ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#1 水平線のかなたへ(3)

 スクールアイドル部の設立は、申請からわずか二日で承認された。Aqoursの実績の賜物かと思われた。部室は四月中に用意される見込みだという。

 

 

 その数日後、学校内のグラウンドに、スクールアイドル部員と入部希望者たちの走る姿があった。思い思いの練習着を着た部長の梨子、千歌、善子、ルビィが先頭集団で、二十人近くの青いジャージ姿の一年生が続く。集団に置いていかれつつある数人を見守るように、花丸が

「焦らなくていいよ。自分のペースで走ろう!」

と声をかけながら伴走する。

 そんなAqoursと一年生の様子を、遼香と菜々実はグラウンドの片隅から、制服のまま見物していた。

「渡辺さんがいないみたいだけど」

「今日は水泳部だって」

「そういう吉原のチア部のほうはどうなのよ。こっちと両立できる?」

「そこはまあ、なんとか」

 菜々実は答えつつ、前日に学生食堂で行われたスクールアイドル部のミーティングを思い起こしていた。

 

 

「今ここにいる一年生全員がAqoursに入りたいってことでいいのね? では最初に、部長の私からみんなに話をします。

 Aqoursのメンバーになれる保証は誰にもありません。それに、メンバーになれたとしても、中途半端な気持ちではラブライブに出ることなんてできません。Aqoursに頼らず、遼香ちゃんたちのグループに加えてもらうとか、自分たちで新しくグループを作るっていう選択肢もあるから、それも十分頭に入れておいてください。

 スクールアイドル部はできたばかりで、まだ部室もないし、ちゃんとした練習場所もありません。なので、しばらくは体験入部というかたちで、ラブライブの厳しさを体で知ってもらうために、私たちが()()()やっている体力トレーニングを、みんなにもやってもらおうと思っていますけど……それでいいかしら?」

 

 

 毅然とした態度で新入生に臨む梨子の姿が、菜々実の記憶に強く残っていた。グラウンドを走るAqoursと青ジャージの一群に改めて視線を移し、つぶやく。

「でも、あれじゃあほとんど運動部だね」

「ラブライブ優勝グループ様はレベルが違うわ」

 遼香は(とげ)のある表現で返す。

「私たちの体力だったら楽勝なのにね」

「うちらの問題は別のところにあるんだよなあ」

 遼香は後頭部で両手を組み、薄曇りの空を思案顔で見上げる。菜々実は、申し訳なさそうに頭を垂れていた。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 ところで、Aqoursの新メンバーを補充するのかしないのか、実はまだ方針は定まっていなかった。

 その件について話し合うべく、メンバー六人は、沼津駅の北口に近いショッピングセンターのファストフード店に立ち寄った。

 地階に位置するその店は、地盤を掘り下げた小広場に面しており、ガラス窓から自然光が入ってくる。ここで何か食べながらみんなでじっくり議論しよう、という狙いだが、高校生や親子連れが思いのほか多く、にぎやかだ。

「本気度を試すために()()()()()のトレーニングをするっていうのは、どうだったんだろう」

 ルビィが小声で漏らした言葉に、善子が

「だからって十人以上の後輩の面倒なんて見きれないわよ、自分たちで勝手にスクールアイドルやるんならともかく。それに、ラブライブの厳しさを早いうちにわかったほうが、あの子たちのためにもいいんじゃない?」

と、平然と答える。

 スクールアイドル部の体力トレーニングに参加する青いジャージの人数は、日に日に少なくなり、一桁まで減った。最終的に入部届を提出した一年生に対しては、Aqoursに入れる保証はない旨、梨子から重ねて念を押してある。

 その入部届が、六人が着いたテーブルの真ん中に、食べこぼしなどで汚さぬようクリアファイルにはさんで置いてある。上から順に記入された氏名は、真野こむぎ、広瀬雪奈、水口かえで、勝又桃子、望月佳織、秋山美麻。

「結局、新入部員は六人、ずらか」

 花丸はそう言って、一個目のハンバーガーにかぶりつく。

「冷やかし組が減って、このくらいでよかったんじゃない? ……ていうか、あんたまた二個食べるの!?」

 花丸の食欲にあきれつつ、善子はポテトをひょいとつまんで口に放り込む。

「それでも六人全部をAqoursに加えたら十二人よ。多くないかしら」

「人数が増えるとフォーメーションとか歌のパート分けが複雑になりそうだね」

 ドリンクを飲みながら、梨子と千歌が気がかりな点を挙げる。

「でも、新しいメンバーは何人か増やしたほうがいいと思うの」

 きっぱりと主張するルビィに、善子が反論した。

「私はむしろ、今の六人でかまわないと思うけど」

「どうして?」

「Aqoursは何人って決まってるわけじゃないでしょ? 私はこの六人で、やれるところまでやってみたいの。それにあの子たち、大して苦労もせずAqoursに入れると思い込んでない? そこがちょっと引っかかるのよ」

「それを言うなら、善子ちゃんは大して苦労もせずAqoursに入ってるずら」

「ヨハネ! 私はただ、ここにいるみんなから入ってくださいって頼まれて、街じゅうぐるぐる追いかけ回されて、しかたなく入っただけよ。しかたなくね!」

 ハンバーガーを食べながら放った花丸のツッコミに、善子はムキになって言い返した。その内容は「しかたなく」以外、事実であった。

「あったねーそんなこと。私が必死にメンバー集めてたころだよ」

 千歌は、ふらふらになるまで走り続けた夏の日の朝を思い出し、苦笑する。

 梨子も当時を振り返りつつ思った。

――昔と今とでは、走り続ける意味が正反対になっちゃったわ。去年は一年生を勧誘するため、今年は一年生を振り落とすため……

 Aqours加入希望者に課したハードトレーニングは、梨子の発案だった。

「あのころと今とじゃ状況が違うから、同列には語れないわ。ルビィちゃんは、なぜ新しいメンバーを入れたほうがいいと思う?」

 梨子の問いかけにルビィは、自分の感じたことを率直に、熱っぽく口にした。

「この前の駅前ライブは、お姉ちゃんたちがいなくても頑張ってどうにかなったし、メンタルはもう大丈夫だと思うんだ……でも六人だけだと、やっぱり何かが足りない気がするの。六人で九人分のパワーを出すのは無理があるんじゃないかなって。だからルビィは、できるだけ早く、三人くらい入れたほうがいいと思う!」

「私も、なるべく早めに新しいメンバーを選んで、チームワークをしっかり整えてからラブライブ予選に臨みたい、とは思うんだけど」

 千歌もほぼ同意見であるが、その口ぶりは冷静だ。

 黙って聞いていた曜がようやく言葉を発する。

「そういえば、予備予選の日程が去年より一ヶ月ほど前倒しになるって噂があるよね」

 声がいつもと比べて小さい。

「そうなの?」

 千歌には初耳だった。

 梨子は考えを巡らせる。

「仮に七月下旬だとすると、あと三ヶ月。メンバーを増やすタイミングが難しいわね。先送りしすぎると、ラブライブに向けたチーム作りに支障が出るし。遅くても六月下旬あたりから、決勝が終わるまでの間はメンバーを固定したほうがいいんじゃないかしら」

「じゃあ、やっぱり早めに新しいメンバーを……」

「どうやって選ぶつもり?」

 ルビィは善子の指摘にハッとした。そこまで深くは考えていなかった。

 

 

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