鮫モンスターに転生したけれど、これからどうすれば良いんだろうか?(完結)   作:蕎麦饂飩

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どうすれば良いのか分からないけど、苦手な海を泳いでみる

「トトリ砂漠で、綿毛獣(コットンビースト)が大量発生したようじゃ無いですかぁ」

 

 高級そうな宝飾を着けた男が、似たような服装の男に語る。

 

「らしいな。

爆発的に増えては、綿毛で風に乗って生息域を広げる。

確かに問題かも知れないが、トトリ地方には大した産業も無いだろう。

防衛力を割く程には、重要度は高くない。

それに──────」

 

「──────綿毛獣のたてがみは良い繊維になりますからねぇ」

 

 そう言って笑い合う二人。

 こう見えて、大国家ツシマーズの重鎮とも言える商人と将軍であった。

 

 

「しかし、何もしませんでしたと言うのは体面が悪い。

だからといって、数が多く身が軽い奴らは対処出来ない」

 

 将軍はそう言った。

 だが、作戦が無い訳では無かった。

 

「そう言えば、ポアード。

最近、賭け事がつまらないらしいじゃないか」

 

「ええ。モンスターの闘技場と言えば、せいぜいGランク、良くてFランクの契約済みモンスターを戦わせるものです。

そんな中に、確実にDランクには届く新種のモンスターを連れてこられては、こちらも商売あがったりですよ。

…参加もどちらにかけるかも自由というのが、王から頂いた開業の条件とは言えどですねぇ」

 

 つい最近この国に流れ着いては、両端に頭がある巨大なヘビを手なずけた少女が、モンスター同士を戦わせる闘技場で、常勝している。

 大理石のフィールドで、モンスター同士を戦わせて、勝利したモンスターの持ち主と、そちらに賭けた客が資産を得られるという仕組みだった。

 対峙するモンスターを全て呑み込んでいく絶対の王者として、ヘビは君臨していた。

 

「モンスターを食べられた側の契約者(オーナー)から文句は出ていますが、ルール的には問題ないですし…。

ですが、やはりセレナ側にしか賭けられないというのも、対戦相手になりたがる契約者がいないのも問題ですねぇ」

 

 商人はそう愚痴た。

 

「で、わざわざ俺にそれを言うと言うことは、そういう事なんだろう?」

 

「ええ。そうして頂けると、とてもありがたいのです」

 

 中身をぼかした将軍の言葉を、商人は肯定した。

 

「綿毛獣駆除の為に、セレナとヘビに軍への従属を命じる。

こちらは戦力を確保出来る。そちらは軍属モンスターは闘技場の参加対象外として、儲けを回復出来る」

 

「その通りで」

 

 

 

 

 その様な思惑があり、トトリ砂漠へとセレナ達は征くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 脆弱な人間の少女との旅。

 僕は、地中を泳ぎ、セレナは地表を歩きながら旅をした。

 途中から、セレナの速度に合わせるのが面倒になったので、地表に僅かだけ背中を出して、セレナはその上に乗せた。

 

 村から出て直ぐに、僕は姿を変えた。

 

『地下鮫(グランドシャーク)』

 現在:双頭蛇(フタゴカグラ)種

 

 三頭蛇(トライヘッド)種

 捻双蛇(クスシ)種

 骨蛇(シカグラ)種

▶相頭蛇(アワセカグラ)種

 

 それまでは二股の蛇だったのが、尾の位置に頭の一つが移動して、両端が頭になった。

 姿が変わった直後だというのに、思った以上に空腹が湧かない。

 おあつらえ向きの(人間)が近くにいるというのに、食らいついてもいない。

 

 かといって、食欲が必要無くなったわけでは無く、セレナを餌として襲ってくる他の生物を食らう分には、幾らでも胃に入る。

 

 村に来る道中で見たような連中に加えて、燃える拳と凍った拳を持ったカンガルーみたいなものもいた。

 全て等しく胃の中でお友達になっている。

 

 それなりに長い道のりを経て、海岸に着いた。

 海底を進む方法もあったが、セレナが耐えられない。

 仕方なく苦手な海(・・・・)を無理矢理泳ぐ事にした。

 陸を泳ぐ鮫は、海が苦手なのだ。

 海と言っても運路程度の幅しか無かったのが幸いした。

 

 短い間ではあったが、苦手な海で他の化け物たちに襲われた。

 頭が二つ両端に付いていて良かったと思った。

 前後への警戒が出来て死角を削れる上に、逃げながら攻撃も出来るからだ。

 

