SCP-▇▇▇-jp 『鳥の王国』 作:COTOKITI JP
このイジツに於いて、最近話題になる事が多い街、ラハマ。
話題というのはこの街そのものではなく、ラハマに住むとある用心棒達の事だった。
過去の戦闘で大いなる活躍を見せ、一気に頂点に上り詰めてみせた彼女等を皆こう呼ぶ。
昼頃のラハマ。
賑わいを見せる街の中、人々はその場に立ち止まってある物を読んでいた。
新聞だ。
この世界ではラジオに次ぐ貴重な情報源である。
道行く人々の話題はその新聞の内容で持ち切りだった。
その新聞の見出しにはこう書かれていた。
『墜落した所属不明の飛行船、遂に調査を終了。 ユーハングの再来か』
見出しの下には、墜落した飛行船の写真があった。
新聞に拠れば飛行船の搭乗員は全員死亡しており,残されていたのはグシャグシャにひしゃげた残骸と未知の戦闘機や兵器のパーツ,そして唯一焼かれなかった未知の言語で書かれた何枚かの文書。
しかし,言語の解読ができない為に何も分からずじまい。
ユーハングの言語はある程度解読が進んでおり,翻訳もできる。
飛行船から見つかった文書はそれとも一致しないのだ。
「にしても変だと思わない?」
酒場の一角にあるテーブルを囲む6人。
その内の一人である少女が新聞を捲りながら言った。
「確かに、所属も墜落した理由も不明。 それにあのような飛行船が航行していたという記録も何も無い……変としか言いようが無いな」
「そもそも誰に殺られたのかも分からないのですからどうしようもありませんわ」
「どうせ空賊じゃないの?」
「その可能性は極めて低いと思われる。 あの飛行船にあれ程の損傷を加えるには相当数の爆薬を必要とする。 そして空賊はそれを揃えられるだけの財力は持ち合わせていない」
「損傷っていうか、あれは最早木っ端微塵だったけどね」
そう言いながら新聞を閉じ、テーブルに放る。
墜落した飛行船の調査に護衛として参加していた彼女等は今丁度帰って来た所だった。
これが彼女達……コトブキ飛行隊の日常である。
◇◆◇◆◇◆◇
《……あーあー、こちら一番隊一番機。 聞こえるか、どうぞ》
「こちら管制室、感度良好。 どうぞ」
《そちらから北北東の方角に集落らしき人工物の集団を発見。 規模はそこまで大きくは無い》
管制室にあるレーダースクリーンには三機の友軍機が現在表示されている。
それを見るDクラスのオペレーター、そして財団から派遣されたエージェント。
暫くして、アルノフの機体に搭載されたカメラから写真が送信されてきた。
アルノフの言った通りいくつかの建造物が見受けられる。
しかし人の姿は無い。
エージェントはその場所に心当たりがあった。
「良し、偵察隊は帰していいよ」
「了解」
《こちら管制室、着艦を許可する》
「了解、着艦する」
目の前に浮かぶ母艦の飛行甲板のハッチが開いた事を確認し、そこを目指して緩降下しながらスロットルレバーを少しずつ絞って速度を落とす。
徐々に距離は縮み、速度が落ちる。
そして飛行甲板に突入し、コックピットに大きな振動が伝わる。
降着装置が地に着いた機体は速度を落としながらゆっくりと旋回し、滑走路脇のエプロンに停止させた。
風防を開き、主翼から新品のアスファルトの敷き詰められた甲板に飛び降りる。
長い間飛んでいた所為か、腰が痛む。
エプロンを歩きながら飛行甲板に目を移す。
既に二番機が降着装置を下ろした状態で着艦しようとしていた。
二番機、三番機の着艦が無事に終わった事を確認したアルノフは再び歩みを進める。
等間隔に並んだ機体からパイロットが降りて、荷物を片手に帰って行く。
アルノフは報告があるので兵舎のある上の階ではなく下の階へと降りる。
日はまだ真上と真横の境目、つまり多分11時位の方向にあった。
昼食には間に合うと思いながらエレベーターで下の階へと行く。
この船はヘッジホッグではなく、ヘッジホッグに搭載されていた硬式飛行船である。
ヘッジホッグはその図体の大きさから現地住民を警戒させかねないというので船体後部に格納されていた飛行船を出したのだ。
そしてこの船の船長はヘルフリートではない。
財団から派遣された
なので報告もその人に行わなければならない。
無機質な灰色と銀色に支配された廊下を歩きながらその人のいるであろう部屋へと向かう。
静寂に包まれた廊下にはアルノフの足音しか響かない。
他のパイロット達は皆上の階へと向かったのだろう。
しかし、いつも思う事だが財団はDクラスの扱いが杜撰過ぎやしないだろうか?
人格や腕前がどうであれ罪人を監視も無しに自由に歩き回らせるのはどう考えても変だ。
あの陸戦隊も最初は警戒していたが特にこちらを見張ったり何かしら危害を加えるような事はして来なかった。
何故、何故だ。
本当に今のこの状況はDクラスの扱いとして正しいのか。
少しの間考え込んでいたアルノフだったが更なる異常に気付く。
「……そういえばこの仕事の時、事前の通知が来ていなかったな」
他のDクラスに聞いた話だが、何かしらの仕事が与えられる時は必ず遅くとも前日には事前通知と資料が与えられるそうだ。
しかし今回は何一つ来なかった。
それと他にも違和感はあった。
迎えに来た警備員の声だ。
あの区域に来る警備員は毎回同じで声も覚えていたのだが、今回来たのは声が違った。
明らかに別人だった。
考えこんでいくうちにアルノフの脳内は更に混乱を引き起こす。
「一体何故だ……なんの意図が────」
「なにか悩み事でもあるのかなー? アルノフくん」
「っ!?」
突然目の前から掛けられた声に慌てて床から前方に目を移すとそこには一人の男がいた。
にこやかな表情を浮かべながらからかうように言うこの男こそエージェント『i』である。
「エージェント『i』……」
「もー、こういう時は艦長って呼んでくれないと!」
「……では艦長、何故こちらに」
「いやいや、何故ってここ僕の部屋の前なんだけど」
そう言われてエージェントのすぐ隣にあった扉の上にあるネームプレートを見る。
そこには紛れも無く『艦長室』と書かれていた。
考え事をしている間に目的地に着いてしまったようだ。
「もしかして君ってどうでもいいことを深く考え込んじゃう癖があったりする?」
先程の自分の醜態を思い浮かべながら素直に答えた。
「……そうかも知れません」
「まっ、取り敢えずその格好で来たってことは報告だよね? ささ、入って入って」
エージェントに背を押されながら艦長の扉を開けて中へと入っていく。
こんな変人もいるもんなんだな、と思いながらアルノフは歩みを進めるのだった。
早速エタりの香りが漂って来たよ……ヤヴァイヤヴァイ……。