楽園の悪鬼   作:我輩=メイじゃもん

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28.トカゲフィーバー

 砂漠に足跡はない。

 少なくとも千人を超える反乱軍のメンバーが、馬に乗り、ここを通ったはずである。しかし、すでにはるか彼方まで駆け抜けたらしい。

 眺めてみても、砂煙さえ見あたらない。

 

 町の中からのっそりと、エフワニが姿をあらわす。ブルゥゥウウン、ブルゥゥウウン、と響く鼻息はやる気の現れだろう。

 カッパは、エフワニの背中のドームの中、ぐたりと眠ったままだ。

 

 大男イガラムは、そのとなりで膝を抱えていた。小さく縮こまっていてもまだ、くるくる巻かれた髪の毛がドームに押し付けられている。あいつだけで定員オーバーじゃねぇのか?

 

 あんな重そうなのを乗せたまま、走れるか?

 エフワニを見れば、返ってきたのは〝いつでもいいぜ〝と言わんばかりの視線。

 よし。

「じゃ、さっきも言ったが、くれぐれも、安全第一、乗り心地第一、カッパを揺らすな、オーケー?」

 鼻先にくっついた一房のバナナごと、エフワニはクイッと頷く。

「あんたのペースで走ってくれ。私は並走する。行こう」

 

 ザザザザザザンッ、と後ろ足で砂地を空ぶみしたかと思えば、エフワニは走り出した。

 

 その俊足を頼りにされているだけはある。走りにくい砂の深さをものともせず、エフワニは風を切って砂漠を馳ける。

 その隣、カッパの姿が常に視界にはいる距離で、私はエフワニについて行った。馬に乗るより、てめぇの足で走る方がずっと速い。

 

 いくら進めど、ひろがるのは砂ばかり。視界を遮るものもない。それでも見聞色の覇気を、半径約1キロほどで展開している。

 

 イガラムによれば、カッパに怪我を負わせたのは、クロコダイルを〝社長〟とする秘密結社・バロックワークスの構成員らしい。少なくともそいつは、カッパが今朝の騒動について重要な事実を目撃したと知っている。

 イガラムの話を信じるならば、カッパを始末しに来ないとは限らない。警戒するに越したことはないだろう。

 

 走りはじめて一時間ほどしただろうか。私の見聞色の覇気が、捨て置けない気配を感じとった。

 ナイフを抜く。飛び上がる。砂が散る。

 エフワニの体を飛び越して、向こう側へ。

 ナイフの刃を構えた先にかち合ってきたのは、男の足。

 

 キィィイイン……………!

 澄んだ音が鳴りひびいた。

 

「やぁーイ、やーっぱり、反応いーいなーイ!」

 ナイフと鍔迫り合いする、その足は黒光りしている。武装色の覇気の応用〈武装色硬化〉をまとわせてあるのだろう。

 1キロ以上離れた場所から、たったの1秒足らずでここまで迫った、この足の持ち主は。

 

「殺すぞ」

「なぁーんでだよーイ! オーイラはおーめぇを狙ったんだぜーイ!? うーしろのチービは狙ってねぇよーイ!」

 オレンジ色の髪をなびかせる、やせ形の男………殺し屋キース。

 

 ボワッ、と、遅れて砂が舞い上がる。キースの身にまとう、この国の民族衣装のスソがひらめく。

 しなるムチのように、キースは足の軌道を変えて蹴りを放った。私は左手でナイフをしまい、右腕で蹴りを受け流す。

 

「にー年前、あーれイ? さーん年前かーイ!? おーめぇをこーろせっていう、いーらいを受けたんだーイ!」

「知ってるよやりあっただろ」

「だーがおーめぇは生きてる!」

「ああ私が勝ったからな」

「そーんでオーイラも………生きてんだよなぁお前はふしぎなヤツだよなぁ」

「そのやりそこねた依頼を、やり遂げにきたのか? 仕事のついでに」

 

 話しながらも飛んでくる、拳、蹴り、膝、肘。寸分先を読み、受け流しつづけていても、骨にジインと衝撃が伝った。

 

 覇気をつかった体の強化は、その〝存在〟を強化する。

 存在は壊れにくくなるものの、存在の特徴自体は、変わらない。やわらかいものは柔らかいままだ。

 

