鮫モンスターに転生したけれど、これからどうすれば良いんだろうか?(完結)   作:蕎麦饂飩

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どうすれば良いのか分からないけど、美少女に飼われる

 空腹に耐えかねて、仲間を食った。

 そして、その内の一匹に反撃を受け、別の一匹に鼻を噛まれて周りがわからなくなり、血を流しながら地中深くに潜りながらのたうち回る。

 そのまま殺し合えば普通に勝ってしまうので、捕食に特化した理性を無理矢理抑え込んで、敢えて鼻を狙う隙を与えた。

 

 命の温度が冷えていくと共に、地中を泳ぐ感覚に抵抗が出来ている。

 恐らく死ねば地面を透過出来なくなるのだろう。

 実際、今まで見てきた仲間の死体はそうだった。

 

 思い出すのは、暖かな地表を泳ぐ仔鮫時代と、花畑で笑うあの幼馴染──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺された系譜に再開可能です。

 

 Restart yes or no?

▶yes

 no

 

 

 

 意識が浮上する。

 身体の温もりを自覚する。

 甘露に歓喜する。

 

 僕は前の僕(ビッグジョー)を食べていた。

 己の血を継ぐ鮫が己になっていた。

 

 己である父を食べて、己に戻る。

 狂気の様な自然がそこに為されていた。

 

 

 あれから月日が経ったのか、もう一度時をやり直しているのかはわからない。

 恐らく前項だろう。

 今再び、鮫の楽園は崩壊を迎えている。

 橋が直されつつある。

 橋が完成したとき、僕たちの楽園は滅びる。

 交通路であり、釣り堀。

 鮫が跳ねても届かない橋の上から、魔法や矢で攻撃されて、ヒレを奪う為に殺される。

 

 選択肢を選ばなければならない。

 以前より良い選択肢を。

 廻りながら進め。

 螺旋階段のようにひたすら進め。

 

 

 

 

『地下鮫(グランドシャーク)』

 現在:通常種

 

 長尾(ロングテール)種

 罠(トラップ)種

 小型(スモール)種

 大顎(ビッグジョー)種

 骨兜(スカル)種

 刃(ブレード)種

▶蛇型(カグラ)種

 

 

 戦い方を選択せよ。

 生き方を選択せよ。

 魂を選択せよ。

 

 己を己で選んだ瞬間、位階は上昇した。

 鮫と言うよりは、ウミヘビかウツボの形になり、身体には襤褸(ぼろ)布の様なヒレが幾つも付いていて、死霊の様だった。

 身体を柱に巻き付くようにして登り、橋の上へと出る。

 

「怯むな!!

倒すんだ。

逃げるな、おい、戻れ!!

逃げるんじゃない!!

…死罪になった兄貴の無念を晴らす為にも、俺は…」

 

 残った何人かのリーダーであろう男へと、橋の上を這って迫る。

 先程柱に対してやった様に、身体を巻き付けて、締め上げて真っ赤になった頭を真上から喰らう。

 

「射れ、射れ!!

アイツはもう死んでる。カアルごと射るんだ!!」

 

 矢が刺さる。矢が刺さる。矢が刺さる。

 血が吹き出る。

 痛みが理解出来る。

 だが、痛みは動きを止める理由にもならない。

 

 橋の横から下を潜り抜けて、隙だらけの背後を狙う。

 

「マッ、マックス、おま…後ろ」

「…へっ? ヴァ──────」

 

 遅い。

 動いて動いて動いて動け。

 思考して思考して思考して思考しろ。

 頭と身体に限界を超えて血を回す。

 傷口から吹き出す血の勢いも増えるがまだ問題ない。

 

 周囲の速度が遅く感じる。

 血の匂いが、肉の味が、脂の食感が脳を加速させて、加速した脳が更にそれらを濃い密度で知覚させる。

 

 喉近くのヒレに矢が刺さる。

 縫い付けられたが、身体を引きちぎれば良い。

 

 裏をかいて食え。

 締め付けて食え。

 噛み付いて食え。

 丸呑みにして食え。

 

 充たされる。足りない。充たされる。足りない。充たされる足りない充たされる足りない充たされる足りない。

 

 とれだけ胃に押し込んでも充足感と共に、飢餓感が残る。

 それでも、()の時よりはマシだといえる。

 

 更なる飢えと引き換えに、位階を登るか?

