異聞・ハイスクールD×D 辺境武宝惑星・地球 矛盾せし真実持つ英雄   作:グレン×グレン

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……文字通りあらゆる自作品の元が燃え尽きながらも、こうして再起いたしました。



めっちゃ長くなっていますが、これはキリの良さを考慮したものなので、ご了承ください。


プロローグ

 英雄を目指す者は、その時点で英雄失格である。

 

 元々は俺の母国である日本の特撮で言われた言葉で、何時の間にやらそれを見た事もない者達まで当然のように使い出して今に至る。

 

 元々はとある悪徳弁護士が、英雄になりたいと家族を殺した男に追い詰められた時についた言葉だそうだ。その弁護士はそこまで深く考えてはいなかっただろう。そして、彼が実在していたとしてもこうも広く使われるとは思わなかっただろう。

 

 そもそも対象がアレすぎるから、他の英雄を目指す者全てに当てはめるのは問題な気もする。大半の英雄になりたがる者達も、そんな奴と一緒にされたくはないだろう。

 

 だがこれは、今の人達が英雄に抱くイメージがどういうものかよく分かるという事だ。

 

 彼らにとって英雄とは、ぶっちゃければヒーロー番組に出てくるヒーローそのものだ。

 

 彼らは英雄になりたくて一生懸命頑張っているわけじゃない。守りたい者や守りたい日常、あとは世界平和とかの為に頑張っているだけだ。そしてその果てに英雄と呼ばれ称えられる。

 

 現実はそんな綺麗なものばかりじゃない。少なくとも、歴史上の英雄の物語はもっと血生臭いものだ。真剣に調べればすぐに分かる。

 

 自分達に直接のデメリットがないのなら、それを取らないのは酔狂な間抜け。近年は国際条約でその縛りが増えてきているが、それでも狂気や憎悪に染まれば、現場の兵士がそういう行動をとる事はある。縛りがない時代なら尚更だ。

 

 そんな環境こそが戦場である以上、英雄だって綺麗ごとだけではいられない。それより昔、本当に起きた事なのかも分からない神話の英雄だって、少し調べてみれば過半数は現代人なら非難するような真似をしたことがある。

 

 かの龍殺しの英雄シグルドは、穴を掘って不意打ちをするという手段で邪龍ファーブニルを滅ぼした。

 

 ギリシャ神話最強と称されるヘラクレスも、酔っ払って喧嘩した時に師匠を誤って死なせてしまう。

 

 神話ですらこうなのだ。現実の英雄もまた、やはりえげつない。

 

 かの聖女ジャンヌ・ダルクは、当時の戦場でタブー視されていた夜襲や奇襲などを積極的に採用し、敵味方双方のヘイトをかなり稼いでいた事が火刑に処される遠因となった。

 

 三国志とかで有名な曹操など、為政者として名を遺した者なら尚更だ。歴史に偉業をなした事で記される為政者という者は、頭の中のお花畑を現実に妥協なく再現しようとするもには務まらない

 

 そして、現代の戦争には英雄はもういないと言ってもいい。

 

 戦場の勝敗を左右するためには、運用される兵器の量と質が特に重要視される。そも武器の存在や優劣の差がにより、個人の能力に左右されない優位制を得られるいうこの視点の根拠は、人という強靭さという点では自然界において下位に属する種族が地球上でもっとも繁栄してきた事実に由来している。

 

 強大な兵器があれば、生身の人間相手にいくらでも一騎当千の戦果を上げれる。生身の兵士が兵器を打倒する事もあるが、それは基本的にチームで成し遂げるものであり、兵器と一対一で戦う歩兵など普通はいない。

 

 もはや神話の様な英雄は、物語の中にしか存在しない。そして、その物語の中の英雄ですら、真実はどす黒い血にまみれているのが大半だ。

 

 そして、それを大半の人間は薄々勘付いているんだろう。

 

 人類の発達は技術の発達で、それはすなわち技術を編み出す為の知識の発達にしてそれを教える学問の発達だ。

 

 義務教育でやるような歴史の授業でそれらのことは教わるし、情操教育の一環で現実の戦争に関与した人の話を聞く機会だってある。

 

 だから、普通の人間は心のどこかで勘付いているのだ。

 

 物語の様な英雄は、現実においては存在しない。彼らは現実の世界に生まれなかったからこそ、英雄になる事ができたのだと。

 

 これはあくまで俺の持論だが、たぶん該当するケースは多いと思う。

 

 だってそうだろう。そうでなければおかしい。

 

 金メダリストをとったスポーツ選手に憧れて、自分も金メダルを取る事を夢にスポーツ選手を目指す事は応援される。

 

 世界的な名医に命を救われた子供が尊敬の念を抱き、自分もまた命を救える医者になる事は尊ばれる。

 

 世界一位。ノーベル賞。ギネス記録。これら世界の各分野の頂に立つ者は称賛され。そして自分もなりたいと思い、精進する者は応援される事が殆どだ。

 

 勿論反対されたり馬鹿にされる事もあるだろう。だがそれは命の危険がある事や、誰が見ても何年も成果を上げれてないとかの事情ありだ。なろうとしてるからなれないなんて、そんな滅茶苦茶な理屈が理由になる事なんて普通はない。

 

 それは彼らが目指す英雄という者が、現実には存在しないという前提条件でもないとおかしいだろう。

 

 実際に否定する連中が言うような英雄とは、大抵が創作物の存在だ。現実に存在する英雄が提示された場合でも、彼らの情報源は大抵が伝記という脚色や取捨選択された物語。絵本やデ〇ズニーを見てシンデレラみたいな人生を送りたいという少女達が、原典のシンデレラが継母達に残酷な報復を敢行したのを知らないのと同じだ。

