[完結済み] この夜に祝福を。 作:Rabbit Queen
その花はとても綺麗で、多くの人に愛され、多くの人を魅了した。
月の下で咲き続けた花はいつしか枯れてしまい、そしてまた、新たな花が生まれる。
その花はとても尖っていて、誰も寄せ付けず、けれども、確かな魅力はあった。
そしてその花は、同じように月の下で咲き続ける。
――ただ、彼とは違うやり方で咲き続ける。
「貴方は一体、なんなんですか」
僕は、暗闇の中で輝き続けるその月に向かって、呟いた。
その先に居るであろう、月花夜兎という人物に対して、僕は呟いた。
僕は、同じ名前を持つその人が嫌いだった。
物心つく頃から、その人の話を聞かされていた。
お父さんが買ってきた本はその人の物語が書かれていて、
お母さんが、この人は本当に居たんだよ。って、その人の話を聞かせてくれた。
お母さんのお友達も、その人の事を知っていて、その人の事が大好きだったらしい。
僕には、その人の面影があると言われた。
性格は全く違うけれども、月を見る姿はその人と同じだと言われた。
その人のことを知れば知るほど、確かに、僕と似てる部分もあって。
でも、それがわかる度に、僕は自分を嫌いになっていた。
お母さんも、お母さんの友達も、僕を見ているんじゃない。
僕の後ろに居る、その人を見ていたんだと思うと、僕は自分が嫌いになりつつあったんだ。
ある日、僕は街の子供と喧嘩して、家出をした。
その子は男の子で、自分よりも小さい女の子をいじめていたんだ。
僕は別にその子が好きだったわけじゃない。
男の子が嫌いだったわけじゃない。
でも、お母さんもお父さんも言ってたんだ。
男の子は、女の子を殴っちゃ駄目なんだって。
だから僕はそれを止めた。
止めても話を聞かなくて、逆に怒ってきて。
僕も殴られて、だから、殴り返したんだ。
そうしたら、その男の子が泣いちゃって。
しばらくして、お母さん達がやってきた。
相手のお母さんは謝れって怒っていた。
お父さんとお母さんは、貴方は悪くない。と言って、相手のお母さんに謝っていた。
間違ってないのに、何でお母さんもお父さんも、謝っているのだろうか。
僕にはわからなかった。
わからなくて、自分が悪いんだと思って、それで、家を出ていった。
気付けば夜になっていて。
僕は山の中を、歩き続けた。
何が駄目だったんだろうとずっと考えていて、気付いたら、僕はこうして山を歩いていた。
前を進んでも暗闇で。後ろを見ても暗闇で。
ようやく自分の状況を理解して、そして怖くなった。
夜はいつもお母さんが隣に居て、1人で夜を過ごした事はなかった。
夜が、僕を食べようとしているみたいで。
あんなに明るかった空が、街が、全部黒く染まって。
そんな夜を、お母さんは、好きだと言っていた。
綺麗で、心が落ち着くって。
でも、僕にはそれがわからなくて。
ただ、夜が。闇が。
僕を包もうとしていて、僕は泣きそうになった。
立ち止まり、とうとう泣き出そうとした時だった。
暖かい光が、僕に触れて。
ふと、空を見上げた。
そこには、大きな大きな、月が輝いていて。
その月の輝きが、僕を包もうしていた闇から守ってくれようとしているみたいで。
僕は、その暖かさに、その輝きに、目が離せなかった。
ずっと、ずっと、その人が好きだったその月が、嫌いだった。
綺麗だと思った事はなかった。
ずっと見ていたいと思った事もなかった。
ただ輝き続ける月を、好きになる事はなかった。
――でも、今なら、少しだけわかる。
――認めたくないけど、でも……少しだけ、貴方の気持ちがわかりました。
悔しい気持ちもあるけど、それでも、それを好きになれたという嬉しさのほうが大きかった。
月に照らされ、輝きに導かれ、そうして僕は、気付けば家に辿り着いた。
お母さんとお父さんはすごく心配していた。
少しだけ怒られたけど、よかった。って、抱きしめてくれて。
泣いて喜ぶ二人に、僕はごめんなさいと謝った。
あれから、僕には趣味が一つ出来た。
何をやっても楽しくなかった僕の日々に、ようやく出来たその趣味は、
僕の嫌いな人と同じ物で、少しだけ嫌な気持ちもあるけれど。
……それでも、僕は、それを尋ねられたら、迷うこと無く言うと思う。
「あら、今日もここで見てたの?すっかり月を見るようになっちゃって……そんなに好き?」
――うん。好きだよ。お母さん。
「あの!貴方が、噂の相談屋さんですか……?」
黒髪の少女が、僕の前に立ちそう尋ねる。
いつもの席に座り、いつものミルクを頼んだ僕は、
グラスにミルクが入ったそれを受け取り、テーブルに置いた。
そうですよ。と返した僕に、少女は自分の悩みを打ち明けてきた。
少女の悩みを聞き、そして僕の答えを出す。
どこかの誰かがやっていたそれを、僕は同じようにやる。
少しだけ違うのは、僕の飲むものはミルクで。
そして、必要以上に誰かと接しないこと。
僕には友も、愛する者も居ない。
ただ、この月だけがあればいい。
静かに見守ってくれるこの月だけがあれば、それでいい。
そうして、今日も人々の悩みを聞く。
あの日、月の輝きに救われた僕と同じ人を。
月に導かれた人々を、僕が救う。
きっとその人もそうしていたのだろう。
同じ事をするのは嫌だけど、でも、僕だって救ってみせる。
その人とは違うやり方で。
そして、その人よりも多くの人を、僕は救ってみせる。
グラスを持ち上げ、月に掲げる。
お母さんも、お母さんの友達も、そして、その人もやっていたように。
僕も、同じように、月に乾杯をした――。
次回、アフターストーリー最終話。
0時更新予定。