 そんな選択肢に、脳は肯定する。

 

 

 

『地下鮫(グランドシャーク)』

 現在:蛇型(カグラ)種

 

 触手(アネモネ)種

 地上歩行(ロック)種

 大蛇(オーカグラ)種

 尾釣(アングラー)種

 蛇剣種(ウルミ)種

▶双頭蛇(フタゴカグラ)種

 

「バカな…。何だアレは…。

聞いたこともない…。あんなランクの化け物がいるなんて…。

嘘付きカリアの弟はやっぱり嘘付きだ」

 

 ──────クワセロ

 二又の頭部を持つ姿へと変わった事を自覚する前に、先程以上の空腹を自覚した。

 橋の上にいる人間を全員食らうと、橋の上を伝う様にして、ひたすら先へ先へと進んでいく。

 森…斜面があるから山だろうか?

 山(仮定)の中を貫く橋の上を進む。

 その麓には、幾つもの岩が何重にもなって囲む様に鎮座していた。

 

 僕たちは土はすり抜けられるが、大き過ぎる岩はかなり頑張らないとすり抜けられない。

 この山の周囲を囲む岩場に閉じ込められているのだ。

 だが、橋の存在がそれを無意味にした。

 橋を伝って岩を超えた先へと進む。

 

 

 人間の匂いがする。

 汗の匂い、焦りの匂い、恐怖の匂い。

 

「来っ来たぞ!! 橋を伝って来やがった。

見たこともない奴だ。油断するな」

 

 先程逃げた中に、こんな声があった気はしない。

 恐らく、この場に待っていた者だろう。

 

 先程もそうだったが、橋を壊さない様に魔法ではなく矢が射られ続ける。

 橋よりも、命こそ大事だろうに、人間はやはり頭が悪い。

 

「死にたくない死にたくない死にたくな──────」

「なんだ、うし…ろ…? あ”あ”あ”」

「なんとかしろ俺は逃げるぞ、俺はぁ」

 

 食う。締め上げる。食う。噛み付く。食う。尾で叩く。食う。食う食う食うクウクウクウクウクウ──────

 

 

 気が付けば、また食い尽くしていた。

 橋をかけてくれた事には感謝しかない。

 が、仲間の為にも橋の入り口は締め上げて壊しておく。

 鮫らしい歯は使わない。

 ヘビの様に締めて壊す。

 

 人間が仲間を襲うまでの時間を稼ぐ為に。

 僕がもう仲間たちのところに行けないように。

 …今行ったら、また食べてしまうかも知れないから。

 

 

 橋を抜けて、草原を進んだ。

 爆音を出すウサギを耳鳴りに耐えながら食べた。

 刃物の様な鋭く細い身体を持ったイタチを、口を血塗れにしながら食べた。

 棘だらけのイノシシを、構うことなく食べた。

 無理をすれば、次の位階へ行けそうだったが、それをすると空腹でおかしくなりそうなのでやめた。

 

 今でも既におかしくなっているかもしれない。

 それでも、位階を上がることなく胃を満たしていく事で、少しだけ空腹が満たされて来ている気がした。

 

 

 小さな匂いがした。

 弱い匂いがした。

 生きた匂いがした。

 生活する匂いがした。

 大勢の匂いがした。

 人間の──匂いがした。

 

 草原を抜け、洞窟を抜けると、そこには村があった。

 それは、餌場以外何とも思えなかった。

 

 地中に潜り、悠々と村の中に入る。

 背ビレを見せない程度に深く潜れば、感知などされない。

 建物の基礎らしきものにぶつかり、そのあたりで浮上する事にした。

 

 

 …小屋の中だった。

 少女がいた。

 僕の見下ろす先で怯えていた。

 ──────お腹が空いた。

 

 

 

 

 

────────────オレトノケイヤク──

────ボクトノイヤク───────────

────────────オレヲクエ─────

────キミヲクウ─────────────

────────────カワリニ──────

────カワリニ?─────────────

────────────セレナヲマモレ───

────セレナヲマモル───────────

 

 気が付けば空腹は収まり、目の前のセレナに傅く様に頭を垂れていた。

 何故、セレナをセレナと把握しているか(・・・・・・・・・・・・・・・)なんて最早わからない。

 

 セレナ…、ハーフエルフ…、メス…、オサナナジミ…、テンセイシタセカイ、セワニナッタ、ハツコイ…………? ……?? …???

