ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#1 水平線のかなたへ(4)

「どうやって、って……そ、それは……その……」

「問題はそこなんだ。六人の中から何人を、どうやって選ぶのか……私も考えてはいるんだけど、いい方法が浮かばなくて」千歌が落ち着いた口調で引き取る。「それに、選ばれなかった子たちのこと。理由をどう説明すればいいのか、そのあとどういうフォローをすればいいのか」

 現メンバーが主体的に、公正かつ明確な理由をもって、加入希望者から新メンバーを選出しなければならない。一年前は想像もしなかった状況だ。Aqoursもまた試されている。

「確かに。難しいわね」

 梨子がつぶやく。

「いっそ、十二人でやってくってのは……」

 千歌はそう言って、みんなの様子を見る。善子が無言で首を横に振る。ほかのメンバーも黙ったまま下を向く。やはり、六人全員を受け入れるのは多すぎる、という共通認識はあった。

「だよね……曜ちゃんは、どう思う?」

 千歌から意見を求められた曜は、微妙な笑みを浮かべつつ、元気なく、思いがけない言葉を口にした。

「どっちがいいんだろうね……よく、わかんないや」

 ふだんの曜らしくない、消極的で投げやりともとれる発言に、千歌と梨子は顔を見合わせ、再び曜の方を見た。

 一瞬の間が空く。

「……花丸ちゃんは?」

 ルビィに聞かれて、一個目のハンバーガーをちょうど食べ終えた花丸は、入部届を手元に引き寄せ、おもむろに語る。

「おらたち、この子たちのこと全然わかってないずら。だから、選ぼうにも選びようがないずら。おらたちが最初にやるべきは、この子たちをよく知ること。そして、おらたちを知ってもらうこと。おらはそう思うずら」

 ど直球の正論に、誰も反論できなかった。花丸は食いしん坊だが、ただ漫然とハンバーガーを食べていたわけではない。

 善子と梨子がまとめに入る。

「とにかく、急いで無理に人数を増やす必要はないと思うけど。なんなら九月の決勝が終わってからでもいいんじゃない?」

「そうね……花丸ちゃんが言うとおり、今はまだ選ぶ段階じゃない気がするわ。とりあえず、しばらくは一年生の様子を見ることにしたらどうかしら。選び方については、その間にもう少し話し合いましょう。ルビィちゃん、どう?」

「うゅ……じゃあ、しばらく一年生の様子を見る、ということで……」

 リーダーに就いたのに、自分の意見が通らなかったばかりか議論をリードすることもできず、ルビィは目線を落とし、徐々に消え入るような声になっていった。

 

 

 曜はこの日も自分からはあまり発言せず、ときおり思いつめるような表情も見せ、いつもの朗らかな曜ではなかった。

 新入生を巡る談義が一段落したとき――

「曜ちゃん」

「……えっ?」

「……ひとりで、何か抱え込んでない?」

 千歌に優しく問いかけられて曜は動揺し、無言のまま下を向く。向かいの席の二年生たちは思わず顔を見合わせた。

「今ここで無理に話さなくてもいいのよ」

 梨子が気づかう。

 曜はためらっていたが、やがて、膝の上に置いた両手を、力を込めて強く握る。

「実はね。私……」

 意を決し語り出した。

「しばらくの間……」

 一呼吸ののち、正直な気持ちを仲間に伝える。

「……ラブライブより、高飛込を優先したいんだ」

 二個目のハンバーガーを食べていた花丸の口の動きが止まる。

「知ってのとおり、私は水泳部とスクールアイドル部を掛け持ちしてて。飛込のほうは、去年の県大会のあと、スクールアイドルに専念しちゃったから、それからはインターハイとかの大会には全然出てなくて。でも、その分ここにいるみんなとスクールアイドルを全力でやって、ラブライブで優勝できた」

 千歌は表情を変えず、優しいまなざしのまま曜の気持ちを受け止めている。

「浦女の廃校は阻止できなかったけど、自分の中ではある程度、やりきった感があるんだ。だから、今年は高校最後の年だし、飛込でもう一度インターハイに出てみたい。優勝するほどの力はないけど、どこまでできるか、全力で自分を試してみたいんだ」

