Fate/stay night KUR NU GI A   作:夜はねこ

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※ Fate / stay nightの世界にオリ主が存在します。成り代わりのタグはついてますが、成り代わりもどきのような形です。



運命の夜

 走る。走る、走る、走る。ただひたすらに遠坂恵麗(エレ)は暗い夜道を逃げていた。

 生徒会の仕事で、少し遅くなった帰り道。黒い塊と青いローブを纏った男が戦っているのを見た。しかしそれは人ではない、ナニカだった。アレは怖くて恐ろしいものだ。逃げなくてはいけない。

 走って、走って、走って。その先は行き止まりだった、絶望。

 

「」

 

 黒いローブを纏い、髑髏を模した白色の仮面のナニカが私に話している。恐怖でもはやソレが何を話しているかもわからなかった。異様に長い腕に意識もいかない。

 短刀が振り下ろされる。嫌だ、死にたくない。まだ凛と一緒にいたい。それにあの子ともう一度笑い合いたいのに…。私が魔術を使えれば何とかなったのかしら、と思う。ああ、駄目だ。こんなときに、嫌いな魔術を頼るなんて。でも。だけど…。『諦めるの?』どこかで声がする。諦めたくない‼︎私は、まだ死ぬわけにはいかない‼︎

 

 カッと光が自分の体に集まる。

 黒い塊は一度距離を取り、後ろに下がった。向こうも驚いただろうが、一番驚いたのは私自身だ。しかし驚くことに、自分の口からすらすらと言葉が出た。

 

「サーヴァント・ランサー。召喚に応じ参上したわ。一個人に力を貸すのは不本意だけど、呼ばれた以上は助けてあげる。感謝なさい。」

 

「ランサー…だと?まさか…そんな…先程までただの人間だったはず…」

 

 そう、黒い塊の言う通り。私は人間。のはず。

 

「…。……。………。って、何コレェ!?」

 

 もう一度言おう、一番驚いているのは私だ。

 自分が身に纏うは制服ではなく、黒いドレス。いや、姿を確認しなくてもわかる。これは、この霊基は。冥界の女主人、エレシュキガル。

 そして自分の前世を思い出す。いや、正確には自分に前世というものが存在していることを、だ。詳しくはわからない。ともかく、自分には前世があってこの世界はゲームやアニメになったものだということ。エレシュキガルはその『Fate』シリーズの別のゲームに出てきた存在であること。

 それから、自分が遠坂凛の双子の姉で、魔術回路のない遠坂家の劣等生が何故かデミ・サーヴァントになっている。マスターも自分自身。意味がわからない。

 

 困惑と疑問と驚きでいっぱいいっぱいだが、まずは目の前の黒い塊ーーーーアサシンをどうにかしなければならない。

 お互い時が止まったように固まっていたが、私はやっと口を開く。

 

「こうなったからには仕方ありません。戦うからには手加減はできないわ。覚悟なさい!」

 

 そう言ったことでやっとアサシンも我に気づいたらしい。短刀を構え直している。

 

「いいわ、地の底まで落としてあげる!」

 

 一瞬のことだ。自分の5本の神槍が浮かび上がり、そして放つ。アサシンは短刀で槍を弾くが腕に一本突き刺さる。すかさず、私は腰につけていた鳥籠を鳴らす。地面から冥界の怪物が顎を開き、アサシンを呑み込む。そのまま口を閉じて冥界に引きずり込んだ。

 

「何!?」

 

 固有結界。いくらエレシュキガルだとしても、元はただの人間なのだ。本当のエレシュキガルのように冥界に落とすことはできない。魔術回路も持っていなかった私がコレをできるのは彼女のおかげではあるが。

 

「お願い、メスラムタエア!冥界の護りを知りなさい!出でよ、発熱神殿!これが私の『霊峰踏抱く冥府の鞴クル・キガル・イルカルラ』!!」

 

 いきなり宝具を使うとは思わなかったのだろう。

 

「ぐああああっ!こんな……はずでは……!」

 

 消滅していくアサシンに問う。

 

「ねえ、あなたのマスターは間桐臓硯?」

 

 問いかけても返事はない。

 

「そう……いいわ。教える気はないのね。さようなら、アサシン。」

 

 完全に消失したアサシンを見届け、固有結界を解くと、着ていたものも制服に戻っていた。どういう原理なのか。視界の隅で蟲が動く。

 

「…… 間桐臓硯。いえ、マキリ・ゾォルケン。聞こえているのでしょう?………貴方、殺すわ。」

 

 殺意を向ける。これは、遠坂恵麗でもエレシュキガルでもない感情だった。『わたし』の感情だ。いや、桜のことを気にかけている遠坂恵麗と既に同化していた。前世を思い出すーーーこの世界を思い出すことは全てを知ることと同義だ。あの子…桜を助けるのは偽善かもしれない。私の我儘かもしれない。桜にとっては迷惑かもしれない。彼が先に助けるかもしれない。だけど、あの男だけは殺さなくてはいけない。そう思った。

 ふと我にかえる。…このデミ・サーヴァント化について凛にどう伝えようか。そう思うと一気に殺意が焦りに変わる。

 ともかくもう遅い。私は急いで家路についた。

 


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