楽園の悪鬼   作:我輩=メイじゃもん

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五章 狂乱のアルバーナ
31.平和の残像


 圧巻だ。さすが大国の王都。建物の規模から違う。

 

 レトロ調のパステルカラーばかりなのは、これまでに見た町と同じ。しかし印象はまるで違う。

 まっすぐ続くバカでかい大通り。几帳面に、ぎっしりと立ち並ぶ巨大な建造物たち。

 それでも夏国らしい大らかさを感じるのは、建物の色調と、あちこちで揺れるヤシの木のおかげか。

 

「すげぇ……!」

 アルバーナはいかにも〝古都〟!

 歴史も老舗も名所も名物も、ありまくりそう……!

 

 キョロキョロしていると、街並みの向こうにひょっこり飛び出す、金色のドームを発見する。

 あそこまでのデカさだ。王城の屋根だろう。

 ん? 王城だっけ? 王宮だっけ?

 

「貴様、悪魔の実の能力者か!?」「我らをアラバスタ国王軍と知っての狼藉か!」「なんだその、気味の悪い肌の色! 何者だ貴様ァ!?」

 

 初めの1人が叫びだすと、兵士達は次々と怒鳴りはじめた。そういえば居たな、こいつら。

 〝お出迎え〟してくれたのは武装した兵士約200人。彼らが私へ向ける切っ先は、日差しを反射し、この目をチカチカさる。

 足止めが目的なのか、私を半包囲したまま陣形を崩さない。

 

 何はともあれ、確認すべきは、

「なぁ、あれって王城? 王宮?」

 

 金ピカドームを指差せば、兵士の半数があちらを振り返った。

「王宮だ」

「そうかぁ!」

 王宮か! あの金ピカ屋根、チキュウの文化遺産アンコールワットみてぇ! せっかくだし、観光してぇなぁ……!

 

「王宮には行かせぬぞ!」

 誰かが叫べば、ピリリと場の緊張が高まる。

 旅の上で肝心なのは、第一印象。私はできるかぎり爽やかに笑った。

「さっき言っただろ? 邪魔するなら、問答無用。押し通るぜ?」

 

 カカカカっ、と響いた、エフワニの爪の音。ようやく階段をのぼりきった黄色い巨体は、私の隣に並ぶ。

 ブルルルルン、と鼻息を荒くして、どうした? まさかお前も戦うつもりか?

 

 いや。コイツはどさくさに紛れて、ニンゲン食いてぇだけだな。

 人食いワニまで暴れ出したら、余計にややこしい事になる。鼻先のバナナ……のようなコブを撫でた。

「お前は動くな。いいな?」

 チラリと振り返り、そのでっかい目玉に念じる。エフワニは眉をひそめたのち、観念したのか、フスー……と力を抜いた。よし。

 

 ウオオオオォオオオ!

 

 ギラリ。閃光は、兵士たちの持つ槍の切っ先。はね返された夏島の日差しに、目を細める。

 兵士たちの雄叫びは荒い。

 そうして私を半包囲する中から、5人の兵士が飛び出してきた。「ん?」どういうことだ?

 内心で首をひねれど、体の方は勝手に動く。

 

 ス、と、前へ。

 突き出された槍を避けつつ、指をひっかけ、へし折る。

 サッカーのリフティングの要領だ。兵士の足を転ばせて、その腹を膝で支える。そのままポォンと向こうへ飛ばした。

 

 連携するつもりだったのだろう。数秒遅れで飛び込んで来ようとする、残りの3人。

「んーん……?」

 その3人も、背後で雁首そろえた兵士たちも、同じように槍を構えるのみである。どういうつもりだ。こいつら一体、何を考えてる?

