ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#2 練習場所がない!?(2)

 美人部長の突然の怒鳴り声に、遼香や菜々実、一年生がびっくりしている。気まずくなった梨子は顔を赤らめ、一転しおらしい声で、何事もなかったようにミーティングを進めた。

「……それじゃあ、ここで私から一つ提案があるの。スクールアイドル部の活動のしかたについてなんだけど。これだけの人数になると、部員全体で一つのグループを作るというより、複数のグループに分かれて活動することになると思うの。実際、今の時点でAqours、スリーマーメイズと二組のグループが存在してるし。

 だから、それぞれのグループの具体的な活動の内容ややり方については、それぞれに任せるべきかなって、私は思うの。軽音楽部をイメージしてもらうと、わかりやすいかな。軽音って、音楽性が合う人どうしでバンドを組んで、バンド単位で活動するでしょ?」

 遼香が即座に反応した。

「それでいいと思います。グループごとに、やりたいことは違うだろうし」

 続けてルビィが確かめる。

「曲はもちろんだけど、練習場所や練習方法も、全部グループごとに自分たちで決めるってことだよね」

「そうね。だから、一年生についても、まずはあなたたちの自主性に期待したいと思ってるの。私たちも最初は、ゼロから手探りで始めてるし。Aqoursのメンバー補充については、あなたたちの活動の様子を見てから、改めて検討することにします」

 部長の方針を聞いて、六人の一年生たちは落ち着きを失った。ひそひそ声で言葉を交わす者もいる。

「ほかに何か意見はありますか? ……なければ、さっき提案したとおりのかたちでいきたいと思います。各グループ、それぞれ活動を進めてください」

 そのままミーティングが終わろうとしたとき――

「……あっそうだ、大事なこと報告するの忘れてた!」

 遼香の大声に、善子が素の状態で反応した。

「何よ、いきなり」

「ごめんごめん。えっと、私と吉原のグループ名なんですけど、『スリーマーメイズ』から『マーメイズ』に変更しました。以上です」

「なんだ。あんまり代わり映えしないわね」

「ごめんね安直で」

 冷ややかな善子に向かって、遼香は上目づかいで軽く舌を出した。

 ルビィと花丸は、小声で相談を始めた。

「練習場所どうしよう」

「そろそろ固めないといけないずら」

 

 

   ▲▲▲

 

 

 Aqoursは、新しい学校で練習場所の確保に苦労していた。

 

 

 話は半月ほど前に遡る。

「意外と早く認められたわね、スクールアイドル部」

「やっと学校の中で本格的に練習できるね」

「どこで練習しよっか? できれば室内がいいよね」

 梨子、曜、千歌が口々に話す。

 六人はまず、放課後の体育館を見に行った。

 体育館には大小いくつかの体育室が備わっているが、空きスペースはまったくなかった。バスケットボール部、バレーボール部、バドミントン部、卓球部、柔道部。静真高校は部活が盛んな学校である。ルビィが使用予定表のファイルを見てみたが――

「全部埋まってる!? 土日もびっしり……」

 次に、グラウンドに出てみると、そこでは大勢の陸上部員が活発に練習に取り組んでいる。梨子は目を見張った。

「走ったり跳んだり投げたりで、グラウンドいっぱいに使ってるわね」

 曜が思い出す。

「昨日は確か、サッカー部だったよね」

「ソフトボール部もここかあ。どこか隅っこの方で、できないかなあ」

 目の前のバックネットを触りながら嘆く千歌に、二年生たちが声をかけた。

「ソフトボールの打球とかやり投げのやりとか飛んできて危ないずら」

「ならば堕天使ヨハネの魔力で精霊結界を張って……」

「いちばん外側をランニングするくらいならできそうだけど……」

 

 

 校舎に戻り、音楽室へ向かうが、最寄りの階段を上がる時点で、管楽器のいろいろな音色が混ざって降ってくる。予想どおり、そこは吹奏楽部に占められていた。

「合唱部もここ使うんだろうね」

 閉ざされたドアを前に、曜がつぶやく。

「空いてる時間帯ってあるのかなあ」

 千歌は入口のあたりで使用予定表を探すが、見当たらない。

 梨子がふと思いついた。

「軽音楽部はどこで練習してるのかしら?」

 六人は軽音楽部の部室を訪ねる。ドアの小窓から内部をのぞくと、部員たちがヘッドフォンを着用してそれぞれ自分の楽器の練習に集中している様子がうかがえる。PAで増幅されていないエレキギターの弦の音やドラムパッドを叩く音が、控えめに響く。その中で、ベースを弾いていた三年生の部員がAqoursの来訪に気づいた。