 うつむきがちに、しかししっかりとした口調で話す曜の言葉を、ほかのメンバーは黙って聞いていた。ルビィの顔に不安の色が浮かぶ。

 梨子が心配そうに問いかける。

「……それは、いつまで?」

「六月に県大会、七月に東海大会があって、インターハイが八月下旬。成績が良ければ、九月の国体と日本選手権にも出れるんだ」

「九月……」

 曜の答えに、梨子の顔色が変わった。

「ごめんね、私、曜ちゃんの飛込について今まであまり知る機会がなかったから、むちゃなこと言うかもしれないけど、両方全力でやるっていうわけにはいかないの?」

「梨子ちゃんそれは無理だよ。両方ともすごく体力使うんだよ? 体力には限りがあるし」

 千歌が曜を弁護する。

「でも、菜々実ちゃんもチアリーディング部と掛け持ちするみたいだし……」

「どっちか手抜くんじゃないの? もしかすると両方ともね。だいたい両方とも全国レベルじゃないでしょあの子。曜と一緒にしてほしくない」

「善子ちゃんそれは言いすぎずら」

「それに、八月のラブライブ地区予選とインターハイ、九月のラブライブ決勝と日本選手権は、だいたい時期が重なっちゃうんだ」

「そんな……」

 梨子は愕然とする。本番が重なってしまっては、どちらかを諦めざるを得ない。昨年の梨子自身がそうだった。

 花丸とルビィは先行きを危惧した。

「だとしたら、Aqoursは五人で……」

「しかも、なんでも器用にこなせる曜ちゃんがいない、となると……」

 曜は下を向いたまま、それでも仲間の不安を和らげようと、言葉を継ぐ。

「あのね、飛込のシーズンは長くても九月で終わりだから、そのあとはみんなとスクールアイドル活動できそうだし、今ある手持ちの曲をイベントで歌うとかだったら、それより前でも大丈夫かもしれない。私自身ラブライブに出られなくても、みんなの衣装についてはできる限り協力するから……ごめんね、わがまま言って」

 若者の笑い声や子供の雄たけびが飛び交いにぎやかな店の中で、青いブレザーを着た六人の周囲にだけ重苦しい空気が漂う。曜の向かいに座る善子は、両手で堕天使の構えをとりながら目をつむって考え込む。善子の右隣では両腕を胸の前で閉じたルビィが、Aqoursの行く末を案じる。さらに隣の花丸は食べかけのハンバーガーそっちのけで視線を宙にさまよわせ、その真正面にいる梨子の顔は、衝撃のあまり口が半開きのまま固まっている。

 ただひとり、表面上は穏やかさを保っている千歌が、ぽつりと漏らした。

「……言えないよ」

 曜は顔を上げ、左隣の千歌を見る。

「ダメなんて言えるわけない。高一のときまで全力で飛込やってた曜ちゃんが、それを犠牲にしてまで、スクールアイドルやりたいって言った私に付き合ってくれたんだもん」

「千歌ちゃん、それは私が選んだ道だから、別に、犠牲にしたってわけじゃ……」

「でも結果的に、曜ちゃんはインターハイの最終予選を棄権した。県大会から先の記録は残ってない。だから、曜ちゃんには今年はいい記録を残してほしいって思ってる」

「千歌ちゃん……」

 千歌は体を右へ向け、曜の膝の上の両手を、自分の両手で包み込む。

「曜ちゃんには、曜ちゃんがいちばんやりたいことをやってほしい。だから……」

 千歌は、決然たるまなざしで力強く告げた。

「……次のラブライブには、残りのメンバーで挑戦する!」

「千歌ちゃん!?」

 驚くほかの四人。

「だから……だから曜ちゃんは、インターハイで、その先の大会で、いい記録を残してほしい!」

「……」

 千歌を見つめる曜の瞳が、少しずつ潤みを帯びていく。

「……おらも同じ気持ちずら」

「私たちは、インターハイで堕天降臨するリトルデーモン・曜の目撃者となるのです」

「五人でも何人でも、やるしかないよね。曜ちゃん、飛込がんばルビィ!」

 二年生たちは次々に賛同した。

 最後に、梨子が自分を納得させるかのように、千歌の背中越しに言葉を絞り出す。

「……私は、次のラブライブにも、曜ちゃんと一緒に出たかった。でも、去年私がピアノコンクールで予選に出られなかったとき、曜ちゃん、私の分まで頑張ってくれた……だから今度は、私が曜ちゃんの分も頑張る!」

 五人の意見がそろった。

 感極まった曜は唇を噛みしめ、軽く鼻をすすり、千歌に両手を握りしめられたまま立ち上がる。

「みんな、ありがとう……迷惑かけて、ごめんね」

 頭を下げ、そして曜らしい、それでいて多少ぎこちない笑みを作って言った。

「飛込の大会が全部終わったら、またみんなで一緒にやろう」

「……うん!」

 曜を見上げる千歌は笑顔でうなずいてから、ほかのメンバーの様子を気にかける。梨子だけが、こわばったまま、現実を受け止めきれていないようだった。

 

 

 静真高校スクールアイドル部のAqoursは、曜を除く実質五人で船出をした。

 部室のドアの前に立つ五人。自転車に乗ってひとり下校する曜。

 新たなる航路の先、水平線の向こうにはどのような景色が待っているのか。それはまだ誰にも見えない。

 

 

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 次回 #2「練習場所がない!?」

 

 

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