とっとこ(グラ)ハム太郎   作:zhk

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始めてまともに原作メンバーと関わる。

6話目にしてやっとか・・・・・・

原作が遠いぜ。




才能差が今後を分かつ絶対条件ではないさ

『ここ数日、君と共に魔法について研究、実践を繰り返してみたが、やはり結論から言って君には魔法を発動するために使用するサイオンは大量には保持しているものの、それを使用するための処理能力が圧倒的に足りていない事がよりわかった』

 

「そう…………です…………ねっ!!」

 

『こういう類いの研究などはあまり私の性分ではないのできちんとした事が言える訳ではないが、処理能力に関して言えば今後身体的に成長することによって伸びていくと思われる』

 

「な…………る…………ほど…………!!」

 

『けれども、やはりこの時点で既に処理能力で大きな差が出来てしまっている以上、成長したとしてもその点に関しては他者と比べて大きく劣ってしまう事はやむを得ないと考えざるを得ないだろうな』

 

「あ…………のさ…………」

 

『む? どうした?』

 

『なんで…………さ…………

 

 

 

 

 

 今…………俺は腕立て伏せをしてるわけ? それもこんな朝早くに、家の庭で』

 

 長々としたグラハムの見解を途中でどうにか断ち切って、俺はやっと今の現状の異常さについて述べることが出来た。

 

 現時刻は朝の5時。朝の、5時だ。ちなみに俺がグラハム目覚ましによって起こされたのは朝の4時。小学生の目を覚ます時間じゃないって。俺は修行僧かなにかなのか? とりあえず止めてるけど、休憩挟みながらずっとやってたから二の腕パンパンなんですよね。

 

『カヅキ、最初に述べた通り、君は他の者とは類を見ないものを持ちながら、他の者が当たり前に持っている物を持っていないのだ。それは理解できているな』

 

「そりゃ知ってるよ。ここ二日でいやというほど試したしな。」

 

 ちょうど桃地によるレベル差リンチがあったのが今から三日前の金曜日。そこから土、日と運よく休日だったため、俺とグラハムはあーでもないこーでもないと言いながら魔法についての研究と、俺がどれだけ魔法が使えるのかというのを調べたのだ。

 

 結論から言うと、まぁ酷かった。万能なグーグル先生に初心者が使える魔法と調べて試すけど、まず魔法がうまい具合に起動しない。起動しても、ただの笑い者にしかならないようなしょっぼいもんばっかり。

 

 あと調べたなかでわかったけれども、桃地が使っていた空気弾はそのままエア・ブリットと言って、初心者でも使える強力な魔法らしかった。もちろん俺は使えなかったけどね!! 

 

 ついでに大量にあるCADを全部使ってみたけれど、やはり処理能力が低くても使える特化型しか俺は使えない事が判明。ま、そこは問題ないっしょ。だって汎用型使ってもそんな入れるほど魔法ないしね? (涙目)

 

『うむ、ならばこの鍛練の理由も自ずと見えてこないか?』

 

 見えてこないですね。(確信)

 

 魔法を使うためには、脳内でその魔法に関しての処理をしなければならない。それが俺は他の人間より非常に低いのは知ってる。だからこそ使える魔法が本当に単純な物しか使えないんだ。

 

 けどそれに筋トレするのとどう関わってんの? まったく関係性ないじゃん。なんでお前はわかって当然だろうみたいな表情なんだよ。

 

 俺が目指してるのはグラップラーじゃなくて魔法師なんだよね。グラップラーになりたきゃ魔法の塾じゃなくて隣の通りの範馬さんとこに弟子入りに行くわ。

 

『はっきり言おう。君のその処理能力では、一般的な魔法師になろうとしてはただの劣等者にしかならん』

 

 うわ~…………心にぶっ刺さるキッツイ一言。まぁ実際そうだから仕方がないんだけどね…………あはは…………はぁ。

 