 しかし、海上を転がりながら、急に伸びてくる触手を刺して、そこから電気を流して来るオウムガイには殺されかけた。

 僕は電気が効きにくい体質だったのか、それとも電気自体が弱かったのかはわからないが、もしそれらが違えば食われていたのは僕たちの方だった。

 

 速くて硬くて、遠距離の攻撃手段があるなんて、恐ろしい生き物だったが、ワイヤーガンの様な触手を伸ばすときには回転をやめて止まるのが救いだった。

 

 

 味はとても美味しかった。

 セレナにも少し食わせた。

 悪くない評価をしていた。

 …今更ながら寄生虫とかは大丈夫だったのだろうか?

 知ったことではないけど。

 

 水の中には、足の代わりに大きな尾ビレを持った人間もいた。

 僕に契約を迫って来た。

 セレナとの契約を解除して、己の契約しろと言われた。

 従う気は全く無いし、考慮にも値しなかったが、そもそもやろうとしても出来ない。

 僕が契約したものは、セレナでない別の人間だし、その人間を通じてセレナとの繋がりがあるに過ぎない。

 僕には本来の契約者との契約解除は出来ない上に、契約者はセレナに甘い。

 というか、セレナを死なないように守護する部分までが、契約内容に含まれている。

 

 だからどうしようもない。

 

「私はお姉様の様に、自分のものに出来ない事を受け入れたりなんかはしない!!

私のものにならないなんて、────許さないんだから」

 

 僕を自分のものに出来ない事に癇癪を起こした人魚姫は、ヒステリックな声を上げた。

 何人もの人魚が、ゴムの付いた仕掛け槍を持って出て来たが、敵対してくれるのならば結構だ。

 セレナも危険にさらされるなら更に上々。

 ──────堂々と食らう理由が出来る。

 

 対象を『賊』と認識する要件を満たした己を恨め。

 

 

 

 接近して来た人魚達を、片っ端から捕食する。

 海の鮫ならともかく、陸の鮫に負けるとは情けない海の人間達だ。

 

 暫くくい漁っていると、攻勢は収まった。

 周囲を見渡すと、ブルブルと震える女を、他の人魚が守るように周囲を囲んでいた。

 

 それごと纏めて食うことも出来たが、セレナに止められた。

 何度も止められる度に、血の匂いがするのに、頭が鈍くなっていく感覚があった。

 興醒めだ。

 …鮫だけに。

 

 

 まあいい。

 これだけ海中に血をバラ撒いたならば、海の鮫達も寄ってくるだろう。

 彼らにも食い分を残してやることにしよう。

 今後、番う鮫がその中にいないとも限らない。

 未来への投資というものだ。

 それに、そろそろ陸に着く。

 少々泳ぎ疲れてしまった。

 

 

 再び陸に上がってからは、海上で苦労した分を取り戻した。

 海の向こう側とは生態系が若干違うが、僕のスペックで押し通した。

 地中に潜めるのは僕だけで、セレナを地中に隠せない事は面倒だったが、それでも僕は化け物の中でもかなり強いようだった。

 

 立派な門構えの城塞都市に入る時、セレナの箔付けも込めて、全身を地表に表した。

 周りには人間ばかりで、それらを自由に食らえれば良かったのに、“『賊』以外は食えない”縛りが強く発されて、涎を垂らす事しか出来なかったのは残念だった。

 

 肉屋や魚屋に行っても、僕の腹を満たすほどの量を買う金が無い。

 僕が欲しいのだから力づくで奪えばいいのに、お金がないといけないなんて、文明とはつくづく面倒なものだと思う。

 

 しかし、実に良い物があった。

 モンスターと呼ばれる生き物を保有している者同士が闘わせて、それに観客が金を払う闘技場というものだった。

 参加は自由。

 モンスターの持ち主は、負けても罰金はなく、勝てばかなりの金を手に入れられる。

 そして何より、相手のモンスターを殺そうが食おうがお咎めはない。

 

 僕の為の食堂がそこにあった。

 敢えて文句を言うのなら、会場が大理石でなく、土であれば良かったけど。

 最近は大理石の中ででも泳げそうな感じだけど、それはそれでお腹が空きそうだ。

 食事をしに来ているのに、空腹を促進させる必要なんて特にはない。

 

 火を吐くヒヨコを食った。

 モヒカンのブタを食った。

 持ち主が自信有りげにしていた真っ赤なスイギュウもお腹に収まった。

 というか、スイギュウも僕よりかなり小さかったのに、どうしてあんなに自信有りげにしていたのかはわからない。

 僕の口よりも小さな生き物に負けるはず無いんだけど。

 大きさは強さに直結するから。

 

