[完結済み] この夜に祝福を。   作:Rabbit Queen

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 貴方はずっと、月を見ていて。

 とっても綺麗で、かっこよくて。

 私はずっと、貴方を見ていました。

 それも、今日で終わり。



 私の初恋のお話、聞いてくれますか?




月花夜兎。

 

 心地よい風が吹く。

 何度目かの春がやってきた。

 私は、この温かい夜風が、

 また新たな出会いを連れてきてくれるのだろうかと思いつつ、

 今日も独り飲み明かす。

 

 

 

 

 「夜兎さんって、結婚とかしないんですか?」

 

 青年の、和真さんのその言葉に私は思わず笑った。

 そんな私を、和真さんは不思議そうに見てくる。

 中身が入っていない空のグラスを眺めつつ私は言う。

 

 こんな老人を貰ってくれる人がいるかい?と答える私に、

 和真さんは右手を上げ左右に振って言った。

 

 「いやいや、夜兎さんモテるじゃないですか。この前も仕事場に大量の女の人、来てたの見ましたよ?」

 

 ああ、あの事か。

 不思議なことに、歳を取ると変にモテるらしい。

 落ち着いた紳士な男性だとか、ダンディーなところに惹かれるだとか。

 そういった理由で、ここ最近は特に女性客が来るようになった。

 

 ここでの相談屋もそうだ。

 初めて相談屋をやってから評判は徐々に上がって、

 気付けば女性の悩み事を聞いてる時間が多くなった。

 

 

 たまにサキュバスの方がお礼にお店に来てくださいとクーポンを渡してきたりすることもある。

 そういった物は全部和真さんや冒険者さん達にあげていた。

 最近は、ただ雑談目的で来たりする人も居る。

 私としては、愚痴でも雑談でも大歓迎なのだが……

 こういう風に、何かと茶化されることも多くなって少し困ってはいた。

 

 

 「和真さんも、モテモテじゃないですか」

 

 いつもの酒を運んできた彼女が、テーブルにそれを置いて和真さんに言った。

 彼女の言葉に和真さんは恥ずかしそうに、両手をバタバタと振って言う。

 

 「い、いやいや!俺達そういうのじゃないですから!何言ってるんですかもう!」

 

 あらあらと笑う彼女に、和真さんは仕返ししようと思ったのか、彼女に言った。

 

 「そう言うのなら、店員さんだって、夜兎さんといい感じじゃないですか!二人共付き合ってるんじゃないんですか~?」

 

 にっしっしと笑う和真さんに、私は困ったように苦笑し、

 青年の言葉から逃げるように月を見る。

 背中に彼女の視線を感じながら、その言葉を聞く。

 

 

 

 

 

 「私達も、そういう関係じゃないですよ。だって私、結婚しますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……え?」

 

 

 彼女の言葉に、和真さんは困惑する。

 私に、そして彼女に、キョロキョロと視線を移しているのがわかる。

 私はグラスを持ち上げ、独り静かに月を見て酒を飲む。

 彼女はしばらく私に視線を移し、そして和真さんの方を見て言う。

 

 「私が生まれた街に幼馴染が居るのですが、この前帰省した時にプロポーズされたんです」

 

 「そ、そうだったんですね……」

 

 「私も、もういい年齢ですし、そろそろ身を固めたらどうだーって、お母さんが」

 

 「あれ、店員さんて何歳でしたっけ?」

 

 「もう、女性に年齢を聞くのはだめですよ?カズマさん」

 

 「え?あ……す、すみません」

 

 「ふふ、冗談です。今年で28です。おばさんですよね?」

 

 「わっか!?いや全然!!そうには見えないですよ!?」

 

 「ありがとうございます。でも、周りからしたらもういい年齢ですよ」

 

 「へぇー……全然そうには見えないけどなぁ」

 

 「そういう事で、来週にはこのお店を辞めるんです」

 

 「……え!?ら、来週!?」

 

 「はい。急でごめんなさいね」

 

 「いや……でも、そっかぁ……もう、会えなくなるんですね」

 

 和真さんはそう言ってジョッキグラスに口をつける。

 ゴクゴクと飲んで、そして何か思いついたのか、言った。

 

 「そうだ!お祝いしませんか!?皆呼んで、パーッと飲みましょうよ!」

 

 「そんな、悪いですよ」

 

 「気にしないでくださいよ!今までのお礼も兼ねて、奢らせてください!」

 

 「うーん……」

 

 悩む彼女に、店内からマスターさんがやってくる。

 

 「いいんじゃないかな。私は賛成だよ?」

 

 「マスター……」

 

 「私達も君には随分と助けられたからね。カズマ君、決まったら教えてくれるかい?その日は彼女を休みにするから」

 

 「了解です!夜兎さんも、絶対来てくださいね!?」

 

 ええ、必ず行きますよ。私はそう言って和真さんと乾杯した。

 彼女は笑って、楽しみにしてますね。と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは、店員さんの新たな門出を祝して!」

 

 「「「かんぱーい!」」」

 

 

 

 そうして、彼女を祝うその夜がやってきた。

 そこには、今まで彼女に世話になった者。

 彼女の熱狂的なファン。

 同僚。マスター。

 そして、和真さん達一行が、彼女を祝っていた。

 私は独り、いつもの席で静かに飲んでいる。

 その様子を、彼女が笑っている姿を、私は見ていた。

 

 

 

 

 

 「隣、いいですか?」

 

 盛大に祝福され、少し疲れた表情をした彼女が私の元に来て言った。

 どうぞ。と言って彼女を座らせる。

 彼女は手に持っていたグラスをテーブルに置くと、

 同僚を呼んで新しいお酒を注文しようとした。

 私はそれを止め、違う物を頼んだ。

 それは、このお店で一番高い、あのお酒だ。

 