「んで? 才能なしなのは、もうお前にもこの二日での実験でも桃地にも耳が痛くなるほど言われて理解しましたよ。」

 

『まぁそう自分を卑下するな。なにもこのままただの弱者で君を終わらせるほど、私も諦めてはいないさ』

 

 ニヤリとグラハムは口角を上げる。これとこの中村ボイスだけならカッコいいんだけどなぁ…………外観ただのふてぶてしいハムスターなんだよなぁ…………残念ポイントが高すぎる。

 

『私はただ、君は普通の魔法師は目指すことは難しいと言ったまでだ。だが考えてみよ。普通が難しいなら逆に特別な、君にあった型の魔法師になればいい? 簡単な事だろう?』

 

 ???? 

 

 俺の理解力が足りないのか、それともグラハムのなんか無駄に遠回しな言い方が悪いんだろうか。一向にグラハムが言いたいことを理解も出来なければ頭にも入ってこない。

 

 ん? 特殊な魔法師? 俺の型に合う魔法を使う?? 

 

 全然わかんないよ!! グラハムの言ってること!! (早見ボイス)

 

『まだわからんのか。なら少しヒントを出そう。この二日間、ただ自分の才のなさを知っただけではなかったであろう? 反対に自分が使える物もわかったではないか。』

 

「使える魔法…………あっ」

 

 そーゆーことね。やっと理解したわ。

 

 グラハムが言いたいこともわかったので、とりあえず俺はおもむろに立ち上がると目を閉じ、少し集中する。

 

 すると、俺の足元に魔法式が展開された。それに合わせ、俺は走るようにその場を蹴った。

 

 瞬間、魔法式の形はグルリと変わり俺の体が加速する。加速するといっても全速力で走った時の最大加速一歩手前程度ではあるけれど、たった踏み込み一回で出るようなスピードじゃない。

 

 一歩踏み出したあと、俺はすぐに反対側の足のかかとを地面に擦らせ急ブレーキ。少し庭の芝が剥がれたようか気がするが気にしない。…………あとで直しとこ。

 

「ふぅ…………これの事言ってるんだろ?」

 

 大きく頷き返すグラハムを見ながら、俺は自分の中で出来たグラハム理論が合ってた事を確信する。

 

 俺が今グラハムに使って見せたのは、魔法にある八系統の内の一つ、加速魔法だ。

 

 対象物の加速度ベクトルに干渉するこの魔法のお陰で、俺は前へ進もうとする力のベクトルへ魔法で干渉、増大させた事によって今のスピードを出せる。

 

 これが、二日間調べあげたなか使えたサイオン弾以外の魔法だ。

 

 えっ? これ以外はって? 

 

 私がそんな多種多様に魔法が使える、と思っていたのかぁ? (ブロリー感)

 

 二日間大量に調べてこれだけだよ。いやまだわかんないけど、他の系統も使っては見たけどもまず一番単純な基礎すらまともに使えなかったので、お察しください。

 

『この加速魔法が、君のなかでの切り札となるだろう。だが、通常加速魔法は減速の魔法と同時併用するものだ。だが君の処理能力だと加速魔法を一つ使うので精一杯だろう。』

 

「…………確かに」

 

 認めたくないものだな…………自分自身の、処理能力の無さ故の弱さというものを(シャア)。

 

『であれば、加速魔法で加速してしまった自分を自分自身で止める必要がある。そのために筋力が必要なのだ。』

 

「まぁ言いたいことは理解できたけどさ、それなら脚力とかでよくないか? 別に腕立てとかしなくても…………」

 

『人間の体というものは、一部分だけを強化しても上手く扱うことは出来ない。どの部分も同じように強化してこそ、十全に扱うことが可能となるのだ』

 

 なるほど…………だからこういう筋トレがいるのか。これならちょっとずつ加速魔法で上げれるスピードも上がっていく訳だし…………ん? 

