ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon 作:Le Nereidi
「どうやって、って……そ、それは……その……」
「問題はそこなんだ。六人の中から何人を、どうやって選ぶのか……私も考えてはいるんだけど、いい方法が浮かばなくて」千歌が落ち着いた口調で引き取る。「それに、選ばれなかった子たちのこと。理由をどう説明すればいいのか、そのあとどういうフォローをすればいいのか」
現メンバーが主体的に、公正かつ明確な理由をもって、加入希望者から新メンバーを選出しなければならない。一年前は想像もしなかった状況だ。Aqoursもまた試されている。
「確かに。難しいわね」
梨子がつぶやく。
「いっそ、十二人でやってくってのは……」
千歌はそう言って、みんなの様子を見る。善子が無言で首を横に振る。ほかのメンバーも黙ったまま下を向く。やはり、六人全員を受け入れるのは多すぎる、という共通認識はあった。
「だよね……曜ちゃんは、どう思う?」
千歌から意見を求められた曜は、微妙な笑みを浮かべつつ、元気なく、思いがけない言葉を口にした。
「どっちがいいんだろうね……よく、わかんないや」
ふだんの曜らしくない、消極的で投げやりともとれる発言に、千歌と梨子は顔を見合わせ、再び曜の方を見た。
一瞬の間が空く。
「……花丸ちゃんは?」
ルビィに聞かれて、一個目のハンバーガーをちょうど食べ終えた花丸は、入部届を手元に引き寄せ、おもむろに語る。
「おらたち、この子たちのこと全然わかってないずら。だから、選ぼうにも選びようがないずら。おらたちが最初にやるべきは、この子たちをよく知ること。そして、おらたちを知ってもらうこと。おらはそう思うずら」
ど直球の正論に、誰も反論できなかった。花丸は食いしん坊だが、ただ漫然とハンバーガーを食べていたわけではない。
善子と梨子がまとめに入る。
「とにかく、急いで無理に人数を増やす必要はないと思うけど。なんなら九月の決勝が終わってからでもいいんじゃない?」
「そうね……花丸ちゃんが言うとおり、今はまだ選ぶ段階じゃない気がするわ。とりあえず、しばらくは一年生の様子を見ることにしたらどうかしら。選び方については、その間にもう少し話し合いましょう。ルビィちゃん、どう?」
「うゅ……じゃあ、しばらく一年生の様子を見る、ということで……」
リーダーに就いたのに、自分の意見が通らなかったばかりか議論をリードすることもできず、ルビィは目線を落とし、徐々に消え入るような声になっていった。
曜はこの日も自分からはあまり発言せず、ときおり思いつめるような表情も見せ、いつもの朗らかな曜ではなかった。
新入生を巡る談義が一段落したとき――
「曜ちゃん」
「……えっ?」
「……ひとりで、何か抱え込んでない?」
千歌に優しく問いかけられて曜は動揺し、無言のまま下を向く。向かいの席の二年生たちは思わず顔を見合わせた。
「今ここで無理に話さなくてもいいのよ」
梨子が気づかう。
曜はためらっていたが、やがて、膝の上に置いた両手を、力を込めて強く握る。
「実はね。私……」
意を決し語り出した。
「しばらくの間……」
一呼吸ののち、正直な気持ちを仲間に伝える。
「……ラブライブより、高飛込を優先したいんだ」
二個目のハンバーガーを食べていた花丸の口の動きが止まる。
「知ってのとおり、私は水泳部とスクールアイドル部を掛け持ちしてて。飛込のほうは、去年の県大会のあと、スクールアイドルに専念しちゃったから、それからはインターハイとかの大会には全然出てなくて。でも、その分ここにいるみんなとスクールアイドルを全力でやって、ラブライブで優勝できた」
千歌は表情を変えず、優しいまなざしのまま曜の気持ちを受け止めている。
「浦女の廃校は阻止できなかったけど、自分の中ではある程度、やりきった感があるんだ。だから、今年は高校最後の年だし、飛込でもう一度インターハイに出てみたい。優勝するほどの力はないけど、どこまでできるか、全力で自分を試してみたいんだ」
うつむきがちに、しかししっかりとした口調で話す曜の言葉を、ほかのメンバーは黙って聞いていた。ルビィの顔に不安の色が浮かぶ。
梨子が心配そうに問いかける。
「……それは、いつまで?」
「六月に県大会、七月に東海大会があって、インターハイが八月下旬。成績が良ければ、九月の国体と日本選手権にも出れるんだ」
「九月……」
曜の答えに、梨子の顔色が変わった。