 

 ……だから、この現代で英雄を目指す事なんて間違っている。

 

 心の中の彼らを尊敬し、彼らのようになりたいのなら、慈善活動やボランティア団体を目指す方がよっぽどいい。少なくともそう言えば、馬鹿にされる確率は下がるだろう。

 

 なぜ俺がこんな長々と持論を語れるかというと、俺の先祖がいわゆる英雄の(たぐい)だからだ。

 

 豊臣秀吉。まともな教育を受けているのなら、この名を知らない日本人はまずいないだろう。知らない奴は歴史の成績で0点を何度もとるどうしようもないレベルだ。

 

 織田信長や徳川家康と戦国三英傑の一人として並び称される男。農民か足軽の子供らしいなどという出自が分からない身から関白にまで上り詰めた、日本の歴史でもトップクラスの立身出世で名をはせる男。本能寺の変で倒れた織田信長の、天下統一の道を代わりに成し遂げ、かの徳川家康ですら、この男が死んだごたごたを利用して日本をかすめ取るような形でしか徳川幕府を起こせなかったほどの傑物だ。

 

 上記のように彼は立身出世においては日本で指折りのまさに名君。しかし晩年には朝鮮出兵を行い、敵味方に多大な犠牲を出した末に結局失敗した暗君としての側面もある。

 

 英雄という存在の功罪。表と裏を示す意味でも分かりやすい人物だろう。

 

 そしてその豊臣家は、後の禍根を断つ意味合いもあったのだろうが、徳川家によって根絶やしにされる事になる。

 

 その決断がなければ、江戸幕府は世界的に見ても評価されるであろう長きに渡る長期政権を維持できなかっただろうから、その件における徳川家康の功罪は語らない。

 

 先も言ったが、英雄とは本来血生臭いのだ。度々大した理由も効果もない殺戮を繰り広げるような奴は問答無用で邪悪だが、何十年何百年先を見据えた最終手段としての殺戮は、むしろ見送って大損害に繋げてしまった者が暗君扱いされるだろう。徳川家康は戦国三英傑と称されるに相応しい判断をとったというべきだ。

 

 だが、この豊臣秀吉。歴史にも記されていないし、当時の徳川家も見落としてただろうし、肝心の本人もたぶん気づいていなかったある事実がある。

 

 ……彼が木下藤吉郎から豊臣秀吉に移り変わるまでに使っていた、羽柴秀吉の時期。うっかり酔った勢いで女と関係を持ってしまったのである。

 

 そして、その子孫はこの二十一世紀においても血筋を保っているのだ。

 

 与太話の類なのは言うまでもない。そも何百年も前に潰えた血筋が実は絶えてなかったと言われても、それを確かめる方法はまずないだろう。

 

 だが、その家系は今も続いている。代々伝承している。そして外には一切漏らさず、しかし家の誇りとして語り継ぐ事を良しとしている。

 

 なんで俺が知っているか。それは簡単だ。

 

 ……この俺が、その末裔の1人だからだ。

 

 眉唾物なのは事実だが、代々そう伝えられているのだと、死んだお袋が俺に伝えていた。

 

 お袋は与太話と割り切りながらも、それでも代々伝えられてきた事だからと俺に一度だけ語ってくれた。

 

 親父がそれをどう思っていたのかは分からない。そもそも知っていたかどうかも怪しいだろう。

 

 なにせ、俺の親父はお袋と数えるほどしか顔を合わせていなかったからだ。

 

 先にこれに関して説明すると、なぜ俺という人間の受精卵ができた事について話すべきだろう。

 

 息子の俺が言うのもなんだが、お袋は間違いなく善良で心優しく、そして誰かの為に頑張ろうとする人物だ。

 

 人の痛みを自分のことにように感じるお袋は医療関係の仕事をかなり早い段階で目指していた。そして医大に進学したお袋は、最終的に心療内科医を選択。医大を卒業してしっかり就職した。

 

 そんなお袋はある日たまたま立ち寄ったバーで、沈みに沈み切った出張外国人とである。

 

 性格的にも仕事的にも見過ごせなかった母は、彼と一緒に呑みながら、その男の割と精神的にきつい身の上を聞き、カウンセリングの流れになる。

 

 その男は国際企業の経営者一族に婿入りしたのだが、これが思わず涙ぐみそうになるぐらい可哀想な流れだ。

 

 経営統合とかそう言った感じの政略結婚。それも男の両親が打算百パーセントで勝手に話を通し、相手方も男の能力が高かった事から了承。妻になる女も自分達の会社の繁栄の為なら糞まみれの不男に股を開く事を誇りにすら思うような別の意味でやばい手合いで、顔は良いがサイコパスかと言いたくなるような人物。そして男がその話を知ったのは、結婚式の日取りが決まって初めての顔合わせの時という話だ。

 

 そんなわけで家庭での立場が悪いとかいう以前の問題で、むしろ家に帰るのが苦痛以外の何物でもない。頑張って子供は作ったものの、内面は完璧に母親似で、悪い意味で子供らしくない。更にそんな性質を自分以外の家族は歓迎すらしている。

 

 日本が深いところに関わっている国際共同プロジェクトに参加するのを良い事に出張の名目で逃げてきたが、彼は心労で死ぬんじゃないかってぐらい追い詰められていた。

 

 ……生々しい事になるので途中を簡潔にまとめるが、俺という男はその深夜と明け方の間ぐらいの時間帯に創られたと思われる。

 

 お袋は妊娠に気づくまで一切その後男に会っておらず、そのまま彼にも伝えず育てる事も決意。実家からは猛反対されるが、最初からそうなる事を承知の上で中絶する事を選ばなかったお袋は、シングルマザーになる事を決めていたのでそのまま実家を出て行った。そしてそれ以来、家族と一度もあってない。