 

「待って、これスピード上がれば上がるほど、俺への負担上がっていくんじゃないの?」

 

『…………』

 

 おいこら、黙るんじゃないよ。不安になるでしょうが。

 

 えっ? そういうことだよね? 普通は減速の魔法で安全に止まれるけど、俺はそれを自分の足で強引にしなきゃいけない訳で。であれば、速くなればその分足へかかる負荷はどんどん増加するし。

 

『カヅキ、私もエンジンのリミッターをカットし12Gという重力に耐え、やっとガンダムに肉薄出来たのだ。つまりは…………そういうことだ』

 

「一国のエースとただの小学生に同じ事を求めないでください」

 

 こっちは一回一回の魔法に命かけてられないんです。俺が12Gなんて受けたら内臓破裂して死んでしまいます。割りとマジで。

 

 けど今のところ成長出来るようなところがそこしか思い付かない(グラハムも彼もバカ)

 

 まぁ少しずつやってたら、体もスピードに慣れるでしょう。魔法師になるって言ってもまだ俺は小学生。そんなまだ子供で命かけて魔法使う子となんて万が一、いや億が一にもこの平和な日本という国ではない。絶対に。フリじゃないよ? 

 

『よし、談笑もこれくらいにして。接ぎに行くぞ』

 

「へ? まだやるの…………?」

 

『当然だ。まだまだ練習量が足らんくらいだ。差は大きいのだから、それだけやらねばならんことも多い。気を引き締めてゆくぞ』

 

「ういー」

 

 けどもう既にオデノカラダハボドホドなんだよなぁ。急遽作ったライダーシステムなんて大層なもんじゃなくて、ただの腕立て伏せでだけど。もやし少年の細腕を舐めないでいただきたいね。

 

『次にやるのはエイム力の向上だ。CADは持ったな。』

 

「おうさ」

 

 掲げるは、因縁の大型拳銃CAD。今回はプラスもう一丁。

 

 これはグラハムからの意見で、『一丁でも火力が申し分ないのだから、二丁使えるように訓練しておくべき』との事だったので、あの段ボールから引っ張ってきた。

 

 これで二丁拳銃、出来れば腰に剣を二振りつけて双剣双銃(カドラ)と洒落混みたいけれどもう二丁拳銃だけで腕が限界値なので無理。

 

『今からやるのは至って単純な事だ。ここに、昨日父上が久しぶりに飲んでいたビールのものを含むいくつかの空き缶がある。ちなみに母上が目を離した隙にシンクから拝借してきたものだ』

 

 なにやってんのお前(飽きれ)

 

 もう突っ込んでたら俺が疲れる。これはスルーだスルー。

 

『この空き缶を私が投げる。それに合わせ、君は飛ぶ空き缶を照準に収めてタイミングよくサイオン弾を放つんだ。タイミングよくだぞ。だが途中飛んでくる旧少年人形の腕や足も飛んでくる。それを撃ったら、私は君を許すことは出来ないかもしれない』

 

 いやもはやこれリズム天国じゃねぇーか。タイミングを強調するんじゃねぇよ、この前リズム天国やってた時妙に興奮してたのはそういうことだったのか。やらさなきゃ良かったぜ。

 

 てか刹那のフィギュアの破片残してたのかよ。あれもう何代目? 俺の部屋にストック置くようになってから数えてなかったんだけどそんなにあったの? あと当たって怒るなら最初から投げるんじゃない。

 

 刹那が可哀想だろ(グラハムへの罰として折ってる張本人)。

 

 これだけ突っ込みたい事が出てきたけど、俺は突っ込まんぞ。俺はそろそろ本格的にグラハムへのスルースキルを身に付けねばならないんだ。そうすれば、俺も教室で一人言を喋ってる寂しい奴だとは思われなくなるし。

 

 だから聞くだけ。これは練習なんだから、コントじゃねぇんだから。

 

