[完結済み] この夜に祝福を。 作:Rabbit Queen
それはきっと、月からの落とし物だろうか。
貴方にとって。
私にとって。
それは価値のあるものだろうか。
朝日が登る。
今日も無事に夜が過ぎていった。
多くの人が、活動するために目覚め、街はまた人々の働く顔で溢れていく。
私もその1人だ。
歯を磨き、顔を洗う。鏡を見て自分の顔を確認する。
問題はない。特別、整ってる顔ではないが、まぁ悪くはないだろう。
部屋に飾ってる花に行ってきますの声をかけ、私は家を出る。
さぁ、仕事の時間だ。今日も働いて、夜を楽しもう。
今日は5人もお客様が来てくれた。
一組目はカップルだった。男性が、彼女に合う花を選んで欲しいと言った。
私は悩み、デンファレという花を選んだ。花言葉は「お似合いの二人」だ。
二人の表情を見ればわかる。
男性は深い愛を、女性はそれを受け止め、愛らしい微笑みを浮かべていた。
私には、この花が二人に似合うと思った。
二組目は二人の男性だった。
男同士が花屋に来るなんておかしいですよね。と彼らは言ったが、別に私は気にしなかった。
ただ何の花が欲しいのか尋ねる必要はあった。友情なのか、はたまた、お互いの愛に対してか。
理由を聞くと、それはなんてことはないものだった。
とある女性達に、いつもお世話になっている感謝を込めて花を贈りたいという内容だった。
彼らの服装は冒険者達が着るような物だった。勿論、鎧もつけている。
私は、彼らと同じグループの女性メンバーに渡すのだと思い、一生懸命選んだ。
悩みに悩んで、スイートアリッサムという花を選んだ。花言葉は「価値あるもの」だ。
信頼や友情なども捨てがたいと思った。
しかし、彼らは冒険者だ。
命をかけてまでお互いを守ろうするその姿はきっと他の物よりも価値があるのだろうと思った。
だから私はあえてこの花を選んだ。
彼らは花言葉を聞いて喜んだ。
そして彼らはこう呟いた。
確かにあの夢はどんなものより価値があると。
私は気になり、送る相手の事を聞いた。
……しまった。別の物にするべきだった。
彼らが渡そうとしてる相手。
それが性的な夢を見させてくれる特殊な種族に対してだとは思わなかった。
いやまぁ、彼らにはそれほど価値があるのだろう。
人の事を悪く言うつもりはない。
ないのだが……困ったな。
結局、彼らはその花を買っていった。
私は別のにしようかと言ったのだが、彼らはそれをえらく気に入ってしまった。
まぁ、お客様がそう言うのなら、私はこれ以上何も言えない。
ありがとうございましたと頭を下げ、次からはちゃんと聞いてから花を選ぼうと思った。
最後に来た三組目は1人の女性だった。
それは、私が前に見た、銀色の短髪をした少女だった。
私は驚いた。まさか、あの少女がこの花屋に来るとは。
彼女は笑顔で私に話しかけてきた。
私もすぐに笑顔で返した。
お客様には常に笑顔でいるのが絶対だと亡き店長に強く言われていた。
私は少女に何を探しているのか聞いた。
少女は話した。
何でも、彼女の大切な友達に、ようやく信用出来る仲間が出来たらしい。
彼女の話を聞いて私は喜んだ。
きっとこの少女が言う友達は、あの金髪の少女の事だろうと。
良かった。あの子にも信用出来る仲間が出来たのか。
これで不安は消えた。きっと、その仲間達があの子を守ってくれるだろうと。
私は少女の言葉を受け、花を選んだ。
選んだのはニオイヒバ。花言葉は「固い友情」
あの子が、これからずっと先も、信用できるその仲間達と固い友情で結ばれる事を祈って。
そして。
この少女とも、決して途切れることはない固い友情で繋がっている事に私なりの敬意を払って。
少女は花言葉を聞いて受け取ると、とても感謝していた。
支払いを終えて帰る時、少女は小さく呟いた気がした。
「いつでも見守っています」と。
仕事を終え、私は街の温泉に向かった。
身体を洗って、温泉に浸かる。
この瞬間が、なんと心地の良いことか。
温泉に浸かりながら私はふと考えた。
そういえば、露天風呂はこの世界にはないのだろうか?
