ガンダールブ→ガンダールヴ
目を開けると懐かしく感じる木製の天井だった。
今まであったことは夢ではないかと思ったが、体に走る痛みと疲労感が夢などではないと怒鳴りつけて来た。
痛みを我慢し起き上がるとそこは一昔前の日本の家みたいだった。
汚れのついた壁に年季を感じさせる障子、ささくれだった畳に自分の寝ていたかび臭い布団。
自分の家とは全く違うが確かに日本の家だ。
もしかして異世界転生ではなく昔の日本にタイムスリップしたのかもしれない。
もしかして俺が異世界転生するのは間違いで日本に帰してくれたのかもしれない。
もしかして、もしかして、もしかして……。
いろんなもしかしてが浮かんでくるが、どれも現実逃避でしかないのは、自分が一番よくわかっているだろ。
布団に倒れこむ。その衝撃で体が少し痛んだがどうでもよかった。
ただ頭の中に浮かんでくるものがいくつもあった。
死ぬ前に買った最新のパソコンのことや通学路で見かけた気になるあの子のこと。行き詰っていたゲームのことも気になるし喧嘩別れしたあいつのことも気になる。
頭の中に未練たらしくたくさんのことが浮かんできたがその中でも強く強く思い浮かぶことがあった。
母さんが作ってくれた料理の味や父さんにパソコンの組み立てを手伝ってもらった時のこと。弟とたまにしたゲームの協力プレイ。
目の奥から何かがあふれそうになってとっさに左手で押さえつけた。
これ溢れさせると思い出も一緒に溢れてしまいそうだったから。
手の甲で必死にこすると見覚えのないものが手の甲にあった。
文字のような模様が刻まれていた。
なにが書かれているのか全く分からない。英語じゃないのは確かだ。
それを見た時、自分が選んだ特典の存在を思い出した。
かっとなり左手を思い切り畳にたたきつけた。
「何が特典だよ!」
何度もたたきつける。
「何が、異世界転生だよ!」
今度こそ目からあふれるそれを止めることはかなわなかった。
「友達に会わせろよ!家に帰らせろよ!早く日本に返せよ!」
たたきつけるのをやめるとぐっと頭と手を畳に押し付けた。
「家族に……会わせてくれよ……!」
ただただ胸からあふれ出る喪失感に涙を流すしかなかった。
すると障子の向こうからどたどたこちらに何かが向かってくる音がした。
そこで俺は思い出した。
この家はオレの家ではない、誰かの家であることに。
もうすぐそこまで来ている足音に俺はなぜか安心感を覚えた。
足音がやむと障子が勢いを持って開かれた。
そこには肩までの黒髪と惹きつけられるような紅い瞳をもった少女心配そうにこちらを見ていた。
明るさとシリアスがちょうどいい感じにしたかったのにこんな感じになってしまった……。