 

 男……俺の親父は能力が優秀だったので、それとなく気にかけていた結果それにすぐ気づいた。そして責任を取って認知しようとしたが、これはお袋に断固として反対される。

 

 お袋としては親父の人生を振り回したくなかったのだろう。実際話に聞く限りの親父の周りの連中だと、親父が何かしらやばい事になるのも想像できたしな。

 

 親父はその説得を受けて断念したが、しかし養育費はきっちり入れてくれた。お袋は俺の為に全額貯金していたが、後で預金通帳を見つけてちょっと月いくらか計算してみたが、資金横領とかをせずに家にばれないよう毎月送り続けてるのなら、親父に目を付けた俺の継母の家系は人の能力を見る目はあるという他ない。

 

 そしてまあ、俺はお袋の手で育っていったのだが、中学生の時に死んだ。

 

 女で一人で俺を育てた事による過労ではない。殺されたんだ。

 

 たまたま残業した時の帰り道で殺されたと、司法解剖の結果判明している。翌朝通行人に発見された時には既に死んでいて、おそらく刺されてから意識をなくすまで大した時間はかかってないらしい。

 

 犯人は未だ捕まっていない。争った形跡はなく、犯人はたった一撃で致命傷を与えていた。

 

 金品を奪われた形跡はないので、物盗りではない。服も乱れていなかったので、乱暴目的でもない。特に周囲の人とトラブルはなかったので、怨恨目的とも考えづらい

 

 つまりは、ただの通り魔による犯行。特にお袋が狙われる理由はなかったのだろう。

 

 そして俺は、殆ど天涯孤独と言ってもいい身の上となった。

 

 事実上の不倫で生まれた子。母子家庭。更に通り魔だなんて理由になってない理由で親を失う。

 

 これだけ書けば、グレて真っ当な人生をドロップアウトしてもおかしくないだろう。周りの普通に生きてる人間が妬ましくなるだろう。そして無関係な他者にすら理不尽をふるうような道の踏み外し方をしてもおかしくない。

 

 だが、自画自賛するようで悪いが俺はそうはならなかった。

 

 理由はいくつかある。

 

 一つは、中学自体にできた悪友の存在だろう。

 

 周りがはれ物を扱うような態度をとるのが当然な状態だ。こういう年代の連中の中には、こう言った悲劇に見舞われたり家庭環境が普通と違うやつを「いじめても当然」とか考えて何の罪悪感もなく楽しみながら排斥するも当然いた。

 

 だけど、あいつらは違った。

 

 まあ同情はしてたし距離感を図り損ねてるところはあった。だけど、あいつらは俺に元気を出してもらおうとしてくれたし、そんな厄介な身の上の俺を普通に友達として扱ってくれた。あとちょっと特殊な連中なので、ゲスな連中はあいつらから距離を取る形で、俺に対して突っかかる事も避けてくれた。

 

 ……まあ、中学生のくせして人の教卓の上にエロ本を山のように乗せてくる連中とか、ドン引きではあるだろう。俺もこんな過程で知り合ってなければ、もうちょっと距離を置いてたと思う。

 

 だがまあ、話してみれば気の合うやつらだ。誰かが時折張り倒さないと後が面倒な奴らでもある。あとこういう手合いどもだから虫除けにも使える。

 

 そんなわけでつるんでいた事が、だいぶ俺にとって癒しになったのが理由の一つ。

 

 二つ目は、お袋の遺伝子と育て方だろう。

 

 お袋は小さな頃から、世の中には理不尽な事が多い事を語って聞かせていた。

 

 そして、自分がそれを知るだけでも苦しく感じる時があるから、できる範囲内でそういうのを無くしたいと思っている事も教えてくれた。

 

 そんな人の血と教えの影響もあってか、俺もぶっちゃけ人が酷い目に遭ってるところを見るのはいい気分がしない。

 

 だから、分かり切っている八つ当たりなんてする気にはなれなかった。まあ世の中には糞みたいなやつも多いので、そういう連中はぶっ飛ばしていたがこれは元からだ。

 

 とにかく俺はお袋は凄いと本心から思っているし、その血を継いでいる事を心から自慢に思う。

 

 そして最後。これが、俺が英雄について持論を持っている最大の理由。

 

 俺は、先祖が英雄である事を誇りに思っている。

 

 眉唾物の話で、証拠もない。だから、俺はさっき言った悪友達にも話した事はない。今までにそれを人に話したのは、ただ一人だけだ。

 

 功罪ある人物ではあるが、人間は大抵功罪ある人生を送るものだ。やらかした事の酷さも凄いが、起こした偉業の偉大さも凄い。

 

 俺はお袋に対してもそうだが、先祖に対しても胸を張れる自分でいたいと、心から願っている。

 

 それこそ、英雄と呼ばれるような存在になれたらそれは素晴らしいとも思っている。

 

 だが、同時に俺はこう思っているのだ。

 

 英雄である先祖に強い敬意を持つこの俺。だからこそ、彼に対して胸を張れるような男でありたい。

 

 だからこそ、俺は英雄を目指してはならないと、強く思う。

 

 過去の偉人に敬意を払うのなら、彼の人生から得られる教訓を生かして、正しい意味での教師にも反面教師にもするべきだ。

 

 良いところは真似して、悪いところはしない。これが一番大事だろう。

 

 彼らは俺たちの歴史の先達で、何百年も前の道を切り開いた人物だ。更にそこから何世代ものの間、道を切り開き整備した先人たちの積み重ねが、今俺が生きている人類史という道の最先端だ。いずれは俺たちが切り開いた道を後追いし、その先を切り開く奴がいる。

