サムライ・デッドマンズ・パーティー/或いは貴衛残花の<Infinite Dendrogram>   作:クーボー

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第二話 ジョブに就こう(そもそもジョブってなんぞや)

 □刀都 桜花道 斬花

 

「すごいねぇ、まるで本当にこの街にいるみたいだ」

 

「ぼくもこれは予想外だ……あ、ほら見て、あそこ。店の看板娘に男たちがアプローチしてる……」

 

「……あんなこともできるんだね、AIって。せっかくだし行ってみたら?」

 

「きみはぼくに男たちの恨みを買わせたいのか?」

 

「あは、冗談冗談」

 

 この畜生め、とぼやかれた言葉は努めて無視して、街を歩く。あまりにも現実味のありすぎる庶民の日常……まるで現実のように思えてくる。

 されど彼らが手に持つ刀や槍、側に侍らせた少女やモンスターを見れば、ここが架空の世界であることを思い出させてくる。

 

 これは、下手にアニメやCG視点にすると逆に損をしたかもしれない。

 

「それで、最初に何をやればいいのかな?」

 

「んー……公式サイトには、そういうことは書いてなかったからね。チュートリアルの兎は、好きにやっていいって言ってたけど」

 

「……兎? 僕の時は猫だったけど……プレイヤー間で異なるのかな?」

 

「まあそんな感じなんじゃない? 管理AIの演算能力を考えれば、ぼくらのチュートリアルなんて些事でしょ些事。それにしたってあの兎、ちょーっと態度が悪いような気がしたけどね」

 

 僕を担当したチェシャは管理AI13号。つまるところ「神」のような存在である管理AIが、最低13体は存在するということ。

 (チェシャ)って名前から考えるに、主人公(アリス)とか、狂犬(バンダースナッチ)とか、帽子屋(マッドハッター)とか、不思議の国のアリスを元にした名前を持ってるのかもしれない。

 

「まあでも、ステータスを見れば、おおよそ察しはつくな」

 

 

 斬花

 レベル:0(合計レベル::0)

 職業:なし

 HP(体力):100

 MP(魔力):15

 SP(技力):22

 

 STR(筋力):11

 END(耐久力):11

 DEX(器用):15

 AGI(速度):13

 LUC(幸運):17

 

 

 注目すべきは「職業」と「レベル」、今はレベル0だけど、おそらく職業に就くことでレベルを上げることができる。そして「合計レベル」と表記されていることから、転職を繰り返してレベルを上げていくんだろう。

 際限なく上がっていくとは考えにくいので、どこかで頭打ちするはずだ。いわゆるカンストである。

 

「ってことは、専用の施設があるわけだけど……」

 

「……あれかな?」

 

 浄が指差したのは、和風全開の街並みの中で、調和しつつも異彩を放つ、「冒険者ギルド」と書かれた建物。

 確かにあそこなら、色々とやれることはありそうだ。二人で頷きつつ、僕らは暖簾をくぐって中に入った。

 

 

 /

 

 

 □【接客者(アテンダント)】陽毬

 

 わたしは、刀都の冒険者ギルドで受付嬢をしている陽毬という者です。

 冒険者ギルドは、武芸者の皆様への総合的な支援を行う組織です。つまるところ武芸者の方々が消えない限り、七大国家が消えたとしても必ずどこかで残る、ある意味世界で一番安定した組織とも言えます。

 

 そんな組織なので、冒険者ギルドの受付嬢……に限らない従業員は、給料も充実していてヘマしなければ急に消えることもない、言ってしまえば花形的な職業です。

 もちろんそれ相応の知識や態度、有能さに加えて最低限人が見ても不快にならない容姿が必要なのですが、それを差し引いてもとっても倍率が高いのです。

 

 それも、世界で一番安全と言える首都の受付嬢となれば、想像を絶する量のライバルが存在します。

 わたしは幸運にもそれなり以上の容姿と記憶力があったので就くことができましたが、それを妬まれて色々と苦労もしました。

 

「陽毬ちゃん、あとでお茶でもどう?」

 

「申し訳ありません、今は仕事中なので……次の方が待っておりますので、後ほど」

 

「うーい」

 

 当然そんな仕事が楽なわけもなく。

 仕事中でもデートに誘ってくる困った方や、純粋にものすごい量の仕事があるので、毎日とても大変なのです。その分お給料も高いので、充実しているのですが。

 