 〈武装色硬化〉は、存在の特徴自体を変えてしまう。

 己の肉体などを〝鋼〟もしくはそれ以上に硬化させることが可能だった。そして、覇気をまとっているにも関わらず、生物の覇気どうしの反発がうまれなくなる。

 

 ただの武装色の覇気をまとえば、生物の覇気どうしの反発により、相手の攻撃がパァンと弾かれる。

 生き物と、触れあった部分が、弾きあうのだ。

 覇気の反発がクッションとなり、こちらからも攻撃が入れにくくなる。

 

 〈武装色硬化〉ならば、その点をクリアできた。

 〈武装色硬化〉を身にまとえば、ただの覇気で存在を強化するよりも、自分にダメージが入りにくい。

 凡庸性のたかい技である。欠点は、スタミナの消費が激しいこと。

 

 〝衝撃によって、硬化する液体〟。

 私はいつもそれを思い浮かべる。

 

 覇気の発動トリガーとなるのは、己のイメージだ。

 〈武装色硬化〉は〝鋼の鎧〟を身にまとうイメージで発動させることが多いらしい。しかしそれでは、覇気の消費にムダがでる。

 私は、チキュウの防弾ベストの一種、リキッドアーマーをイメージすることにしている。

 

 相手の攻撃を、ピンポイントで防御する。そしてこちらの攻撃もまた、ピンポイントで威力を増加させる。

 これならば相手にこちらの狙いを察知させず、覇気の消費も最小で済む。

 

 体の表面付近に、濃密な覇気が集っていく。そして衝撃をうけようとする部分だけが、瞬時に体表へとびだして〈武装色硬化〉を身にまとわせる。

 

 そんな〝空想〟を疑いなく当然に〝真実〟だと認知することで、覇気は発動する。

 

 穿つように飛んでくる、殺し屋キースの黒光りする手足。

 受け流すその瞬間、接触した一部分だけが、漆黒に変容する私の手足。

 

 キィン……!

 肉弾戦であるというのに、剣の打ち合いのような音が鳴る。

 当然だろう。

 私の足もこいつの足も、今は、金属のような硬度をもっているのだから。

 切り裂かれた風の音が、ヒュインヒュインと乱れてゆく。

 

「いーやーイ! そーれがよぉーイ! おーめぇの殺しをいーらいしてきた奴らがよーイ、あーのあと、依頼をとーりさげたんだよーイ!」

「へぇ?」

「〝悪ーっ鬼〟の報復がこーわくなったらーしいんだーイ! オーイラはちゃーんとせーつめいしたぜーイ? あーの女はそーんなことにこーだわるタマじゃねぇーってなーイ!」

「なら何の用だ? 依頼は消えたんだろ」

「ンナーッヒッヒッヒ! ンナーッヒッヒッヒ!」

 

 それ笑い声か? キースは肩を揺らす。

 

 ズザァ、と砂を滑り、お互いに距離をとった。

 エフワニは足を止めずに駆け抜けてゆき、もうすぐ砂丘の向こうに消える。

 

「オーイラはこーれはじーまんだが………一度も仕事を失敗したことはなかった………おめぇと、やり合うまではな」

「そうかよかったな、でなんなんだ本題は」

 

 キースは自嘲するように小首をかしげた。強すぎる日差しが、濃すぎる影を落とす、男の顔。

 

「……あの頃、オーイラはそろそろ死ーのうとおーもってた所だったーイ………もう充分生きたからな………だーがそのさーいごのさーいごのいーらいで………初めて仕事をしくじった…………オーイラの! げーんえき生活! ひゃーくさんじゅう年の! さーいごのさーいごで! 失っ敗っ………! したんだ!」

 

 〝現役生活130年〟?

 ただの人間が過ごすにしては、ずいぶん長い。

 キースの見た目は、多めに見積もっても20代中盤。

 実は、長命な人種なのだろうか。それとも、ものすごく効果のある〝若さの秘訣〟でももっているのだろうか。

 興味をひかれた私に構わず、キースは話をつづける。

 

「そーれでオーイラは決ーめたんだーイ………! たのしく! 満足に! 死ぬために! おーめぇを殺す…………! 生涯唯一、仕事以外の殺しだ……! とーくべつだぜーイ……?」

 

 ゆらり、ゆらり。蜃気楼のように揺れながら、小枝のような中指が、不穏に私を指差してみせた。

 

