異聞・ハイスクールD×D 辺境武宝惑星・地球 矛盾せし真実持つ英雄 作:グレン×グレン
「なあラミ姉。実は夕方に寒気感じたんだけど、風邪ひいたかもしれないから体温計貸してくれないか?」
「ごめんなさいアラタ君。実は医薬品関係はまだ買ってないんです」
そんな会話をしながら、この俺橋場アラタは遅めの夕食をとっていた。
俺は母子家庭故の貧しさで済んでいた安アパートに今も住んでいる。だが、今いるのはラミ姉が借りたワンルームマンションだ。
アユミは
なのでとりあえずの折衷案として、ラミ姉には防犯設備が一通りあるワンルームマンションを借りてもらい、自衛能力の高い俺ができる限りそっちにいることでアユミの負担を減らすことにした。
あの事件の副産物で、俺はなんというかすごいことになっているから、本気を出せば駒王町内の端から端まで十分足らずで移動できるアユミが来るまでの時間稼ぎはできると踏んでる。
まあ、できることなら使いたくはないけどな。あれは強力すぎるし、心構えが全くできてない。
いきなり拳銃を渡されて、「目の前の悪人を撃ち殺してくれ」などと言われても普通はできないだろう。まともな奴がまともな精神状態で、そんなまともな日常生活から隔離したまねしろと言われて、はいそうですかとできるわけがない。
喧嘩慣れしているからこそわかる。日常生活で培った倫理観ってブレーキは割と自動で起動するのだ。これを意図的にオンオフにするには訓練とか場数とかが必要で、それが足りないと普通はかかる。それなしでブレーキのオンオフが切り替えられるのは、異常者だろうが英雄だろうが、とにかく普通から外れている。
俺は英雄の血を継ぐものだが、あくまで英雄の子孫でしかない。喧嘩レベルのブレーキの切り替えはできるが、さすがにあれが必要なレベルの非日常の域に至っている自信はない。
制御をミスったりブレーキを壊したりすれば、それこそ俺は先祖やお袋に顔向けできない。
だからこれは悪手なんだが、しかし日常で培った価値観ってのはこういう意味でも厄介なもんだ。
へたに良識があるせいで、こういう時の切り替えに支障をきたすのはよくあるもんだ。
「でもアラタくんのお友達の……兵藤君、でしたっけ? 彼がグレモリーさんとお近づきになっていたのはよかったですね」
と、ラミ姉はほっと息を吐く。
まあ、グレモリー先輩とどう接触するかは難題だったからな。俺の場合、接点がない奴にいきなり接触する奴じゃないから、高根の花に話しかけるとややこしいことになる。
最悪、職員室に侵入して生徒の名簿を盗み見ることも考えてた。住所と郵便番号がわかれば、手紙を直接届けるという手段も使えたしな。
だが、悪友の家にホームステイしてるってんなら話は早い。
あいつの家に遊びに行けばそれで済むし、もし都合がつかなくてもイッセーに言づければそれで済む。肝心のイッセーに怪しまれそうだが、相手が一人だけならあまり騒がれないだろう。
しっかし、もう夜も遅いな。久しぶりの登校でいろいろあって、それをラミ姉に話してたら遅くなっちまった。
「……さすがにちょっと遅すぎるが、そろそろ帰って眠らねえとな」
「え? 別に止まってもいいですよ?」
ラミ姉はそういうけど、さすがに男子高校生が独身女性の家に止まるってのは……なぁ?
