ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon 作:Le Nereidi
「Aqoursのメンバーになれる方法なんて、もともとないんじゃないの? Aqoursの人たちが一緒にやりたいって思えた人だけが、声をかけてもらえるんじゃないの?
だから、『Aqoursに
遼香はAqoursの意思決定に関与していないはずだが、発言には妙な説得力があった。それでも、Aqoursに加入する気のない遼香たちが自分たちを差しおいてAqoursと一緒にラブライブを目指す、という不条理は、こむぎには受け入れがたく、恨めしかった。
遼香は勝ち誇るように長い黒髪をかき上げる。
「……僭越でした。失礼」
「いいこと言うじゃない。たまには」
いつの間にか両腕を堕天使の構えに戻した善子が言う。着席した遼香は、最後のフレーズで口をへの字に曲げた。
そして、善子は信じられない言葉を口にした。
「まったくもって、遼香の言うとおりよ。私たちが直接言いにくかったことを、見事に代弁してくれた……ま、そういうことね」
隣の先輩から非情な事実と視線を突きつけられたこむぎは胸が苦しくなり、声を出して泣きそうになった。悪い夢を見ているのか。悪い夢であってほしい――
「何を隠そう、この堕天使ヨハネ、類いまれなる美貌と堕天の力に魅せられたリトルデーモンたちから、三顧の礼をもってAqoursに迎えられたのです」
善子は得意げに語る。堕天使の
「……いちおう、今の善子ちゃんの話は、でたらめとかじゃないからね」
「フフフッ……ヨハネよ」
曜が遠慮がちに補足する。それでも菜々実やほかの一年生たちは戸惑った様子だった。
ただ、遼香だけは直感的にすべてを悟ったらしく、不敵な笑みをたたえる善子をテーブル越しに見つめていた。
「『Aqoursに入ってください』って言われる人ってどんな人なんだろう」
「津島先輩みたいに奇抜なキャラだったり、桜内先輩みたいに曲が作れたり……」
「ルビィさんや花丸さんみたいに、外見がかわいかったり……」
「私たち、全然当てはまらないよね」
目が細くアイドル顔とは言いがたい雪奈と、地黒で田舎の中学生感が抜けないこむぎは苦悩を深める。
こむぎは、腕を枕代わりに、左向きの頭をテーブルの上に載せた。
学生食堂は放課後、部室を持たない文化系同好会の活動場所となっており、そのほとんどはマイペースな趣味的活動である。こむぎの視界には、スイーツ同好会のにぎやかな品評会が、左に九十度傾いた状態で映っていた。
「味はいまいちかな。なんかこってりと盛ってる甘さだし、スポンジの生地も弾力性がないし」
「その割に高くない? あげつち商店街のケーキ屋のほうがコスパいいよね」
「だよね。コンビニスイーツとしてどうなのって感じ」
「でも作るほうも大変だよ。何が売れるかなんてわからないんだから」
「そうよね。来週も新商品出るみたいだし、また試してみない?」
他愛ない、でも楽しそうな、同好会の活動ぶりをしばらく眺めていたこむぎの頭にふと、まとまった考えが浮かぶ。
「……私たち、試されてるんじゃないかな」
「試されてる?」
「うん。Aqoursに入る以前に、スクールアイドルとしてどうなのって」
こむぎは上体を起こし、思いついたことを一気に話し始めた。
「遠藤先輩の言ってたとおり、Aqoursのメンバーになる方法なんてないんだよ。Aqoursの人たちも、今までそれを意識してなかった。だからきっと、曖昧な答えしか返してくれなかったんだ」
「……」
「で、どういった人がAqoursに入れるのか、私たちにはわからない。ただ、最低でも、『私はこういうスクールアイドルです』っていう、芯みたいなものを持ってて、しかも見てくれた人にそれをきちんと伝えられる、そんな人だと思うんだ。それができるかどうかが、試されてるんじゃないかな」
「私は、こういうスクールアイドルですっていう、芯……」
「だから……とりあえずさ、いったんAqoursは横において、まずは歌とダンスのスキルアップをしてかない? 私はヒップホップダンスやってるし、
話し終えたこむぎは、カフェオレの残りを飲み干し、ふぅと大きく息を吐く。表情に、少し元気が戻ってきた。
「わかった。まずは歌とダンス、だね」雪奈も吹っ切れた顔をしている。「それに、筋トレもしっかりやらなくちゃ」
「体幹鍛えて、スタミナつけて。基礎体力が必要だよ。秋に文化祭があるから、いちおうそのへんを目標にして……」
▲▲▲
「これって必要なんでしょうか」
ある日遼香が、Aqours & Mermaidsの練習内容に疑問を呈する。七人は雨上がりのグラウンドの片隅に集まっていた。
「ランニングは基礎体力を作るためのもので、予選も近い今、わざわざ無理してやるべきことではないと思いますけど。長雨で足元も悪いですし」
「今度は何よ」
善子は気づかれないようにささやく。
「これは……前からルビィたち……ううん、私たちが続けてるメニューで……」
ルビィの声は小さい。遼香と視線を合わせるのを避けている。
「ライブで何曲も歌って踊れるだけの、スタミナをつけるために……」
「Aqoursとしてはそうかもしれないけど、私たちがラブライブの予選で歌うのは一曲だけでしょ?」
「あ……」
「走るにしても、ワンセット五分でその分負荷を高めるとか、工夫したほうがよくない? それとも、貴重な時間を使って漫然と無意味な練習させるわけ? Aqoursってそういうグループなんだ?」
「……」
ルビィはリーダーでありながら、うまく言い返せない。困りながら、胸元に引きつけた左右の握りこぶしを見つめる。
「意味はあるわ」梨子が遼香の前に進み出た。「私たちはAqoursとしての活動も、並行して続けてる。その中の一つよ」
「ですがそれは……」
「しかも、予選を控えた大切な時期だからこそ、私たちのこれまでのやり方を大きく変えたくないの。わかる?」
「わかるわけないじゃない」善子が毒づく。「予備予選すら出れてないんだし。菜々実、あんたはどう思ってるのよ」
「えっ? べ、別に……」
急に振られた菜々実は口を濁す。その様子を受けて、善子と梨子は幕引きにかかる。
「六対一ね。却下」
「じゃあ、始めるわよ」
「ちょっと待ってください! もう少し議論させてくだ……」
「遼香ちゃん」
梨子の後ろで背中を向けた千歌が、静かに口を開く。そして、ささくれた声で次に発した言葉は、遼香が予想しないものだった。
「時間がもったいないから」
「……高海さん?」
「そんなに嫌なら、私たちに付いてこなくていい」
突き放され愕然とする遼香。千歌は顔を見せぬまま、走り去る。
「ルビィちゃん、行きましょ」
梨子とルビィが千歌を追う。
「口だけは一人前ね」気だるそうなまなざしで、善子が遼香に吐き捨てた。「菜々実、ずら丸、行くわよ」
菜々実は遼香を気にしつつ、善子のあとに続いた。
五人の姿がだんだん遠くなっていく。
「ごめんね、遼香ちゃん」
残った花丸が、案じて声をかけた。
「言いたいことはわかるけど……言い方を考えたほうが、いいと思うよ」
遼香は何も答えず、ひとり校舎の方へ歩いていった。