[完結済み] この夜に祝福を。   作:Rabbit Queen

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夜は必ず訪れる。違う夜を連れて。

月は必ず登る。人々の願いと共に。


それぞれの夜。それぞれの、月。

 

 今日もまた、夜が訪れた。

 

 

 転生をしてから、多分一週間くらいは経っただろう。

 異世界での生活は徐々に、馴染みつつあった。

 それでもやはり、私にはまだ慣れないものがある。

 それは、彼ら冒険者だ。

 

 テーブルの上に置かれているグラス。

 その横には、今日はまだ開けていなかった瓶が置かれていた。

 私は瓶の蓋を開ける。

 透明なグラスに注ぎ込む。ゆっくりと右手で持ち上げた。

 夜と、月と、そして私の視線の先に居る冒険者達に、乾杯をした。

 

 

 一口飲んで、グラスをテーブルに置いた。

 つまみは無い。私は結構な少食で、飲み物だけでも十分お腹は満たされる体質だった。

 足を組み、顎に手を当てる。

 そうして私は、視線の先に居る彼ら、冒険者達を遠くから見ていた。

 

 この異世界での生活は確かに慣れつつあった。

 生活する上でお金はどうしても必要だ。

 転生をした次の日、私は仕事を探した。

 冒険者にならなかった私は、自分の能力を活かせる仕事を見つけようとあれこれ探した。

 そうして、ようやく見つけた仕事先は、花屋だった。

 

 給料はそれほど良いものではない。

 ただ、趣味もそれほど無く出費も激しいわけではなかった私にとっては、十分だった。

 ホストの時に貰っていたお金は確かに多かったが、どれもこれも女性の贈り物に使った。

 自分が意図して使ったといえば、募金だっただろう。

 コンビニに寄った時ふと募金箱を見て、気付いたら5万も入れていた。

 店員さんは驚いて確認しにきていたが、特別驚くことはない。

 それほど、私にとってお金は重要ではなかった。

 

 ただ、生活する上では重要なのは確かだ。

 食費、家賃、衣類や小物類に使う費用などなど。

 幸いな事に、この世界では光熱費は取られなかった。

 どういうシステムなのかは理解出来なかった。

 そもそもそれほど興味も無いものにあれこれ聞いても相手に失礼だと思った。

 ただありがたく、そのシステムには感謝をした。

 

 

 重要ではないと言ったが……よくよく考えれば、一つだけ大事な事があった。酒だ。

 今まで飲めなかった酒が、今では飲める。

 それが嬉しくて、仕事を終えてこうして夜になると、必ず酒を飲んでいた。

 酒の値段も高くはなかった。しかし、それでもお金はかかる。

 常にお金には余裕を持っておけと亡き店長から言われていた。

 私もその通りだと思った。だから、なるべく出費は抑え貯金はしていた。

 

 

 仕事は至って順調だ。

 それほどお客さんが来るようなお店ではなかった。

 かと言ってとても暇な仕事というわけではなかった。

 花の名前や種類、花言葉、それぞれの場面にあった選び方など、学ぶことは多かった。

 花屋に勤めてから、これまで以上に花に触れた。

 前まではただ飾っていたのを見るだけだったが、今では自分で手入れをする。

 おかしなものだなと私は1人笑った。

 そんな私の笑いをかき消すように、冒険者達は騒いでいた。

 

 

 あぁ、そうだ。話がそれていた。

 私は自分の能力を活かせる仕事を見つけた。

 朝は働き夕方に温泉に浸かり、夜はこうして月を見て過ごしていた。

 そんな私と同じように、働き、温泉に浸かり、夜を過ごす者達がいる。

 その中でも特に異彩を放っているのが、彼ら冒険者だ。

 ……いや、彼らからしたら、私のほうが異彩を放っているのだろう。

 そうだとしても、やっぱり私には彼らの方が特別だと感じた。

 その身を削り、最前線で戦う彼らの姿が。

 

 

 それぞれが武器や防具を持っていた。 

 彼らは集団で、1人で居ることはほとんどなかった。

 たまにパーティー……?から省かれた者も居たが。

 それでも集団で飲んだり騒いだりしてる人のほうが多い。

 彼らは自由だ。

 朝に冒険をする者も居れば、昼や夕方に動き出す者も居た。

 自由に冒険をし、自由に飲み食いをする。そして集まれば皆で騒ぐ。

 

 ホストの頃、騒ぐというのが好きではなかった。

 それも、仕事が女性を褒めてお金を貰うものだったから余計にだ。

 褒めて、騒いで、酒を飲んで、お金を貰う。

 その仕事をしている以上仕方がないとはいえ、好きではなかった。

 だからだろうか。彼ら冒険者の騒いでる姿が、羨ましかった。

 

 酔って騒いでる者も居た。便乗するように騒いでる者も居た。

 愚痴をこぼしたくて騒いでる者も居た。ただ楽しくて騒いでる者も居た。

 騒ぎ方はそれぞれ違ったが、それでも一つだけ全員が共通の物を持っていた。

 それは仲間だ。

 彼らはお金を貰って騒いでるわけではない。

 彼らは仕事で騒いでるわけではない。

 彼らは生きるために、生活の為に騒いでるわけではない。

 

 そこには仲間が居て。

 ただそれだけで、騒いでいた。

 それが私には、とても羨ましかった。

 

 

 とはいえだ、私にも恥じらいはある。

 今更、この歳であの和に入って騒ごうという行動力も思いもない。

 ただ、もし彼らが邪魔だと思わないのなら。

 許されるのなら、彼らの喧騒を聞きながら、この夜と月を楽しんでも構わないだろうか。

 

 右手で再びグラスを持つ。

 夜と、月と、そして彼らに、私は再び乾杯をした。

 

 