 

 だから、過去の英雄に憧れるのなら、彼らの生き方を改善して実践する事を目的にするべきだ。

 

 だから俺は、一つの結論を導き出した。

 

 民主主義は英雄を駆逐する。こんな言葉が出てくるように、時代は突出した個ではなく群衆の輪でによって切り開く時代だろう。

 

 戦争の趨勢を決めるのは個の武勇ではなくなった。だからこそ、戦場という場所に個人の名が輝く事もないのだろう。

 

 英雄になろうとする者は、その時点で英雄失格。そんな言葉が出てくるように、現実の悲惨さを嫌い、そんな事をする必要がない世界にするべく努力するべきだろう。

 

 俺は先達に敬意を払うからこそ、先達よりも良い生き方をしたい。そして、先達たちの積み重ねた先である現在は、英雄のいない民衆の世界だ。

 

 英雄になりたいからって戦争を引き起こそうとするのは、戦争を終わらせ平穏の時代を築き上げた先達に対する侮辱であり、戦争を引き起こした英雄たちの失敗を教訓にしない真似だ。歴史に名を残したいからって、善意も正義も大義名分すらない悪逆非道な行為をするなんて論外だろう。

 

 だから、俺は人に胸を張れる生き方をする。だから、俺は英雄になるわけにはいかない。

 

 それが俺、羽柴秀吉の末裔にして橋場正美の息子、橋場アラタが自分に課していることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんな俺は今、自分の住んでいる駒王町の警察署で刑事さんにため息をつかれていた。

 

「……橋場ぁ。俺ぁ、お前は警察にしょっ引かれる奴じゃなくて、しょっ引かれる奴を警察に引きずり込む奴だろうに」

 

 ため息をつく刑事さんの顔はよく知ってる。

 

 俺が警察のお世話になるときに担当した刑事の一人だ。何度もお世話になっているうちに、お互いスムーズに取り調べを進める阿吽の呼吸を覚えてしまった。俺がここに連れてこられた時は、まずこの人が手すきかどうか確認するのが署の定石。

 

 そして刑事さんが言った通り、俺は割と警察のご厄介になる事が多い。基本的な生活範囲の問題で、通報を受けて駆けつけてくるお巡りさんとも顔見知りだ。最近では現場について顔を合わせてから苦笑交じりに挨拶し合うようになった。

 

 通報で駆けつけてきて挨拶というのも変な話だが、まあ挨拶もするだろう。

 

 だって大半の場合、通報したのは俺だからだ。

 

 刑事さんが言った通り、俺が警察署に行くのは俺が誰かを殴って通報されるんじゃない。通報してから俺が殴りに行くのだ。

 

 殴りに行くのは基本的に不良とかチンピラの類だ。恐喝とかいじめとかそういう事をしてる連中を見つけたので、まず通報してからそれを告げて大人しくするように伝える。そして逃げようとしたり自棄を起こしたやつを無力化し、駆け付けたお巡りさんに引き渡すついでに、きちんと事情聴取を受けるまでがワンセット。

 

 なにせああいう手合いは何人もいる時がよくあるからな。一人だけなら組み伏せられるが、同時に何人もいると悶絶させる必要がある。

 

 人には言えんが戦国大名の子孫である事を誇っているので、独学で武芸を学んできた。更に現代戦闘技術の類も学んでいる。相手がチンピラなら三人までなら武器を持っていても叩きのめせる自信がある。

 

 加えて中学時代は大変で、悪友達が虫除けとして機能しても突っかかってくる奴もいた。そもさっきも言ったがエロ本を中学に持ち込む変態なので、あいつらが絡まれる事もまれにある。結果、人をど突き倒しなれた。

 

 なれというのは恐ろしいもので、今やチンピラ程度なら相手に必要以上のダメージを与えずに鎮圧できるようになった。なので、高校になってからこの手のごたごたで過剰防衛になった事は一度もない。

 

 これは案外知られていないが、犯罪は現行犯なら誰でも逮捕ができるからな。警察じゃないとできないのは逮捕状を取ってからの逮捕だ。

 

 だからまあ、俺が駒王町の警察署で取り調べを受ける時は、お茶ぐらいは確実に出てくる。時間帯によっては取り調べが終わるまで空腹を紛らわせる目的でお茶菓子まで出る。

 

 だから、本来なら大した問題ではないのだが……今回はそうはいかない。

 

 刑事さんが遠い目をして、天井を見上げる。

 

「……俺も長年刑事やってきたけどよ? 「人質の命が惜しければ警察に通報しろ!!」なんて要求して、最終的に人質自ら警察に通報してきたのは初めてだよ。お前、未成年じゃなきゃ全国ネットに顔出てたぞ?」

 

 ああ、俺もそこは同意見だ。

 

 人質の命を盾に要求するなんて、明らかな凶悪犯罪をする事になるとは思わなかった。

 

 しかも普通、そこは警察を呼ばないように要求するところだ。ここだけ聞いたら誰だって俺の頭が正常か疑うだろう。

 

 だが、反論はさせてもらう。

 

「……刑事さん。確かに今回、俺は犯罪を犯しました」

 

 ああ、それは認めよう。

 

「仮にも人の命を盾に取るような真似ですし、最悪の場合は本当に殺す事も視野に入れてました」

 

 真実だ。そこにウソはない。

 

 だが、だがしかし!!

