サムライ・デッドマンズ・パーティー/或いは貴衛残花の<Infinite Dendrogram>   作:クーボー

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十日以上空けてすみませんでしたーっ!(平伏土下座


第四話 死してなおその才故に

 □<刀野平原> 【死霊術師(ネクロマンサー)】斬花

 

 駆ける。

 平野を翔ける。

 

 跳ぶように、されど止まらないように。僕の血が継いできた武術が示す完璧な足運びのままに、高くないAGIを全力で振り絞って雑草を振り払うように駆けていく。

 

「うわっ!?」

 

「なんだっ、って人間!?」

 

 時折すれ違う<マスター>、しかし今は邪魔だからと、それすらも意識の間隙に追いやって、ただ己の身体を動かすことに全霊を注ぎ込む。

 

『イツキ、方向は間違ってないかな?』

 

『はい、このまま一直線に走れば、流れてきた悲鳴の元へと辿り着きます』

 

 よし、とさらに脚に力を込める。

 高い身体能力があるということは、それを活かせる動きがあるということだ。まして僕は、戦場で成立した武術を継いできた一族。たとえ足場が悪くても、走ることには支障はない。

 

 息切れもない。数十分は走り続けることができるだろう。

 

「すぅ……ふぅぅ、待ってろ……!」

 

 ——お前が今、どんな姿なのかはわからないが。

 それでもお前が人ならば、俺は、お前を——

 

 

 /

 

 

 ■□??? ??? 

 

 

 古い古い、昔のことだ。

 

 その屋敷には、仲睦まじい領主様に奥様に、とても美しく賢いお嬢様が住んでたんだ。

 

 皆領民からも慕われ、とてもとても、幸せに暮らしていたのさ。

 

 

 けれど、世の中というのは……天地という国は、とても厳しかったんだ。

 

 ある日、屋敷が襲撃された。

 

 誰かは知らん、誰かも知らん。ただひとつ言えるのは、その時に彼らの幸せは潰えて、そして終わっちまったってことなのさ。

 

 

「まあ、恨みは……抱えてしまうよねえ、当たり前のことだけれど」

 

「……なるほどね。まさかそんな厄ネタを、斬花が聞きつけたとはね」

 

「あんたたち、<マスター>なんだろう。それなら、救ってくれるんじゃないのかい?」

 

「さあね。ぼくは知らないよ。そういう家業ではあるけれど、霊はそれなりに苦しむこともあるし。少なくともぼくがここにいるってことは、つまりそういうことなのさ」

 

 

「全部斬花に任せてみてさ、そしたらきっと、きっとひょっこり帰ってくるよ。斬花はそういうやつなんだ。そういうやつだと、ぼくは誰より知ってるからさ」

 

「……なら、任せてみるかね。お嬢さんが恨みを抱えてるならね」

 

「……また、武器を買いにおいでよ。今度は友達も連れてさ。そしたら、良い矢を仕入れているからね、たくさん売ってあげるよ」

 

「なら、そうしてもらおうかな。……また来るよ、おばあさん」

 

 

 /

 

 

 死ぬっちゅうのんは、案外辛ないことやった。

 そら、端からわしの身体欠けていく感覚は、とんでものうしんどかったけど……想像しとったような責め苦やなかったねん。

 

 せやさかい、お父様とお母様が死んだってわかった時も、そこまで悲しゅうはなかったし……ふわふわと漂ううちのように、二人もまだ消えてへんで、いつかもういっぺん会えて、暮らせるって思うとった。

 

 そんなんを思うとったさかい、なんかな。

 

 ……こんなんに、なってもうたんかな。

 

 

 ふわふわと漂ってたら、うちは竜に襲われた。

 普通の竜ちゃうくて、朧げな、うちとおんなじ魂だけで生きてる竜や。

 

 抵抗しよう思ても、所詮ただの霊でしかなかったうちは抵抗できひんで……喰われた。

 

 

 せやけどうちは消えへんかった。二度目の死は迎えへんで…………もっと最悪なことになった。

 

 

 ——うちの身体は、もううちのものちゃう。出て行ってって思ても、それ叶える力はあらへん。

 術を使うても意味はのうて、ただただ、身体の中で蠢くなんかを、抑え込んでさざめくように泣くだけで。

 

 こら、父と母の死を悼まへんかったうちへの、たった一つの罰なんやろう。

 

 そやさかい、死を免れた私、言えるこっちゃあらへんけど。

 ——この罪と罰を濯ぐには、今度こそ死ぬしかあらへんのやと、そう思た。

 

