異聞・ハイスクールD×D 辺境武宝惑星・地球 矛盾せし真実持つ英雄 作:グレン×グレン
ヴァンパイア編ですが、諸事情あってギャスパーの出番はかなり少なめ。その辺については本文を見てから、あとがきで補足させていただきます。
俺は、夢を見ている。
間違いなく悪夢といっていい内容だ。夢だと自覚していることだし、気合と根性で無理やり目覚めるとかできるかもしれない。
だが、俺はあえて夢を見続けることを選ぶ。
今俺が見ている光景は、いわゆるD×D事件と称される惨劇だ。
世界各国が出資し、日本が管理を担当することになった人工島デイライトシティ。その人工島が海に沈み、人口の九割以上が運命を共にすることなった未曾有のテロ。
突撃銃や機関銃で撃ち殺される住人。ロケット弾で吹き飛ぶ車両。ミサイルや爆弾の影響で崩れ落ちる建築物。
その光景はいわゆるノンフィクションといってよく、だから事実そのものじゃない。俺が実際に経験した事件の記憶が、この夢の光景を形作っているんだから。その光景は、映画やアニメとは比べ物にならないほど現実に近い。
血しぶき。臓物の破片。消し炭になった死体。破壊されたさまざまなものの破片が飛び散り、建物は穴だらけになる。
そんな破壊の光景を、俺はあえて目をそらすことなく受け止める。
そして、その光景はクライマックスを浮かべる。
ひときわ印象に残っていた、ピグマリオン社のデイライトシティ支社である一つのビル。
夢の中でもひときわ正確に再現されたそのビルが、一斉に各所から発生した爆発の直後に崩壊する。
いわゆる爆破解体ってやつだ。そして、恐ろしいことにこれと同じことがデイライトシティの数多くのビルで行われたそうだ。
だが、俺にとって重要なのは、犠牲者には悪いがその俺が見てないビルの解体作業じゃない。
この夢の最後に映し出される光景を、俺は一つ予想していた。
そして、その予想は的中する。
現れるのは一人の男。親父が死んだ直後に現れた、俺に餞別ファミリアチェンジャーを押し付けた男。
目の前にいるのは本人じゃない。俺の記憶が形成した幻影にすぎない。
だから、その行動も発言もそのままじゃない。だが、似たようなことは言いそうな記憶がする。
「さあ、プロローグを終え、そして最初の戦いすら乗り越えた」
そう陶酔した声と表情で、俺の想像した男は俺に告げる。
それをまっすぐに見据える俺の視界の中で、奴は告げた。
「輝く物語の始まりだ。さあ、英雄譚を描いてくれ!!」
圧倒的にふざけた話だ。
現代において、英雄譚が現実を侵食する余地はない。
民主主義は英雄を駆逐する。そして民主主義は、英雄たち過去の人々が切り開いた道の先にある俺たちのいるこの場所だ。
それに逆行するこいつらを認めるわけにはいかない。それは、俺が英雄である先祖を誇りに思っているからこそ譲れない。
だけど、俺は――――
そして、俺はベッドの上で目を覚ました。
んでもって、俺は致命的な失敗をしたことに気が付いた。
時間帯は午前。朝を取り越して昼に近い時間帯だと、部屋にさす光の差し具合から判断できる。あと、腹時計からも判断できる。
そしてここは俺の住んでいる安アパートじゃない。天井が違うし、そもそも俺の寝具は布団だ。
そしてジャージを寝間着にしているはずなのに、俺は素っ裸で眠っている。ついでに言うとシーツをかぶってもいない。
そして、ゆっくりと顔を横に向けると、そこには眠っている一橋の姿。当然、服は着てない。
……まずい。一橋と一戦交えた後、そのまま疲れて眠ってしまったらしい。
そして時間帯的にもうすでに―
「アラタ、瀧野。そろそろ起床して食事をとらないと、生活バランスが不安定になってしまうかと判断します」
何の躊躇もなくドアを開けて、アユミが入ってきた。
音や声で判断できるが、俺はものすごく振り返りたくない。
とりあえず、そこらへんに無造作にほおっておかれていたシーツで股間を隠し、余っている部分で一橋の体も隠す。
一橋は見られても問題ないと思うが、想定外の部外者がいたらあれだからな。
そして深呼吸を一つ。そして心を決めて振り返る。
その視線の先、めちゃくちゃまじまじと見つめてくるアユミの後ろで、プルプルと震えているラミ姉がやっぱりいました。
