「よいしょっと……ふう、ここか」
そう言いながら、俺は里の入り口の外に降り立った。
「妖夢が里と白玉楼は近くて遠い距離って言ってたがまさにその通りだったな」
そんな事を言いながら、俺は目の前の壮大な門から中に入った。
途端向けられる奇異きいの目。
元々特異な者という自覚はあったので俺は特に気にする事もなく大通りを進んで行った。
しばらく歩いていると小腹が空いてきたので、手近な甘味処かんみどころに入いろうとして、店の外にある、時代劇などでよくある赤いベンチのようなものに腰掛けた。
「すいませーん、注文良いですかー?」
「はいはーい、少々お待ち下さーい」
少しすると店員の若い、美人な女性がやって来たので注文をした。
「えっと……みたらし団子を5本下さい。あとお茶もお願いします」
「分かりました、しばらくお待ち下さい」
そう言って店員は店の中に入って行った。
一応、妖夢からお金を貰っているので(しかもかなりの額である)足りないという心配は無かった。
そうして、しばらく大通りを行く人達を奇異な目を向けられながら見ていると、店員が戻って来た。
「お待たせいたしました。それではごゆっくり」
「ありがとうございます…………いただきまーす」パクッ
と、店員が再び店の中に戻って行った後に食べ始めた。
「……うっま……マジかこれ……」
どうやら外とはレベルが違うようだ。
タレの甘さ加減と言い、団子の柔らかさといい、外で食べたものとは比べ物にならない。
俺はしばらく無言で団子を楽しんでいた。
3本ほど食べ終わった所でふと、妖夢の言っていた事を思い出した。
「確か、紫さんが2人ぐらいこっちに送って来てるって言ってたが、まさか……」
悪い予感がしたので早めに団子を食べてしまおうと思ったが、時既に遅し。
"奴ら"に見つかってしまった。
「あ、久保さんあれじゃないですか?」
「おお!ホントに居るじゃんか!」
「よりにもよってこの2人か……性格悪いぞ」
と、絶望の淵に立つ俺の元にやってきたのは皆さんご存じ久保と、同じ大学の1年生(2年生の俺からしたら後輩である)でもあり、俺と久保、そして俺の幼馴染の「篠崎 夏奈」、「宇佐見 蓮子」、「マエリベリー・ハーン(通称メリー)」の3人と、目の前のコイツの6人で構成しているオカルトサークルのメンバーである、「浦峰 海斗」だ。
俺はため息をつきつつも2人に声を掛けた。
「やぁーっぱりお前らだったか……」
「ははは、何ででしょうね?とにかく、昨日はお疲れ様でした(笑)」
「ああ、ホントにお疲れだよ……」
昨日、サークルでの飲み会の事なんて誰も思い出したくない。
何故かって?そりゃあ、蓮子と久保が悪酔いして暴れたからだ。
蓮子はなんとかメリーと夏奈によって沈静化されたが、久保がうるさかったのでつい全力デコピンをかましてしまったのだ。
飲み会が終わってからというものの、俺は「お店じゃなくて良かった……」と、メリーと海斗、夏奈の3人と安堵していたぐらいなのだ。
「おう、慧大。昨日はすまんかったな」パクッ
「おう……あとで昼飯奢おごりな」
「なっ、そりゃないぜ〜」
と、人の団子を勝手に食べておいて何か言っている久保は無視して、海人に話しかけた。
「お前らは?どうやってここに?」
「ああ、なんか神社に出たんで、そこにいる人にある程度の事情と情報を聞いてきました」
「んー、こっちはとりま香霖堂こうりんどうってとこに行かなきゃいけないらしくてな……お前ら飛べるか?」
と聞くと、2人はキョトンとしたように顔を見合わせて、俺の方を向いてニヤァと笑った。
「飛べるんだな……じゃあ行くぞ。ついて来いよ!全速力で行くからな!!」
そう言って俺は団子の代金を椅子に放ると、もてる限りの最大速度で香霖堂へと向かった。
周囲の里の人間を驚かせてしまったか……後で紫さんとかに怒られそうだなぁ……
そんな事を考えながらしばらく飛んでいると、奥の方が霧がかった森と、その手前に一軒家が見えてきた。
「ここか。おい、2人共降りるぞ」
「あいあいさー」
「うーい」
と、間の抜けた返事をしながらもしっかりと着地する2人。
平均的なサイズの一軒家。
両開きの扉の上には"香霖堂"という看板が打ち付けてあった。
俺は扉の取っ手に手をかけると、扉を開けた。
薄暗い店内。
店の中には様々なものが置かれており、少し乱雑としていた。
すると、店のカウンターらしきもの辺りから声がかけられた。
「やあ、いらっしゃいませ。当店になにか御用ですか?」
「ええ……妖怪の賢者からここに俺の武器があると聞いたんですけど……」
「ああ、君が紫の言っていた外の人間関か。僕は森近霖之介もりちかりんのすけ。ここ香霖堂の店主をしている。どうぞよろしく」
「俺は遠山慧大とおやまけいた。幻想入りした外の人間です。それで、後ろの2人が右から久保、海斗、です。こちらこそよろしくお願いします」
「さて、それじゃあ僕は君の武器を取りに行ってくるから、少しここで待っていてくれるかい?」
「分かりました」
そう言うと、霖之介さんは店の奥に引っ込んだ。
久保と海斗の2人は懐かしのゲーム機やらなんやらを見つけては騒いでいる。
俺も店内をゆっくりと見回っているとふと、1冊の本が目に入った。
「幻想郷縁起?」
"幻想郷縁起"と書かれた本を取って俺は暫し眺めていたが、読んでみようという気になって、適当にページをめくった。
すると、ある項目のちょうど最初の部分だった。
気になって読んでいると霖之介さんが戻って来た。
「あったあった、これだよ」
俺は幻想郷縁起を近くの箱の上に置き、霖之介さんの元に行った。
「これが?」
「ああ、これだよ。この銀色の刃の刀が、かの有名な「雨叢雲剣」だよ。能力は「持ち主を天下に導く」で、こっちの少し白っぽい刃の刀が、「純時雨」だよ。こっちの能力は、「あらゆる負を断ち切る」能力だ。これが、紫から君に渡すように言われた刀だよ」
「ありがとうございます……これが……雨叢雲剣か……」
俺は渡された刀の凄さを手に取って改めて知った。
「霖之介さん、本当にありがとうございます」
「ああ、これ位お安い御用さ」
「ところで、質問なんですけど」
「なんだい?」
そう言いながら机に置いていたお茶を飲みながら、霖之介さんが答えた。
「紫さんの事、"紫"って呼ぶって……そういう事ですか?」
すると、霖之介さんが盛大に吹き出した。
「ブフッ!!……ゴホッゲホッ……あのな、僕とあの妖怪は断じてそんな関係ではないからね!?」
「そうなんですね……チッ」
「うん、今舌打ちしたよね?」
「気のせいですよ笑」
「はぁ……一癖も二癖もありそうな子を連れてきたな……」
「ありがとうございます♪……ところで、この本、貰ってもいいですか?」
「褒めた訳ではないんだがね……ああ、幻想郷縁起なら幾らでも仕入れられるからいいよ。僕からのプレゼントだ」
「助かります。……では、俺等はこの辺で」
「ああ、またのお越しを待ってるよ」
「はい笑……おい、久保、海斗、行くぞー」
「はーい」
「うぇーい」
そうやる気のなさそうな返事をしながら付いてくる久保と海斗を見ながら、俺(達)は香霖堂を後にした。