 

「……たかがビール一本の未成年飲酒を柿の種つまみにやっただけで、俺の命やばかったんですよ!? こっちもそんな横暴通してくる連中に遠慮なんてできませんよ!!」

 

「……ぼったくりバーに入っちまったお前もついてねえけどよ? お前さん相手にぼったくろうとしたあいつらにも同情するよ俺は」

 

 そう、俺が人質を取った理由は単純だ。

 

 ……入った店がぼったくりバーだった。

 

 実は未成年飲酒そのものはこっそりやった事は何度かあるんだが、店に入ったのは初めてだ。

 

 そしたらそこがぼったくりバー。分かりやすい悪徳契約染みた値段表記に引っかかって20万も請求され、額から血が出るまでテーブルに叩き付けられて、とどめに「東京湾に沈めてもいいんだぞ」とかいうお決まりの脅しコース。

 

 俺も酒が回っていたのが悪かった。これを言葉の通りに解釈してしまった。だからここまでやったのである。

 

 分かりやすく、その時の俺の思考回路を説明しよう。

 

 テーブルに叩き付けられて血が流れていたから、テーブルにも血がついている。そして海に沈めるという脅しを受けた=ルミノール反応という傷害の動かぬ証拠がある上に、殺害をほのめかす形での恐喝までされている=俺が警察に駆け込んで営業停止処分を受ける可能性があるので、どっちにしても口封じに殺しに来るとしか思えない。

 

 ……流石にちょっと思考が飛躍していたとは、俺も思う。

 

「……橋場? ああいう連中は脅し掛ければビビッて垂れ込んだりしないって高くくってるんだぞ?」

 

 刑事さんの言葉に反論できない。

 

 まあ、そういうわけで俺は腹をくくってしまい。一か八かの命がけの大勝負に打って出たわけだ。

 

 財布をあらぬ方向に放り投げて相手の意識をそらしてから、灰皿とビール瓶を即座に確保。そして灰皿で近くにいた奴の鼻をへし折り悶絶させ、その反動を活かして灰皿でビール瓶を粉砕。そして流れるように割れたビール瓶をそいつの首元に突きつけ、動揺した隙をついて捕縛。

 

 そして壁際に下がって他の連中をけん制しながら警察を呼べと要求し、最終的に人質にとった男のメンタルが限界になったので、そいつが警察に通報して駆け付けた警察のお世話になったというわけだ。

 

 ……悪友どもが何度も覗きをしても、その場で袋叩き似合ってるとは言え停学処分にすらならないおおらかさがウチの高等部の売りだが、流石にこれはまずいか?

 

 ちょっと冷や汗を流すが、刑事さんは苦笑いを浮かべながら、扉を開ける。

 

 そこには、湯気が立ち上るカツ丼があった。

 

「……まあ安心しろ。あのバーを調べてる連中がドラッグや密輸拳銃を見つけて大慌てだ。どうやらどっかの犯罪組織がいろんなしのぎ稼ぐ為のアジトだったみたいでな。摘発のきっかけになった事やこれまでの馬鹿ども叩き込んでくれた恩とかに免じて、裁判所送りは勘弁してやろうかって話になってらぁ」

 

「……普通、そんなヤバイブツ売る場所の隠れ蓑でぼったくりバーまでするんですか?」

 

 流石にこれは想定外だぞ、おい。

 

 刑事さんも呆れ顔になると、俺に箸を渡した。

 

「ま、馬鹿が調子に乗ってたとかそんな感じだろうよ? それと……だ」

 

 そこで、刑事さんは一つ息をついた。

 

 この刑事さんなんだが、実はもう一つ俺と縁がある。

 

 ……彼が下っ端時代に、俺は人生でも一二を争うほどに酷い顔を見せた事がある。

 

 お袋が死んだと知らされて、その確認をした時だ。

 

 気を失いそうな俺に気を使って、奢ってもらったジュースは心に染み入ったのを覚えている。

 

「……俺は名前は知らねえが、アンタの親父さんは、あの島の生存者にはいないんだな?」

 

「………ええ。まず間違いなく、海の藻屑で魚の餌っすね」

 

 そう、俺が店で酒を飲もうなんてアホな事を考えたのは、それが理由。

 

 俺の親父が、つい先日に死んで、これはそのうっぷん晴らしをもくろんだのがきっかけだ。

 

 刑事さんには詳しい事情は伝えてない。

 

 彼が知ってるのは、お袋が親父が認知しようとしてお袋に断られたこと。それでも親父は俺に養育費を振り込んでいること。親父が国際企業の経営者一族に婿入りしていること。

 

 そして、その親父が住んでいたのが、その国際企業の支社がある、つい先日住民の九割以上とともに沈んだ島だということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋の日本領海部分に、ある人工島が作り出された。

 

 名前はデイライトシティ。世界各国が技術開発などの様々な理由で共同して作り出した、ギガフロートでできた人工島だ。

 

 軍事拠点としても価値を見出せた事から、戦争を自分から仕掛けないと憲法に則った判断を、国際情勢で白い目で見られる事があっても順守する日本に管理を半ば押し付けており、代わりに相応の資金援助を受けている。これにはアメリカにあまり大きい顔をされたくないが、しかしある程度は融通を利かせないとややこしいことになるため、国防関係である程度マウントが取れる国に管理させる妥協案を世界各国がとったためだ。

 

 そして今から少し前、俺が高校一年生を終えて春休みを迎えていた頃。そこで大規模なテロが起きた。

 

 その結果、デイライトシティは基底部を破壊されて完全崩壊しほぼ沈没。約十五万人の住人のうち、生存した者は1万人に満たないという、世界の歴史に残りうる悲劇的な終焉を迎える事になる。

 

 デイライトシティがデストロイ(破壊)されたという事からD×D事件と呼ばれる事になるこの事件。はっきり言って何も分かってないと言ってもいい。

 

