夜嵐イナサのクラスには宇宙人がいる。
もちろん、自称:宇宙人だ。
独特の雰囲気こそ持っているが、人間との差異なんてないし、健康診断なんかでもそのことは証明されている。いくら超人社会といえど、個性の出現により技術の遅れが生じているといえど、宇宙人の存在が一般的に「ありえない」ものであることなんて当たり前だ。
だがイナサはまっすぐで、根っからの単細胞であるわけだから、たまにその宇宙人を自称する女の子が、本物のような気がしてならないのだった。
「……私、宇宙人なの」
吸い込まれそうな瞳はさそり座のアンタレス。最期の焔を放つ星の煌めきのように、相手を捕らえて離さない。
繊細な絹糸のような髪はおおいぬ座のシリウス。冬の夜空で輝くような、澄み切った色をしている。
小さな顔に造られた繊細なパーツたちは確かに綺麗で、美少女と呼んでも良いのだろうが――血管が透けてしまいそうなほど真っ白な肌が、彼女に不気味な雰囲気を与えている。
何より、言動が良くない。いくら可愛かろうと自分を「宇宙人」なんて名乗り、定期的に夜空と交信しようと試みる彼女にときめきを抱くクラスメイトなんているだろうか。
そのため彼女――
「だからヒーローになって、故郷の星へ帰るの」
「へぇ!! 星乃さんの故郷の星ってどこなんスか!!」
「……月」
「月!? 案外近いっスね!!」
でも、イナサには関係ない。彼もまたあまりにも前傾姿勢すぎて、空気というのを無視してしまうからだ。
感情表現が薄い彼女とはまさに、対称的な性格。けれど、どこかで似ているのかもしれない。
イナサは彼女と一緒にいると気が楽だし、何だかわくわくした気分になるのだ。
「星乃さんが月に帰っても、ロケットあれば会えるかな!!」
「……無理だと思う。月の宇宙人は地球人に見つからないようにシェルターをつくってるの。だから見えないし、会えない」
「えーー!?!?」
どこまでが彼女の作り話で、どこまでが彼女の嘘なのか。
そして、何より……どこまでが彼女の『本当』なのか。
イナサには分からないし、詮索しようとも思わない。
それでも確かにイナサは、彼女の友だちだった。
彼女がそうでありたいと願ったことがこの不思議な言葉たちであるならば、イナサはそれを頑なに、それを信じよう。
愚直だと何度言われても、彼女を続けてやろうじゃないか。友だちにできることなんて、ただそれだけ。それくらいのことしかできないのだから。
士傑高校には宇宙人がいる。
いつも電波を受信している、透明な女の子。
感情表現が薄くって、ぼんやりして見える女の子。
影巳星乃は、そんな女子。一風変わったヒーローの卵。
士傑高校の宇宙人は、今日も夜空を夢見てる。