サムライ・デッドマンズ・パーティー/或いは貴衛残花の<Infinite Dendrogram> 作:クーボー
□<刀野平原> 【
駆ける。
平野を翔ける。
跳ぶように、されど止まらないように。僕の血が継いできた武術が示す完璧な足運びのままに、高くないAGIを全力で振り絞って雑草を振り払うように駆けていく。
「うわっ!?」
「なんだっ、って人間!?」
時折すれ違う<マスター>、しかし今は邪魔だからと、それすらも意識の間隙に追いやって、ただ己の身体を動かすことに全霊を注ぎ込む。
『イツキ、方向は間違ってないかな?』
『はい、このまま一直線に走れば、流れてきた悲鳴の元へと辿り着きます』
よし、とさらに脚に力を込める。
高い身体能力があるということは、それを活かせる動きがあるということだ。まして僕は、戦場で成立した武術を継いできた一族。たとえ足場が悪くても、走ることには支障はない。
息切れもない。数十分は走り続けることができるだろう。
「すぅ……ふぅぅ、待ってろ……!」
——お前が今、どんな姿なのかはわからないが。
それでもお前が人ならば、俺は、お前を——
/
■□??? ???
古い古い、昔のことだ。
その屋敷には、仲睦まじい領主様に奥様に、とても美しく賢いお嬢様が住んでたんだ。
皆領民からも慕われ、とてもとても、幸せに暮らしていたのさ。
けれど、世の中というのは……天地という国は、とても厳しかったんだ。
ある日、屋敷が襲撃された。
誰かは知らん、誰かも知らん。ただひとつ言えるのは、その時に彼らの幸せは潰えて、そして終わっちまったってことなのさ。
「まあ、恨みは……抱えてしまうよねえ、当たり前のことだけれど」
「……なるほどね。まさかそんな厄ネタを、斬花が聞きつけたとはね」
「あんたたち、<マスター>なんだろう。それなら、救ってくれるんじゃないのかい?」
「さあね。ぼくは知らないよ。そういう家業ではあるけれど、霊はそれなりに苦しむこともあるし。少なくともぼくがここにいるってことは、つまりそういうことなのさ」
「全部斬花に任せてみてさ、そしたらきっと、きっとひょっこり帰ってくるよ。斬花はそういうやつなんだ。そういうやつだと、ぼくは誰より知ってるからさ」
「……なら、任せてみるかね。お嬢さんが恨みを抱えてるならね」
「……また、武器を買いにおいでよ。今度は友達も連れてさ。そしたら、良い矢を仕入れているからね、たくさん売ってあげるよ」
「なら、そうしてもらおうかな。……また来るよ、おばあさん」
/
死ぬっちゅうのんは、案外辛ないことやった。
そら、端からわしの身体欠けていく感覚は、とんでものうしんどかったけど……想像しとったような責め苦やなかったねん。
せやさかい、お父様とお母様が死んだってわかった時も、そこまで悲しゅうはなかったし……ふわふわと漂ううちのように、二人もまだ消えてへんで、いつかもういっぺん会えて、暮らせるって思うとった。
そんなんを思うとったさかい、なんかな。
……こんなんに、なってもうたんかな。
ふわふわと漂ってたら、うちは竜に襲われた。
普通の竜ちゃうくて、朧げな、うちとおんなじ魂だけで生きてる竜や。
抵抗しよう思ても、所詮ただの霊でしかなかったうちは抵抗できひんで……喰われた。
せやけどうちは消えへんかった。二度目の死は迎えへんで…………もっと最悪なことになった。
——うちの身体は、もううちのものちゃう。出て行ってって思ても、それ叶える力はあらへん。
術を使うても意味はのうて、ただただ、身体の中で蠢くなんかを、抑え込んでさざめくように泣くだけで。
こら、父と母の死を悼まへんかったうちへの、たった一つの罰なんやろう。
そやさかい、死を免れた私、言えるこっちゃあらへんけど。
——この罪と罰を濯ぐには、今度こそ死ぬしかあらへんのやと、そう思た。