顔も赤いけど、震えているのも含めて羞恥じゃないだろうな。どっちかって言うと、怒っているんだろうなぁ。
そしてラミ姉が息を吸い込むのに合わせて、俺は静かに目を閉じた。
なんというか、耳をふさがなくてもこれだけでましになった気がするよな。気休めも馬鹿にならない。
「……どういうことですかぁあああ!! ずるいですぅうううううううううっ!!!」
「……ラミ。あまり当躯体の耳元で大音量での発言はやめてください。その……非戦闘時に受けるべきでない瞬間的ストレスが」
アユミ。お前はもう少し人の機微について学ぼうな。この流れだと、耳をふさがなかったお前の過失もあったりするから。
「……ご、ごめんなさい。橋場君とはその、いわゆる体だけの関係ですから、気にしなくても……しますよねぇ」
朝昼兼用のスパゲッティを食べながら、一橋は言い訳をしようとしてあきらめた。
食事まで作ってもらいながら、変な言い訳をするのは駄目だと判断したらしい。基本的にまじめな一橋らしい。
俺は俺で説教が本格的になることも覚悟して、とりあえず覚める前にスバゲッティを掻き込んでいる。
一方、アユミはアユミで俺たちを交互に見ながら、さっきまで俺たちが寝ていた一橋の寝室を見たりしている。
ちなみに食事は必要ないらしいが、別に食べても問題ないから一緒に食べてた。すごい夢中になって食べてたな。味付けが気に入ったのか、それとも食事という行為が新鮮なのか。
そしてこの食事を作ったラミ姉はというと、少し頬を膨らませながらも、しかし普通に食べている。
そして拗ねた様子を見せながらも、軽く息を吐いてからいつもの調子を取り戻した。
「まあ、そういうのは欧米圏出身の私の方があると思います。避妊はきちんとしているようですし、むやみやたらと風潮してないのなら、何か言うんもヤボというものでしょう」
そう前置きしてから、しかし俺にジト目を向けてきた。
蛇を出さないよう藪をつつかなかったのに、結局蛇から出てくるとか理不尽だ。
俺がげんなりしていると、ラミ姉は自分の胸をちらりと見ながら、む~っと俺を軽くにらむ。
「私には手を出してくれないのに、瀧野さんには出すんですね?」
「一つ言っとくけど、一橋とそうなったのはラミ姉と会うより半年以上前だからな?」
俺がそう予防線を張っているのは、まあわかっているやつも多いだろうが、一橋の住んでるマンションだ。
今現在、ラミ姉は借りたばかりのワンルームマンションを引き払い、一橋のところに厄介になってもらっている。俺の安アパートは引き払ってないが、最近はこっちで寝泊まりしている。
グレモリー先輩に接触して親父の遺言を果たした俺たちだが、はっきり言ってもことの深刻さを実感した。
ファイマーシステムの戦闘能力の高さも実感したが、それ以上に先輩や会長の裏事情に驚いた。しかもイッセーが深入りしてるってのが、世界の狭さを実感させる。
悪魔だか天使だか堕天使だか、とにかく軍隊を一人で圧倒しそうな超常インフレ存在の実在。しかも聖書の神は死んでるそうだが、ギリシャとか北欧とかの神話も実在していた、そっちの神はまだ生きている。どうも妖怪とか吸血鬼も存在しているらしい。
いくら一橋までファイマーシステムを持ってるとは言え、こう深入りしているといろいろと絡まれそうだ。
なにせ、堕天使勢力でも上位一けた台の強さらしいコカビエルってのが、あと事件での元凶だ。そしてそいつを不意打ちで追い詰めた白龍皇ってのはイッセーの持つ力と対になる。そんでもって、俺達とは仕様が違うファイマーシステムを使ったやつが、タイマンでそいつを追い詰めた。
経験の違いはある。変身者もぜんぜん違う。変身に使った道具も違う。なら条件は大きく異なるだろうが、しかし同系統の技術を俺と一橋は持っている。
大戦争勃発寸前の大騒ぎ。それに深くかかわってしまった俺たちは悪目立ちだ。何の後ろ盾もないことを考えると、何かしらちょっかいをかけられる可能性もあった。
いくらファイマーシステムやアユミがいるとはいえ、それではい大丈夫って言うのも油断しすぎだ。特にラミ姉は戦闘能力がないから、分散しているとアユミがカバーしきれない。
ならグレモリー先輩や生徒会長のお世話になるべきかって言うと、それもちょっと待つべきだ。
