この素晴らしい守り手に祝福を!   作:キッコ

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第1話

 その空間は暗かった。にもかかわらず今相対している相手をはっきりと認識できている。

 小さな事務机と椅子があり、そこにはこの世の者とは思えないほど美しい女性が座っていた。

 宝石のように美しい青い瞳は整った顔立ちをより引き立てていた。水色の髪の毛は海が最も美しかった時代を思わせるほど透き通っている。

 水色の装束をまとったその女性はまるで女神、否、事実女神なのだろう。先程まで感じていた死の痛みが目の前の女性の存在をより高めていた。

 白く細い喉から出る声色はさぞ美しく聞く者の耳を癒していくだろう。

 

「ねーえー。早くしてくれない?あなたの他にも待っている人がいるんだから。誰もあんたなんかが魔王を倒せるなんて思ってないわよ」

 

 そんな幻想を抱いていた少し前の自分を殴りたい。

 容姿の美しさをすべて台無しにする下品な口調で話すのは水の女神(自称)アクア様だ。

 情けないことに死んでしまった俺は目の前の自称女神に異世界への転生を進められその際に与えられる転生特典を選んでいた。

 アクア様曰く、これから行くことになる異世界は魔王の軍勢に脅かされておりそれを率いる魔王を倒すための勇者を地球から呼び寄せているらしい。

 心躍る背景だが目の前の女神が色々台無しにしている。

 

「あんたみたいなもやしになんにも期待してないから早くしなさいよ」

 

 コーラ片手にポテチをむさぼりながらそう言ってくる。

 こいつ……。

 

「はーやーくーしーてー。ポテチなくなりそうだから買ってこないといけな……あぁ!やめて!そんなに激しくコーラを振らないで!」

 

 泡があふれるコーラに膝をついて泣く女神をよそに渡された特典カタログに目を通していく。

 アロンダイト、モラルタ、デュランダル。どこかで聞いたことあるほど有名な武具が書き連ねられている。

 その中に一つ気になるものがあった。

 

「ガンダールヴ?」

 

 聞き覚えのない言葉に疑問符を浮かべ説明を見る。どうやらあらゆる武器を達人並みに扱うことのできる特典らしい。

 

「なあ、このガンダールヴってやつなんなんだ?」

「知らないわよそんなの!うう……、私のコーラが……。あぁ!やめて!ポテチを粉になるまで砕かないで!教えるから!教えるからぁ!」

 

 ポテチの袋を守るように抱きかかえると女神はその特典について説明しだした。

 

「グスッ……、その特典はね、どこかの神気取りのウィザードが作ったものよ。なかなかよさそうだからもらってあげたのよ!そこに書いてある通りどんな武器も使いこなすわ」

「へ~、じゃあすごい便利じゃないか!」

「でも詳しいことはよくわからないのよねぇ~。人間が作ったものだし、どんな欠陥があるかわからないわ」

 

 どうやら他の特典と違うらしい。しかし俺はその特典に強い興味を抱いていた。

 頭の中でお姫様を助ける自分を夢想する。

 その様子を引き気味に女神は見つめていた。

 伸ばした鼻の下を元に戻し女神に声をかける。

 

「これに決めるよ」

 

 やっと終わったかとでも言うようにすばやく事務机の前に立つとくるり振り返った。

 

「平賀才斗さん、貴方は不幸にもその若い命を散らせてしまいました」

 

 これまでのおどけた雰囲気は嘘だったかのように神々しく微笑みその言葉を告げると足元の魔法陣が光り輝き始めた。

 

「この魔法陣が貴方を異世界に、始まりの町アクセルに連れていってくれます」

「お、おい!まだ聞きたいことがあるんだけど!?」

 

 急に始まった転送に慌てながらそう言う。異世界で俺の言葉が通じるのかとか、その街に行ってからどうすればいいのかとか、ともかく色々聞きたかった。

 

「言いたいことは大体わかるわ!町に着いたら冒険者ギルドを目指しなさい。言葉も通じるわ!」

 

 忘れてたわけじゃないから!と言い捨てる。そう言う間にも魔法陣の輝きはどんどん増していく。

 

「もしかしたら頭パーになるかもしれないけど今までにそんなことなかったから大丈夫なはず!」

「なんで今になってそんな不安になるようなこと言うんだよ!?」

「別にコーラとポテチのことを根に持ってるわけじゃないから!」

 

 滅茶苦茶根に持ってるじゃねえか!と言おうとする時にはもう足元に踏みしめる感覚はなく魔法陣の中に吸い込まれていることに気づいた。

 

「貴方の第二の人生に幸あれ!」

 

 下へ落ちていく感覚に怖気を走らせながらそう言い放つ女神の顔を見つめていた。

 

「祝福を!」

 

 俺はその祝福を受け取りながら小さく笑みを浮かべた。なんだかんだで死んだことに対するショックを和らげてくれた女神アクアに感謝を告げーー

 

「あ、やば」

 

ーーようとしたのになんかすげぇ不安なつぶやきが聞こえたんですけどぉぉぉぉ!

 その空間から才斗は叫び声をあげながら消失した。

 

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