そんな視線を向けるが、ラミ姉はポット頬を赤く染めるとなんかいやんいやんと手を頬に当ててる。
「別に、私はそういうことになってもいいんですよ? 一応カレッジ時代に経験はありますし―」
「ハイストップ」
俺はため息をつきながら、いま直ぐ帰ろうと立ち上がる。
「そういうのはもっとお互いをよく知ってからな? 俺はファッション感覚の恋愛なんて興味ないから」
「もう、初めて会ってから三か月ですよ?」
「
その言葉に、ラミ姉はまっすぐに俺を見る。
そこには、どこか悲し気な表情があった。
「……ウィル小父さんのことが、理由ですか?」
……全否定できないのが、まあキツイな。
「まあ、切っ掛けの一つぐらいにはなってるな。だけど安心しろよ」
俺は目を伏せると、親父の最期を思い出す。
結局、直接会話することも顔を合わせることもなかった。
文句の一つも言いたかったし、同時に事情も理解してる。
俺はあの人と、家族として向き合ったことは一度もない。
だけど、それでも俺は親父の息子だ。そして、親父は俺の父親だった。
だから、最期の頼みだけは必ずかなえる。
それに―
「ラミ姉の大事な恩人が、悪人なんて思う気はないさ」
「……そういうところ、ずるいです」
やばい。また顔が赤くなった。
これは早々に退散しないと、俺は人生二度目の押し倒さされる経験を積むことになる。
一橋のような化け物染みた戦闘能力はないが、メンタル的に強引に振りほどきにくい相手ではある。ここはすぐに逃げるに限る。
そう思ったその時、俺の懐に入れていたスマートフォンが音を鳴らす。
この音は電話なんだが、こんな時間になんだ?
「あ、どうぞどうぞ」
「悪い、……って一橋?」
ラミ姉に促されて、俺は相手がその手のマナーはわきまえてる一橋なこともあってすぐに出る。
疑問はあるが、だが一橋がこんなマナーの悪いことをするのなら、何かあることも考えるべきだ。
そして電話に出た瞬間、一橋の焦ったような声を聴いた。
『は、橋場君! どうしよう、……私、脳の病気か何かかも!?』
……それは、医者に相談することじゃないだろうか。
いや、パニックを起こした人間は冷静な判断力を失うものだ。見知らぬ専門家より安心できる知人を頼ってしまうことは十分にある。
こと、俺は一橋を助けた経験もあるかな。さらに一橋の深い事情も知ってるし、なおさら安心できる距離感があるだろう。ならまず相談することもありうるか。
「……よし、落ち着け。まずなんでそう思ったのか、簡潔に話せ」
『うん、明らかにおかしなものが見えてるの。……具体的には、駒王学園にアニメみたいなバリアが張られてるみたいに見えてる』
その言葉に、俺は一橋が住んでるマンションを思い出す。
たしか、ベランダから駒王学園が見える距離だったな。
そしてアニメみたいなバリアか。そんなものは現実に実用化されてないからあり得ない。脳の異常を疑うのは当然の判断だ。
『ふと窓の外を見たらそんなことになってて、慌ててベランダに出ても同じなんだ。でも、隣のベランダにも人がいたけど、全然騒いでないから……これは異常だって』
なるほど、これは確実だ。
ガス中毒か何かを疑うべきか。もしくは精神的な何かかもしれない。一橋はトラウマレベルのヘビーな過去持ってるしな。
「OK、落ち着け。まずは落ち着いてそのままベランダで深呼吸だ。そして気を静めてからも同じようなら、念のため救急車を呼んで―」
「いえ、病院に行く必要はないかと」
―後ろからの声に、俺は慌てて振り返る。
その視界に移るのは、同じく後ろを振り返ったラミ姉と、その向こう側にいる第三者。
俺と同じぐらいの女の子のようでいて、どこか無機質な、それでいて小さな子供のような印象を併せ持つ女。
白い髪を持つ人形めいた彼女の名は、アユミ・インディペンデンス。
親父が俺のために用意し、そして俺だけじゃなくラミ姉も託した守護者。俺の関係者において、間違いなく最強だと断言できる猛者。
「アユミ? どうしたんですか?」
ラミ姉がそう尋ねる中、アユミはどこか緊張感を漂わせ、静かに告げる。
「……報告が遅れて申し訳ありません。駒王学園周辺に物理的なものではない障壁を確認しました。視認情報からの検索において、データベースに該当するものは一件。魔力障壁です」
いろいろとツッコミを入れたいところだろうし、こいつの裏事情を知っている俺でもツッコミを入れたいところはあったが、しかしここは飛ばす。
少なくとも、こいつの発言にウソはない。信じられないことだが、こいつが姿を現してまで俺たちに告げたということは真実だ。
「え、でも……そんなSFみたいなことになってたら、もっと騒がしいことになってるんじゃ―」
「SFではなくファンタジーに該当します。予測演算装置の算出した推論によれば、このレベルの障壁は一般人には認識されないようにする機能を併用するため普通は気づかれないとのことです」
ラミの反論をアユミがそう言って否定する。
自分の判断とは思えない言い方だが、こいつはそういうデータベースに検索をかけることができるらしく、自分が見た情報をそいつに送ってどういう状況か調べることができるそうだ。
ってことは、なんというか駒王町にファンタジーなめんな地球文明的な事態が起きてるってことか?
