ラブライブ!サンシャイン!! Beyond the Horizon   作:Le Nereidi

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#2 練習場所がない!?(4)

「この教室で練習すればいいんだよ! 私って頭いいじゃん!」

「そう、それよ! なんで気づかなかったのかしら!」

 遅れてやってきた大発見に沸き両手でイエーイ、とハイタッチをする二人の三年生だが、三人の二年生は冷めていた。

「……教室って、部活に使えるのかなぁ?」

「へ?」「は?」

 千歌と梨子は、予想外の言葉をぽつりと発したルビィの方に顔を向け、両手を挙げたままの体勢で固まった。

 善子と花丸が追い討ちをかける。

「この学校、教室で部活の練習やってるの見たことないし」

「『教室は部活に使えない』みたいなこと、菜々実ちゃん言ってた」

「……ウソだろぉー!?」

 がらんとした教室に、千歌の叫びが響き渡る。

「調べるずら」

 花丸は自分の生徒手帳を開き、ページを繰り始めた。ほかの四人もそれぞれ生徒手帳をめくり、まだなじみの薄い――人によっては一度も目を通していない――新しい学校の校則を確認する。

 探しものはすぐに見つかった。

「これか……」

「『クラス全員の承諾が必要』って……」

 千歌と梨子は、目を疑った。

「一人でも反対がいたら、使えないってこと?」

「放課後、教室で自習してる子多いもんね」

「つまり、部活より自習が優先するってわけね」

 花丸、ルビィ、善子は、校則の狙いを推し量る。

「ねえ、その下の項目見て!」ルビィが声を上げた。「『歌や楽器演奏など一定以上の音量を発生させる部活動については、加えて両隣のクラス全員の承諾も必要』だって!」

「ハードル高すぎ!」

 善子が天井を仰ぐ。

「吹奏楽部のパート練習を普通教室でやらないのは、きっとこれが原因ね。どうりで変だと思ったのよ」

 梨子は顎に右手を当てながら顔をしかめ、花丸とルビィは肩を落とす。

「それじゃあスクールアイドル部もダメなのかな」

「ダンスはともかく、歌の練習は難しいかも……」

 絶望的な雰囲気が漂い始めていた。

 しかし、ポジティブな元リーダーがそれを一掃する。

「あ、でもさ、この教室だったら大丈夫じゃないかな? 隣は理科室だけだし。それに、うちのクラスのみんなは、きっとOKしてくれると思うんだ! 梨子ちゃんどう思う?」

「……なるほど、そうよね」

「だいいち、放課後に残って自習する真面目な子なんていないしね!」

「その点は、浦女らしいというかなんというか……」

 あまり自慢にならないことを自慢する千歌に、梨子は苦笑する。

「あとは理科室だよ。放課後使ってる人なんているかなあ?」

「理科室だと……科学部とか?」

「クックックッ、それならこの堕天使ヨハネに任せて。今から科学部のリトルデーモンを召還するわ」

 三年生の会話に割り込んだ善子は、ブレザーの内ポケットからスマートフォンをサッと取り出し、慣れた手つきでメッセージアプリを操作した。

 

 