 事件発生から島の崩壊まで二日もかからなかったこと。あらゆる箇所で多種多様な武装を持った多数の武装勢力が同時蜂起した事から、駐屯している自衛隊のキャパシティを完全に超えていたこと。太平洋上という立地条件故に、自衛隊や各国の軍隊の増援が間に合わなかったこと。生存者が全体の一割未満であること。そしてこれだけの事件にも関わらず、犯行声明が出されていない事から、事件の手掛かりが殆どないのが事実だ。

 

 数少ない監視カメラの映像から検証も行われているが、これが逆に混乱を生んでいる。

 

 なにせテロリストが使用している銃火器は、世界各国が正式採用している物を、まるで万国博覧会のようにまぜこぜで使用しているのだ。更に歩兵傾向型とはいえ対空ミサイルも対戦車ミサイルも持ち込まれ、挙句の果てに民間用とはいえヘリコプターまで使い市民たちを上から射殺するという、テロリストとは思えない充実した武装である。

 

 そんな物をどうやって調達したのか。そもそもどうやって島に持ち込んだのか。そしてそれができたとしても、それを別々の場所に運び込んだ方法や隠し場所はどこか。

 

 そんなあり得ない事だらけで、誰もが混乱していると言ってもいい。

 

 一時は、「日本政府は自国が対処不能な事態で大損害が出た場合、各国から補償金をもらう契約になっていた。これはそれを狙った日本政府によるマッチポンプだ」などという意見も出たが、このあり得ない手間暇にかかる費用やばれた後のリスクからあっさり否定され下火になる。しかし、現実的な方法でこれを成し遂げる方法が誰にも分らない。

 

 今やネット界隈の与太話でもなんでもなく、「この星にはフィクションに出てくる悪の秘密結社がいて、彼らによる陰謀である」などという話をテロ関係に詳しいコメンテーターが本気で語るほどだ。

 

 そして、その事件で死んだ者の中に俺の親父がいる。

 

 D×D事件の悪影響でつい先日倒産し、経営者一族が失踪までした国際企業。重工業を主要産業としている、アメリカに本社を置くピグマリオン社。その日本での拠点である、デイライトシティ支社。

 

 その支社長。ウィル・カンホワイトが俺の父だ。

 

 親父は死んだ。これは間違いない。

 

 死体は上がっていないが、しかしまず間違いなく死亡している。生存は絶望的ではなく、確実に死んだといっていい。

 

 その理由は、簡単だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……俺は、親父がいるビルが崩れ落ちるのを、その目で目撃しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝。身元引受人になってくれそうな人は既に寝てそうだったので、そこら辺を配慮してくれた警察署の人達に留置所を貸してもらいとりあえず一睡。仮眠室を借りる手もあったが、死人が出かねない騒ぎを犯したうえでそれは図々しいので自粛した。

 

 目を覚ましてから、刑事さんからとりあえず学校側の対応を教えてもらってから、電話を掛ける。

 

 数コールの後、すぐに相手が出てくる。

 

『……橋場? なんだよ、始業式の朝から』

 

「ああ、イッセー。実はちょっと連絡事項があってな」

 

 兵藤一誠。通称イッセー。

 

 中学時代からの俺の悪友の1人。まっすぐで気持ちのいいやつで、名前の通り誠実な………ド変態だ。

 

 俺達は駒王学園高等部に通っているのだが、本来イッセー達は偏差値が全然足りなかった。

 

 しかしある理由で一念発起し、その偏差値を一気に上げて無事合格した。

 

 その理由は、元女子高だった影響で女子比率が周辺で一番高い共学の高校だったから。要は「女だらけの環境に行ければモテる」という、見通しの甘すぎる未来をつかむために断崖絶壁を登り切ったんだ。いい意味でも悪い意味でも馬鹿なところがあるが、馬鹿ゆえに時々常識じゃ計り知れないことするから怖い

 

 そして悪友と俺が言った時点で分かると思うが、中学生の時からエロ本を堂々と教室で見せるその性根は、まったく変わってない。あと女子更衣室を覗くのも治ってない。

 

 まあ、そんな奴が退学になってないうちの高校は結構大らかだが、それでも俺の場合は事が事だ。

 

「……昨日の夜、紆余曲折あってヤクの売人たちと大立ち回りして今留置所。球技大会が終わるまで停学になった」

 

『……お前は、どっかのドラマの主人公か何かか?』

 

 うん、この程度のツッコミで済む辺り、俺という男に対する認識がどんなものなのかよく分かるな。

 

 まあいい。偉そうな事を言える状態じゃない。

 

「実は新学期になってから確認しておきたい事もあってな。松田達に事情説明してもらうついでに聞いておこうかと思ってよ」

 

 因みに、俺の親しい友人はそう多くない。

 

 このイッセーとさっき言った松田と最後に元浜の、変態三人衆が男側。あと女側はこいつらとエロで会話できる業のものである桐生と、あと一年次の二学期に転校してきた一橋ぐらいだ。

 

 履歴の一番上がイッセーなので電話した程度の優先順位で誰でも選べる程度には気安いから、まあ誰に聞いても大丈夫だろ。

 

 で、俺はとりあえず気になっていた事を聞く。

 

「……今の生徒会長って、外国人じゃなかったよな?」

 

『……橋場。お前、漢字と英語の区別もつかないのか?』

 

「うるせえ。お前らとは別件の知り合いが、何故か駒王学園高等部(ウチ)の生徒会長を外人だと思い込んでたんだよ」

 

 ああ、確か名前は支取蒼菜だ。俺も覚えてたが一応な。

 

『……駒王学園、変なデマが広がってるんだな』

 

