ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#4 ふたりの火花(1)

 前回のあらすじ

 

 東京でのイベントに向けた新曲作りに手こずるAqoursの二年生。そのころ、三年生は卒業後の進路について語り合っていた。

 千歌「大学には、行かない気がする!」

 梨子「この近辺には、音大がないし」

 曜「勉強と部活だけの生活はしたくないんだ」

 それまでに、新しい景色を一緒に見ようと三人は約束する。

 一方、一年生部員は――

 こむぎ「どうすれば、Aqoursのメンバーになれるんですか?」

 ――努力の方向性を見失っていた。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 スクールアイドルのイベントでおなじみの、眼鏡の女性MCが、マイク片手にはっちゃける。

「いよいよラブライブ優勝グループ、Aqoursの登場です! 新しいリーダー黒澤ルビィちゃんのもと、元気でかわいらしい魅力をいっぱい振りまいちゃってね! 曲は『ハジマリロード』!」

 Aqoursの五人は、『東京スクールアイドルワールド』の舞台に帰ってきた。去年は二組目の出番だったが、今日の歌唱順は終盤のほうだ。

 

 

 曲が始まった。

 カラフルなキャンディーの包み紙を連想させるギンガムチェックの衣装をまとった五人は、軽快にステップを踏みながら、ステージを目まぐるしく動き回る。

 センターポジションはルビィだが、ボーカルは主に二年生が交互に歌い継ぐ。梨子と千歌は後方や両サイドで三人を支え、盛り上げる役回りだ。

 歌の内容は、スクールアイドルとしての経験を踏まえて、これまでの出会いや失敗、成長を振り返りつつ、終わらない旅がまた始まる――というと真面目に聞こえるが、言葉遊びを大胆に駆使した花丸の詞は、メンバーの期待をいい意味で裏切る、非常に諧謔的かつポップなものであった。

 それを受けて、この曲はかなり速いテンポでわちゃわちゃした曲調になった。二年生による編曲作業が行き詰まったことから、最終的には梨子が、必要以上に重なり合ったパートをそぎ落としてなんとかまとめたが、テンションの高さを保つためリズムセクションの手数が多く、音のおもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかなサウンドに仕上がった。

「ゼロを一に、じゃなくて、十に、百に、もっともっと大きな数字にしたいの。今の私たちなら、きっとできる!」

 出番の直前、舞台袖でメンバーに檄を飛ばした、Aqoursの新たなリーダー――ルビィは、色とりどりのライトを振る満員の観客の前で、精いっぱい歌い、踊った。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 沼津へ帰る電車の中、Aqoursのメンバーはボックス席で居眠りをする。ルビィだけが、乗降扉の脇の二人掛け席に離れて座り、一枚の紙を両手で持ち、見つめていた。去年と同様、イベント終了後に手渡された、観客の投票数が記された最終順位表である。

 Aqoursは出場した三十組のうちで十五位、九十七票。

 それが今回の結果だった。

 

 

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 #4 ふたりの火花

 

 

 ルビィは、自分たちの得票が伸び悩んだ理由を探った。

 翌日、部室のノートパソコンでひとり、ネット配信された当日のパフォーマンスを、上位入賞したグループと比較しつつ何度も見返す。

 昨日のAqoursには多くのコメントが寄せられていた。

 

 

――全体的にちんちくりんな件

――華がないwww三年生が卒業したらこの程度かwww

――それでもルビィちゃんは天使!

――曲はアゲアゲで衣装も悪くないけど、、

――なんで曜ちゃんいないの?

 

 

 総じて、反応は今ひとつだった。ラブライブで優勝したときとのギャップを指摘する意見が目立つ。

「ちんちくりん……華がない……」

 つぶやくルビィ。そこは十分すぎるほど意識していた。そして自分なりに、頭の中で分析してみる。

 

――上背があって華やかだったお姉ちゃんたちがもういないから、逆に、あえてわちゃわちゃ感を出してみたんだけど、その分小さくまとまっちゃって、インパクトが弱かったかもしれない。

  三人のうち、振付担当だった果南ちゃんの穴がいちばん大きいのかなあ……

 