「でも俺今日から二丁だぞ? 一個を二つで狙っていいのか?」

 

『いや、それでは視野や対応力が身に付かない。そのため、異なる方向から飛んでくる空き缶を二丁のCADで撃って欲しい。右から来るものを左で撃っても構わない。』

 

 そんなに空き缶あったんだ…………父さんも疲れてんだな。今度の父の日になにか送ってあげよう。

 

「けど、それだとグラハム以外にもう一人誰かがいるんだけど。母さん起きてるの?」

 

『母上にこんな朝早くから起きてもらい、これの手伝いをしてもらうのは忍びない。それに、母上に来てもらわずとも大丈夫だ。』

 

 大丈夫って、他に誰かいるのか? と疑問を頭に浮かべてると、

 

『ふんぬぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

 グラハムが力強くうなり始めた。え? なに急にって思うのもつかの間、グラハムの体が波打ち始めて。

 

 そして、

 

『『ふんっ!!』』

 

 分裂した。縦に真っ二つに。

 

 そしたら、おんなじ顔で分裂前の半分の大きさのグラハムスターが出てきた。

 

「…………は?」

 

 いや…………えっと…………は?? (困惑)

 

『これで問題ないだろう。時間が惜しい、早く練習を━━━━』

 

「いやちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!? なにお前はフツーに始めようとしてんの!? この異常事態にお前はなにも思わないのか!?」

 

 普通に二等分されたぞ!? こればっかりはスルースキル有り無し関係なしに突っ込むわ!? なにお前無性生殖して増えるタイプの動物だったの? やっぱグラハムは人間じゃなかったんだなって思いました(現実逃避)

 

「大体分裂って!? そんなの出来るなんて知らなかったぞ!?」

 

『私もつい最近まで知らなかったが、少年を愛でているときに勝手に出来たのだ』

 

「勝手に!? そんなお手軽に出来る感じなの!?」

 

『私は乙女座だからな。この程度、動作もないさ』

 

「乙女座はそんな特殊クラスみたいな名前じゃないわ!! 大体お前━━━」

 

『ガタガタうっせぇなこのガキは!』

 

 そんな時だった。唐突に罵声が俺の耳に入ってきたのは。

 

 グラハムは目の前にいるのでこいつじゃない。こいつなら目の前にいながら横から話してくるなんて芸当も容易くしそうだけど、今はグラハムよりも疑惑を向ける相手がいる。

 

 それはグラハム二号機なんだけど(勝手に命名)、グラハムにしては口調が荒い。

 

 声が飛んだ方を見ると、外観はやはりグラハムにハムスターだ。うん、いつも通りだ(洗脳済み)。けどなんか態度がデカイというかなんというか、それになんか足でリズム刻んで……ん? リズム? 

 

『ったく、さっさとするぞ。ジャズもねぇんだからやる気も起きねぇし。』

 

『すまないな。何故か分裂すると、もう片方はこのように粗暴になるのだ。何故かは、私にもわかっていない』

 

「あーうん、そう、ですか…………」

 

 いや粗暴とかそういうことじゃなくて。

 

 外面一緒で絶対中身違うでしょ!? 

 

 いやどっちも中も外も一緒っちゃ一緒だけど!! 粗暴な方のグラハム絶対中身グラハムじゃないって!! 

 

 ジャズ聴きながらサンダーボルト宙域をフルアーマーガンダムで突っ込んでく人だって!? ジャズが聞こえたら来る火力厨の兄ちゃんだって!! 

