とっとこ(グラ)ハム太郎   作:zhk

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ちょっと遅くなった上に文量少なめです。

かつ、ここからはギャグなしの真剣な話が進みます。

お覚悟を。(ルリマ)


逃避

 世界と言うものは、案外平和なものなんだと思っていた。

 

 ニュースでどこがで紛争が起きていると聞いても、どこかをどこかの軍隊によって攻撃されたという話を聞いても、所詮俺のいる場所とはかけ離れた所の話であって、あくまでも俺には関係ないんだと考えたいた。

 

 それで何人亡くなったと聞いても、俺にはあまりピンと来なかったし、その事態に対して憤りや恐怖なんかも感じたことはなかった。

 

 普通、そんなもんなのだと思う。結局、被害に合っているのは俺でも俺の知り合いでもなく、俺とはまったく関係のない赤の他人。このような感じのニュースに対して強くなにかを感じる人もいるにはいるだろうけど、俺の感受性は、そこまで高いものじゃなかった。

 

 俺の近辺ではなにも起きていない。不自由もなく、ただ笑って一日を過ごしていられる。命のやり取りがこの時間、この同じ空の下で行われているのだとしても、俺周辺が平和であったなら、それはもう俺にとっては平和途呼ぶにふさわしかった。

 

 だから、世で起きているような大きな事件なんてものがあっても、世界は案外平和に進んでいるんだと思ってた。思い込んでいた。

 

 けど、そんな思い上がりは、朝つけたテレビのキャスターが焦りながら語る内容とテロップ、そしてホテルの部屋の外から聞こえてくる慌てるような足音が、簡単に打ち砕いて見せた。

 

『西方海域より侵攻』

 

『宣戦布告なしの、潜水艦隊による奇襲』

 

『現状慶良間諸島において迎撃中』

 

 見慣れない、聞き慣れない言葉がスピーカーから流れ、画面にはまるで災害が起きた時みたく、左端と上部が切れ、そこには情報が絶え間なく流れ続けており、それらすべてが、今、ここで起こっている現象を俺に示唆していた。

 

 けれど、俺は理解できなかった。理解しようがなかった。

 

 だって昨日までなんともなかったじゃないか。昨日まで、普通にこの部屋の窓から覗き見える海で泳いで遊んだり、グラハムの鬼シゴキにヒィーヒィー言ったり。

 

 楽しかったり大変だったり、騒がしくも平和だったじゃないか。

 

 それなのに、それなのに今日起きてみればこんな事に。

 

 そうだ、これは全部夢なんだ。全部、ただの悪い夢。

 

 眠い中グラハムに叩き起こされる日々を遊び疲れたりするなかでしてたから、きっと寝付きが悪くて妄想拗らせたようなこんなのが見えてしまってるんだ。だから、目を瞑ってぼおっとすれば、またいつも通りの朝になって…………

 

「香月! なにやってるんだ!! 早く準備しなさい!!」

 

「あっ…………ご、ごめんなさい…………」

 

 けれど、俺のそんな願いも虚しく悲しく、父さんが動揺と焦燥がありありと浮かぶ表情と声音で急かすことが、この目の前の映像がここで起こっているすべてなんだと言うことを、嫌でも理解させられてしまう。

 

「ここから一番近いシェルターは、車で10分かからないわ。今から急いでも十分間に合うはずよ」

 

「いや駄目だ。この辺りは人も多いしホテルも多く乱立してる。住んでる人達だけじゃなくて、僕達のような旅行者もそっちに向かうはずだ。だから行くなら少し離れた所の方がいい」

 

「でも、もう侵入されてるから出来るなら近い方がいいんじゃないの?」

 

「侵入と言っても、ニュースの情報通りならまだ慶良間諸島の方に侵入してきた輩はいるはず。こっちまで来るには大分時間がかかるから、そこに関しては問題ないよ」

 

「少し遠い場所…………なら、恩納空軍基地のシェルターね」

 

「車をとってくるから、二人はすぐに駐車場の方へ来てくれ。」

 