「三年U組の教室って、こんな所にあるんだぁ」

「こないだまで物置だった部屋?」

「そうだね」

 まもなく、赤いリボンを首元に着けた三人の生徒が現れた。

「瞬間移動で来てくれたわね。私のかわいいリトルデーモンたちよ……」入口で待ち受けた善子の低い口調が、急にお茶目に変わる。「褒めてつかわすっ!」

 花丸は教室の中から手を振って迎え、ルビィも笑顔を見せている。

「ヨハネちゃん、聞きたいことって何?」

「あっ、Aqoursのみなさん」

「千歌さん梨子さん、お久しぶりです!」

 春休み、分校予定地で沼津駅前ライブの準備中、静真高校からいち早く手伝いに来てくれた、善子と同じ中学校の子たちだ、と梨子と千歌は気づいた。

「あなたたち……」

「あのときの! いろいろ手伝ってくれてありがとう!」

「ライブとても素敵でした! ……あっ、改めて、私たち、ヨハネちゃんと同じ二年D組の、リトルデーモン十一号・仁科(にしな)(みさき)です」

 三人のうち向かって左側の、髪を後ろでひとつにまとめた生徒が、浦の星から来た三年生に自己紹介をする。

 その隣に立つ、くせっ毛のショートボブの生徒と、髪を左右で短く束ねた右側の生徒が順に

「リトルデーモン十二号・藤宮(ふじみや)(なぎさ)です」

「リトルデーモン十四号・伊東(いとう)(みお)です」

と続き、最後に元気よく声をそろえる。

「三人合わせて『スリーリトルデーモンズ』、です!」

 右手で善子お得意の堕天使ポーズ。みな、筋金入りのヨハネファンなのであった。

「……何、そのベタな名前」

「自分からうれしそうにリトルデーモン名乗る人、初めて見たわ……」

 開いた口が塞がらない千歌と梨子を尻目に、ルビィが大切なことを尋ねた。

「岬ちゃん、科学部は放課後、理科室を使ったりするの?」

「ふだんは全然使わないよ。秋の文化祭のときだけだね」

「でも岬」善子が続く。「科学部って、錬金術を駆使して地上の魔力構造を変化させる物質とか、下等な人間どもを堕天へと導く秘薬とか、作ったり……」

「してないずら」

「あいにく化学班と物理班は、やる人がいないの。今の活動内容は、部室でメダカを飼育したり、中庭で野菜を栽培したり、屋上で雲や富士山を観測したりってところかな」

「だったら問題なさそうだね」

 科学部員の岬の説明に、千歌の表情が緩む。

「ところで、みんなは堕天使と同じクラスってことだけど、彼女ふだんどんな感じ? 浮いてない?」

 梨子の問いかけに対して、渚が

「全然。みんなと仲良くやってますよ」

と明るく言った。

「最初の自己紹介でいきなりスベったりしてなかった?」

 千歌がイジりぎみに尋ねると、澪からは意外な答えが返ってきた。

「それは別に普通でしたけど、そのあとの休み時間に堕天使占いをしたら圧倒的にウケて、すっかりクラスの人気者です」

「クックックッ、堕天使は同じ過ちは繰り返さないわよ。ヨハネの魔能力はパワーアップしているのだ!」

「たまたまネタがはまっただけずらぁ」

「ネタ言うな!」

 善子と花丸はいつもこんな調子で、通う学校が変わっても、ボケとツッコミの分担は変わらない。ただ、善子には、もともと自分がボケている自覚はないのだが。

「あのー。私たちのほうからも一つ聞いていいですか?」

「なあに?」

 澪に対して、梨子は上級生として鷹揚に振る舞う。

「梨子さんは上級リトルデーモンだから、敬意を表して『リリー』とお呼びなさい、そのほうが本人も喜ぶわよ、ってヨハネ様の指令が出てるんですけど、それでいいですか?」

 邪気のない渚の質問を耳にしたとたん、梨子は鬼のような形相に変わり、全身をぷるぷる震わせる。

「リリー禁止ってあれほど言ったのにぃぃぃ……おのれぇぇぇ……」

 勝手が違って当惑するスリーリトルデーモンズ。指令の主は、身の危険を感じて逃走する。

「よーしこー!!」

「ヨーハネー!!」

 善子とそれを追う梨子は、ものすごい勢いで教室を飛び出していった。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 浦の星女学院から静真高校へ編入された生徒のうち、二年生十二名はA組からF組までに二名ずつ振り分けられ、ルビィはA組、花丸はC組、善子はD組と別々のクラスになってしまっている。

 三年生は二十四名と人数が多いため、全員がそのまま単独のクラスを構成し、Uranohoshiのイニシャルから「U組」と名付けられた。U組のカリキュラムや教科書は原則として浦の星のものを踏襲し、大学受験を控える生徒になるべく不利益か生じないよう配慮された。机やロッカーも、すべて浦の星女学院二年A組で使われていたものをそのまま搬入し、各自が使い続けている。

 

 

 その三年U組の朝のホームルームで、千歌と梨子、そして曜は、教壇の傍らに立ち、同級生たちに訴えた。

 千歌が切り出す。

「私たち、新しい学校でも引き続きAqoursとして、二年生を含めた六人で活動をしていきたいと思ってます。でも、この学校は浦女と違って屋上で練習ができなくて、それ以外の場所も、既にほかの部活で埋まってるんです」

 続いて、梨子が話す。

「それで、みんなにお願いがあるんだけど、この教室を、私たちの練習場所として、週に一、二回でいいから、放課後使わせてほしいんです」

 浦の星在学中からAqoursを熱心にサポートしてきた同級生の一人、むつが真っ先に立ち上がった。

「反対する理由がないよ。Aqoursは私たちの誇り、浦の星女学院の象徴だもん。ねえみんな!」

 友人のいつき、よしみの二人も

「私は喜んで協力するよ。自習はほかの場所でもできるしね」

「なんだったら、今日から毎日使ってもらってもいいんじゃない?」

と言った。ほかの生徒も口々に賛成を叫ぶ。

「みんな……本当に、本当にありがとう」

 千歌たちは深く一礼をした。

 

 

   ▲▲▲

 

 

 数日後。

 

 

 スクールアイドル部の部室でメトロノームの音が鳴っている。マーメイズの二人が、淡々と練習を再開していた。

 ほかの部員の支障にならないよう、スペースは最初のときより少し狭くなったが、二人にとって今のところ不都合はない。

 怒れる部長に持ち去られた使用予定表のファイルは、入口近くの元の位置に戻されていた。

 

 

 Aqoursは、三年U組の教室で練習を開始した。机と椅子を前方へ寄せて、後ろ半分のスペースをまるまる使っている。

「ワン、ツー、スリー、フォー、……」

 曜の弾む声と手拍子に合わせて、ほかの五人が生き生きとダンスをする。

 廊下を通りかかった小柄な生徒が一人、足を止め、引き戸のすき間から中の様子をのぞいていた。

 

 

 Aqoursとマーメイズは、こうしてなんとか練習場所を確保して、活動を本格化させようとしていた。

 

 

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 次回 #3「それぞれの針路」

 

 

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