 

『さて役者は揃った、ならば始めようか。カヅキ構えろ!』

 

『暇潰しだが、まあいい。ガキ! 俺を夢中にさせてみろ!!』

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。(諦念)

 

 ちゃっかり二人(二匹?)して配置につき、もう手に空き缶持ってるし。

 

 もうなんだか色々どうでもよくなったので、そのままグラハムとグラハム二号と一緒に練習権リアルリズム天国しました。

 

 理解できない? 俺が一番頭がついていってないので安心なさいな。

 

 ━━━━━

 

 もう腕上がらん…………死ぬ…………

 

 あのままずっと撃ちっぱなしってなんだよ。バッティングセンターじゃないし、リズム天国でも長くても5分ちょいで終わるんだぜ? 俺の場合はサイオン尽きないからって一時間ぶっ通しだよ。

 

 それに最後はなんかグラハム二号もご満悦っぽかったし。火力がねぇんだよとか言われても知らねぇよ。こちとら大容量バックパック持ちながらマシンガン腕に固定されとるような輩に、フルアーマーな火力求めないでください。不適応すぎるので。

 

『カヅキ、この訓練を毎朝行う。そして夕方からはランニング、加えて私が格闘術を指南しよう。ユニオン軍式を徹底的にな』

 

「待って。ランニングはともかくなんで格闘術?」

 

『護身術だ。』

 

「いやでも今ユニオン軍式って━━━」

 

『護身術だ。』

 

「軍隊の格闘術って相手を殺すことに特化してるんじゃ━━━」

 

『護身術だ!』(迫真)

 

「そっかぁ」(諦め)

 

 護身術は大切だからね。襲われた時に無力じゃ駄目だからね。それに加速魔法と合わせたら一気に接近して格闘術で沈められるしね。一石二鳥だね。

 

 帰ってからも大変な事が続くのかと項垂れている場所は教室の俺の席。スルースキルを身に付けようなんて意気込みはグラハムとグラハム分裂事件でどこかに消えました。

 

 だから今もなお、俺は教室の座席に横たわり、一人ぼそぼそとなにもないところへ話しかける怪しい人になっております。悲しいね、バナージ(バナージは悲しくない)。

 

 まだ始業まで20分ほどある。これなら少しくらい寝ても問題ないでしょ。てか朝5時にグラハムが起こしてくるのはマジで予想外だった。昨日の夜に『今日は疲れたから早く寝た方がいい』なんて優しさに乗るんじゃなかった。グラハム、策士なり、掛かる私は愚かなりってか。やかましいわ。

 

「グラハーム。先生来たら起こしてくれ。それまで寝る。」

 

『了解した。ゆっくり休むといい』

 

 グラハムの労いを聞きつつ、体を起こしてうんと一伸び。腕や肩、加えて足がビキビキと痛く乳酸溜まってる感半端ない。休みたいなぁ(切実)

 

 そう考えてまた顔を伏せようとした時、コツコツと軽い足音がこちらへ近づいてくるのに気がつく。ふと視線だけそちらに向けると、やって来たのは現在お隣さんの北山さんだった。

 

 北山さんは、学校に来る時間が結構ばらついているタイプの人だ。それは北山さんが時間にルーズなのではなく、よく一緒に来る光井さん? だっけな。が時々寝坊してくるかららしい。なんで知ってるかって? たまたま聞こえたの。

 

 いつも通り、北山さんは何を考えてるのか判断つきにくい表情のまま自分の席までやって来て、いつも通り自分の鞄を机の上に置き、

 

「おはよう、市崎君」

 

 いつもと違って、俺へそう挨拶してきた。

 

 うん??? どしたの北山さん。今日は機嫌いいのか? 

 

 いつもは挨拶せずに、そのまますっと座って授業の準備したり光井さんとこ行ったりするだけで、俺に挨拶なんてしたことないのに。なんか良いことあったのか? 

