SCP-▇▇▇-jp 『鳥の王国』 作:COTOKITI JP
「……以上で作戦概要の説明は終わりだ。 各自支給された飛行服を着用し、外に出ろ」
そう言い残して職員は去った。
俺達の手元にあるのは一着の飛行服。
これを着て外に出ろということらしい。
よく見るとそれぞれサイズが違うのでちゃんと体格に合わせてあるようだ。
「な、なぁ、さっきの話理解出来たか?」
「いや、どういう事だかサッパリだ」
「だよなぁ」
あの説明を聞いた彼等の反応といえば、困惑の二文字に尽きる。
例え理屈で理解出来ても納得は出来ないだろう。
それほどに作戦内容は現実性が皆無だった。
俺なんかまだ夢の中にいるのかと思ったくらいだ。
でもまぁ、職員が最後に作戦を簡潔に説明してくれたのでそれを纏めると……
①今から飛行船に乗って丸い穴みたいな空間領域に突っ込んでもらうよ。
②君達は向こうの世界で空賊を名乗って活動してね。
③こちらからエージェントと研究員を送るから一緒にオブジェクトの調査よろぴく。
④向こうの敵対勢力と出会った場合は君達戦闘機隊に戦ってもらうからね。
⑤情報が欲しいからなるべくSCP-▇▇-jp-Bとは積極的に接触してね。 でも財団は名乗っちゃダメだよ。
⑥あそこには基本的にレシプロ戦闘機しか存在しないから怪しまれない為にも君達にはレシプロ戦闘機に乗ってもらうよ。 ラプター? ダメダメ。
⑦二ヶ月に一度穴を再発生させるからそれを通じて報告書を送信してもらうよ。
⑧最後に、君達に何かあった場合、次の調査隊を派遣して一ヶ月以内に救出出来なかったら死んだと判断してほっぽり出すからそこんとこよろしく。
少し雑っぽいがまぁ内容はこんな感じだった。
聞けば空賊という肩書の方があちらでは自由に動きやすいらしい。
だがやはり賊を名乗っているだけあって敵は多いからリスクはその分高い。
そして俺達が今から乗ろうとしている飛行船だが……
「なんだこりゃあ……」
「これが飛行船……だと?」
「まるで山一つが空飛んでるみてえだ……」
目の前に佇む巨船は目測で全長800m以上、高さも200mはありそうだ。
ヘンリーが言った通り正に空飛ぶ山である。
その後部ハッチが開き、そこから俺達は船内へと入って行く。
それと同時に、武装した何百人もの兵士も一緒に入る。
「財団から派遣された陸戦隊か」
彼等の装備もハイテクな現代兵器ではなく、旧時代の古臭い武器に装備を身に纏っている。
あれも怪しまれない為なのだろうが……。
「馬鹿言え、督戦隊に決まってるだろう」
アイツらは陸戦隊という名目だが、恐らくは俺達の反乱を抑止する為の部隊だ。
作戦中は常に後ろからアイツらに銃口を向けられる事になるだろう。
列を成して船に入り込むその群れを見ながら、予測出来ない今後の展開に溜息をついた。
◇◆◇◆◇◆◇
また、二度目の送迎をするとは。
飛行船に乗り込む彼等の姿を見ながら私は俯いた。
今回は何人死ぬのだろうか。
いや、そもそも生きて帰れるのか。
帰る確証も無い彼等に対して、私は行ってこいと手を振るべきなのか、それとも目を背けるべきなのか。
自分でもその答えは見つからない。
「博士、時間です」
「ん? あ、あぁ。 では、始めよう」
目の前にある金属の箱。
正確にはこれは立派な財団の保有するオブジェクトだが、これが今私の手元にある事に今更ながら若干の恐怖を覚えた。
旧式の無線機にも見えるその機械のスイッチを上に上げ、電源を入れた。
微小な振動とともにランプが点灯した。
このオブジェクトが起動した証だ。
次にトランシーバーを手に取り、測定班に確認を取る。
「測定班、用意は出来ているか」
《はい、カント計数機の用意出来ました》
よし、ならば後は飛行船が予定の高度まで上がるのを待つだけだ。
飛び立った飛行船は徐々に高度を上げ、予定の高度に到達するまであと僅かにまで来た。
ここで遂に私はこの装置の中心にあるボタンを押した。
これがあの空間領域を発生させるスイッチだ。
たったボタン一つで現実を改変し、時空を捻じ曲げ、世界と世界を繋げられるのだから尚恐ろしい。
その後、直ぐに再びトランシーバーで測定班と連絡を取る。
「測定班!ヒューム値の状況は?」
《ヒューム濃度に変動有り!!ヒューム値、現在30!!尚も上昇中!!》
現実改変によるものか、地揺れが発生し、一回目の時にも聞いたあのけたたましい重低音が鳴り響いた。
耳が痛くなるほどの爆音に耳を塞ぎつつも空を見上げ、空間領域の存在を確認する。
「空間領域が発生した……! 測定班!直ちに退避しろ!」
《了解!》
穴が消えるまでの間、爆音と地揺れが続き足元が不安定な中で穴の奥へと入って行く飛行船を見送った。
その巨体を見ると、とてつもない頼もしさを感じた。
「二度目は……死んでくれるなよ」
何でもかんでも取り敢えず現実改変って言えば納得出来そう。