 

 相手の行動原理を読む。これは戦闘に欠かせぬスキルでもある。ただし意図の読み合いにばかりかまけていれば、隙を突かれて攻撃を受けるハメともなる。

 頭と心と体がそれぞれ別に動くようでないと、多対戦はこなせない。

 

 私はその場で、覇気を練った。

 あえてぼかした目の焦点。そして感じる。この目には映らない、しかし確かに世界にうごめく、微細な何かを。

 

 足元から、己の覇気を〝薄めて出していく〟。

 それらが向かうのは、目には見えない微細な何かの、核……空気中の酸素、窒素、二酸化炭素を構成する原子たち。

 

 直接、触れさえすれば、己の覇気をまとわせられるのだ。

 この肌に触れる〝大気中の原子〟だって例外ではない。そう〝確信〟しながら鍛錬を重ねた結果、今では息をするように実行できる。

 

 〝空気に覇気をまとわせる〟。

 そうして私の覇気を〝まとった〟空気たちは、どんよりと重みをまし、互いに反発しはじめた。

 

 生物の覇気どうしの反発だ。放っておけばピンボールのようにぶつかり合い、弾き合い、爆散するだろう。

 そうなる前に、蹴りとばす。

 

 先ほども使った技である。

 名付けて。

 〝生物をポンポンさせるキック〟!

 

 ズオ……と大気が泣いた。

 

 〝私の覇気をまとった空気〟は、蹴り飛ばされるがまま、3人の兵士にぶつかる。

 強風は強風だ。それでもこの風速では本来、彼らをつかの間、足止めする事しかできないだろう。

 しかしこれは、〝生物の覇気〟をまとった風。

 意識のある生物とだけ、強力に反発しあう。

 

 砂は、多少舞っただけだった。すぐそばの建物もガラスさえ震えない。

 兵士だけが、竜巻に襲われたようである。

 3人は空中に巻き上げられた。その後ろに控えた兵士たちも、なすすべなく吹き飛ばされていく。ポンポンと。そう、ポンポンと。

 

 生物をポンポンさせるキーック!

 

「マジェルカ殿ォ!? 彼らは国を守る兵士たち! 繰り返すが! どうか、どォーか! お手柔らかにィィイ!」

「だから! 手加減してるだろ!」

「アンタからすりゃ、そーかもしれないが! なんと言うか! 相手の気持ちになって、物を考えて欲しいと言うかァ!」

 

 エフワニの背中に取りつけられた、座席をカバーする透明なドーム。パカリと開けられたその中から、イガラムがグチグチ言ってくる。またかよ。こいつ小言が多いな……!?

 

 目の前で、同志が一挙に数十人、10メートル以上吹き飛ばされた。よほど衝撃的だったらしい。

 士気はあっけなく乱れ、残った兵士たちがとった行動は、三パターン。

 その場で棒立ちになる者。次にどうすべきか分からず、周りを見回している者。

 

 そして、恐慌故か、使命感のなせる技か。連携も忘れて我武者羅に、私へ向かってくる者達だ。その手に光るは、やはり、槍。

 

「なんで……」

 呟いた声は、雄叫びにかき消された。

 

 エフワニにはまだカッパが乗っている。カッパから離れすぎないよう気をつけて、兵士たちの相手をしよう。

 階段を登りきる際、私が一人で先行したのも、同じ理由からである。

 銃撃への警戒だ。

 

 この世では必ずしも、銃が一番強いわけではない。実際、ショットガンだろうがバズーカだろうが、一般人が撃つならば、私に傷一つつけられない。

 覇気使いや悪魔の実の能力者には、銃が効かないことも多い。

 

 ただし全体をみれば、銃の効かない人間の方が稀である。国家規模の戦場ではやはり、銃が主力。

 まとわりつくような違和感はソレだった。

 なんで一発も、銃撃がこない?

 

 この海には、銃より強力な攻撃をくりだす戦士もゴロゴロいる。文明がひらけておらず、銃という道具の存在を知らない人々もいる。

 しかしこいつらは違う。

 

 この国には銃がある。文明度もそこまで低くはない。

 確かにここの兵士達は、人並み以上に戦えるだろう。ただし、兵器以上に戦えるわけではない。

 銃の使用は戦力の増強に効果があり、欠かせないものだと言っていい。

 

 それでも彼らは誰一人、銃どころか、飛び道具さえ出そうとしない。必死の形相をみれば、何かを出し惜しみしているとも思えなかった。はじめから、接近戦用の武器しか持っていないのだろう。

 

 ここはグランドライン。世界一過酷な海だ。

 人並み以上〝程度〟の戦士たちが、ただの槍で戦うなんて、自殺行為だろうに。

 

