サムライ・デッドマンズ・パーティー/或いは貴衛残花の<Infinite Dendrogram>   作:クーボー

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第三話 はじめての「殺生」

 □刀都 【武士(サムライ)】斬花

 

 浄の就職を終えたのを見届けた後のことだ。

 

「向こうで神主の人から聞いたんだけどさ、ジョブには下級、上級、超級(スペリオル)に分かれてるんだって」

 

「すぺりおる……なんでそれだけ? っていうか天地でスペリオルとか言われると違和感すごいね」

 

「それ言ったらおしまいだけどさ……理由はぼくも知らないよ。ちょっと聞いただけだし」

 

 曰く、浄の就いた【神官】は一般的な下級職であり、ここから上級の【神主】、そして超級職(スペリオル・ジョブ)の【宮司】に派生するらしい。

 俺の【武士】も、ここから派生していくんだろうけど……。

 

「でも、超級職は一人しか就けないらしいんだ。神主の人によると、もう【神官】も【武士】もティアンの人で埋まっちゃってるらしい」

 

「あー……まあ、別にそこにこだわりはないしな。ジョブなんていくらでもあるんだからどうとでもなるだろ」

 

「ぼくはちょっと考えないとなー……せっかくの夢のゲームでてっぺん目指さないなんて、ゲーマーの隅にも置けないじゃん?」

 

「あは、そーかもね」

 

 ゲーム——もっと言えばMMOの類は、基本的に不公平だ。

 万人に、万人のための機会が与えられるなんて、そんなことはありえない。どのゲームも、運と実力を兼ね備えた人間が高みへと登っていく。

 ツキが向いてないと乱数に惑わされるなんてしょっちゅうだ。僕も浄も、そういう経験には事欠かない。

 

 それが、一等リアルなこの世界なら、尚更だ。

 断言しよう。いずれ必ず、この世界では“最強”が出てくる。誰も敵わない、誰もが認めざるおえない存在が。そこに公平さなんて言葉が介入する余地はないし、犬の餌にもなりやしない。

 精々豚か金魚の糞で、ちぎれた本のしおりのように、なんの役にも立ちやしないだろう。

 

 僕は正直、トップに立ちたいとは思わない。

 立てるのならば立ちたいが、積極的にはどうにもなれない気がするのだ。

 

 それは多分——飛び抜けた存在は、打たれる杭すら通り越して、誰も対等にはなれないから。

 僕は結局、それが怖いのだ。

 

「まあ、ぼちぼち目指して行こうか。まずはレベル上げ、だろ?」

 

「そうだね。といってもぼくは戦闘では精々回復する程度だろうから、前衛は君に任せるよ」

 

「ああ、まあ、そこら辺は期待してておくれよ」

 

 これでも、一通りの戦闘術は学んでいる。

 邦衛式戦闘術——その中でも刀を扱う戦刀術に関しては、当代の誰よりも優れていると自負している。

 

「実戦は学生の頃以来だけど……どうとでもなる、か」

 

 僕は、邦衛式戦闘術を継ぐ貴衛家の、正当な直系なのだから。

 

 

 /

 

 

 □<刀野平原>

 

 

 眼前にいる、醜悪な小鬼。

 視界の端に映る【餓鬼】というネームを見ながら、僕は一瞬、息を吐いた。

 

「ギィィィッ!」

 

 瞬間、餓鬼がこちらへと向かってくる。その動きは、人間の子供よりも幾ばくか速い程度。

 しかしながら明らかな人外に襲われるというのは、なかなかに堪える光景だ。動きも人らしくない、動物じみた気持ち悪い動きだし。

 

 右足を一歩、前へ。

 

「ふ」

 

 刀を腰に構え、一瞬の間隙も脱力も設けずに、左足を踏み込ませる。ザ、とやけに軽い音が響くと同時、僕は迫り来る餓鬼の首元に刀を走らせ、すれ違うように切り捨てた。

 

「おー、さすが免許皆伝ー」

 

「そうでもないよ」

 

 このくらいの動き、うちの師範代でもできる。もっともうちの爺に複数人でかかって打ちのめされる程度の腕前で、その爺と正面から戦って勝った僕からすれば、いささか技量不足なのだけどね。

 いや、それも爺が亡くなる数年前の話だから……今の彼らなら僕に土をつけられるかもしれない。

 

「で……どう、感覚は?」

 

「……うん、問題ない。大丈夫、僕は正常なままだよ」

 

 心配そうに聞いてきた浄に、なんでもない風を装って返す。

 これは本当だ。モンスターを殺すことに限っては、僕の心から何も溢れ出ることはなかった。

 ただ少し、腕が震えるだけなのだ。

 

 あのどろどろとした、されど身を任せればどこまでも流されて、悦楽を得て、溺れてしまいそうになる、あの熱。

 ——おそらくは殺人衝動と、そう称されるであろうそれは、常に僕の心を蝕んでいた。

 

「うん、大丈夫。ここでなら、殺しても殺しても誰からも咎められることはない」

 

「本当? 唐突にぼくを刺し殺したりしない?」

 

「僕をなんだと思ってるんだ。それくらいの自制はできる」

 

 でなきゃとっくのとうに君を刺してブタ箱入りだ。

 

「それにしても難儀なものだね、きみの衝動というやつは」

 

「もう十年にもなるからな……そりゃ慣れてもくるさ。……でも、目を逸らして、それで終わるのならそれがいいよ」

 

 もっともそうでないからこそ、僕は浄という友人を縛り付けているのだろう。

 

 ああ、でも……それもまた良き哉と思ってしまうからこそ、僕は畜生なんだろうね。

 

「さて、まだまだレベルは低いから、どんどん進めて行こうか」

 

「そうだ——」

 

 僕が気付く。そして浄も気付く。

 

「……ね」

 

「もう少し自然体を保てよ、浄」

 

「ぼくはきみみたいにたくさん修羅場潜ってるわけじゃないんだよ……」

 

 それにしたってあまりにバレバレだと息を吐く。

 なんだ、天地は武芸者の国じゃなかったのか? 視線、姿勢、態度、気配、その全てが未熟にすぎる。

 

 あるいはここが初心者狩場で、だからこそ程度が知れているのかも知れないが——それにしたって、将軍のお膝元でやるか普通? 

 

 抜身の刀をわずかに構える。見晴らしのいい平原での盗賊行為なんて、普通自殺行為だ。相手もそれはわかっているから、こちらを見ているだけに留めている。

 ならばどうするか、そんなのは簡単だ。

 

「浄、少し移動しよう」

 

「どこへ?」

 

「ああ、そうだな。もっと奥の林の中、なんてどう?」

 

 初心者狩場である<刀野平野>から隣接する<刀野林>、そこはあまり周囲から注目されない場所だ。純粋に林は暗くて見えづらく、それでいて平野との出現するモンスターのレベルにそこまでの違いはないから——と聞いている。

 

 ならば、あそこで迎え撃つのも吉だろう。視線の数を見るにそこまで数は多くないから……うん、多分大丈夫だ。

 

 浄もそれを察してか軽く頷いて、短い杖をくるくると回しながら歩き出す。僕は時折襲ってくるモンスターを後ろで切り殺しながら、彼を護衛する。

 後衛を潰されたら順次前衛もすりつぶされるから、後衛を守るのは定石と言える。

 

 吉と出るか凶と出るか。

 林へ近づいていくにつれ、震えがひどくなる右手を抑えて、僕は浄の後ろから、歩を進めた。

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