あの騒動が終わった直後から思っていたが、俺たちは情報をあまりに持っていない。
先輩や会長の表向きの態度すらあまり知らない。だから二人が悪魔として行動するときどういう態度をとるか、俺が判断するには材料がなさすぎる。
イッセーのことは信じているが、あいつの立ち位置は「伝説の力を宿した
だから、考えなしにいきなり先輩たちの庇護下に入るのは無しだ。幸い、最低でも
なら、まずはそこから業界常識を最低限確保するべきだ。少なくとも悪魔側の人間に対する表向きのスタンスは知りたい。可能なら、他の三大勢力及び、この国に属する異能陣営のそれもだな。
そこから、俺は一体どこの側に付けばいいのか判断する。それまでは、イッセーともあまり深入りしない方がいい。
下手に拗らせて悪魔側と揉めたとき、イッセーに迷惑をかけるのもあれだしな。あいつはグレモリー先輩を慕っているが、俺が悪魔側と敵対したら真っ先に近くにいる先輩に指示が飛ぶだろう。そうなって一番きついのはあいつだからな。
というわけで、俺たちは当面、できる限り一塊になって行動するべきだと結論が出た。そして一橋が真っ先に提案し、現実問題として一橋の借りてるマンションが一番広く、グレモリー先輩たちも監視しやすいので、こういうことになっているわけだ。
そして俺が思い返している間に、話の方向も切り替わったようだ。
ラミ姉も本格的に期限を取り戻し、そして窓の外から駒王学園を見る。
……あれだけの被害があったのに、その日の朝を迎えるころにはほぼ元通りってのが怖いな。悪魔ってすげえ。
「グレモリーさんから電話がありました。詳細は後で別途送るそうですけど、今度三大勢力で会談が行われるそうです」
と、ラミ姉が駒王学園に視線を向けたまま告げる。
……コカビエルとかいう奴の件で、か。
まあ、あわや世界を巻き込んだ大戦争が起こりかけ、挙句に謎の凄腕率いる連中が元凶を助けて行方をくらましてるわけだからな。
どうもどの勢力もガチの戦争をいまする気はないそうだし、他の神話勢力に対する警戒もかねて歩調を合わせるべき……って判断だろう。
でもって、俺たちに連絡が来るってことは―
「……その場に居合わせたうえ、その前から奴らと接点がある俺たちにも出てほしいって? 言い分は納得できるけど、バチカンとか冥界とかに行くのはちょっとな」
三大勢力の会談なんだから、当然彼らの勢力圏内でやるのが普通だろう。となれば当然、天使・教会陣営なら宗教的権威が強いバチカンとかになるだろう。悪魔や堕天使なら冥界だな。
だが、安心していいと判断できない連中の勢力圏内に行くのは抵抗があるな。
「……出来れば、日本国民として日本政府の手が出せる場所にしてほしいかな。冥界は当然だけど、バチカン市国のあるローマとか飛行機代が馬鹿にならないし」
一橋も同意見で、更に現実的な問題まで思い至っていた。
そうだよ。バチカン市国って地球の裏側じゃねえか。移動とか会談前に待機するホテルとか、学生が平気で払えるような金額じゃないぞ。
冥界ならなおさらだ。安全確保どころかそもどこで休めばいいのかもわからないぞ?
出来れば国内で、かつ日本政府が介入できるような状況であってほしい。あとできれば、ホテル代と移動関係の経費はだれでもいいから負担してほしい。
俺と一橋がそう思いながら顔を見合わせると、ラミ姉は苦笑した。
「……それが、どうやら駒王学園の高等部校舎の一室でするそうですよ?」
「え、マジで?」
いくら会談の発端である事件の当事者が、半分以上そこの生徒だからって駒王学園でやるのかよ。
大国規模の勢力を持っているだろう、それぞれの三大勢力。その今後を左右しかねない会談を、まさか高校の校舎でやるのか。いや、魔王の妹が二人も在学してるんだから、そりゃ裏で相当のつながりがあるんだろうけど。
なんていうか、自由だな三大勢力。
俺がそんな呆れ半分の感嘆とともに視線を
「……おい、なんかすでにトラブルが発生してるぞ」
なぜか高等部の方から、煙が立ち上ってるんだが。
それも時々稲光がほとばしっている。あとなんか、黒っぽいエネルギーもほとばしってるんだが。
明らかに騒ぎになりそうな光景なんだが。……特にテレビで緊急速報にはなってないな。周りもうるさくないし、こりゃコカビエルの時と同じく認識阻害が働いているか?