 それはそうと、最近そこらじゅうに広まっている妙な噂があります。

 近いうちに、<マスター>が大量に現れる……そんな、無骨滑稽としか思えない噂。

 

 人の噂は七十五日で消え失せると言いますが、どうもこの噂は、出どころからして妙に怪しいと言いますか。あからさまに、広めることが決まっていたかのような——

 

「むむ、ちょっと想像と違うな……豪快にお酒飲んだりしてない?」

 

「そんなテンプレみたいな……現実との区別付けようよ浄」

 

「ここはゲームなんだよなあ」

 

「うーわ、一本取られた……」

 

「ちょっと、そんなショックそうな顔しないでよ」

 

 そんなことを言い合いながら、暖簾をくぐって入ってきたのは、対照的な二人の男性です。

 おそらくは一八〇に近い身長の、長髪を後ろにひとつで括った黒髪赤目の青年。ひどく整った顔立ちをしていて、その身を飾る袴が恐ろしく似合っています。しかしながら細身のようにも見えるその身体は、よく見れば程よくも効率的な筋肉が付いています。

 対して、一六〇にも満たない少年は、綺麗に肩のところで切り揃えた黒髪とわずかに輝く金目と、まるで少女のような雰囲気と容姿を持っています。接客に慣れているので少年だとわかりましたが、街中で出会っていたら少女だと勘違いしてしまいそうです。彼もまた神職の服をまとっており、それがまた似合っていて、ずっと見ていたくあります。

 

 正直、ここまで美しい方々は、あまり見たことがありません。時折ここを訪れる刃華(ジンカ)様にも匹敵します。どちらかといえばあの方は凛々しい容姿をしていらっしゃいますが、そういうのにかかわらず、容姿がいいというもは眼福なのです。

 

「ねーえ、本当にきみ、ぼくのことどう思ってるワケ?」

 

「大切な友達だって思ってるよ。あと僕の主治医」

 

「ぼくは医者じゃないし、もっと言えばカウンセラーでもないんだよねえ!」

 

「あは、まあ助かってるからいいじゃない」

 

 ダメです、ダメです……薔薇が咲いてしまいます……わたしの性癖には存在しないのです……わたしをおかしくしないでください! 

 

「もう、きみは相変わらず失礼だね」

 

「立場は対等だろう。どっちも当主なんだから」

 

「そりゃそうだけどー、このぼくにこんな態度取っていいの、巫楽様ときみくらいだからねー?」

 

「それは光栄だ。まあ僕の親友は君だけでいいけど」

 

 あーっ、ダメですっ、あーっ! 

 

「それはそうと……ほら、さっさと済ませちゃおうぜ」

 

「はぁ……わかったわかった、早くやっちゃおうか」

 

 何をヤるんです!? 

 

 その日、わたしは、新しく訪れた武芸者……新しく現れた<マスター>と出会い。

 同時に、わたしの性癖を、開拓されてしまったのでした。

 

 

 /

 

 

 □刀都 【武士(サムライ)】斬花

 

 滞りなくジョブについて教えてもらい、そして始めての就職を経験した僕は、ふてくされる浄に付き添って神社までの道を歩いている。

 

「まさか場所に応じて就けないジョブがあるとはね……」

 

「それにしたって数が多すぎるけどさー。でもまあ、【神官】になるためなら、このくらいの面倒は甘んじて受け入れるとも……はぁ」

 

「受け入れるんじゃなかったのか」

 

「受け入れても面倒なもんは面倒でしょ」

 

 それもそうだね、と適当に返す。

 先程の受付嬢さんによると、【神官】は【司祭】と互換関係にあるジョブらしい。とはいえ完全に同一なわけじゃなく、あちらが回復を得手とするのに対し、こちらは浄化……怨念やら状態異常の回復に秀でているようだ。

 

 といっても下級職時点だとそこまで違いはないらしいけどね。

 

 そんな風に雑談しつつ、神社に着いた浄は、【神官】となったのだった。




この作品では、ロボットに比べて変態要素が五割増しとなっております。

—情報限定開示—
【神官】系統
備考:
東方版【司祭】。ただ天地で東方版とは言わないと思うので、互換関係と表記。
回復を得手とするあちらに比べ、怨念の浄化に性質が傾いている。もちろん体力の回復も可能。


非戦闘系の【巫女】ってなんだ……うごご……【司祭】と何が違うんや……。
そもそも女奴隷とかモンスター強化スキル持ってるヒンプとテイマーでどうして非戦闘系と戦闘系にわかれてるんだ……。

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