「ごめんね、私、曜ちゃんの飛込について今まであまり知る機会がなかったから、むちゃなこと言うかもしれないけど、両方全力でやるっていうわけにはいかないの?」
「梨子ちゃんそれは無理だよ。両方ともすごく体力使うんだよ? 体力には限りがあるし」
千歌が曜を弁護する。
「でも、菜々実ちゃんもチアリーディング部と掛け持ちするみたいだし……」
「どっちか手抜くんじゃないの? もしかすると両方ともね。だいたい両方とも全国レベルじゃないでしょあの子。曜と一緒にしてほしくない」
「善子ちゃんそれは言いすぎずら」
「それに、八月のラブライブ地区予選とインターハイ、九月のラブライブ決勝と日本選手権は、だいたい時期が重なっちゃうんだ」
「そんな……」
梨子は愕然とする。本番が重なってしまっては、どちらかを諦めざるを得ない。昨年の梨子自身がそうだった。
花丸とルビィは先行きを危惧した。
「だとしたら、Aqoursは五人で……」
「しかも、なんでも器用にこなせる曜ちゃんがいない、となると……」
曜は下を向いたまま、それでも仲間の不安を和らげようと、言葉を継ぐ。
「あのね、飛込のシーズンは長くても九月で終わりだから、そのあとはみんなとスクールアイドル活動できそうだし、今ある手持ちの曲をイベントで歌うとかだったら、それより前でも大丈夫かもしれない。私自身ラブライブに出られなくても、みんなの衣装についてはできる限り協力するから……ごめんね、わがまま言って」
若者の笑い声や子供の雄たけびが飛び交いにぎやかな店の中で、青いブレザーを着た六人の周囲にだけ重苦しい空気が漂う。曜の向かいに座る善子は、両手で堕天使の構えをとりながら目をつむって考え込む。善子の右隣では両腕を胸の前で閉じたルビィが、Aqoursの行く末を案じる。さらに隣の花丸は食べかけのハンバーガーそっちのけで視線を宙にさまよわせ、その真正面にいる梨子の顔は、衝撃のあまり口が半開きのまま固まっている。
ただひとり、表面上は穏やかさを保っている千歌が、ぽつりと漏らした。
「……言えないよ」
曜は顔を上げ、左隣の千歌を見る。
「ダメなんて言えるわけない。高一のときまで全力で飛込やってた曜ちゃんが、それを犠牲にしてまで、スクールアイドルやりたいって言った私に付き合ってくれたんだもん」
「千歌ちゃん、それは私が選んだ道だから、別に、犠牲にしたってわけじゃ……」
「でも結果的に、曜ちゃんはインターハイの最終予選を棄権した。県大会から先の記録は残ってない。だから、曜ちゃんには今年はいい記録を残してほしいって思ってる」
「千歌ちゃん……」
千歌は体を右へ向け、曜の膝の上の両手を、自分の両手で包み込む。
「曜ちゃんには、曜ちゃんがいちばんやりたいことをやってほしい。だから……」
千歌は、決然たるまなざしで力強く告げた。
「……次のラブライブには、残りのメンバーで挑戦する!」
「千歌ちゃん!?」
驚くほかの四人。
「だから……だから曜ちゃんは、インターハイで、その先の大会で、いい記録を残してほしい!」
「……」
千歌を見つめる曜の瞳が、少しずつ潤みを帯びていく。
「……おらも同じ気持ちずら」
「私たちは、インターハイで堕天降臨するリトルデーモン・曜の目撃者となるのです」
「五人でも何人でも、やるしかないよね。曜ちゃん、飛込がんばルビィ!」
二年生たちは次々に賛同した。
最後に、梨子が自分を納得させるかのように、千歌の背中越しに言葉を絞り出す。
「……私は、次のラブライブにも、曜ちゃんと一緒に出たかった。でも、去年私がピアノコンクールで予選に出られなかったとき、曜ちゃん、私の分まで頑張ってくれた……だから今度は、私が曜ちゃんの分も頑張る!」
五人の意見がそろった。
感極まった曜は唇を噛みしめ、軽く鼻をすすり、千歌に両手を握りしめられたまま立ち上がる。
「みんな、ありがとう……迷惑かけて、ごめんね」
頭を下げ、そして曜らしい、それでいて多少ぎこちない笑みを作って言った。
「飛込の大会が全部終わったら、またみんなで一緒にやろう」
「……うん!」
曜を見上げる千歌は笑顔でうなずいてから、ほかのメンバーの様子を気にかける。梨子だけが、こわばったまま、現実を受け止めきれていないようだった。
静真高校スクールアイドル部のAqoursは、曜を除く実質五人で船出をした。
部室のドアの前に立つ五人。自転車に乗ってひとり下校する曜。
新たなる航路の先、水平線の向こうにはどのような景色が待っているのか。それはまだ誰にも見えない。
/\/\/\
/\/\/\
次回 #2「練習場所がない!?」