ったく。今度いったいなんだ?
コカビエルと同意見な三大勢力の誰かが、会談妨害のための嫌がらせでもしたか? それとも北欧とかの他の神話関係者がちょっかいでもかけたか? もしくはまたリアルタイムドリーマーズとか言うんじゃないだろうなぁ。
まあとにかく、不意打ちで何かされる前に様子を見に行った方がよさそうだな。
「……一応様子を見に行くとするか。誰かついてくか?」
俺はラミ姉たちに視線を向ける。
トラブルが一気に発展して巻き込まれるより先に、一応の偵察は必須だろう。
一人で行って袋叩きってのもあれなので、とりあえず同行者がいてくれると嬉しいなぁ、という視線を向けてみた。
最有力候補としては、親父が俺の護衛として用意したアユミなんだが……。
「……っ」
なぜか、アユミは顔を赤らめながらぼんやりとした目をしていた。
俺にも駒王学園にも目を向けず、心ここにあらずといった感じだった。
「アユミ? どうしましたか?」
「……っ。し、失礼しました、何事でしょうか?」
ラミ姉に声を掛けられて、我に返ったアユミ。
これはあれか? ちょっと疲れてるのか?
やっぱり、アユミが休憩をとる余裕を作るためにも協力者はもう少し欲しいところだ。
そのためにも、まずは会談そのものは必要不可欠。変なトラブルで何か起きないように、様子を見るとしますかねぇ。
「……あ~。これは、まずかったかな?」
そんな三人の様子を見て、瀧野が軽く頬をひきつらせたことには、誰一人として気づかなかった。
彼が駒王学園に来たのは、暇つぶしを兼ねた赤龍帝の観察だった。
彼は強者との戦いを心より望む。そして、これまでの歴史において歴代の二天龍はおおむね相対する宿命を持ち合わせていた。
運悪く戦うことなく終わった歴代の担い手もいる。だが、大抵の場合は激突を経験しており、そしてヴァーリは自分と同年代の現赤龍帝との戦いを心待ちにしていた。
それが、寄りにもよって初の邂逅は事実上の共闘。そして三大勢力の会談に出席が命じられた以上、その時接触しても、
それを残念に思ったこともあり、未熟な赤龍帝をからかい半分で見に来たようなものだ。
収穫がないわけでもない。
赤龍帝が属しているリアス・グレモリーの眷属には見どころのある者が何人もいた。
前代未聞の聖魔剣の担い手や、教会から鞍替えしたデュランダル使いは実にいい。今戦ったとしても負ける可能性はまずないが、その実力差を二人とも察することができた。順当に鍛え上げていけば、いずれ自分とも戦える領域になるだろう。
悪魔すら癒す僧侶の少女や、戦車の小柄な少女、そしてリアス・グレモリー本人も見るべきものはある。
女王の娘に至っては、あのバラキエルが五大宗家の姫島の女との間に作った子供。三大勢力の重鎮と五大宗家の一角の血を混ぜ合わせたという意味では、神の子を見張るものの神滅具保有者である自分やもう一人を足して二で割ったようなものだ。神滅具というファクターが抜けているとはいえ、将来的に魔王クラスに手が届かないなどありえないだろう。
むしろそういう意味では―
「……肝心の赤龍帝がいまいちとは、正直素直に喜べない陣営だね」
―一番重要な部分で落胆してしまったのが皮肉である。
校門を出て、彼らに聞こえないと判断したからこそ言える言葉。挑発とも受け取られかねず、さすがにこれを言えばあとで神の子を見張るものの上層部に何か言われそうな言葉。
だからこそ聞こえないところで行ったのだが、思わぬ形で返答が返ってくる。
それは、明確な敵意がまず最初に来た。
「……イッセーのことでいいんだろうが、この国の高校生に無茶ぶりしすぎだろうが、アンタ」
続けて放たれる言葉に振り替えれば、そこにいたのは一人の少年。
自分を相手に圧倒したエイセイとかいう男。彼が率いたリアルタイム・ドリーマーズのメンバーたちが、やけに喜びながら戦いを挑んだイレギュラー。ファイマー・ノウブルという装甲をまとって戦った一人の少年。
そこまで思い至り、ヴァーリは不敵にほほ笑んだ。
「やあ、ファイマー・ノウブル。あの時はなかなかいい戦いぶりだったね。性能だけで押し切ったわけじゃない、確かな才能を感じさせる動きだったよ」