なんで一橋がそれに気づけたのかはともかく、これ、やばくね?
「……なあ、もし駒王町に何かあったら、学校が閉鎖されるとか……なくね?」
「それどころか、ばあいによっては学生がどこかに転校する可能性もあります……よね?」
俺とラミ姉は顔を見合わせ、息をのむ。
これ、グレモリー先輩に接触する計画、頓挫すんじゃね?
って言うか、そんな障壁を町中で張るってことは大ごとで、一般人に見られてたとか知られたら、口封じされるんじゃねえか?
「……ひ、一橋! それ別の意味で見えたらまずいものらしいからそこから離れろ! しかも下手すると、駒王学園がすぐにでも吹っ飛ぶかもしれねえ!」
『えぇ!? ……で、でも最初に見てからもう十分ぐらいたってるけど……?』
と、ということはいきなり大惨事とかそういうのじゃない?
あれ? でも十分も前から張られてるってことは―
「なあ、十分前から張られてるみたい何だが、これ緊急性あるのか?」
十分も悠長にしてられるんなら、意外と安全って演算結果が出たんじゃないか?
しかしアユミは、五秒ほど沈黙した。
おい、なぜ黙る。
「アユミ? 誰しも失敗はするものですから、何か失敗したのならすぐに言ってください。まずはその失敗を取り返す方法を考えなければいけないですから」
ラミ姉がそう優し気に諭すと、アユミはどういう顔をすればわからないと言いたげに、ぽつりと一言。
「……実際に目視での認識は初めてで、その色彩などを記憶しようとして、行動が遅れました。……申し訳ありません」
……どうやら、初めて見る魔力障壁とやらがきれいで見とれてたということらしい。
お前は幼稚園児か。知識と情緒のバランスがおかしいだろ。
親父? 何かやばいことから俺やラミ姉を守るためにアユミに頼んだんだろうけど、俺は少し不安になってきたぞ?
って言うかこれどうするんだ?
松田や元浜とかに連絡して、とりあえず避難してもらうべきか?
でも、いくら何でもこんな事いきなり言われたって信じる奴はいないしな。一橋の過去があれなのは今日の放課後に聞いてるだろうし、俺も春休みに親父を目の前で失ったうえに九死に一生を得たばかりだし。
アユミがいれば結界を認識させれるかもだが、それをすると逆にややこしいことになるし―
『……は、橋場君!?』
と、一橋が声を荒げたので、俺はとりあえず意識をそっちに向ける。
「な、なんだ? もしよければ、避難の手伝いとして俺たちもそっち行くが―」
『―兵藤君がグレモリー先輩やアルジェントさんと一緒に学校に向かって……飛んでったんだけど?』
………
俺は、とりあえずあらゆる感情を切り捨てて、アユミに顔を向ける。
「アユミ。そのファンタジー的なやつで生身の人間は、空を自由に飛べたりするのか?」
「……情報検索完了。人間と同様の姿をした飛行可能種族及び、
さすがファンタジー。既存科学とか目じゃないな。
なるほど。親父がグレモリー先輩に接触しろって言ってた理由はそれか。あの人オカルト研究部の部長だそうだけど、マジでオカルト側なのか。
そして、そんなグレモリー先輩がホームステイ先に選び、彼女が部長してるオカルト研究部に入っているイッセーが一緒に飛んでったってことは、あれだな。
「一橋。どうもイッセーはそのバリアにかかわってるようだ。多分、グレモリー先輩はその意味でもイッセーの先輩みたいだ」
『な、なるほど。兵藤君とアルジェントさん、グレモリー先輩にしがみついて飛んでたから、納得しちゃった』
一橋。それ、飛んでたのはグレモリー先輩だけなんじゃねえか?