 父さんと母さんが、今後が関わる大事な話をしているけれど、それもすべて頭に入ってこない。耳には入るけれど、それらは全部入った方と反対側に流れていったみたいに、頭にかからない。

 

 その間にも、俺は淡々と準備を進めたけれど、それもなんだかゲームのキャラクターを操作してるような、第三者の目線から見てる気分だ。

 

 聞こえること、感じる雰囲気、すべてが浮世離れしていて、そう感じざるを得ない。が、そんな時だった。

 

『カヅキ』

 

 静かに、そして端的に、聞き慣れた声が俺を呼ぶ。

 

 いつも通りのグラハムの呼び掛けに、どこか心の中で安堵した。グルリグルリと変わり始めた日常の中でも、こいつだけはきっと変わらずに俺を助けてくれるだろう、そんな考えが俺の中ではあったんだろう。

 

 だからグラハムへなにかを求めるような視線を向けるため、声が飛んだ方向へと顔を動かすと、グラハムはカツッと俺の手元に何かを運んでいた。

 

 それは、俺が使っていた大型拳銃の形をとったCAD。持ってきた覚えはないけれど、きっとグラハムがまた腹の中に隠していたんだろう。けれど、疑問点はそこじゃない。

 

 なぜ、今これを出したのか。そう尋ねようとグラハムの目を見て、俺は息を飲んだ。

 

『持っておけ。ここからは、私も何が起こるか想像がつかん。常に最悪の事を想定して動くんだ。』

 

 語る言葉、俺を指す眼差しにいつものふざけたような物はまったくといっていいほど感じ取れない。代わりにあるのは、沖縄で出会った兄妹の兄が出したような、あの独特の空気感。

 

『最大限サポートはする。が、それでも足りないかもしれない。その時は、迷いなくそれを使って身を守れ』

 

 その空気感が、どこか、

 

『今やここは戦場と化した。生き死にすべてが、今後の君の行動と判断に懸かっていると、深くその頭に叩き込んでおけ』

 

 この非日常の幕開けに、酷く合っているような気がして、

 

 俺は、いつもの平和が完全に塗り変わってしまったのだと、今やっと理解ではなく納得させられたのだった。

 

 ━━━

 

 たどり着いた基地のシェルターには、俺達家族を含めそれなりの人数が身を隠していた。

 

 中身はドーム状で、二百人くらいならあっさりと入りきりそうなくらいの広さはある。それはやはり軍が保有するシェルターというだけあるんだろう。

 

 父さんと母さんが隣にいるなか、俺はホテルから移動してからというもの、しきりに腰に直しているCADを触ってる。

 

 シェルターに避難したからもう安心だ。軍も近くにいるからなにかあっても大丈夫。そんな父さんと母さんが話しているような内容の事を思えるほど、俺には余裕がなかったのだ。

 

 確かに父さんと母さんの言うことも十分に納得出来る。逆に今この沖縄で、近くに身を守ってくれる人がいるというのはこれ以上にないくらい心強い事だ。

 

 だが、それでも俺は安心出来なかった。なにか不安な事があったのかと聞かれればたくさんあると言い返したいけれど、大きな理由はそれじゃない。

 

 肩に居座るグラハムの纏う雰囲気が、いつまでたってもいつもの感じに戻らないのだ。この独特の空気感、壁越しに辺りを見渡すように見る彼の目が、俺に油断をするなと強く語りかけてくる。そのグラハムの意志が、俺の手をCADから離させてくれない。

 

 敵が襲ってきたら、CADを取って引き金を引く。

 

 敵が襲ってきたら、CADを取って引き金を引く。

 

 頭の中で、緊急事態に陥った際の対処を反復するが、する度に不安は消えるどころかなおも増大する一方。

 

 加えて、『本当に打てるのか?』という疑問が頭を過り始める始末。

 

 今まで人へ魔法を━━魔法と言うのもおこがましいようなただのサイオン弾だが━━━撃った事はあるにはあるが、それはあくまでもただの模擬戦。こんな、自分の命の懸かった実戦なんて経験している訳がない。

 

 そんな中、自分へ銃口を向けられたとき、俺はこのCADをしっかりと相手へ向けて自分を守ることが出来るのだろうか? 