「そりゃどうも。この国の高校生としてはできてどうよって言う行動だがな」
そう返答する少年―橋場アラタは、警戒心を一切隠さず、ヴァーリをにらみつける。
いつでも距離をとれるよう、絶妙な力加減で軽くひざを曲げている。また攻撃に対して致命傷をもらわないよう、半身を向け、いざという時の反撃に使えるよう、後ろに回した右手は握りしめられている。そして変身に使えるよう、キャノンメモリアスティックを持ち、餞別ファミリアチェンジャーもすでに周囲に旋回させている。
血の匂いを感じないあたり、場数は踏んでないのだろう。それでここまで対応が取れているあたり、相当の鍛錬かよほどの才能を持っていると取れる。
何より―
「いいね」
ヴァーリは、心から楽しそうにそう評価する。
実際、ヴァーリは今日再開したあの一件の関係者で、彼を特に評価する。
伸びるだけの素質を持っているリアス・グレモリー達ではない。相対する宿命を宿した兵藤一誠ではない。各上だという事実を察して震えることができた、実力者の片鱗をみせた聖魔剣やデュランダルの使い手でもない。
白龍皇ヴァーリは、心構えという点において橋場アラタこそを最も評価する。
「それを使っても俺の方が強いと理解し、しかし恐怖することなく「ならどう立ち回るか」に思考が完全に切り替わっているとは恐れ入る。……下手に君に手を出せば、赤龍帝たちが来る前に手足の一本ぐらいへし折られそうだ」
実際それぐらいされかねないと、ヴァーリは心から思っていた。
相手は彼我の実力差を即座に看破している。すでにファイマー・ノウブルになって殴り掛かっていたとしても、鎧を展開するまでしのがれると踏んでいる。その上で戦えば、十中八九叩き潰されると想定している。そしてそれはヴァーリも理解している。
だが、その上で彼は震えることなく静かに身構えている。
勝てないという事実で思考を止めず、そんな相手と戦うことになったらどう立ち回ればいいかに意識を割り振り、恐怖に思考が縛られることが全くない。
おそらく戦闘になったのなら、彼はいかに致命傷を負わずにこちらに戦闘に支障をきたすような負傷を与えるかを考慮するのだろう。そしてそれを狙いながら時間を稼ぎ、増援が来るまでしのぐという目標を立てている。
赤龍帝たちはすぐ近くにいるし、おそらくあのアユミとかいう謎の強者も短時間で駆けつけることを踏まえている。そしてその上で、だから大丈夫だと安心するのでもなく、此方がその前に自分を殺せる可能性まで考慮して、それを防ぐための戦い方まで考えている。
間違いなく優秀な人物だろう。少なくとも、いくつもの修羅場をくぐっているわけでもなく、また殺し合いの場で生き残るための専門教育をろくに受けてない者としては異例といっていい。
よほどの傑物か、それとも英才教育を受けているのか、それとも壮絶な経験を積んだのか、はたまた複数該当するのかそれとも全部か。
背景はどうあれ、この男が先天的な異能や種族のアドバンテージの差を度外視してでも、まれにみる傑物ということは理解できた。
「できることなら、君が今代の赤龍帝ならよかった。そのファイマー・ノウブルとかいう力に赤龍帝の力が合わされば、俺と相対するのにこれほどない存在となっただろうに」
「俺はそっちの知識が全くないから的外れなことかもしれないが、イッセーの籠手がお前の鎧みたいに全身に展開されるなら、効率悪くないか?」
むしろ、数少ない知識からその推論ができることは褒めるところだろう。
実際、赤龍帝の籠手は白龍皇の光翼と同じく、禁手という究極系に至れば、基本的には鎧になる。
僅かな情報からその可能性に思い至ったあたり、地頭がそもそもいい方なのだろう。
やはり得難い人物だ。赤龍帝の籠手が彼に宿ってないのが残念でならない。しかしファイマー・ノウブルという力を手にしてくれていたのは不幸中の幸いだ。
「確かに
なので、この優秀な人物に少し位肩入れしたくなった。
強者との戦いは自分にとっても望むところ。そして強くなる余地があるのなら、将来戦い街のある存在になってもらうために塩の一つでも送りたい。