それから時間にすれば十分足らず、生徒会長支取蒼菜こと、ソーナ・シトリーは歯噛みしていた。
数日前に来訪した教会の戦士からもたらされた、コカビエルによるエクスカリバー強奪及び駒王町への潜入。
堕天使幹部と伝説の聖剣が絡むとは言え、敵対勢力同士の潰しあいだ。勝手に滅ぼしあってくれるのを止めて、余計ににらまれる必要もない。そんな甘く見た打算があったことも認める。
幼馴染であるリアスの眷属である、木場祐斗の暴走の方が問題視するべき要素でもある。しかも彼を気遣って眷属仲間の兵藤一誠や塔城小猫が独断で聖剣使いと共闘を試み、更に巻き込まれた自分の眷属である匙が乗り気になってしまったことも困り者だ。
少なくとも、これが堕天使と教会の殺し合いだけで終わったのなら、間違いなく彼らは上層部から失跡を受ける。自分の姉やリアスの兄である現四大魔王はともかく、彼らと政治的に対立する大王派などの古くからの重鎮はいい顔をすまい。自分達にも管理責任を追及してくるだろう。
とはいえ木場祐斗の事情は知っているし、そこに同情も抱いている。そんな彼を思う一誠や小猫の献身には思うところがあるし、義憤を燃やした匙の在り方も、ある意味では評価するべきだろう。
なので三人は体罰で済ませ、後は様子を生還しながら祐斗が死なずにこの問題が解決することを祈るだけにするつもりだった。
だが、コカビエルの考えは常軌を逸していた。
彼の目的は三大勢力の戦争再開。堕天使首脳陣で唯一の戦争継続派だった彼は、戦争を再燃させる気すらない同僚たちに見切りをつけ、他の勢力に火を付けさせるために行動を起こしていたのだ。
エクスカリバーの強奪も、教会や天界を刺激するため。しかし彼らは事を荒立てることを良しとせず、勝算がある程度見込める程度の戦力しか送り込まなかった。そしてその可能性を考慮していたからこそ、彼はこの駒王町に潜伏したのだ。
この地域を担当する上級悪魔は、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー。奇しくも二人は現魔王の妹であり、更に現魔王に溺愛されている。
その二人を挑発目的で殺し、更に追撃してきた聖剣使いもそれに巻き込む。駒王町を吹き飛ばす規模でそれを行うことによって、三大勢力関係の戦争再開の意思が強いものをたきつけるのが、コカビエルの真の目的だった。
教会からの追撃者の片方である紫藤イリナは撃退され、所有するエクスカリバーも奪われる。そしてコカビエルは彼女を手土産に、その幼馴染であるイッセーの家に、リアスに対する宣戦布告目的で訪れた。
彼は開戦ののろしとして駒王町を吹き飛ばすことを宣告し、その爆心地をこの駒王学園に指定。それを挑発材料に現魔王を挑発する。
最大の問題は、二人がこの一連の流れにおいて、上層部に何の情報伝達も行ってなかったことだ。
リアスはひと月足らず前の婚約破棄において、結果的に兄に道理を引っ込める一歩手前の無理をさせてしまった。ゆえに彼に心配をかけさせたくないが故、様子見に徹して連絡を躊躇していた。彼女の側近である朱乃が独断で連絡したが、しかし増援の到着には時間がかかるだろう。
ソーナとしても魔王である姉に連絡するわけにはいかなかった。悪魔としてかなりの若手でありながら魔王に選ばれるだけの能力はあるのだが、いかんせん姉は自分を溺愛しすぎている。コカビエルが自分の近くにいるなどと知った時点で、職務を放り投げてでも即座に自分自身がきかねないし、自分たちを殺す気だと分かれば、コカビエルを倒したうえで管理不行き届きのけじめをつけさせるため、堕天使領に殴り込みをしかねない。
そのため増援が来るまで時間がかかり、それまでの間自分達で粘らねばならない。
コカビエル、そして合計四本のエクスカリバーがあれば、自分達ごと駒王町を滅ぼすことなどたやすいだろう。被害を抑えるために駒王学園に結界を張ったが、旧四大魔王とすら渡り合えるコカビエルなら、この程度難なく吹き飛ばせる。