「ああ。……んじゃ、とりあえずクラスの連中にはとりあえず説明しといてくれや。……俺は大立ち回りでまだ疲れてるから、もうちょっと寝る。」

 

『あ、ああ。分かった』

 

 まだちょっと動揺してたが、イッセーはそう納得し―

 

『……なあ、大丈夫か?』

 

 その言葉は、大立ち回りのことじゃない。

 

 イッセーは、俺がD×D事件の生き残りだと知っている。

 

 なんで行ったのかも知っている。親父の詳細情報は伝えていないが、親父がそこに住んでいて、そこで一度会う事になったと親しい奴には伝えてたからな。

 

 そして、D×D事件を生き残ってからイッセーと言葉を交わしたのはこれが最初だ。

 

 メールで事情は伝えてたが、事情聴取とかで忙しかったから、結局春休み中は会えなかったからな。

 

「……まだ、割と引きずってる」

 

 だから、その辺は素直に答える。

 

 正直、あの一件は色々ありすぎて俺のキャパシティを遥かに超えてる。

 

 俺があの事件で体験した出来事の衝撃は、普通の日本人の一生分の衝撃を上回るだろう。いい意味でも悪い意味でも、そして大半が悪い意味だが、凄まじい衝撃だ。少なくとも、日本に住んでいる殆どの連中は一生かけても味わえない衝撃だ。

 

 散々今の時代に英雄はいらないと言っていてなんだが、英雄の血を引く男が歴史に残るレベルの惨劇の中でさらにとんでもない出来事に巻き込まれて生き残るって言うのは、壮大な物語の主人公に用意されたバックボーンっぽい。

 

 そしてこの惨劇は、きっとまだ続きがある。

 

 だから、俺はこう言う他ない。

 

「ま、このまま潰れる気はないさ。停学明けまでに持ち直すから、そん時は復帰祝いに高いエロ本でも恵んでくれや」

 

『……ああ! 松田や元浜と金出しあって、とびっきりのエロ本を用意してやるぜ!!』

 

 その言葉に頷いて、俺は電話を切る。

 

 ……俺も男だ。それもお年頃だ。性欲は人並み以上にある。

 

 そして、イッセー達のエロにかける情熱は本物だ。審美眼もある。上物が期待できるだろう。

 

 だが、俺の心はそれとは別の方向を向いていた。

 

 ……そう、俺が主役か脇役かに関わらず、まだ俺が巻き込まれた事件は終わってない。

 

 D×D事件の全貌が明かされてないって意味じゃない。俺が復讐の為に事件の真相を明かそうとか言う意味でもない。

 

 そんな事をするまでもない。あの事件を起こした側の連中は、俺に対して何かしらのアクションを起こす。間違いなく、絶対に。

 

「……生徒会にいるシトリーというファーストネームの外国人、もしくはグレモリーのファーストネームの外国人、か」

 

 俺はそう呟いて、天井を見上げる。

 

 俺はD×D事件の渦中で、親父が死ぬ直前のことを思い出す。

 

 崩れ落ちる支社ビルと運命を共にする直前、そんな連中に接触しろと、親父は俺に言い残した。

 

 なんで親父が生徒会長を外国人と勘違いしたのかは分からない。だけど支取とシトリーは似ていて、ファミリーネームは苗字のことだ。ついでに言えば、グレモリーの方は俺も知っている。

 

 俺の一年上の生徒で、学内で五指に入る人気を誇る有名人。二大お姉様と称される超絶美少女の片割れ、リアス・グレモリー先輩のことだろう。こっちは間違いないはずだ。

 

 生徒会のメンバーはともかく、有名人とはいえ接点のない人物に言及して、イッセーに首をひねらせないような理由が思い浮かばなかったので、電話では言及を避けた。だが、こうもドンピシャなら間違いないだろう。

 

 そこからふと、どちらかというと社交的じゃない俺が高根の花のグレモリー先輩にどうやって接触するかを考えたその時、スマホが鳴った。

 

 画面を確認すれば、そこには登録して一週間も経ってない―つまり、D×D事件生還後に登録した、一人の名前が出ている。

 

 ラミ・リスタート。

 

 ……今現在における、俺の事実上の身元引受人。しかし就職していたピグマリオン社がD×D事件の影響で倒産し、そもそも事件発生の直後に辞表が受理された事になっている―断じて辞表は提出してない―ので、絶賛無職の女性。そして、そのピグマリオン社ではデイライトシティ支社の秘書課に勤務して親父の担当だった、デイライトシティの数少ない生き残り。

 

 紆余曲折会って共に生還し、俺は基本的にラミ(ねぇ)と呼んでる彼女が、電話してきた。

 

 嫌な予感がして俺は電話に出た。

 

「……ラミ(ねぇ)? あの、どこまで知ってる?」

 

『……アユミから全部聞きました。日本では、犯罪組織相手に命のやり取り一歩手前の戦いをするのを「ちょっとハメを外す」というんですね?』

 

 ちょっとすねた感じの声が聞こえてきて、俺は即断した。

 

「……本当に申し訳ありませんでした!」

 

 思わず電話越しなのに勢いよく頭を下げてしまう。

 

 D×D事件で始めて知り合った仲なんだが、協力して生き残った吊り橋効果か、俺はこの人に親近感とか仲間意識を覚えてる。

 

 少なくとも日本じゃ大事件の類なので、ここは素直に謝るべきだ。実際反省している。

 

「マジでちょっと馬鹿な事やって発散したかっただけだったんだ。中二病こじらせた馬鹿が好きでもないのにタバコ吹かすノリで、店で飲みたかっただけだったんだ。ぼったくりバーなうえに違法な物を裏で売ってるなんて知らなかったんだ。マジで命の危険感じる事態になるなんて思わなかったんだ。後アルコールが回ってて判断ミスってしまったんだ。……その辺の事情を斟酌してくれると嬉しいけど、でも心配かけて悪かった」