 

 わからない。

 ワカラナイ。

 コノキオクハダレノモノダ?

 コノキオクハボクノモノ…カ?

 

 ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ──────

 ワカラナイ事だらけだ。

 

 何かの気配を感じて、天井へと這り付いた。

 

「セレナ、そろそろ俺のものになれ。

ティダの弔いもそろそろ良いだろう。

両親がいなくなったお前の世話をしたのは誰だ?

俺だ。借りは返さないといけない。

恩義は返されないといけない」

 

 この貧相な村に住むにしては肥えた音がノックもなく入って来た。

 

「そうだな。

利子だけでも少しは払ってくれないか?

今から俺に抱かれろ。

それで少し待ってやるから」

 

 

 人間たちのとうでも良い営みの一環なのだろう。

 だというのに、胸に宿るのは…殺意……?

 

 野生動物である鮫は、このような類の殺意など持たない。

 殺したいから殺す訳ではない。

 食べたいから殺す。

 危険だから殺す。

 決して、この様な感情では殺さないのだ。

 

 ──────では何故今まで僕は殺してきたのだろう。

 ビッグジョーを、人間たちを。

 感情的で無かったなどと言えるだろうか?

 

 

 そもそも、原初であるあの時、少年を食らったあの時に…。

 待て、そもそものそもそもとして、何故それが己の原初なのか──────

 

「生活を助けてくれた事は感謝しています。

お金は、返しますから…」

 

 意識が浮上する。

 

「生活を助ける?

都合の良い考え方だ。

あの時からお前を買う代金を払っていたのだ」

 

 怒りが上昇する。

 

 

 

 気が付けば、両方の頭で男に噛み付いていた。

 頭がぶつかってしっかり食べられなかった。

 両手両足だけを齧って、胴体と頭部は無事だった。

 

「オッ、俺の腕ッ…足ッ…」

 

 

 ニつの頭同士で上手く動きを配分させて、今度は上とか下から頭をぶつけない程度に食べようとした。

 …やはり、血の匂いが興奮させてしまうのか、ガッツキ気味になって少し頭をぶつけてしまったが。

 

 騒ぎを聞きつけたのか、…それとも最初から性欲を発散するお溢れを狙ったのかはわからないが、他の人間たちがなだれ込んで来た。

 そして僕を見て固まった。

 

 蛇に睨まれた蛙はこの様なものなのだろうか?

 

 仲間を襲いに来た連中よりはよほど弱かった。

 血と肉に興奮しているというのに、頭は何処までも冴え抜いている。

 興奮と思考の加速は両立する。

 僕たちには日常の様に親しみ慣れた心地良い感覚だ。

 

「なんで、なんでこんな──────」

「おかあちゃん」

「食うならソイツを」

「セレナ、お前が化け物を」

 

 意味の無い言葉の羅列を無視する。

 既に僕の前には、死体以外の何も無い。

 

「私は、食べられないの…?」

 

 後ろにいる、生きた人間セレナは恐る恐るそう言った。

 食べてもいい。いや、食べるべきだ。

 その様に理性は告げるのに、何故かそれは実行されない。

 僕も自分でもその理由は良く解らない。

 

 先程と同じように、頭を垂れて傅く。

 

「蛇さん…?」

 

 返答がないので、不安になったのかも知れない。

 ただ僕は、ヘビでは無く鮫だ。

 しかし、それを伝える発声手段は持たない。

 首を振る。

 二つの頭を動じに振る。

 

「食べないの…?」

 

 ヘビであることを否定したつもりだったが、食べることの方を否定したと受け取ったようだった。

 

「そう。助けてくれたんだよね。

ありがとう。

…ティダを思い出すな。

──────私の、届かない理想郷(ネリヤカナヤ)