 

「お、おう…………おはよう」

 

 だけど挨拶されたからには返さない訳にはいかない。何故なら私は日本人だから。何事もないような感じで返したけれど、俺の心のなかでは困惑すぎて頭のなかクエスチョンで埋まりかけだ。

 

 そんな俺をほって置きながら、北山さんは自分の席にすっと着席。そのまままたいつも通り進むかと思いきや、またも北山さんはこちらを見て口を開く。

 

「金曜日は大変だったね。桃地君に目をつけられて」

 

「あぁ、もうあいつ躊躇なくボコボコに苛めてくるんだよ。嫌になるわまったく…………」

 

 ほんっとあいつ嫌い! 弱者苛めて何が楽しいんですかぁ? 性格ゴミだな!! 魔法の才能しかない奴め!! そーいう奴はモテないんだぞ! 知らないけど!! 

 

「帰ってから言い訳が大変だったんだよ…………もう至るところ痛いし次会ったらただじゃおか……な……い」

 

 あれ、なんかおかしい。おかしいぞ。

 

 俺は何の話をしてる? 桃地と果たし合いしてフルボッコにされた事だ。

 

 それを誰に? お隣の北山さんに。

 

 何故? 北山さんが振ってきたから。

 

 …………あれ? 

 

 だらりだらりと嫌な汗が額から徐々に流れていく。今の会話から、一番なってほしくはなかった状況へとそれぞれのピースが当てはまっていく事に、俺の中で警鐘が止まんない。

 

「…………もしかして、もしかしてだけどさ。あれ、見てたの?」

 

「うん。私もあそこに通ってるから。行ったらちょうどやってたの。」

 

「どれくらい?」

 

「最初から最後まで、かな。」

 

 仁辺もなく、無情にも、北山さんはそう言った。言ってしまった。

 

 グラハム、わりぃ…………俺。

 

 死んだわ(精神的に)

 

 ガツンっ!! と勢いよく頭を机に叩きつける。隣で北山さんがビクッと驚いてるのがなんか可愛かったけど今はそれどころじゃない。

 

 あれを見られてた? ボッコボコに痛め付けられて、勝機が見えたみたいな事してオオポカやらかしたあれを、最初から最後までしっかり見られてたと。

 

 うん、普通に死ねるわ。

 

 ここまで屈辱的な事ある? 情けなく負け続けるのをさ、クラスの女子に見られるんだぞ? それも勝てたってとこであり得ないミスをやらかしたんだぞ? 

 

 恥ずかしすぎるわ。ほんと、マジで。

 

 まさか桃地はこれすらも計算に入れてのフルボッコだったというのか!? 恐るべし桃地!! 俺を肉体的だけでなく精神的にも傷だらけにするとはっ!? 

 

「市崎君大丈夫?」

 

「あー大丈夫でーす。恥ずかしくて死にかけてるだけ。てか死ぬだけだから」

 

「恥ずかしい? なんで?」

 

 なんでと、なんでと聞きますか北山さん…………まさかの傷口を抉りに来ますか…………S気質があるのかこの子…………

 

「だって見てて思ったでしょ? 一方的にボコボコにされて一勝もあげれてない。終わったらただのボロ雑巾に成り果ててたし」

 

 俺の股間もボロ雑巾になりかけたけど。

 

「ダサかったろ? 笑っていいんだよ? うん、笑われるような事だったんだから…………」

 

 ここまで来れば、いっそのこと開き直った方がダメージが少ない。ジリジリとほじくりまわされるよりもそっちの方が断然マシだ。

 

 さぁこい! 俺は(精神的にきっと)大人だから、笑われたって自然な対応をして見せるさ!! 心は泣いていようが大丈夫!! あとでグラハムに愚痴るだけさ!! 