 一対一、やりあえば勝てる。しかし手抜きができる相手でもない。

 無視して進むには、こいつは強すぎる。

 

「オーイラは意外と、生業に誇りをもってるからよーイ、ヤるのはターゲット当人のみ………例外はおめぇ一人だけってことにしーとくぜーイ……。おーめぇの知ーり合いを巻き込むつもりはねぇーイ……」

 

 風になびく、キースの髪。赤は狂気の色だと言われるが、オレンジ色もまたキチガイ地味た印象をいだかせるものだと気づく。

 カッと、見開かれた男の目。ゾワリ、風でもない、気温差でもない、ナゾの寒気が背筋をかける。

 

 ここで〝本気〟を出すつもりか。

 

「……アハッ……」

 今はそれどころじゃねぇってのに、迷惑なことだ。

 そう思う理性とは裏腹に、笑みは顔に広がっていく。

 

 ちょうどいい。ストレス溜まってたんだよ。

 仕方のないこととはいえ、今年は陸に滞在してばっかりだ。海に出れないフラストレーションは、思っていたより大量に、心の奥に淀んでいた。

 体もなまって仕方がない。

 

 相手の生死を気にせず、全力でぶん殴れるケンカ相手………殴っただけじゃ死なねぇニンゲンは、この海じゃ貴重だ。その相手が乗り気なら、遠慮も不要。

 ちょっとここでガス抜きしてくか。

 

 キースの背中が蠢きだす。ボゴボゴボゴ、沸騰するように変化する頬。悪魔の実の能力によるものだ。

 男の肌には不可思議な色が、男の声にはふしぎな音色がまじっていった。

 

『なにより、つまらねぇじゃねぇか。人質だの戦略だの、そんなの使ったケンカじゃよーうイ……。この手で、この身で、ぶち殺す。 それが! 殺し屋稼業の楽しさってもんだよなーあイ!』

 

「しょうがねぇなぁ! ちょっとだけ相手してやるよ!」

 

 いざ。

 はじまろうとしたところで、「あ?」『あーン?』互いに顔をしかめる。

 

 くるりと見やったのは、同じ方角。

 ケンカの最中、横槍が入るのも珍しくはない。キースも私とおなじように、見聞色の覇気を広く展開していたらしい。

 

 その見聞色の覇気で、感知した気配。

 走り去ったはずのエフワニが、大きな弧を描いて、こちらに戻ってくる。

 

『もーとから途中でもどってくる』

「予定じゃねぇよ」

『だーよなーイ………あ』

 

 砂丘の向こうから見えてきた、エフワニの移動速度が上がっている。あの野郎、カッパを揺らすなって言っただろうが……!

 斜面をかけおりつつ盛大に砂ぼこりをまきあげて、死に物狂いで走ってくるエフワニ。

 そのワニの背中の上、イガラムが、座席をおおう透明なドームをムリやり押しあけた。

 

『さーけんでるなーイ?』

「あぁ」

 

 よっぽどの大声をはりあげたのだろう。かなりの距離があるというのに、ヤツの声がここまで届く。

 

「マジェルカ殿ォォオオ! 逃げるのだァァアア!」

 

 その後方。

 砂漠がモワリと、動いた。

 

 金色の砂丘がうごめきだす。まるで、砂丘そのものが意思をもって目覚めたかのよう。

 のったりとした動きに見えるのは、デカすぎるせいだった。エフワニと見比べれば、その金色がどれだけのスピードで動いているかわかる。

 

 まさかとは思うが、砂丘が、エフワニを追いかけてきてる?

 

「ン〜〜〜! ンマァ〜〜〜! あ〜奴はァ〜! サンドラァ〜! キングゥ〜! ト〜カゲ〜! な〜ぜ〜、ここに〜、いるのか〜、不明ィ〜! 砂のォ〜、島のォ〜、影なるゥ〜、王者ァァァ〜〜! 会ったが最期ォ〜、逃げるしかなァ〜い〜ィィィィイッ!」

 

 猛スピードで走りつづけるエフワニの背の上に立ち、イガラムは胸を張って、突如うたいはじめた。

 なるほど。こんな時にノド自慢するだけあって、なかなかの美声だ。

 

 音程をとらえることができれば、ただの叫び声よりも、歌声の方がより遠くまで届く。

 やりてぇことはわかる。わかるが………緊張感ねぇなぁ。

 