 話し声とともに誰かが入室してきたので、ルビィは入口の方をチラッと見た。千歌と花丸だ。

「……菜々実ちゃんがどうしたの?」

「衝撃の事実ずら。今日の体育のマット運動で、菜々実ちゃん、軽々と連続バク転や宙返りをしてたずら」

「それって、私が去年の地区予選でやったみたいな?」

「うん、でもそれよりもっとすごい……理亞ちゃんよりもすごい……言葉で説明できないけど、見たこともない技を連続で」

「そうなんだー。菜々実ちゃん、ふだんおとなしい感じだから、意外だなー」

「前からやってるチアリーディングの練習で身につけたんだって」

「なるほどー。みんなすごいなあ、普通な私と違って。遼香ちゃんは頭いいし……」

 ルビィはパソコンの液晶ディスプレイをぼんやりと眺めつつ、二人の会話に耳をそばだてていた。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 三年U組の修学旅行――前年度に済ませているほかの三年生とは別個に実施された――で千歌たちが不在の間、ルビィはある行動を起こしていた。

 

 

 沼津駅北口の広場に面した商業施設の一階に、小ぢんまりとしたクレープ店がある。

 ルビィは、菜々実をこの店に呼び出した。

 建物の中にはシネコンやゲームセンターがあり、若者の姿が目立つ。クレープ店にいる客は、ルビィたちをはじめすべて女子高生だ。

「ルビィはまだ長袖なのね」

「教室とかで、冷房が当たったりするし……」

「マルも、まだカーディガン着てるよね」

 季節は既に六月で、高校生たちはみな夏服になっている。ルビィと菜々実も、白のブラウスに、冬用と同じ柄の薄手のスカートという姿で、胸元の赤い蝶々リボンは夏冬共用だ。

 二人はクレープを片手に持ったまま、自分たちの鞄で確保済みの小さな丸テーブルにドリンクを置いて、向かい合わせに座る。遼香に対しては苦手意識のあるルビィだが、人懐っこい菜々実とは初対面から数日で気さくに話せていた。

「さっそくだけど、本題に入ってもいいかな」

「うん」

「スリーマーメイズの、三人の役割分担はどうなってたの?」

「曲は温子(あつこ)が全部作ってて。私は振付を」

 ルビィの体がピクリと動いた。思わず声のトーンが上がる。

「菜々実ちゃん、振付できるんだ」

「まあ、チアリーディングで習ったことの応用みたいな感じかな。大したものじゃないけどね」

 ルビィは「チアリーディング」という単語に反応し、菜々実の半袖の先に目を向ける。太からず細からず、無駄な筋肉や脂肪がついていない、すっきりと締まった、健康的な肌色の二の腕をしていた。

「温子ちゃん、っていうのは転校しちゃった子だよね。遼香ちゃんは何を?」

「曲作りの段階だと、特にこれといった役割は……意見は出すけどね」

「そうなんだ」

「でも、遼香はうちのセンターだからね」

「やっぱり……そういう雰囲気あるよね」

 ルビィはここで、以前から気になっている件について尋ねてみた。

「ねえ、スリーマーメイズっていう名前は、誰が付けたの?」

「……誰、ってわけでもなくてね。温子が、人魚の出てくるアニメ映画が好きで、人魚っぽい名前がいいって言うから、遼香が『三人だからスリーマーメイズでよくね?』って流れで、なんとなく。ちょっと安直だよね」

 丸みを帯びたショートカットの後頭部を右手でかきながら、菜々実は答えた。その困ったような顔が同性から見ても愛らしく、ルビィは親しみを込めて、Aqoursの秘密を暴露する。

「実はそれ、今の三年生がAqoursってグループ名決めるとき、梨子ちゃんが考えてた名前とほとんど一緒なの!」

「ウソ!?」

「『スリーマーメイド』。安直だよね?」

「そうなんだー。梨子さん……」

 どちらからともなく小さな笑いが起きた。

 二人は、和やかにクレープを食べながら、話を弾ませる。

「練習はどこでしてたの?」

「温子の家に大きめのガレージというか、作業小屋があって。場所は我入道(がにゅうどう)だから学校からちょっと遠いけど、そこを使わせてもらってた」

「じゃあ、今は使えないんだ」

「そう。温子が抜けちゃって、かなりの痛手」

 ルビィは温子にも興味が湧いてきた。いったいどんな顔、どんな歌声だったのだろう。

「じゃあ、例のもの、見せてもらえる?」

「……うん」

 菜々実は遠慮がちに、鞄から淡い緑色のスマートフォンを出して、緊張ぎみに指先で少し操作してから、ルビィの前に差し出す。

「実はこれ……一般の人に見せるの、初めてなんだよね……」

 ルビィは食べ終わったクレープの包み紙をテーブルの隅に置いて、ドリンクのカップを脇にずらし、スマートフォンを手元に引き寄せて自分のイヤフォンを装着した。

 そして、動画を再生する。

 

 

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