 

 そう思って心構えをして待っている俺へ、北山さんが投げ掛けたのは、

 

「私は凄いと思うよ」

 

 罵倒でも嘲笑でもなく、称賛だった。

 

「……え? 凄い? どこが?」

 

「確かに、やられてるのを見るのはなんだか目をそらしたくなる感じだった。私も何度も止めに入ろうかとも思った。けど…………」

 

 

「市崎君の目が、ずっと諦めてなかったから」

 

「俺が?」

 

 自分を指差しながら尋ねると、北山さんはそれに対しコクリと頷く。

 

「いやほとんど諦めだったよ? 最後の一回避けられたのもほとんど偶々だったし、それがなかったら出来なかったし。痛いのはイヤだから早く終わんないかなぁなんて考えながらやってたんだから。」

 

「でも、最後まで勝ちは捨ててなかったよね?」

 

「…………まぁ、そうともいうかな?」

 

 勝ちを捨ててなかったかと聞かれれば、答えを俺はNOとは言い切れない。負けるだろーなーとかは思っていたのは事実だ。けれども、両親をバカにしたあの野郎に一泡どうにか吹かせてやると思ってたのも、また事実。

 

「あんな完全に不利な状況なのに、勝つことを諦めずにどうにか出来ないかって考えるのは、きっとなかなか出来ることじゃないよ。だから私は、市崎君のこと凄いと思う」

 

 手放しの褒め称えに、どこかむず痒さを感じつつ少し顔を背ける。でもそっちに仁王立ちするグラハムスターがいて、そっちを見てるとなんか不快だったから顔を北山さんに向き直した。

 

「魔法使うの苦手なの?」

 

「苦手というかなんというか…………俺他の人よりも処理能力が大分劣ってるんだよ。だから魔法も簡単な物しかまだ上手く使えない感じ。北山さんは?」

 

「私は今上級生と一緒に授業受けてるから」

 

「へー上級生と一緒にかー。え?」

 

 今何て言った? 上級生と一緒に? 

 

「…………実は同級生じゃないとかないよね?」

 

「むっ、私はまだ一年生。」

 

「だよね~。ってことは飛び級!?」

 

 眠気も全身の筋肉痛もぶっ飛ぶくらいの驚きが俺を襲う!! ついでにいきなり動いたので腕の痛みが遅れてやって来る!! 痛い!! 

 

「最初は皆と一緒にやってたんだけど、その内どんどん上に上がっていって。今三年生と一緒に受けてる」

 

「マジかよ…………」

 

 ばっか優秀じゃん。俺と比べたら月とすっぽんじゃん。やべぇ…………北山先輩マジぱねぇっす。

 

「えっと…………それじゃあお願いしたいんだけど、魔法に関して色々教えてくれない? 俺完全初心者でしかも才能もないからさ。頼む!!」

 

 ここで出来た縁だ。そう簡単に手放してなるものか!! 塾には先生はいるものの、生徒の分母に対して先生の数が全然合ってない。なら実力主義の魔法の世界なんだから、先生は優秀な生徒に着くのは明白。必然的に俺は独学で学んでいかねばならなくなってくる。

 

 グラハムによるサポートがあるとは言っても、さすがに初心者が二人揃ったところでといった具合だ。であれば! ここで飛び級もしてる天才の北山さんに教えを乞うた方がいいに決まってる!! 

 

 頼む!! お願いします!!! どうか、どうか!! 

 

「うん、いいよ」

 

 あっさり許可してくれました。

 

 彼女は天使か? 天使なのか? 苦手とかなんか怖いとか思っててすみませんでした。

 

「私もよく演習室借りて練習してるから、そのときに色々と教えてあげる。これからよろしくね、市崎君」

 

「…………香月でいいよ。市崎って言いにくいだろうし。あと君ずけもいらないから」

 

「そう? じゃあ、よろしくね香月」

 

「よろしく」

 

 にこやかに言う彼女へ、俺も笑ってそう返した。

 

 なんだかんだ小学生になって数ヶ月。俺に始めて友人と言えそうな人が出来た、大きな第一歩の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、師匠って呼んでもいい?」

 

「…………雫がいい」

 

 しかし師匠呼びは許してくれませんでした。残念…………

 

 





グラハムは分裂が出来るなんておかしいと思った

そこのあなた。

グラハムにそんな事すら出来ないと思う

その思考が間違いです。

頭が柔らかくないと、グラハムには着いていけません。





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