 キースの体も、うごめいた。

 悪魔の実の能力を、解除したらしい。肥大化したトカゲの頭がギュルギュルと縮んでゆく。

 かぎ爪の消えゆく最中の手のひらで、髪をいじる頃には、もうすっかりただの人間である。

 

「こーまったなーイ、あいつら傷つけりゃ、おーめぇを殺しても、おーめぇのファンクラブがオーイラの身内を狙うんだろーイ?」

「さぁ、知らん。だが確かに、やりそうだなぁ……。そうじゃなくとも、殺し屋はターゲット以外狙わねぇんだろ?」

「まぁなーイ。たーだ。殺し合いのどー真ん中に飛ーび込んでくるヤツのこーとまで、気にしてられねぇやーイ」

 

 一体あいつら何しにきたんだ、とキースが呟いたような気がした。

 最後まで、まともに聞いてはいられなかった。

 

 ゾバァ……ッ!

 

 エフワニを追いかけてきた、砂丘が、割れたのだ。

 うごめく金色の中から現れたのは、巨大な洞窟。

 漆黒の横穴だ。地獄の門がひらいたかのようである。

 

 イガラムはあれを、サンドラキングトカゲ、と言っていた。

 まさかアレ、あの洞窟、生き物の、口?

 目をこらせば、牙のようなものもたしかに見える。

 

 夏島の一部をクレヨンで塗りつぶしたよう。嘘みてぇに、真っ黒い穴。

 サンドラキングトカゲの口は、でかい。砂嵐とどっちがでかいか、判断できねぇほどだ。

 あれに比べりゃ、体長5メートルはあるエフワニも、小さなトカゲのようである。

 

 なるほど。

 トカゲが、ワニよりデッカくて、ワニが、トカゲよりちっさくて、「なんだこの島、あははは」おもしれぇ。

 

 本能が警告してくる。あれは太刀打ちできない。

 近づいたが最後、私はあいつのエサにすらならないだろう。食われたとしても、エサについた調味料の一粒としか思われねぇはずだ。

 

 空の一部さえ潰してしまうほどの、その〝黒〟は、こちらへと迫る。

 

 ザパァッ……!

 となりで爆音がなった。キースが逃げた。私からではない、あのトカゲから。

 ほぼ同時に、私も全力でその場を蹴る。

 逃げるためじゃない。あれに一撃いれるために。

 

 宇宙の一番暗いところ、ブラックホールのように真っ暗なサンドラキングトカゲの〝お口〟は、ゾゾゾゾゾゾ、と砂漠ごと目の前のものを呑んでいく。

 

 逃げるエフワニは健闘していた。しかし、砂地そのものが、背後の巨大トカゲに呑まれていくのだ。

 足元がくずれゆくせいで、うまくスピードが出せていない。

 

 その背の上、座席のドームをあけ放ち、イガラムは立っている。

 見つめた先は、迫りくるサンドラキングトカゲ。

 ブボボボボン、と破裂音をたてたのは、マシンガンか何かだろう。アイツそんなモン体に仕込んでたのかよ。

 

 放たれた弾丸は、外れたのか、当たったのか。きっと、あの漆黒の中に呑まれたのだろう。

 あのトカゲはデカすぎる。

 口の中に弾が〝入った〟としても、口の粘膜まで弾が〝届かない〟。

 

 相手は、砂漠をそのまま呑み込むヤツである。万一、弾が当たったとしても、ダメージがないどころか、当たったことにすら気づかない可能性が高い。

 

 それが理解できないわけではないだろうに、イガラムはまたマシンガンを放つ。

 ブボボボボンッ………!

 ブボボボボンッ………!

 むなしく消えるだけの発砲音。そのすぐ横を、私はつっきった。

 

 耳元で、音がなくなる。

 覇気が使えなければ、肉体が四散する。そのようなスピードまで加速した体は、風を追い越し、空気をうらぎり、無音の世界へ入ってゆく。

 

 照りつける日差しは、突然、きえた。

 飛び込んだ漆黒の中。

 本当にこれは、生物の口の中なのか。まるで異界のような空間で、空中を〝踏みしめ〟、上へ。

 

 左の拳を腰にためる。

 右の拳は、素早く高らかに頭上へ。

 首をまるめ、胴をよじり、防御もなにもかも放棄した、ただ一撃。

 

 トン、と、拳がそれに触れた。

 

 一拍ののち、大気がわななく。

 

 ガゴォオオオォォオ………ン………!