 

 長々と言い訳してしまったのは勘弁してくれ。俺はまだ高校生なんだ。

 

 ラミ姉はその言い訳に何かを言いたくなっていたようだけど、少ししてからため息を吐くにとどめてくれた。

 

『……お昼前に迎えに行くから、そのまま駅前でお昼を食べながら詳しく聞きます。それまでの間、反省していてくださいね?』

 

 ……どうやら、俺へのお仕置きは朝食抜きのようだ。

 

 かつ丼を奢ってもらって助かった。この年で二食も抜くのは流石にキツイ。

 

 俺がそうほっとしていると、ラミ姉が話を続けてくる。

 

『一応聞きますけど、アユミのことは気づかれてないですよね?』

 

 ラミ姉の懸念は、まあ当然だろう。

 

 アユミ。当人が言うには『個体識別名称、アユミ・インディペンデンス』。

 

 俺とラミ姉の命の恩人。そして、おそらく今回の事件でバーの連中が強硬手段に出た場合、警察が来る前に全員叩きのめしただろう超強い奴。俺とラミ姉を良き隣人として守るように、親父に懇願された俺達のボディガード。

 

 名前じゃなくて個体識別名称なんて名乗り方するだけあって、ぶっちゃけかなり特殊な奴だ。警察に存在を伝えるわけにはいかないから頼れなかった。もし頼った場合、自分で言ってたあいつ自身の事情的に「……敵を排除しました」ってな感じでバーの連中皆殺しにするのがアニメでよくある定番パターンになる存在なので、なおさら頼れなかったりする。

 

 だから一切伝えてない。頭うったと思われるだけだろうし、信じたら信じたで大騒ぎだしな。

 

「ああ、そこは隠したから安心してくれ。で、アユミは?」

 

『私に事情を伝えてからまたいなくなりました。二人の安全を考慮すると、中間地点にいるのが効率的……だそうです』

 

 相変わらずだな。

 

 だけど、コンタクトを取ってくれるならまあいい。

 

 それなら、親父が俺に頼んだことは何とかできるだろう。

 

「……悪いけど、二か月以上停学くらっちまった。あと、念の為接触するのはグレモリー先輩の方が確実っぽいんだが、俺の社交性だとどうやって話したらいいか分からねえんだけど」

 

『分かりました。適当な言い訳を一緒に考えましょう。できればアユミにも参加してほしいですし、お昼は買って帰る方がいいですね』

 

「んじゃ、まだ荷物の整理が終わってなかったはずだしラミ姉のアパートにすっか」

 

 俺はラミ姉と今後のことについて軽く相談しながら、親父の事実上の遺言を思い出す。

 

 親父は死ぬ前に、電話越しに俺とラミ姉、そしてアユミにそれぞれ言葉を遺した。そして同時に、俺達三人にある事を頼んだ。

 

 接触対象はさっき言った通り。そして、接触してする事ももちろんある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―二人のうちどちらかに接触し、アユミが持ってる記録媒体を渡す。そしてシトリーの場合は姉、グレモリーの場合は兄に必ず届けるように告げること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その記録媒体を見せてもらったが、どう見ても宝石とかそんな感じのもので、どうやって情報を取り出すのかも分からない。

 

 そんな、まるで壮大な何かに巻き込まれた、物語序盤の登場人物のような状況。

 

 幻想の世界にしか存在しない、壮絶なストーリーを思わせる一幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに心振るわせる自分を理解して、俺はとことん自己嫌悪に苛立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、のちにその記録媒体に残されていた内容を見た俺は、幾つかの事を思った。

 

 それは、俺が本当に世界の命運を左右しかねない物語の、主要人物となってしまったという衝撃。

 

 それは、引き起こした奴らに対する怒りと、巻き込まれる人達への憐憫と、関わる事ができるという歓喜とそう思う自分に対する嫌悪。

 

 最後に、呑気に停学期間中、のちにリアス部長と将来呼ぶ事になるグレモリー先輩に接触する方法を、ゆっくり考えて大丈夫だと思っていた事に対する後悔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に、親父が懸念していた事態は起きていた。ラミ姉が俺に電話する時には、既に動乱の火ぶたは切って落とされていた。

 

 それが日本のテレビで緊急報道されるのは三十分後。

 

 南極を覗いた五つの大陸。その各地で、D×D事件など話にもならない規模の武装勢力が侵略活動を開始。瞬く間に各地は占領され、そして世界の主要言語で犯行声明が送られる。

 

 反撃の為に送り込まれた世界各国の軍隊。世界最強のアメリカ合衆国のそれすらたやすく返り討ちにした、地球全土を一つの政府の下に統一する為に行動するなどと告げた、まるでフィクションの世界の武装組織。

 

 その名はドクサリア・ネットワーク。

 

 親父が知り、世界の脅威と認め、しかし死ぬまで誰にも伝えられず、そして死してなお全容を伝える事ができない脅威。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)というテロ組織を、世界の裏側の足止めする為に利用し、そして()()()()()()()()()()()表世界の陣地を確保する為に動く、この地球という星が初めて遭遇する脅威の先兵。

 

 そんな彼らを、俺は三か月も野放しにしてしまったのだ。

 




はい、めっちゃ長くなりましたが、これでプロローグは終わりです。


ただし次から始まるのは、一章ではなく序章です。エクスカリバー編ですが、原作部分はそんなに書かず、割とオリジナル要素が詰め込まれると思います。








とりあえずいろいろ設定は書けたので、これからをご期待ください
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