逃れられなかった。

 破壊された魔法・罠の中に二本の筒を描いた罠カードが存在していたのを確認すると同時に疑問が氷解する。

「そうか! 自身の破壊を引き金に全体除去の効果を発動できるのか! 自壊効果はそのためのもの!」

 深弥くんの場はがら空きだったのに対し、真輝ちゃんは伏せカードも用意して迎撃準備を整えていた。

 そのアドバンテージが一気に失われようとしていた

 だからといって真輝ちゃんも指を咥えたままではなかった。

 

「その効果にチェーンして速攻魔法《神秘の中華なべ》を発動! オシリスをリリースするすることで攻撃力分のライフを回復する!」

「げっ、そんなの入れてたのかよ」

 

 沈みゆく天空竜は巨大な中華鍋に掬われ、光と消えた。

 光は真輝ちゃんへと降り注ぎ、ライフポイントを初期の倍である8000まで伸ばす。

「……まさか神が除去されることを予想していたというのか」

 ケアの手段を用意していたということは、真希ちゃんは神が絶対的存在でないと考えていることの証左だ。

 自分なら――いや、並みの決闘者なら神が攻略されるなど考えられない。

 神を過信せず、なおかつ深弥くんが打倒することを信じているからこその采配としか思えない。

 

「……仕方ない。メインフェイズ2。永続魔法《アドバンス・ゾーン》を発動する。これはリリースしたモンスターの数だけエンドフェイズに恩恵を受ける。ただ、リリースの数を参照するのは“このターン”。つまり《邪神イレイザー》の生贄もカウントされる」

「3体以上、つまりセット1枚破壊と1ドローと墓地回収効果が起動するのね。これは痛いわ」

「ま、こっちもリソース空っ欠だから補充しないとな。カードを伏せてエンド。破壊効果はセットカードが存在しないから不発っと」

 

 神と邪神。

 圧倒的な存在は矛を交えることなく消えた。

 しかし両者にとってはそれはまだ前哨戦に過ぎないようだ。

 一度リセットされた場のアドバンテージは深弥くんに傾き始めた。

 数ターンの攻防を経て動き出したのは深弥くんだ。

 

「今度はこっちからお披露目だ。場のモンスター3体を生贄に! 《邪神ドレッド・ルート》を降臨させる!」

 

 それは悪魔の様な翼を持つ巨人だった。

 見上げる程の巨躯を持つそれは恐怖の具現化。

 そこには吸い込まれるような底なしの恐れだけがあった。

 対する真希ちゃんの場は前ターンの攻防でがら空きとなっている。

 

「バトルフェイズに入ってダイレクトアタック! フィアーズノックダウン!」

「罠カード《戦線復帰》を発動! 墓地から《チョコ・マジシャン・ガール》を守備表示で蘇生!」

「げっ、マズッ」

「モンスターの数が変動したことで攻撃の巻き戻しが発生したわけだけど……攻撃続行する?」

「攻撃力半減は痛すぎるな。攻撃は中止だ」

「そっちがそれを言う?」

 

 魂が凍るような一撃。

 それを見据えたまま彼女は冷静に対処した。

 

「そっちのマジシャン・ガールと違って、ドレッド・ルートは場のモンスターに永続的な攻守半減を付与する。元々の攻撃力は4000、殴り倒すには攻撃力8000以上のモンスターが必要だぞ」

「ホント厄介よね。でもそっちも攻撃できないのは同じでしょ」

 

 今度は真輝ちゃんが邪神に挑む立場となる。

 けれど、彼女も怯むことなく立ち向かう。

 

「私のターン、ドロー。手札から《ソウル・チャージ》を発動! 墓地よりマジシャン・ガールを2体復活させ、2000ライフを失うわ」

「それは禁止カードじゃ!?」

「こっちでは無制限よ!」

 

 そのまま召喚権を使用しないままモンスターを並べる。

 それが意味することは、

 

「モンスター3体を生贄に! 来て、《オベリスクの巨神兵》!」

 

 遂に二柱目の神が降臨した。

 ドレッド・ルートにより攻守が半減されようと、その威容は衰えることはない。

 

「だ、だけど攻撃力ではこちらの方が上だ」

「そうね。でもやりようがあるわ。手札の《マジシャンズ・ソウルズ》の効果を発動。デッキからレベル6以上の魔法使い族《混沌の黒魔術師》を墓地に送り、ソウルズ自身も墓地に送ることで墓地の《ブラック・マジシャン》を蘇生するわ!」

「うーん、相も変らぬこの過労死枠よ」

「そして、通常魔法《師弟の絆》を発動! 墓地の《ブラック・マジシャン・ガール》を蘇生して魔法カード《黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)》をデッキからセット!」

「その必殺技カードは!?」

「さっきのお返しよ! 発動! 《黒・魔・導・爆・裂・破》! 相手の場のモンスターを全て破壊する!」

「ふぉおおお!?」

 

 黒魔術師の弟子による魔導波が邪神を襲う。

 本来、一魔術師の魔力では邪神を撃破するには足りない。

 それを補うかのように師たる黒魔術師が手を貸した。

 強まる波動は邪神を消し飛ばした。

 

「いや、それだと《黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)》に――ぃ!?」

 

 深弥くんが何かを言ったようだが、爆発音でかき消されて聞こえなかった。

 真輝ちゃんが何も言わないあたり、大したことではないのだろう。

 ともあれ第二の邪神は討ち果たされ、場はがら空きとなった。

 また邪神が退いたことで攻撃力の半減が解除された。

 

「オベリスクでダイレクトアタック! ゴッド・ハンド・クラッシャー!」

「負けるかぁ! 直接攻撃宣言時に手札の《バトルフェーダー》の効果を発動! 特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

「ちぇ、残念。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 一度でも通ればゲームエンドの攻撃が飛び交う中で両者がそれを防ぎ回避する。

 プロの大会でも中々見られない光景だ。

 この三幻神とそれに相対する三邪神の戦い。

 こんなの全財産を(なげう)ってでも見たがる者はごまんと居る筈だ。

 だから、今後毎週の様に観る光景になるとは思っていなかった。

 ……思うかこんなもん!




イレイザーの効果処理を間違えていないかドキドキしています。
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