 

 拳をふりぬいた途端、ぐるぐる回り始めた体。

 バランスをとることさえ無視した一撃のせいである。グリングリンと錐揉みしながら、どこかへ落ちてゆく。

 

 それでも、今の音。どうにか巨大トカゲの〝上顎〟に、一発かませたらしい。

 ……生物をなぐったとは思えねぇ音だったが。

 

 見聞色の覇気で感知する。

 サンドラキングトカゲの〝前進〟は、ひとまず止まった。これでエフワニごとカッパが呑みこまれる心配は、なくなったんだがちょっと待て。

 

「グググググググォオオオオォオオォォオォ」

 

 地震? 地鳴り? ちがう。

 おそらくきっと、このサンドラキングトカゲの唸り声。

 私の一撃が痛かったらしい。口を開けたまま、首をもたげて、天を仰いでいく。

 

 まだ落下している私の、真下が、トカゲの舌ではなく、トカゲの喉の入り口になるということだ。

 つまり。

 このままコイツの口の中にいたら、私が呑まれる!

 

「わっちゃあ!」

 気合いだ。気合いで逃げる。それっきゃない。

 体はバランスを崩しまくっている。どうにか体制を持ち直さねば、空を〝走る〟こともできそうにない。

 

 腕を広げて宙をかく、かけねぇ! あの一撃に全力出しすぎた! 腕の力が弱ってやがる……!

 足で宙をけりつける、できた! 変な方向に加速した! 胴がよじれる! ダメだこりゃ。

 

 首元に、何かがボダっと垂れてきた。ヒンヤリとした液体だ。この灼熱の砂漠の中で、ヒンヤリとした水分である。

 

 巨大トカゲの〝よだれ〟だな。

 やべぇ。このままじゃ、ほんとに、消化される。

 

 肝がすっと冷える。頭がスッと醒めていく。理性がひっこみ、本能が体の主導権をにぎる。

 

 気づけば光のある方へ、 宙をもがいて進んでいた。

 足で、宙を〝踏みしめる〟。

 四つ這いで階段を登るように、伸ばした手の先で、宙を〝掴む〟。その手で体を引き上げる。

 

 パチリ、切り替わるように戻ってきた明るさ。

 サンドラキングトカゲの口から、出たのだ。

 天を向いたトカゲの口から出た先は、空中。そのまま上空まで駆け上がると、眼下には、〝砂の島の王者〟がいた。

 

 クリーム色の巨大な牙。あれは牙でいいのだろうか。それ一つで5階建ての建物くらいはありそうだ。

 そのフチを彩るのは、「水色?」きらめくような、スカイブルーの鱗。

 

「おおおお……?」

 サンドラキングトカゲは、宝石のような水色の体をしているらしい。光の角度がすこし変わると、紫がかって見える鱗たち。

 きれいだな……。

 

 痛みにのたうった拍子に、砂漠の下から〝はみ出てしまった〟のだろう。目に入るのは、巨大船よりずっとでっかい〝上半身〟。

 

 その気配からすれば、こいつは全長1キロメートルはある。カトレアの町とおなじくらいの巨体の持ち主だ。そんな事ははじめから分かっている。

 しかし、目で見れば、迫力がケタ違いだった。

 

「でっ、けぇー……!」

 

 やっぱムリだわ。こいつは倒せねぇな。

 今の一撃で、どこかへ帰る気になってくれるといいんだが……。

 サンドラキングトカゲは、かるく身をよじった。ただそれだけの動作だった。それでも砂漠は、

 

 ドゴォ………!

 

 かき乱される。

 

 上空を〝走り〟、旋回する私の足よりずっと下、チラリとこちらを見たサンドラキングトカゲの瞳は、透明だ。

 

 どデカイ水晶みてぇな、その目玉。

 周りをフチどる、エメラルドグリーンの鱗。

 

 やってることは地獄の主のようであるのに、その外見は、宝石の山脈みてぇ。

 夏島の太陽の下では、キラキラというより、ギラギラと光る。

 

 美しく冷たげなその目玉は、私からそらされ、砂漠の一点をみつめた。

 〝砂の島の王者〟の、視線の先にあるものは………疲れ切って、立ち止まっている、エフワニ。

 

 

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