 

 

 

 

 仕事が終わり、私は店長に先に帰ることを伝えると、いつも使っている街の温泉に向かった。

 この仕事が終わるのは夕方時で、店から出ればいつも夕日が私を出迎えていた。

 人々が、思い思いに歩いていく。

 家族が、今日の夕飯を。

 冒険者が、依頼の報告を。

 恋人達が、美しい景色を。

 それぞれが、それぞれの想いで歩いている。或いは、その場所に立ち止まっている。

 

 一日が終わろうとしている。

 皆が一日の終わりの準備をしている。

 私は1人静かに笑った。

 私にとって、今日の一日はこれから始まる。

 長い長い夜が、今日も訪れる。

 

 

 ゆっくり温泉に浸かった私は、いつもの場所に向かった。

 いわゆる、馴染みの店だ。

 そのお店の、外に置いてあるテーブル席が私の特等席だった。

 初めて訪れた時、店の人は中に入ることを勧めた。

 だが私は、その場所を見つけると、真っ先にそこに座った。

 店員は驚き、今日は中がいいですよ?と言った。

 

 確かに、その日は寒かった。

 店の外のテーブル席には誰も座っていなかった。

 皆、店の中で楽しんでいた。

 しかし私は外を選んだ。

 何故なら、この席が一番よく見えたからだ。

 

 私は店員にそう言った。

 店員は困惑していたが、私の視線の先を見て、ようやく理解した。

 そうして、注文を頼んだ私はその席で月を見ては、酒を飲んだ。

 それが、日常になっていた。

 

 仕事が終わって、温泉に浸かれば、必ずこの場所に来て、この席に座る。

 3日、4日と連続で来れば、店員さんも理解するには十分だったと思う。

 彼女は私が席に座るとグラスとお酒を置いていく。

 これで大丈夫でしたか?と聞く彼女に、私は頷き、感謝する。

 それが、日常になっていた。

 

 

 今日は珍しいものを見た。

 普段座っている席に座り、いつも通り酒を飲んでは夜が訪れるのを待っていた。

 視線の先には、いつも楽しそうに騒いでいる冒険者が居た。

 彼らは私とは違う店でいつも騒いでいる。

 私が居る店の正面にも酒場があり、そこは比較的冒険者が集まりやすい店だった。

 行ったことはないが、きっと冒険者専用の酒場なのかもしれない。

 

 そう考えると、確かに私が通っているこの店は一般人が多かった。

 冒険者ではない者や家族連れで来ている者が多かった。

 何気なく選んだ店だったが、正解だったかもしれないな。

 そんな事を思いながら、視線を冒険者達に向けた。

 

 いつも楽しそうに騒いでいる大男や、その仲間達。

 四人の男女チーム。

 男だけのチーム。

 いろんなグループがそこにはあった。

 その中で、特に珍しいと思うものがあった。

 

 女性二人のグループだ。

 1人は銀色の短髪をした少女。

 もう1人は金髪のポニーテールで、全身に鎧を着込んだ少女がそこには居た。

 この一週間様々な冒険者を見たが、女性だけのグループは初めて見た。

 珍しさ半分、そして不安が半分あった。

 私はゲームという物をあまり知らない。アニメというものも、漫画もよくわからない。

 だから、純粋に心配だった。女性二人で大丈夫なのだろうかと。

 

 もしかしたら仲間を待っているのかもしれないとしばらく見ていたが、来る様子はなかった。

 私は冒険者の事をよく知らない。

 あの女神様に冒険者を断った時、それ以上の説明を受けなかったからだ。

 どういう仕組みで、どういう風に戦うのかもわからない。

 もし役割があるとしたら、それをどう分担しているのかも想像が出来ない。

 だからこそ、女性二人だけというのがどうしても心配だった。

 

 

 しばらくして、二人の少女はどこかに行ってしまった。

 本当に珍しいものを見たなと思いつつ、どうかあの少女達が無事に冒険出来るようにと願った。

 見知らぬ私が勝手に祈ったところで、どうにかなるとは思えない。

 それでも、力を持たない私はこうして祈るしかなかった。

 

 

 しばらくして、夜が訪れる。

 街は光で溢れ、仕事で疲れた者達が騒ぎ出す。

 また今日も夜が始まる。

 必ずやってくるその夜は、毎夜違う夜を運んでくる。

 

 

 「大丈夫だよ、ダクネス。きっと見つかるよ。ダクネスにとっての、大事な仲間が」

 

 「……そうだな。ありがとう、クリス」

 

 「良いって良いって!あ、見てダクネス!月がとっても綺麗だよ?」

 

 「本当だな。……せっかくだ、祈ってみようか」

 

 「あ、それいいかもね!」

 

 「……どうか、私に仲間が出来ますように」

 

 それぞれが、それぞれの想いを抱いて夜を過ごす。

 

 「……また今日もパーティーに入れてもらえなかった。私は、一生このままなんだろうか」

 

 「……もう一度、明日またギルドに行ってみよう。それで、お願いしよう。仲間に入れてほしいって」

 

 「私なら大丈夫。私には、この爆裂魔法があるから……これがあればあの月だって!……月かぁ。お願い、してみようかな」

 

 「……私を受け入れてくれる人達が出来ますように」

 

 

 様々な感情が風のように、この夜を駆け抜けていく。

 変わらぬのは、この騒がしい声と。

 

 

 

 「……さぁ、今日も共に過ごそう。この長い長い、夜を」

 

 

 その夜と、夜に浮かぶ月を、今日も1人静かに見ている男だけだった。

 

 

 





お疲れさまでした。

とりあえず続けます。内容はこんな感じに。
ちなみにアニメしか見てないのでそんなにストックないです。
なので基本オリジナルストーリー。それでもよければまた次回。

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