 入口まで来てドアを半分開けたベースの生徒に梨子が質問する。

「邪魔してごめんなさい、私たちスクールアイドル部です。ちょっと知りたいんだけど、軽音楽部のみんなは、いつもどこで練習してるの?」

「全体の音合わせは、外の有料スタジオを借りてるね。それ以外は、こことか自宅とかで自主練。見てのとおり、部室は一度に一組しか使えないんで、バンドごとに曜日と時間を決めてシェアしてるよ」

「音楽室は使わないの?」

「あそこは吹奏楽部と合唱部に押さえられちゃってて」

 梨子たちは礼を述べて軽音楽部の部室を辞した。

「軽音部って大変そうだね」

「私たちと違って大きな音出すからね」

 曜と千歌が軽音楽部をおもんぱかる。一方、二年生は少し落胆していた。

「室内での練習は無理か……」

「浦女のときみたいに屋上で我慢するずら」

「しかたないわ。屋上に堕天しましょ」

 

 

「ええええええっ!!」

 校舎の屋上に上った六人は、そこで思いもよらない光景を見た。

「何これ!? 天上の楽園?」

「未来ずらー!」

 善子と花丸が大声を上げる。

 広い屋上は、大部分が天然芝に覆われ、燦々と降り注ぐ太陽であおあおと光っていた。周囲に高い建物は少なく開放感に満ちあふれ、ところどころ並べられた木製のプランターには色とりどりの花が咲く。

「この学校の屋上こんなふうになってたんだ!?」

 曜も驚きを隠せない。いとこの月からは特に聞いていなかった。

 千歌は無邪気に、芝生の上で大の字に寝転んだ。

「柔らかくて気持ちいいー! ねえねえ、明日から毎日ここでお昼食べようよ!」

「お昼もだけど、ほかに誰もいないし、ここなら今までどおり練習できるね」

 ルビィは安堵の笑みを浮かべたが、喜べたのもつかの間。梨子があることに気づいてしまった。

「ちょっと待って! ここ、ステップが踏めないんじゃない? 芝が傷むわよ?」

「えーっ?」

「未来が……」

 ルビィと花丸は衝撃を隠せない。

 すると、寝そべっていた千歌が上体を起こし、ぼんやりと言った。

「……ちょっとだけならいいんじゃないかな?」

 そのまましばらく時が流れた。

 六人は考えを巡らせる。ちょっとだけなら大丈夫かもしれない。大丈夫に違いない。大丈夫であってほしい。

 やがて、曜が言う。

「先生に確かめてみたら?」

「やぶへびになるわよ?」

 すぐに善子が制止した。

 

 

 三年生と二年生の生徒が十人ほど、ぞろぞろと上がってきた。全員が黒い二つ折りのファイルを手にしている。梨子はすぐに察した。

「合唱部のようね」

「ここでも練習するんだ……」

 ルビィのテンションがどんどん下がっていく。

 梨子が小走りで近づき、五人が続く。黒いファイルの中身は、案の定、合唱用の楽譜だった。

「ねえ、合唱部って、音楽室以外でも練習するの?」

「はい。音楽室は吹奏楽部とシェアしてるので。天気のいい日は屋上で富士山に向かって声を出すと気持ちいいんです」

 合唱部のリーダーらしき三年生が梨子に答え、斜め後ろを振り返る。愛鷹山(あしたかやま)の奥に、春霞む富士の姿があった。

「雨の日はどうするの?」

「空いてれば視聴覚室を使ってます。それから、講堂の客席とか」

「講堂まで使ってるの!?」

 梨子は面食らう。

 そのとき、ルビィの頭に妙案が浮かんだ。

「ねえ、講堂が空いてるんなら、あそこのステージで練習できるんじゃないかな? 広さも私たちにぴったりだし!」

 望みは、しかし数秒で打ち砕かれるのだった。

「あ、あのー……ステージのほうは、チアリーディング部と吹奏楽部のパート練習が……」

「……えぇーっ!?」

 ルビィの叫び声が屋上に響いた。

 花丸がさらに質問する。

「ここで練習してるのは、合唱部だけですか?」

「いえ、吹奏楽部のパート練習はここも使います」

「吹奏部、場所使いすぎ!」

「吹奏楽ってパートが多いからしょうがないのよ。それにしても……」

 クラシック音楽の素養豊かな梨子は、不満を漏らす善子をなだめつつ思案顔だ。

「どうすりゃいいのー!」

 千歌は頭を抱えた。

「みなさんスクールアイドル部ですよね? 残念ですけど、屋上では十分練習できないと思いますよ」

「なんで?」

 曜の問いに、合唱部の三年生は答えた。

「以前チアリーディング部がここで練習して、芝を傷めて問題になって。だから、チア部は講堂のステージを使うようになったんです。屋上で運動を伴う活動は、それ以来禁止されました。ボイストレーニングならできると思いますけど、ダンスの練習までは……」

 失意の梨子たちは屋上をあとにした。疲れた顔で階段を下りる六人の頭上から、柔らかな光と清らかなコーラスが降り注いでいた。

 

 

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