今回は読者参加型ということで後ほど募集をかける予定です。
【20XX/6/13 7:15】三湖上のえる宅
「ん……」
ピピピ、という電子音と共に私は目を覚ます。顔を上げればいつもの作業机にパソコンのキーボード、パソコン本体にそこかしこに絡まった配線コード、部屋の片隅に山ほど積まれたジャンク部品。
「やばっ、昨日プログラム弄ってたらそのまま寝ちゃった……」
寝起きであやふやになっている脳をなんとか動かしアラームのなっている携帯電話を手に取り、タイマーを切る。──あ。
「デ、データ保存してたかなぁ?」
電源の落ちていたパソコンを起動し、長年取り掛かっている“事業”の実験データを確認する。
「あ、良かった。保存してから落ちてたんだ」
心底から安堵し、それから背中にかけられている毛布に気づく。
「叔母さんか叔父さん。かけてくれたんだ」
私の後見人をしてくれている二人にいつものこととはいえ、申し訳ない気持ちになる。そこでパソコンの日時に目が行き、事態の深刻さをようやく悟る。先ほどのアラーム音はスムーズ。つまり、今は。
「遅刻しちゃう……!」
迅速に洗面所に向かい、身支度を整え、部屋をでる……、前に部屋に鎮座している私の”子”に手を触れる。
「おはよう。今はまだ成長途中だけど、きちんと世に出せるようにしてあげるから。だから、もう少しだけ待っていて」
ほんの刹那の感傷に浸りながら今度こそ部屋を出る。
「叔母さん、おはようございます!」
リビングに入りいの一番に朝の挨拶をする。
「おはよう、のえるちゃん。朝食はそこに用意してあるわよ」
挨拶を返したのは茶髪を腰まで伸ばした若々しい女の人。柔和な微笑みが印象的な人。
──三湖上夜鶴さん。私を引き取ってくれた親切な人。
テーブルの上を見てみれば好物のハニートーストが乗せてあった。
トーストに手を付けながら朝から姿を見せていないもう一人の三湖上家の人間について訪ねる。
「悠一郎叔父さんは?」
「悠一郎さんはもう会社よ。先月のえるちゃんが考えたソフトが軌道に乗ったらしくて。珍しく上機嫌だったんだから」
「本当!?……なら良かった。叔父さんには今の話、内緒にしておくね。あの人気にしそうだし」
「ふふ。そうね、いつもの仏頂面がもっとしかめっ面になっちゃうかも」
雑談をほどほどにペロリと朝食を平らげた私は席を立ち、登校の支度にかかる。
「今日は私も悠一郎さんも遅くなっちゃうから、ご飯はどこかでお友達と一緒に食べてらっしゃいな。家の鍵は忘れないようにね?」
「はーい。じゃあ、叔母さん。行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃい」
夜鶴叔母さんのいう事に耳を傾けきちんと鍵を持ち、家を出る。
【20XX/6/13 8:00】桜見市某所バス内
「ハァ……、ハァ……。間に合った……」
家から全力疾走で走り、ギリギリの所でバスに乗車した私は偶然空いていた座席でしばらくグロッキー状態となっていた。
「そこそこ普段の帰宅の行き帰りで体力はあると思ってたけど、根本的に運動苦手だよぉ、私ぃ……」
疲労困憊で弱音を吐いていると着信音が鳴り、携帯にメールが届く。
『From:七夕
ノエルん、おはよー☆
今日はまだ来てないの?午後の火山先生の宿題見せてー!あの新任の先生イケメンで好みだから良いイメージ付けたいんだよねぇー。マッジお願い!メンゴ!』
軽薄な文面ながらも自身が頼りにされていることに微笑ましく思い、元からこうなることは予想出来ていたので宿題の写真を添付して返信する。
『To:七夕
しょうがないなぁ。もちろん、構わないよ。由香ちゃんのことはお見通しの私は事前に準備してあるのだ。崇め奉れー。
それはそれとして寝坊して全力ダッシュでダウン中(笑)』
メールの差出人こと今森七夕は友達……、だと私は思っている。桜見中学に入学してまだ2ヶ月足らずであるが、何分人付き合いの悪いと自覚してる自分にこれだけ付き合いが続いて貰っているのだから関係は良好、だと思いたい。
そんな少しだけ不安な考えもありながら、気分が高揚していた所を、二通目のメールを見て急転直下で落ち目を見る羽目になった。
「また、これ」
『From:DEUS
選ばれし者よ。望みあるのであれば、神の座を手に入れよ。
────己の意思を示せ。さればお前に未来を授けよう』
このデウスなる差出人はいったい何を考えているのだろうか。
神の座。空想のお伽噺すぎる荒唐無稽な内容に思わず呆れそうになる。
そういえば、ずっと迷惑メールだと思って返信もせずに削除し続けていたのだった。
「未来、かぁ」
未来。即ち夢。神の座なんてものには興味が無かったしこれもきっとどこかの誰かがふざけて出しているのだろう。けれど。私には何か、惹き付けられるような力があった。
家に残された“あの子”。私の夢。そして。
「…………お母さん」
ずっと忘れられない人の名前。消えることのない過去が頭を過る。
……まぁ、どうせイタズラだし。これからも着続けるようなら疲れるのだから適当に返信してしまうのも悪くはないのかもしれない。
そんな思いで軽く、yesの返答をし、返事は直ぐに届いた。
『From:DEUS
では、お前に未来を与えよう──。
【3rd】よ』
「【3rd】……?」
メールの末尾に記された番数に疑問を覚えたけれど、それを自覚するよりも先に。
──私はまるでどこか遠くに飛ばされるような目眩を覚え。そして意識を喪った。