つまり、自分達は戦闘狂にして嗜虐的な側面のあるコカビエルを楽しませつつ、遊びの攻撃を全力で抑え込むことで増援までの時間稼ぎをしなくてはならないのだ。
「か、会長。あとどれぐらい頑張ればいいんですか?」
「……少なく見積もっても、あと四十分は必要でしょう」
自分の眷属である匙の質問に、ソーナはあえてはっきりと答える。
なにせ上層部にとっては寝耳に水だ。少なくとも現段階で、どの勢力も本格的な戦争再開は望まない。その前提で行動していたところで、いきなりコカビエルが本格的に動き出したのだ。事前の潜伏段階から報告していれば増援の迅速な派遣が期待できたが、いきなりこれではどうしても出遅れる。
現状は自分達が余波を防いでいる間に、リアス達がコカビエルを引き付けるしかない。
不幸中の幸いは、妨害の増援が二人来てくれたことだ。
イリナとともに逃亡したエクスカリバー使いであるフリード・セルゼンを追って行方知れずだった、彼女の同僚のゼノヴィアと、リアスの眷属である木場祐斗。
計算に入れてなかった戦力が二人増えただけで助かるうえ、どちらも自分達シトリー眷属の平均より戦闘能力は高い。
「リアス達が粘っている以上、私たちは彼女たちの後顧の憂いを断つしかありません。……できますね?」
「……はい! 兵藤も体張ってるんだし、俺も裏方ぐらいはやって見せます!!」
そう気合を入れなおす匙の後姿を見つめながら、ソーナは頭を回転させる。
兵藤一誠と仲良くなったことは匙にとっていい影響だが、それをより良い方向に変えるには、この場を生き残らねばならない。
圧倒的を通り越して絶望的な戦力差であるが、しかし悪魔の未来のためにもこの街のためにも逃げる選択肢は存在しない。
それに対して打開の糸口を見つけるべく、ソーナは状況を改めて俯瞰しなおし―
「……支取会長!」
後ろから、聞き覚えのない声を聴いた。
呼び方から考えて、駒王学園の関係者だろう。そしていくら生徒会長とはいえ、全学年の全クラスの全生徒と直接会話したことがないのだから、声だけで判断するのは困難だ。
だが、駒王学園に在籍している異形関係者とは最低限の接触はしている。だから彼らなら脳裏に引っかかるものぐらいはあるはずだ。
だが、異形と無関係の生徒が今ここにいることはおかしい。
駒王学園を結界で包む際に、人避けや認識阻害も同時に張っている。異能を扱える人間や、そもそも人型の異形でない限り、ここに来ることすらできないようにしているのだ。
「……確か、兵藤と同じクラスの一橋……か?」
眷属の一人がそうつぶやき、ソーナもすぐにその情報を引き出す。
兵藤一誠のクラスに一橋という苗字の生徒は一人しかいない。去年の二学期に駒王学園に編入した一橋瀧野。数多くの自衛官を輩出している、戦国時代武士から始まった歴史ある一族。その本家の長女だったはずだ。
確か住所はここから目と鼻の先の場所を示していたが、しかし問題はそこではない。
一橋家は確かに日本では有力だが、しかし彼女自身に異形とのかかわりはない。あの家系で異形や異能に縁があるのは、将官や防衛省重役などのごく一部が知識として知っているぐらいである。
それがなぜか、しかし考えている暇はない。
「その、魔力結界……? ……なんで張られてるんですか? こんな街中で張るような代物じゃないって、橋場君がさっき教えてもらったそうなんですけど?」
そう尋ねる瀧野は、戸惑いながらも緊張感を漂わせる。
本家出身ゆえに英才教育のたまものか、今が緊急事態だということを察しているようだ。
此方の専門知識はほぼなく、最低限にも満たない情報を文字通りここに来る直前に聞いた程度らしい。
橋場というのは同じクラスの橋場アラタだろう。兵藤一誠の中学来の友人だと、彼がリアスの眷属になったと聞いて軽く調べた情報にあった。そも生徒会長としては、始業式直前に麻薬密売組織の検挙に繋がる大立ち回りを未成年飲酒を切っ掛けに起こしてくれたので、悪い意味で有名人な一誠を瞬間的に上回る頭痛案件なので忘れられない。
だが彼はその日から停学処分を受けていて、それが明けてからまだ日が明けるか否かという時期だ。