 僕には蛇王という不名誉なあだ名が付いた。

 僕はヘビでなく鮫なのに。

 しかし、訂正する術を持たない。

 セレナですら、僕をヘビだと思っているからだ。

 サメ(タメ)になる話をしよう。

 僕らサメと、ヘビのわかりやすい違いとして、サメにはエラが有るし、ヘビには無い。

 セレナにも、そこらへんは理解してほしいものだ。

 

 セレナも『恐怖を飼う魔女』だなんて呼ばれている。

 もしかしなくても、僕がその『恐怖』とやらなんだろう。

 両端に頭がある蛇型で、白眼で、死霊の着るボロ布の様なヒレを体中に生やしており、大きく開く顎には何重にも鋭く細長い牙が生え揃っている。

 そして何より巨大な肉食生物。

 

 …怖くないわけもない。

 細長い身体ということを差し引いても、体長10mくらいはある。

 …この世界の単位もメートルな事はこの際どうでもいい。

 

 口を開ききれば大男の身長よりも大きく、噛み砕く事なく丸呑みに出来る。

 回転する三角錐の角を持つスイギュウは、人の2倍にも届かない高さだった。

 それでも上手くいけば、僕の喉を突き抜けたかも知れない。

 僕だって一番最初の姿でビッグジョーを殺した。

 僕がビッグジョーの時には、次の僕に殺された。

 絶対なんてものはそうそうないのは身に沁みてる。

 

 だが、今に至るまでに僕は姿を何度変えただろうか。

 通常種→蛇型種→双頭蛇種→相頭蛇種

 三回は姿を変えている。

 必ずしも姿を変えたからといって強くなる方向に変わるとは限らない。

 しかし、三回とも食欲を旺盛にした。

 頂点捕食者に近付くほど、食事のコストが嵩む事を考えれば強くなっていると考えても良いはずだ。

 

 片方の頭で威嚇している間に、もう片方の頭で噛み付く。

 それが、闘技場での基本的な闘い方だ。

 二つの頭も大本は繋がっているとはいえ、同時に二匹を相手にして勝てる餌は出て来なかった。

 

 闘技場では賭け事をしているらしいが、当鮫から見てもこれは賭け事としては成立していない。

 僕が食事をするだけのショーだった。

 しかし勿体ない。

 人間に連れてこられたモンスターと称される生物は、確かに人間なんかと比べれば大きいかもしれないが、所詮は一匹。

 それに、人間よりは美味しくは無いのだ。

 ──────この会場の人間全てを食べられたら、どれだけ幸せなのだろうか。

 僕に挑戦するというモンスターは最近では来なくなった。

 当たり前過ぎだが、時折精神的な縛りが緩みそうになる程には空腹は蓄積して来た。

 

 そんな時だった。

 あの筋肉質(タンパク質の多そうな)な男が現れたのは。

 

「その蛇に腹一杯食わせる環境が欲しくはないかね?

その上、金も名誉も手に入る。

金は幾らあっても良い物だからな」

 

 この国の将軍という男が、セレナに話を持ち掛けてきたのだ。




三頭蛇(トライヘッド)種
二つの頭を持つ地下鮫に、更に頭が増えた種。
三人寄れば文殊の知恵と言うだけあって、知能は高い。
しかし、食費は更に必要になっている。

捻双蛇(クスシ)種
神話の医療の神の杖の如く、二つの蛇のような身体が捩れるように絡みついている。
治療能力が極めて高い。
高過ぎて、二又に分かれた身体が癒着しつつある。
その二つの肉体が完全に癒着する時、更に進化の(きざはし)を進むだろう。

骨蛇(シカグラ)種
全身から血と肉が失われて、骨だけになった種。
骨格を見るに、頭は一つである。
どうやって生きているのかは不明。
そもそも生きているのかも不明。
自ら捨てたはずの血肉を取り戻すかの様に捕食するが、消化する胃もない。
しかし、食されたものは歯に噛まれることが無くても絶命するようだ。

相頭蛇(アワセカグラ)種
契約型変種。契約により通常ではない進化をした種。
これ以降の変化における通常種の扱いとなる。
基本的な強さは一つ前の姿と総合的には変わりはあまりない。
尾を捨てて、その位置に頭のうち一つが移動している。
移動速度は以前よりも低下している。
反面、前後に感覚器官があるので、不意打ちには強い。
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