 「いいんですか?私なんかの為にあのお酒を……」

 

 私は言った。

 

 老人は、彼の祝福に。

 彼は、私との出会いに。

 私も、いつかは頼もうと思っていた。

 

 

 大切な人に贈ろうと。

 

 

 「……ずるいですよ、そういうの」

 

 

 彼女は寂しそうに言う。

 そうして、運ばれたあの酒を彼女のグラスに注ぐ。

 すると、今度は彼女が私のグラスに注ぎ始めた。

 

 「なら、私も贈ります。大切な貴方に」

 

 彼女は笑って、そう言った。

 私も同じように笑って、そしてグラスを掲げる。

 

 

 

 

 ――おめでとうございます。

 

 

 「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅立ちの日。

 私は城門前で、彼女を見送る。

 

 「こんな朝早くから……本当に、ありがとうございます」

 

 謝る彼女に、私は大丈夫ですよ。と答えた。

 そして、持っていたその花を彼女に渡す。

 

 「これは?」

 

 スイートピーです。と私は言った。

 花言葉は、「私を覚えていて」

 

 私も君の事を忘れません。

 だから君も、どうか暇な時にでも、

 あの高く上がり、輝き続ける月を見て、

 たまには私を思い出してください。

 

 そう告げて。

 

 

 「……ほんと、ずるいです」

 

 彼女は花を受け取ると、私の目を見る。

 そして、言った。

 

 「……結局、あの月から貴方を振り向かせる事はできなかったですね」

 

 「私、絶対に忘れません。貴方の事を、あの月の事を」

 

 「貴方と出会ったあの夜の事も。全部、覚えてますから」

 

 「また、月の下で会いましょ?兎さん」

 

 そう言って、彼女は馬車に乗る。

 小さな馬車はゆっくりと歩き出し、そして徐々に、遠くまで走っていった。

 私はそれを、見えなくなるまで見守る。

 

 そうして、私はまた一つ、別れを知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こんばんは。今日も来てくれたんですね。いつものお酒、用意してますよ♪」

 

 

 

 「夜兎さん……ですか。不思議な名前ですね。でも、いいと思います」

 

 

 

 「……名前の由来ってそういう事だったんですか?じゃあ、今度からは兎さんて呼びますね!なーんて」

 

 

 

 「あの……今日はこの後お仕事もないので……その、一緒に!お酒を飲みませんか……?」

 

 

 

 「いらっしゃいませ。こちらの席にどうぞ……え?月がよく見える席……ですか?えっと、多分こちらだとよく見えるかと…………不思議な人」

 

 

 「お待たせしました。こちら……あっ……」

 

 

 ――ありがとうございます。……どうかしました?

 

 「あ、いえ!なんでもないです!そ、それじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 「……月を見てる姿、とっても綺麗だったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 馬車の中で、彼女は涙を拭う。

 そして、もう遠くて見えなくなった男に、小さく呟いた。

 

 

 

 「……さようなら。ずっと、ずっと、大好きでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……寂しいなぁ」

 

 私の前で、和真さんがため息をついて呟く。

 どうしました?と言う私に、和真さんは言った。

 

 「店員さん居なくなって寂しくないですか?もうあの笑顔も声も聞けないのが、辛くて辛くて……」

 

 

 和真さんの言葉に、私は月を見て言った。

 

 

 ――こうしていれば、彼女に会えますよ。

 

 

 「ロマンチストだなぁ、夜兎さんは」

 

 そう言って、和真さんはまたちびちびと酒を飲み始める。

 そしてふと、彼は言った。

 

 「そういえば、ずっと気になってたんですけどね?」

 

 なんだい?と答える私に、和真さんは続けて言う。

 

 「月花夜兎さんのそれぞれの文字の由来はなんとなくわかるんですけど、兎ってなんなんですか?」

 

 私はそれを聞いて、少し黙り込む。

 そして周りに人が居ないか確認し、和真さんに耳を近づけるように言った。

 不思議そうに、和真さんは耳を近付けて私の言葉を聞く。

 

 

 なんてことはない。

 

 月は、私が好きだから。

 

 花は、私が好きだから。

 

 夜は、私が好きだから。

 

 じゃあ兎は?兎も好きだから?

 

 

 いや、違うよ。

 

 

 

 「……あー、なるほど。言われてみれば、たしかにそうですね!」

 

 和真さんはそう言って、私を見てニヤニヤと笑う。

 こうして話すのは、君と、彼女だけだよ。と私は言った。

 そして月を見て、今日も乾杯をする。

 

 

 

 

 

 

 

 ――私はね、これでも結構、寂しがり屋なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、聞いてるの?」

 

 青髪の少女に肩を揺らされ、私は気付く。

 ええ、聞いてますよ。と返して少女を見る。

 女神、アクアさんは私の返答にほんとに?と不満そうに返した。

 

 「むー。ほんとは夢でも見てたんでしょー」

 

 彼女の言葉に、バレましたかと私は答える。

 ふふん、女神様ならこれくら当然よ!と言って、誰の夢を見ていたのか聞いてきた。

 私は、和真さんの事を思い出してましたと答える。

 

 「……そう、カズマのことを、ね」

 

 そう言って、アクアさんはちびちびと酒を飲み始める。

 

 

 

 

 あれから10年。

 

 

 私の隣にはアクアさんだけが居る。

 

 

 

 

 

 世界を救った勇者、佐藤和真さんは、もうこの世界には居なかった――。

 

 

 

 






エーペックスやってて忘れてました(´゚ω゚`)

明日も投稿です。
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