彼が異能関係だという情報は聞いてないし、ここ数日匙とともに独断行動をとっている状況で話すとも思えない。それなら一誠が転生してから数か月を同じ教室で過ごした、親しい友人の一人である彼女が先に知っているだろう。
だが、今は詮索している暇はない。
「……一橋さん。セラフォルー・レヴィアタン、聖剣計画、
「………いえ、特に記憶には」
その言葉で、彼女にわかりやすい説明文をソーナはすぐに組み立てる。
少なくとも、彼女や一橋に知識を提供したのは一誠ではない。彼が教えるなら、自分が異形の社会にかかわった理由である神器ぐらいは教えているはずだ。
姉の名を知らないなら自分の事情も知らない。そして聖剣計画を知らないなら今回の事件の背景に触れてもいない。
ゆえに、自分達の世界の専門用語を排して、分かりやすいたとえで告げる。
「……私たち駒王学園の現生徒会及びオカルト研究部は、全員があなたが知らない国家規模の勢力に在籍しており、私たちが生まれる前から同等規模の二つの勢力と、三つ巴の冷戦状態を続けています」
そこでいったん切り、彼女に混乱のようすが見えないことを確認してから、本題に入る。
「現在、方の首脳陣唯一の戦争続行派によって、もう片方の勢力の強力な兵器を奪取したうえで、この街を跡形もなく吹き飛ばそうとしています。理由は私とリアスは私たちの勢力の首脳陣の妹だから。超兵器を奪取したのも、その奪還のために大勢力が動けば戦争境の火ぶたをキレると目論んだからです」
「……つまり、いまその超兵器が
知識がない割にはよく推測できているが、ソーナはあえて首を振る。
「いえ。その超兵器は爆弾ではなく、また元凶の首脳はそれと同等以上の性能を発揮します。現在はこちら側の増援が来るまでの間、戦闘狂かつ嗜虐的な彼を楽しませて時間を稼いでいるだけです。……私たちが張っているこの結界は、気休めというほかありません」
実際そういうほかない。
核兵器は一回使えばそれまでで、放射能汚染のせいで後が面倒。それに比べ、コカビエル達最上級クラスの異形は休息をとることで何度も大技を放つことができ、壊した後を汚染することもなく、そもそれ以上の攻撃力を発揮することも可能だ。
正直な話、コカビエルが妙な動きをしないようにするためにも、何かをでっちあげて住民を避難させることもできない。
ほぼ自己満足の様だが、一橋にこれを理解させ、彼女だけでも避難してくれればと思い―
「……分かりました」
そう告げながら、瀧野はソーナを通り越して一歩前に出る。
それに誰もが目を見開く中、真っ先に匙が声を荒げた。
「馬鹿やめろ! コカビエルは本当にそれぐらいできるし、エクスカリバー持ってるフリードだってシャレにならないんだぞ!? どっちも自衛隊の駐屯地ぐらい一人で壊滅させることができるような奴だってのに、自衛官輩出してる家柄程度じゃ何もできることはねえよ!!」
そう声を荒げて瀧野を止め、そして匙は歯を食いしばりながら結界に包まれた駒王学園を見る。
つい最近築いたばかりとは言え、強い友情で結ばれたものが戦っているのだ。それも、瀧野とも親しい一誠がである。
「……お前に何かあったら、今あそこで頑張ってる兵藤だって悲しむ! だから、そんな無茶は―」
「―なるほど。支取ってのはシトリーに漢字を当てただけってわけか」
その匙の声をさえぎるように、頭上から男の声が聞こえた。
その声に振り仰ぐと同時、頭上から
常人なら明らかに骨が粉々に砕けるような高さから着地しながら、その少女はあっさりと立ち上がると、抱えている男女を開放する。
「到着しました。本来なら、私の製造目的に反する行動なのですが―」
「悪いなアユミ。俺を守るなら、俺の生活にも配慮してもらわないと困るんでな」
その少女の苦言に反論しながら、少年が一歩前に出る。
「……橋場君。なるほど、一橋さんに教えた半端な知識は、そこの彼女の入れ知恵ですか」
その人物の登場に驚きながら、しかしソーナはある程度の裏事情を理解する。