未練があらへん言えば嘘や。
両親のように恋愛をして、結婚して、子供を作ってみたかった。おもろかった術の勉強を、もっともっとしたかった。
せやけど、うちが「人」であらへん以上、もはやそら叶わへん。
そやさかいどうか、心なくして生き物どすらななる前に。
——どうかうちを殺してくれと、徒然のように思うんや。
……ほんでももしも、うちに光があるやったら。
うちを、助けて。
/
距離一〇〇。
距離九〇。
……距離五〇。
距離一〇。
——見つけた。
/
小さな小さな、古屋のような屋敷のような、そんな古びた家の脇。
まるで蜘蛛の子を散らすが如く、唐突に障子が突き破られて、静謐を湛えていた古屋に轟音を響かせる。
それを為した男は、埃臭い廃屋特有の臭いに顔をしかめ、振り払うように白く美しい刀を振るう。空気を裂く音が鼓膜を震わせ、水面に浮かぶ葉っぱのような驚くほど静かな目が、畳の上に蹲る少女を射抜く。
「一つ、訊くよ」
『……ぁ』
「君は、人か」
「それとも——
刀を向けて、ただ答えろと言わんばかりに男は言う。その瞳に冷たさはなく、されど静けさゆえに戸惑うことを許さない。
『……うちは』
少女は……己の片目を抑え、握り締める。いっそ潰せ、潰れてしまえと、あらんかぎりの力を手と腹に込めて叫ぶ。
『うちはっ……!!』
『うちはッ、人間や!!』
その怒声と見紛うばかりの声に、男は。
「……よく言った」
『え』
そう表情を緩め、唖然とする少女に向けて刀を構える。
「君がそう思うのなら、僕はそう扱おう。君が人だと言うならば……君が人だと叫ぶのならば、僕が
「で、あるからこそ」
『……第一、第二スキルの効果が適応されました。いけます、貴方様』
その声を聴いて、男は笑う。
優しげに、儚げに——けれど修羅とすら思えるほどの、場に似合わないその笑みは。
されどきっと、少女にとっては——
「僕は君を、殺せるよ」
『……………嬉しい、な』
——紛れもない、たった一つの救いなのだ。
<マスター>——【武士】斬花。
<UBM>——【怨竜姫 ウラオトヒメ】。
本編のウラオトヒメの独白の意訳です。
とあるサイトを利用しているので割と雑ですが、ご了承ください。
死ぬっていうのは、案外辛くないことだった。
そりゃ、端から自分の身体が欠けていく感覚は、とんでもなく苦しかったけど……想像してたような責め苦ではなかったのだ。
だからお父様とお母様が死んだってわかった時も、そこまで悲しくはなかったし……ふわふわと漂う私のように、二人もまだ消えてなくて、いつかもう一度会えて、暮らせるって思ってた。
そんなことを思ってたから、なのかな。
……こんなことに、なってしまったのかな。
私は竜に襲われた。普通の竜じゃなくて、朧げな、私と同じ魂だけで生きてる竜だ。
抵抗しようと思っても、所詮ただの霊でしかなかった私は抵抗できずに……喰われた。
でも私は消えなかった。二度目の死は迎えずに…………けれどもっと最悪なことになった。
——私の身体は、もう私のものじゃない。出て行ってって思っても、それを叶える力はない。
術を使っても意味はなく、ただただ、身体の中で蠢く何かを、抑え込んでさざめくように泣くだけで。
これは、父と母の死を悼まなかった私への、たった一つの罰なんだろう。
だから、死を免れた私が、言えることではないけれど。
——この罪と罰を濯ぐには、今度こそ死ぬしかないのだと、そう思ったのだ。
未練がないと言えば嘘だ。
両親のように恋愛をして、結婚して、子供を作ってみたかった。面白かった術の勉強を、もっともっとしたかった。
けれど、私が「人」でない以上、もはやそれは叶わない。
だからどうか、心をなくして生き物ですらなくなる前に。
——どうか私を殺してくれと、徒然のように思うのだ。
……それでももしも、私に光があるならば。
私を、助けて。