 

 ティダという名前に聞き覚えは無い。

 だが、僕が最初に食べた人間である事は何故だか知っていた。

 己を示すような素振りを見せたが、上手く伝わった自信は無い。

 

「でも、もう私は此処にはいられない。

村長の息子は死んでしまった。

庇護してくれる者はいないし、死んだ責任は私に求められるから」

 

 それは、僕にとってはどうでも良いことだった。

 小屋に頭を叩き付けて、扉ごと破壊して入り口を開けた。

 

「私と一緒に行ってくれるの?」

 

 その意図は無いにも関わらず、頭を降って肯定するような仕草を取った。

 尾は、彼女を痛めつけない程度に巻き付けている。

 

「私のネリヤカナヤに、なってくれるの?」

 

 僕の双頭は、セレナに頬擦りした。

 少し鮫肌でこすれて肌は赤くなっていた。

 

 

 セレナの前を歩くように、ゆっくりと地面を這う。

 第三者から見れば、セレナは魔獣を使役する魔女に見えるだろう。

 蔑んだような視線や、怯えたような視線、悍ましいものを見るような視線が、僕だけで無くセレナに突き刺さる。

 

 

「忌み子がっ」

「死国の異邦人を匿ったかと思えば、次は化け物か」

 

 小声でも、聞こえてくる。

 僕は人間より遙かに聴覚が良いが、それでもセレナに聞こえていないと判断するのは無理がある声量だった。

 

「今まで、ありがとうございました」

 

 それでも、セレナは村の出入り口で振り替えると、そう言って頭を下げた。

 再び外に歩を進めたセレナからは、少しだけ海に似た匂いがした。

 地を泳ぐ鮫は、海の匂いは好きじゃない。




骨兜(スカル)種
頭蓋骨が頭部を覆う兜のようになっており、脊椎動物ながら、外骨格の特徴も兼ね備えている。
アゴを閉じる力は他の種類とは比べようがない程、強いものである。
骨の頭の中には生身がある為、頭部への衝撃や高熱が無効という訳でもない。
更に進化すると、全身が骨化していく。

刃(ブレード)種
背ビレが巨大な刃物の様になった種。
背ビレ以外を地上に出す時は、獲物を切り刻んだ後くらいのものだ。

蛇型(カグラ)種
蛇や鰻の様な体型をしており、その遊泳姿勢も極めて近しいものてある。
同じ環境で同じ目的を欲するなら、元が別の形でも、やがて同じ形へと至る収斂(しゅうれん)進化の典型例と言えるだろう。
身体を巻き付けて地中へ引き摺りこもうとする。

触手(アネモネ)種
伸縮自在な無数の細長い頭を持つ。
イソギンチャクやメデューサの頭の様な上半身と、太く短い尾の下半身を持つ。
複雑な外見に反して、再生能力がとても高い。
移動速度が遅い。

地上歩行(ロック)種
トカゲの様に地上歩行に適した種。
危険を感じた時に、地中に潜る。
攻撃や捕食を行う時には、地上を走破する。
寒い時には、頭部だけを地上に出して残りを地中に沈めている事もある。

大蛇(オーカグラ)種
巨大化した蛇型種。
その巨大化具合は極めて程度が高い。
といっても最初から大きい訳ではなく、食べれば食べる程大きくなり、その限度に想像が付けられないというものである。

尾釣(アングラー)種
尻尾が他の生き物を誘引する疑似餌になっている。
そこに襲いかかった相手を食らう。
食事中は自らの尾を食らっているようにも見える為、円蛇鮫とも呼ばれる。

蛇剣(ウルミ)種
薄い身体を持ち、上下が鋭く尖った鱗に覆われている。
触れたものをズタズタにしてしまう。
その上、その傷はとても治りにくい。

双頭蛇(フタゴカグラ)種
二つの頭を持つ蛇鮫。
それぞれの頭で思考や活動をする事ができる。
互いを食らい合う事も無い訳ではないが、元となる思考は同じである以上、中々無い。
身体の支配権は両方の頭にあり、寝る時は交互に眠る。
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