もしあるとすれば、是非とも入りたい。
それも夜に。
そうすれば、この心地よさを感じつつ、夜を、月を、感じることが出来る。
そしてそれらを眺めながら、一杯やる。
……あぁ、きっと、楽しいだろうな。
十分に身体を休め、店から出た私は、店の横にある噴水に目をやった。
私と同じように、身体を休めてきたであろう、青年が座っていた。
珍しいと思ったのは、その青年が着ている服だった。
あれは、この世界ではなかったはずだ。
いや、単に私が見つけていないだけで、もしかしたら売っているのかもしれないな。
そんな事を考えながら、私は歩きだした。
ジャージ姿の青年を後にし、私はいつもの店に向かった。
いつもの席に座り、いつものお酒を頼む。
いつもの店員さんが来て、それを置いていく。
いつものように感謝し、いつもと変わらない冒険者達の騒がしい声を聞きながら、酒を飲む。
今宵も夜が訪れる。
今日は、何を見せてくれるのだろうか。
この夜は、何を運んできてくれるのだろうか。
1人静かに微笑む。
夜よ、月よ。
どうか今宵も、私と共に――。
今日は珍しく、遅く店に着いた。
急な仕事が入ってきて、それの準備の為にあれこれやっていた。
そうして仕事を終えて外に出れば、いつも出迎えてくれていた夕日は既に落ちていて。
いつも月が昇るのを待っていた私。
だが、今日は月が私を待っていた。
もう夜は訪れていた。
それに気付かないほど、私は仕事に集中していたらしい。
なんてことだ、私が待つのは構わない。
だが、月を待たせてしまうなんて、駄目じゃないか。
私は急いでいつもの店に向かった。
走って、ようやく店にたどり着いた。
そんな私を、いつも出迎えてくれていた店員さんが驚いた様子で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?今日は全然来ないので、心配しましたよ?」
店員さんはそう言った。私は息を整えると、彼女に大丈夫だと伝えた。
事情を説明しながら席に向かう。よかった、いつもの場所は空いていた。
店員さんは事情を聞き終わると、私に言った。
「良かったです。席なら大丈夫ですよ。皆さん、わかってますから」
私はそれを聞いて店の中を見た。
中に居た他の店員さんやマスターさんが、私に笑顔を向けてきた。
私は恥ずかしくなりつつも、彼らに頭を下げ、席に座った。
そうか、彼らがそう感じるほど、私がここで過ごしてる時間は長かったのか。
申し訳ない気持ちと、感謝を込めて、私はいつものお酒を、2本頼んだ。
明日は休みだ。今日は、このままここで飲み明かそう。
感謝してもしきれないが、私に出来るのはこれくらいだ。
店員さんに注文し、私は月を見た。
今日の月は、何故か怒っているように見えた。
きっと、待たせてしまった事に怒っているのだろう。
店員さんがお酒を持ってきてテーブルに置く。
私はそれをグラスに注ぎ、手に持って月に向けた。
「悪かった。だからどうか、機嫌を直してくれないか」
そう小さく呟いて、乾杯をした。
しばらく飲んでいると、騒いでいた冒険者達が静かになった。
何事だと思い彼らを見る。冒険者達は皆同じ方向を見ていた。
私も彼らと同じように、その方向を見た。
1人の少女が、何やら威圧感を出しながら地面を見て歩いていた。
冒険者達は黙って少女を見ていたが、その少女が顔を上げて立ち止まり自分達を見つめてくると、すぐさま目を逸らし、また騒ぎ出した。
少女はじーっと、冒険者達を見る。彼らはそんな少女を無視した。
しばらくじーっと見ていた少女だったが、誰も少女を見ない。
少女は落ち込んでまた歩きだした。
そうして私と冒険者達との間にある道を歩く。
歩いて、丁度私の目の前で立ち止まり。
そして――泣き出した。
私は慌てた。
冒険者達も驚いていたが、皆少女に近づかなかった。
そして、また無視して騒ぎ始めた。
私は可哀想だと思った。
席を立ち、少女に駆け寄った。
そんな私を、冒険者達が、いつもの店員さんが、何か言おうと止めようとした。
しかし私は少女に近付いた。
月明かりが少女を照らした。
青く、綺麗な長い髪を持ったその少女は、どこか見覚えがあって――
「ぐすっ……私もしゅわしゅわ飲みたい……ん?何よあんた……って、あれ?あんたもしかして……」
それは、私を困らせて転生させた、あの嘘泣き女神のように見えた。
花言葉については調べた物を書いたので間違ってたらマジごめーん(ヤマイ風)
比較的書きやすい内容なのでパパっと書いたら投稿するスタイル。
なので更新はかなり自由です。あとはどれくらい続くかな。
また次回。