サムライ・デッドマンズ・パーティー/或いは貴衛残花の<Infinite Dendrogram>   作:クーボー

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第四話 『ステータス』

 □<刀野林> 【武士(サムライ)】斬花

 

 雑木林の中は、不自然に暗い。

 日陰だからかほんのりと肌寒く、吹き込む風は生暖かい。その対照的な温度差に、知らず、身体が震えた。

 

「斬花」

 

「……大丈夫。まだ、大丈夫」

 

 安物の柄頭を、冷気とは無関係に震える右手で抑える。目障りな金属の摩擦音が鼓膜を揺らして、不自然な苛立ちが強まった。

 

 ダメだ、ダメだ、冷静になれ。

 苛立つな。

 衝動を抑えろ。

 ……恐怖に、酔うな。

 

「やっぱり、今からでも街に戻った方が……」

 

「戻ったって、僕ら以外の誰かが被害に遭うだけだよ」

 

 それが<マスター>なら、いいだろう。どうとでもなる。

 しかしそれが、ティアンの……現地人であった場合、死んでしまったらもう蘇ることはない。一度きりの命なのだ。

 

「……冷静じゃないだろうね、今の僕は。それくらいわかってる。でも、抑えられる気がしないんだ。現に今も、刀を抑える右手が、疼いて仕方ない」

 

「……十中八九死ぬぞ、斬花」

 

「どうにもならなければ、そうなるね」

 

 はぁ、と、深いため息を吐かれる。そして浄は、僕にジト目を向けながら、再度ため息を吐いた。

 

「きみは本当に馬鹿だ。阿呆だ。自分の衝動を恐れているくせに、どうしてわざわざ衝動を解き放つような真似をするのか。ぼくにはわからないよ」

 

「……ごめん」

 

「……もっと効率の良い方法があったことは否定しないよ。それこそ性急な解決を望まなければ、君の真似じゃないけどどうとでもなる」

 

 そもそも気づいた時に街へ戻り、門番らに情報を伝えたり。冒険者ギルドに情報を提供したり。

 今この状況に陥ることなく、その上で解決する手段は無数にあった。

 

 その上で僕がこんな最悪の手段を取った理由は、一つしかない。

 

「試したいんだろ、斬花。——この世界なら、きみの衝動を解消できるんじゃないのか、って」

 

「……ああ」

 

「<マスター>と犯罪者を殺す場合に限り、この世界では殺人も許容される。このあまりにリアルな世界でなら、きみはきみ自身をさらけ出せると……そう思っているんだね」

 

 本当に、僕の友人はすごい。

 

「……一字一句違わず、その通りだよ。僕は、殺したいんだ。人を」

 

 かつての練習試合で知った、僕の本性。あるい欲望と呼ばれるソレ。

 その衝動がために、僕は表舞台に立てなくなった。それに相応の憎悪もある、しかしそれ以上に、僕はそれを押さえ込むことへの窮屈さを感じていた。

 

「この世界の人々が、確かな生命を持ってるってことは、きちんと理解している。いや、この上なく実感しているとも。でもね、そう実感すればするほどに、僕は殺したくなってしまう」

 

 この世界を、第二の現実だと認めているからこその衝動。

 人から見れば異常だろう。それは僕も自覚してる。止められるのなら、止めていたい。目を背けていられるのなら、そうしていたい。

 

 けれどソレは、僕のことを(ゆる)さない。

 

「——なら、受け入れるしかないだろう」

 

 結局、僕は変わらない。どこであろうと僕は僕。それだけでいいのだ。

 

「……わかったよ。わかったわかった。どうせきみは止められないんだろ——まあ、肉壁にはなるから、付き合ってあげるよ」

 

 こうなるのなら、ケチらずに弓矢を買っておけば良かったと——かつての弓道部部長は言う。浄の場合、僕と違って実戦というより神事の時に扱えるように極めたのが正しいんだけども。

 

「あは、ありがと」

 

「ダチだからね、このくらいは付き合うよ。——さて」

 

 周囲を取り囲んでいる数多の気配……弱いものも強いものも、等しく僕らを狙っている。

 

「お話は終わったかい?」

 

「ああ。待ってくれるなんて、紳士的な蛮族じゃないか」

 

「へっ、違いねえな」

 

 林から出てきた、随分と薄着をした男。その人相はまさに悪人に相応しく、傍に持つ大斧は、おそらくは幾人もの生命を奪ってきたのだろう威圧感を放っている。

 他の手下どもは、彼ほど強くはないだろうが……。

 

「……問題ない、か」

 

 ステータスで言えば格上なのは間違いない。

 でも、どうしてだろうか。倒せる気しかしないのは。

 

「あは——まあ、どうとでもなる、か」

 

 ついでに<エンブリオ>が孵化してくれたら嬉しいな。杖を構える浄に遅れて、力を抜いた右手が、震えるように刀を抜いた。

 しゃらん、という鈴の音が、この場にいる生命へと、闘争の始まりを告げる。

 

「邦衛式戦()術免許皆伝、斬花」

 

 ——推して参ろう。

 

「オラァ、死ねやァっ!」

 

 その手に斧を持って飛びかかってくる男。その動きは完全に僕のステータスを凌駕している。これまでも幾人もの相手を仕留めてきたのか、己の動きに絶対の自信を持っているようだった。

 それを見て、僕は一歩後ろに下がる。刀を脇に構え、息を吐いた。

 

 それを見ても関係ないとばかりに突っ込んでくる賊の男に——

 

「執ッ」

 

 距離感覚を合わせて大きく踏み込み、上段に切り上げるようにして胸元から首にかけてを断ち切った。ぶじゅう、と赤い血潮が漏れて、何が起こったのかわからない様子も男の背中を蹴り飛ばす。

 

 トドメはいらない。

 ……すぐに死ぬから。

 

 その一連の流れを見た男たちの目に警戒が宿る。

 僕らを狩られる獲物ではなく——抵抗する猛獣だと理解したように。

 

「……あ、レベル上がった。殺してもレベルは上がるのか」

 

 それは僥倖。僕は口角を吊り上げる。

 

「僕はお前らを——殺せるぞ」

 

 ざり、と下駄が土を踏む。

 ひどく緊迫した世界の中で——僕は、ほうと熱い息を吐いた。

 

 この、殺意。この、衝動。

 向けられる視線に含まれる害意を読み取って、深く、深く、強く笑う。

 

「我が剣術は、戦場にて成立した、一対多数を旨とする業」

 

 ゆえにその体系に、万全な状態で、向き合って力を振るうことを前提とする抜刀術は存在しない。

 そして、流麗に相手を圧倒する剣技もまた存在しない。その剣は競技ではないからだ。

 

 戦場にて死合うは一期一会、故に相対するその刹那にて、確実に相手を殺すために磨き上げられたその一連の業。

 ——一族の主人たる「邦」を「守る」ために築き上げられてきたそれらの技術を受け継いできた一族は、かつて邦衛と呼ばれ……今は貴衛とされる。

 

 故にこそ——安寧の世であろうとも、殺人剣を磨き続けた僕の劔に死角はない。

 

「——一族の秘奥たる「邦衛」、その命を対価として、存分に味わうといい」




一時のテンションで舞い上がって宣言するけど後でめちゃくちゃ後悔するやーつ(台無し
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