ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#5 Lose control(1)

 前回のあらすじ

 

 東京のイベントで、順位が伸び悩んだAqours。

 ルビィの提案をもとに、ラブライブに向けてマーメイズの二人と合同ユニットを組むことになったが――

 善子「あんたが言う『対等』の意味がさっぱりわからないんだけど」

 中学の同級生だった善子と遼香は、互いを強く意識する。

 そして、遼香は激しい雷雨の中、堕天使に戦いを挑んだ――

「あなたなんかより、ずっと輝いてみせる!!」

 

 

   ▲▲▲

 

 

 窓ガラスの向こうで、木立が音もなく雨に打たれている。

 三年U組の教室では、窓側いちばん後ろの千歌の席を囲み、練習着姿のAqoursの五人が椅子に座って話し込んでいた。

「だってあの二人、ライバルに嫌がらせとかするような子じゃないよ」

「月ちゃんたちが仲裁してたみたいだけど、真相は結局やぶの中みたいね」

 千歌と梨子は、ある部活を巡る騒動を話題にしていた。

「ひどい話だよね。実力があるのに選ばれないなんて」

 ルビィはいつものように、両腕を胸の前で畳んでいる。花丸もいつもどおり、細長いパンにかぶりついているが、今日は定番のクリーム味ではなく、地元静岡産のメロンクリームをはさんだ季節限定商品である。

「浦女に何か恨みでもあるずらか」

「むっちゃんたちが怒るのも無理ないよ」

「でも、さすがにあれは逆効果よ。井上先生もおかんむりだったじゃない」

 ルビィが千歌に聞く。

「OGの人たちが監督解任を求めてるってほんと?」

「どうなんだろう」

「結果的に、力のある選手を干して予選落ちしてるしね。速攻コレでいいんじゃない?」

 善子が、自分の首を右手でスパッと切り落とすまねをしてみせる。

 そこへ、マーメイズの遼香と菜々実が遅れて来た。

「「失礼します」」

 教室後方の出入口で二人は几帳面にあいさつし、軽く一礼してから足を踏み入れる。菜々実はやや遠慮がちに、遼香のあとに続く。

 浦の星女学院出身ではない生徒たちが現れたので、梨子は千歌に、アイコンタクトで話題を打ち切るよう求めた。千歌がうなずく。

 その二人の背後で、穏やかならざる気配をまとった足音が止まる。

 千歌と梨子が振り返ると、不機嫌極まりない顔で、遼香が自分たちを見下ろしているのだった。

 

 

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 #5 Lose control

 

 

「聞きましたよ? 三年U組の先輩方数人が、浦女の制服で登校したそうじゃないですか。目的は、U組の部員を理不尽に干した剣道部の監督に抗議するため、とか。しかもその人たち、『こんな学校の制服着られるか!』って言ったらしいですね? だったら、とっととこの学校辞めてくれませんか?」

 遼香は、ふだんにも増してとがった口調で不満をぶちまけた。

「いったいいつまで浦の星女学院にしがみついてるんですか? そんな学校、もうどこにも存在しないんですけど?」

 千歌の表情がみるみる険しくなる。

 腰を上げた梨子が、

「彼女たちのやったことは校則違反よ。クラスメイトの私でも、擁護はできないわ」

と冷静に答えて話題を収束しようとしたが――

「昼休み以外の休み時間にスマホをいじるのも、校則違反ですよねぇ、桜内部長?」

「うっ」

 思いがけず痛いところを突かれた梨子は、動揺を隠せない。

「リリー……あんたもしかして……」

「そ、それはその、なんていうか、ほら、習慣っていうか、癖っていうか、その……」

 しどろもどろな梨子の横で、千歌がいきなり大声を上げた。

「ほかのクラスに迷惑かけてない!」

「千歌ちゃん」

「……開き直るんですか?」

 制止する梨子をよそに、千歌は遼香とにらみ合う。

 遼香はすぐに視線を外し、トーンを下げる。

「まあ、風紀委員でもない私から諸先輩方にいちいち言うことでもないんですけど。ここの教室、うちの生徒たちから陰でなんて呼ばれてると思います?」

「遼香ちゃん」

「それは言ったらダメずら」

「……いいわ、聞かせて」

 梨子のリクエストに、遼香は応じた。皮肉めいた笑みを浮かべながら。

「『静真高等学校 浦の星女学院分校』」

「……ええっ?」

「分校って……」

 ――それは、浦の星からの編入生が隔離されそうになった、朽ちた施設の名称、そのものだった。学校当局による分校送りを撤回させるため奮闘したのに、今になってほかの生徒たちから分校呼ばわりされていると知り、梨子も千歌も衝撃を受ける。