 

 駄目だ、弱気になっちゃ。出来るか、じゃない。しなきゃいけないんだ。グラハムも言ってたじゃないか、ここはもう平和な場所じゃない。ただの無法の戦場になりつつあるんだ。

 

『カヅキ』

 

「な、なんだ?」

 

『あまり固くなりすぎるな。意識することも大事だが、強ばりすぎるのもあまりよろしくない。平常心だ、かつ注意を払うんだ。いいな?』

 

「あ、ああ…………」

 

 生返事をグラハムへと返してしまったが、はっきり言ってそんな事出来るわけがなかった。

 

 突然旅行に来た場所に何者かが侵入してきたという事実だけでももう心のなかがてんやわんやなのに、加えて戦えるようにしとけ、平常心でいろなんて無理だ。

 

『今、俺には無理だとでも思ったか?』

 

「っ!? お前、なんで…………」

 

『これでも、相手の心意を見抜くのは得意でね。』

 

 笑みを見せたグラハムは、すっと肩から座り込み俺の足元へと飛び降りた。

 

『私は無理な事を頼むつもりはない。君には、それが出来る技能があると信じているから私は君へそう言うのだ。心配することはない。私がいる。』

 

 グラハムはそう言うが、違う、そうじゃないんだ。

 

 こいつは俺を買い被りすぎなんだ。俺は、俺にはなんにも…………

 

「子供の癖に生意気なっ!!!」

 

 と、いきなり怒声がシェルター内に響き渡った。

 

 声の音源を目で辿っていくと、顔を真っ赤にして怒る男性。その後ろには彼の家族と思わしき一団が。

 

 そんな怒る男性がその迸る感情を向けているのは、

 

 なんと、あの兄妹の兄だった。

 

「誤解されているようですが、我々魔法師は一個人に奉仕する役割は持ちません。社会の秩序を保つために動くのです」

 

 淡々と彼の口から流れ出るのはすべてが正論。同じく魔法師を目指す身として、一番に理解しなければいけない内容だ。

 

 が、それは男の怒りを収める結果には結び付かなかった。

 

「このガキっ!!」

 

 怒り心頭と言った具合に、男は兄の襟首を掴んで詰め寄った。男は明らかに兄よりも図体も身長も大きい。

 

 なのに、兄の方はビビるどころか驚く素振りも見せず、ただただ、軽蔑と嘲りをはっきりと視線で男へと告げていた。

 

「いい加減にしてください。子供の前でこんな事をやって、恥ずかしいと思わないんですか?」

 

 すべてを物語る視線を彷彿とさせる声音で言ったその言葉に、男ははっと驚いたように後ろにいた自分の家族を見た。

 

 そこにあったのは、家族からの、ひいては自分の子供からの明らかな失望と侮蔑の瞳だった。親族から向けられる負の感情にやっと気がついた男は、兄を一瞥しつつも怒りを抑えて彼から目を背けた。

 

 この一部始終のなか、兄は驚くだとか怒るだとか怖がるだとか、そのような感情は一切見せなかった。作業のように、何もかもがそう進むとわかっていたような、その素振りは自分と同い年くらいとは到底思えなかった。

 

 あれはもはや、グラハムや他の軍人と変わらない態度だ。

 

 男を論破した彼は、なにか近くにいた女性(家族なんだろう、黒髪の妹もいたことだし)に言伝てされたかと思うと、片手にCADを持ちながらシェルターを出ていってしまった。

 

 その背を、俺はじっと眺めていた。

 

 俺と背は変わらない。下手をすれば鍛えている俺の方がガタイは大きいかもしれない。

 

 けれど、その彼の背中は、とても大きいもののように感じられて仕方がなかった。

 

自分の弱さを、彼の背中が俺へ見せつけているような、そんな気さえした。

 

 





久しぶりのシリアスはなんだかむずかしい。

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