 未練があらへん言えば嘘や。

 両親のように恋愛をして、結婚して、子供を作ってみたかった。おもろかった術の勉強を、もっともっとしたかった。

 

 せやけど、うちが「人」であらへん以上、もはやそら叶わへん。

 そやさかいどうか、心なくして生き物どすらななる前に。

 

 ——どうかうちを殺してくれと、徒然のように思うんや。

 

 

 ……ほんでももしも、うちに光があるやったら。

 

 うちを、助けて。

 

 

 /

 

 

 

 距離一〇〇。

 

 

 距離九〇。

 

 

 ……距離五〇。

 

 

 距離一〇。

 

 

 ——見つけた。

 

 

 /

 

 

 小さな小さな、古屋のような屋敷のような、そんな古びた家の脇。

 まるで蜘蛛の子を散らすが如く、唐突に障子が突き破られて、静謐を湛えていた古屋に轟音を響かせる。

 

 それを為した男は、埃臭い廃屋特有の臭いに顔をしかめ、振り払うように白く美しい刀を振るう。空気を裂く音が鼓膜を震わせ、水面に浮かぶ葉っぱのような驚くほど静かな目が、畳の上に蹲る少女を射抜く。

 

「一つ、訊くよ」

 

『……ぁ』

 

 

「君は、人か」

 

 

「それとも——(かばね)か」

 

 

 刀を向けて、ただ答えろと言わんばかりに男は言う。その瞳に冷たさはなく、されど静けさゆえに戸惑うことを許さない。

 

『……うちは』

 

 少女は……己の片目を抑え、握り締める。いっそ潰せ、潰れてしまえと、あらんかぎりの力を手と腹に込めて叫ぶ。

 

 

『うちはっ……!!』

 

 

『うちはッ、人間や!!』

 

 

 その怒声と見紛うばかりの声に、男は。

 

「……よく言った」

 

『え』

 

 そう表情を緩め、唖然とする少女に向けて刀を構える。

 

「君がそう思うのなら、僕はそう扱おう。君が人だと言うならば……君が人だと叫ぶのならば、僕がそれ以外のもの(バケモノ)として扱う道理はない」

 

「で、あるからこそ」

 

『……第一、第二スキルの効果が適応されました。いけます、貴方様』

 

 その声を聴いて、男は笑う。

 

 優しげに、儚げに——けれど修羅とすら思えるほどの、場に似合わないその笑みは。

 

 されどきっと、少女にとっては——

 

 

「僕は君を、殺せるよ」

 

 

『……………嬉しい、な』

 

 

 ——紛れもない、たった一つの救いなのだ。

 

 

<マスター>——【武士】斬花。

 

<UBM>——【怨竜姫 ウラオトヒメ】。

 

 救済(バトル)開始(スタート)




本編のウラオトヒメの独白の意訳です。
とあるサイトを利用しているので割と雑ですが、ご了承ください。


死ぬっていうのは、案外辛くないことだった。
そりゃ、端から自分の身体が欠けていく感覚は、とんでもなく苦しかったけど……想像してたような責め苦ではなかったのだ。
だからお父様とお母様が死んだってわかった時も、そこまで悲しくはなかったし……ふわふわと漂う私のように、二人もまだ消えてなくて、いつかもう一度会えて、暮らせるって思ってた。

そんなことを思ってたから、なのかな。

……こんなことに、なってしまったのかな。

私は竜に襲われた。普通の竜じゃなくて、朧げな、私と同じ魂だけで生きてる竜だ。

抵抗しようと思っても、所詮ただの霊でしかなかった私は抵抗できずに……喰われた。

でも私は消えなかった。二度目の死は迎えずに…………けれどもっと最悪なことになった。

——私の身体は、もう私のものじゃない。出て行ってって思っても、それを叶える力はない。
術を使っても意味はなく、ただただ、身体の中で蠢く何かを、抑え込んでさざめくように泣くだけで。

これは、父と母の死を悼まなかった私への、たった一つの罰なんだろう。

だから、死を免れた私が、言えることではないけれど。
——この罪と罰を濯ぐには、今度こそ死ぬしかないのだと、そう思ったのだ。

未練がないと言えば嘘だ。
両親のように恋愛をして、結婚して、子供を作ってみたかった。面白かった術の勉強を、もっともっとしたかった。

けれど、私が「人」でない以上、もはやそれは叶わない。
だからどうか、心をなくして生き物ですらなくなる前に。

——どうか私を殺してくれと、徒然のように思うのだ。


……それでももしも、私に光があるならば。

私を、助けて。
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