 善子は広げた右手の三本指をそのまま額に当て、情けないといった風情でこぼした。

「この際だから教えるけど、『出島』とも呼ばれてるわ……外国人居留地ってことね」

 教室の位置だけでなく、カリキュラムや修学旅行なども分離されているせいで、三年U組は日ごろからほかのクラスとの交流が乏しく、自分たちだけで固まりがちだったのだ。

「三年U組は浦女に由来する勝手なルールが多くて、静真の校則と相反するものもあると聞いてます。開放的な海辺の田舎で、規則とか頭とか、制服の着こなしとかいろいろ緩かったんでしょうけど」

 日常的に緑のネクタイをルーズに着けている千歌は、母校や自分たちを小馬鹿にした遼香の発言を看過できなかった。血相を変え、衝動的に席を立つと――

「田舎じゃないもん!」

 先に叫んだのはルビィだった。驚いた六人の目が一斉に注がれる。

 だがルビィはすぐにハッと思い直し、

「田舎か……」

と漏らして、座ったままうなだれる。

「ま、まあ、沼津のこのへんだって、東京に比べたら田舎だよね」

 あわてて取り繕った菜々実が、横にいる遼香をにらみながら肘でグイとつつく。

「言いすぎ!」

「……でした。すみません」

 遼香は、ペコリと頭を下げる。しかしすぐに、何事もなかったように話を再開した。

「とにかく、U組の緩いローカルルールが、ほかのクラスに悪影響を与えかねないってことを、もっと自覚していただけませんか? 実害がまだ及んでないって理由で、生徒会は静観してるらしいですけど、私は納得できません!」

 そして遼香は、三年U組の二人に毅然とした態度で迫る。

「ここは静真高校です。『郷に入っては郷に従え』って言葉、ご存じですよね?」

「わかったわ。指摘は厳粛に受け止めます」

 正論を吐く遼香に対し、梨子は仏頂面でひとまずそう答える。

 だが、千歌は違った。遼香に背を向けながら、激しく反発した。

「……規則や頭が緩くたって、問題なんか起きてない!」

「千歌ちゃん!?」

「それに、浦の星女学院は、私の……私たちの中に、ずっとずっと生きている……なくなってなんかない!!」

 自分の席で下を向いて立ったままの千歌は、最後に、きつく握りしめた両手で机を叩いた。

 遼香は、千歌の背中から放たれる気迫にのまれ、それ以上問い詰めることができない。

 

 

 とても部活動を始める雰囲気ではなかったが、しかし、この日は千歌に代わって別のメンバーが、空気を変えた。

「これからみんなで練習だから、千歌ちゃんも遼香ちゃんも、今日はここまでずら」

 花丸は優しく声をかける。母性に満ちた微笑みで、覆い包むように。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 そのころ学生食堂では、一年生のこむぎと雪奈(ゆきな)が、しょんぼりと、並んで白いテーブルに着いていた。

「みんな、来なくなっちゃった」

佳織(かおり)ちゃんと美麻(みま)ちゃんはきっといつものカラオケ屋さんで、かえでちゃんと桃子(ももこ)ちゃんは駅前のゲーセンに入り浸り」

「楽しいのかな? そんな過ごし方してて」

 二人は自動販売機で買った紙パックの飲料をストローで飲む。雪奈はヨーグルトドリンク、こむぎはカフェオレ。同時にストローから口を離し、同時にため息をつく。

「これじゃラブライブにエントリーどころじゃないよ。私もう、どうしていいかわかんない」

 椅子の背板にもたれながら、雪奈が愚痴る。

「わかってるんだけどね……何かしないと始まらないって」

 こむぎは、ここ数日で何度も繰り返した、苦い回想に改めてふけった。

 

 

 部の全体ミーティングで報告されたAqours & Mermaids発足の知らせは、Aqours入りを夢見ていた一年生たちにとって青天の霹靂(へきれき)だった。

「つまり、秋になるまでAqoursは新メンバーを受け入れないってことですよね?」

「じゃあいったい私たち、どうすれば、Aqoursメンバーにしてもらえるんですか!」

 不満をあらわにする雪奈に続き、こむぎは悲痛な声を上げた。

 何度となく繰り返してきた自分たちの訴えに、曜を含むAqoursのメンバーは、困った様子で顔を見合わせたり下を向いたりしている。しかし善子だけは、テーブルに右腕で頬杖をつき、他人事のような態度だった。右隣に座るこむぎからはお団子頭(シニヨン)しか見えていない。

 Aqoursが回答をためらっていると、それは意外な人物から返ってきた。吐き捨てるように。

「当人たちに聞いてる時点でダメでしょ」

 部員全員の注目を浴びて、遼香が起立する。

 

 

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