アラタと若い女性―ラミ・リスタートという名前なのはソーナたちにわかるわけがない―を抱えた状態で人間離れした動きをした少女は、明らかに一般人ではありえない。
自衛隊どころか、この国の異能保有者筆頭格である五大宗家であろうと、ここまでの動きができるのはごく一握りにも満たないだろう。
生身も同然の姿でそんなことができるようになる技術は、表の世界には存在しない。なら自分達の側に縁ある者と考えるべきだ。
そしてアラタはため息をつくと、ソーナに視線を向ける。
「非常事態っぽいんで手短に済ませます。会長の名前は漢字を当てただけで、本当はシトリーって苗字なんですね?」
「ええ。あと、この街の住民全員の生死がかかった非常事態ですので、ほかに質問があれば少なめでお願いします」
素直に肯定しながらソーナが促すと、アラタも静かにうなづいた。
「じゃあ二つだけ。会長とグレモリー先輩は、ウィル・カンホワイトという人と何か縁がありますか? あとイッセーは今やばいことになってるんですか?」
その表情は真剣で、後ろで少女とともに立つ女性もまた、その言葉に真摯な目をこちらに向ける。
その事情を斟酌する余裕はないので、ソーナは彼が出した名前を記憶から探る。
そして、すぐに結論は出た。
「……少なくとも、私はウィル・カンホワイトという人と会った覚えはありませんし、知人から会ったという話も聞いた覚えはありません」
まずそこは言い切れる。
最近テレビで見たような気もするが、しかしそんな名前の人物とあったことはないし、知り合いに直接言及された覚えもない。
なぜそんなことを聞いてきたのかはわからないが、おそらく隣の超人染みた少女絡みとみるべきで、それは今どうでもいい。
そして、次の質問の答えは面倒事に繋がりそうだ。
「兵藤君はグレモリー眷属……ああ、オカルト研究部のメンバーと受け取ってください。彼ら全員が構成員ですから。とにかく、その一人として学園内の危険人物の足止めを担当しています」
しかし、勘付かれているうえに瀧野に知られているのなら、意味がない。誤魔化してもても彼女がばらすだろう。
なので、もう簡潔に話せることを全部話した方がまだスムーズに進む。
そう割り切り、ソーナは語る。
「その危険人物は文字通り一騎当千で、彼やその側近を暴れさせればこの町を滅ぼすことも大隊規模の正規国家軍を殲滅することが可能。更に彼は私やリアス事この街を滅ぼそうとしており、兵藤君はリアスを見捨てるつもりはなく、もし見捨てたとしても私より上の立場の者が「主を見捨てて逃げた」として粛清するでしょう」
簡潔な情報を伝え、そしてはっきりと告げる。
「増援が来るまで命がけで戦うのが彼の使命。そして、今この場であの男が全力を出した場合に抑え込める可能性があるのは、兵藤君だけです」
そう、それが現実。
この地の異能側における管理者がリアスである以上、彼女の部下という立ち位置の兵藤一誠に逃げる選択肢はない。
立場としても、リアスを想う男としても、そして一人のこの街の住民としてもだ。
そして、もしコカビエルが本気で街を滅ぼそうと全力を出した場合、彼以外は勝負の土俵にすら上がれないだろう。
初代魔王は聖書の神すら恐れた、ブリテンの赤き龍。その魂を宿した神滅具と称される神器を持ち、そして肉体の一部をささげて龍のそれに替えることで事で疑似的に発動する、
それ以外にコカビエルの全力と拮抗できる可能性がない以上、彼をここから遠ざける選択肢は存在しない。
そして、それを聞いたアラタは―
「……これ、使う心構えがまだできてなかったんだがな」
その言葉ともに片手を掲げる。
頭と同じ高さで広げたその手に、何かが飛来する。
それは、楕円形の飛翔物体。
前方に二門の銃口を備え、後方には何かを挿入するスリットが見える。
それを複雑な表情でアラタが見ていると、一人の少女が震える指でそれを指さす。
シトリー眷属の誰でもない。アラタを連れてきた少女でもなければ、その隣にいる女性でもない。
「な、な、ななななな……!?」