世界で自分より強い者がいなくなったのなら、そんなつまらない世界に生きている気がない。そんなヴァーリからすれば、彼は自分の人生が長く楽しいものにするために必要な人材でもあるからだ。
此方の知識を少しでも仕入れることができれば、それを元によりうまく立ち回ることができるだろう。業界の一般常識レベルなら、話してもまあ怒られることはない。
「ただし、俺たちが持つ
アラタはそれに対して口を挟まない。
戦う気がないのならそれで結構。戦う前の前口上であろうと、味方が来るまでの時間が稼げるのならそれはそれでよし。そう言ったところだ。
だからつい、ヴァーリはからかいたくなってきた。
「だから、もし君の窮地に赤龍帝が奮起したのなら、もしかしたら君を強化する形の禁手に至るかも―」
そう言いながら、これ見よがしにパンチに見せかけたフェイントをかけようとし―
「―その辺にしようぜ、兄弟ぃ?」
―ふと、肩に手をかけられた。
その人物が、自分達に近づいていることには気づいていた。
アラタの方も気づいており、どことなく焦っている雰囲気はあった。彼はまだ一般人とこちら側の判断ができてないのだろう。万一民間人だったらと、そういう懸念があったと見える。
そして、ヴァーリの方も軽く驚いていた。
後ろの男がこちら側であることは気づいていた。おそらく手練れの部類であり、自分の行動に何らかの警戒を見せて近づいていたのだろうとも思っていた。
とはいえ、殺気がかけらもなかったとはいえこうも後ろを取られるとは不覚だった。
そしてその男は、フレンドリーな態度を崩さず、しかし僅かにこちらの肩に力を籠める。
「堅気がごろごろいるところで、あんまり殺気をちらつかせんじゃねえよ。つい反応する奴が出たら、上に怒られるのはあんただぜ?」
「ふむ。それで魔王やセラフが出てくるなら一興だけど、コカビエルを止めた俺が、舌の根の乾かぬ内にそういうことをするのも無粋か」
ヴァーリは肩をすくめ、挑発目的の戦意も収める。
それを理解した男は手を放し、そしてアラタの方に顔を向けるとにかっとわらう。
「兄ちゃんもそこら辺にしときな。この手の輩はやるきがなくても戦意滾らせてるから、ピリピリしてると疲れるだけだぜ?」
肌の濃い、二十代後半ほどの男性だ。どこか愛嬌のある顔つきをしながら、しかし自分と似通った血煙が漂う場所に生きるもの特有の気配を漂わせている。
そんな、鞘に収まっているナイフのような男は、いつの間にか自分とアラタの間に割って入っていた。
「ほら、いい加減にし解かねえとグレモリーの嬢ちゃん辺りがマジで苦情を上に送るぜ? からかいってのは引き際見極めなきゃいけねえよ」
「そうだね。これ以上はアザゼルたちにも怒られそうだ」
その言葉にうなづくと、ヴァーリは肩をすくめて歩き出す。
どうもグレモリー眷属たちにも勘付かれたらしい。駆け足程度の速度で近づいているのがわかる。
さすがにこれ以上喧嘩腰で相手をされるのも面倒だ。そろそろ帰らないとシェムハザあたりが小言を言ってくるだろう。
そう考え、ヴァーリはそのまま歩き去ることにする。
ことを起こすのは会談当日ということになっているのだ。ここで暴れたらつまらないことになりかねない。
そのあたりをきちんと見極めて、ヴァーリは本格的に動くまで行動を自粛することを決めた。
此処で叩き潰しておけば駒王会談は比較的安全に終わったが、今回敵視している理由は完全な冤罪なので、アラタはこの時にヴァーリに複雑な感情を向けるしかない。そんな思いが生んだ今回のタイトルです。
現段階においては、あえてリアス達の庇護下に入らない方向性をとっているアラタ達。アラタは過去の歴史から「個人が善意を向けてるからと言って、組織の一員がそれだけで動けるわけじゃない」と理解しているので、イッセーからの好意に関してもあえて距離をとる方針です。
まあ、そんなスタンスなので駒王会談までは巻いていきます。その会談でアラタ視点のD×D事件を描き、そのあと禍の団がテロる感じですね。