一橋瀧野が震える指でそれを示しながら、眼も顎も思いっきり開いていた。
それに気を取られたアラタだが、ふと何かに気づくと、後ろの女性たちと顔を見合わせてからゆっくりと瀧野に目を向ける。
「……おい、まさか一橋」
「……うん、だから来ました」
アラタにそう答えながら、瀧野もまた手を掲げる。
そして、アラタの手に収まったのと同じ飛翔物体がその手に収まった。
明らかに人間社会で一般的に流通している技術ではない。しかし異能技術だとしても、自分たち悪魔の側で作られたものではない。此方が把握してない神器だとしても、かなり科学的な外見をしている。
ソーナたちがけげんな表情を浮かべるなか、アラタと瀧野がお互いを見合わせながら、同時に口を開く。
「「餞別ファミリアチェンジャー……」」
その聞き覚えのない名称に、ソーナたちは首をかしげる。
それに気づかず。アラタと瀧野は会話を始める。
「……手身近に聞くぞ。いつから持ってて、使ったことは?」
「去年の八月初頭の、前に言った事件の時。一度だけ使ったけど、これは平和な日常で使えるようなものじゃないからそれ以来は。……橋場君は?」
「俺はD×D事件で押し付けられた。試したのは戻ってから人気のないところで。同じくやばいからそれからは一度も」
そう答えるアラタは、静かに息を吐く。
そして、静かに空を見上げる。
「渡した奴は? 俺の場合はわけのわからないことを言うおっさんだった」
「私に渡したのは女の人だったよ。「君はプロローグを終えたばかり。これは本番に入ったら使ってくれ」……ってね」
その言葉の意味は、さっぱりわからない。
橋場アラタがD×D事件の時にデイライトシティにいて、そこから生き残ることができたのはつかんでいる。しかしそこで何を経験したのかまではつかんでいない。
そして、一橋瀧野の転校前にいた高校については分からない。いくら何でも徹底的に調べるような真似をする気も理由もないが、しかしそれは気になっていた。
なぜなら、瀧野の転校前の高校についての情報は何者かに秘匿されている節があったからだ。
彼女の親族には自衛隊や国防省の高官もわずかながらに存在する。その気になれば高校生の来歴を隠すぐらいはできるだろう。だが理由がわからない、偽装まで言ってないのも不思議だった。
そして、その分からない二つの過去に目の前の謎の物体がかかわっていると思われ―
その瞬間、一つの白が障壁を粉砕した。
まただいぶ長くなってしまいましたが、書いててキリがいいと思ったところで区切りをつけているので、一話一話の長さがバラバラになっていてもご了承ください。
次の話からバトルが始まり、そこはすでに書ききっています。イッセー目線からするとついていけなくて失神しそうなレベルのバトルになっている思うので、ぜひ彼の気持ちになってみてくださるとうれしいです。
そしてプロローグに会話で出ていたアユミ・インディペンデンスが登場。もちろんですが彼女もヒロインです。
割とポンコツ臭を放っていますが、これに関しては彼女の裏情報が明かされれば「あ、そりゃそうなるわ」と思っていただけると思います。話が進むにつれて少しは改善し、ヒーローズ編の時系列で来歴的な設定の大半が明かされるので、そこまで続くように頑張るので応援よろしくお願いします。
とりあえず序章でのバトルではこのポンコツ臭い子にアラタの護衛を任せた親父さんの判断が間違ってないことを実感してくれると思います。
ラミ・アユミ・瀧野の三人に、ヴァンパイア編を描く一章に出てくる一人を加えた四人が一部におけるヒロインです。ちなみに第二部で転生悪魔で構成されたそれぞれのキャラと因縁があるライバルチーム的なのを出す予定で、そこの穴埋めや長い話に対する刺激として、イッセーにたいするイングヴィルドのような第二部ヒロインを作ろうかと思っております。
すでにアラタ及び第一部から出てくるヒロインに対応する敵の大まかな構想や因縁はできているので、第二部まで続けるよう頑張るのでご声援してくれると嬉しいです。