「めんどくせぇなぁ……!」

 全力で斬りつけにくる相手の太すぎる二の腕を、そっと、掴んで投げる。槍をつかんで〝握りつぶし〟、私の2倍くらいありそうな巨漢の兵士を、やさしく蹴り飛ばす。

「うぬぉおお!?」「なっ……!?」

 

 すでに兵士達がいる場所は、刃のある場所だ。そこに投げ込むわけもいかず、〝落としても死なない場所〟を探しながらの作業。

 あーもう……。

 接近戦での手加減は、より一層、神経使うんだからな………。

 

 極力、覇気は温存したい。しかしもうイライラの限界だ。生物を? ポンポンさせる? キーック!

 先ほどより多めに覇気をまとわせて、蹴る。調整が功を奏し、ポンポン飛んでく兵士たちは、一回り遠くのだれもいない地面に落ちてゆく。

 兵士が笑った。

「あは、あはは……なんだよこれ……こんな奴どうやって倒すんだ……?」

 

 カッパはまだ目覚めないようだ。ガキの体を横抱きにし、イガラムが私の隣に並ぶ。

「マジェルカ殿、ここまでの護衛、感謝する。あとは私におまかせあれ……! アラバスタ王国軍護衛隊長の名にかけて、少年を国王のもとに」

「アホか」

 

 え? アホ?

「お前……カッパの話聞いてたか? こいつは〝反乱軍を止める〟ためにここまで来たんだぞ」

「であればこそ! まず国王に真実を伝え、国王から皆に」

「その国王が信じられねぇから、反乱が起こってんだろ。現状、国王のことばに重みはない」

「ではどうすると!?」

「コーザに会う」

「何を無茶なことを……!」

 

 王都アルバーナをすっぽり覆うよう広げた、見聞色の覇気。20万を超える人間たちの気配がわかる。イライラが募っていたのは、手加減しつつ戦いながら、人探しをしていたせいだ。

 コーザの気配なら、とっくに見つけてある。

 

「反乱軍はすでにアルバーナに入っているはず! 何十万人の乱戦となっているだろう……! 反乱軍のリーダーの現在地など、分かるわけが」

「コーザならあっちの地下」

「分かるんかいっ!? ン〜、ンマ〜、居場所、分かるんかいっ……! 確証はあるのか!?」

「行くぞ。一応あんたも守ってやるよ。その代わり、カッパのことしっかり抱いてろ。揺らすなよ?」

 

 エフワニに待機を命じ、前を向く。残る兵士は50人ほど。だれも銃をもたないなら、カッパとともに突っ切れる。

 一歩踏み出そうとした所で、兵士の様子がおかしいことに気づいた。

「イガラム……隊長!? そちらの貴方は! 国王軍の、イガラム護衛隊長では……!?」

 

 愚問だ。私が鼻で笑おうとしたとき、イガラムのカーリーヘアーがモハっと揺れた。こいつ、頷きやがった?

「いかにも! 私が」

「ダぁホかぁああああああ!」

 

 生物をポンポンさせるキック! 生物をポンポンさせるキック! 生物をポンポンさせるキーック!

 兵士全員が宙に舞う。そして空中でまた、くるくる回る。クソ、焦ってムダな追撃しちまった……!

 

「何をするのだマジェルカ殿ォ!? 私の身分を明かせば、すんなり通してもら」

「バッ……! バッ……! バッカヤロウ!」

「なにが!」

「お前は国王軍の幹部じゃねぇのか!」

「その通り!」

「だったら身分を明かすんじゃねぇよ! そんな偉いヤツが! 戦場にガキを! 大事そうに、抱えて来たら! 〝そのガキは、この戦場の重要人物なのかな?〟って………思われるだろうがあああ!」

「それの何が悪………あっ! 敵に狙われやすくなるのだな!?」

「そうだよ……しかも国王軍にも敵がまぎれこんでんだろうが……。この状況でまともに自己紹介するなんざ、〝このガキを狙ってください☆〟とでも言ってるようなモンだろうが……!」

「……たしかに!」

「じゃねぇえええよ! もうお前は他人としゃべんな!」

 

 走り出せば、身に染みる。アルバーナはあまりにも無防備だ。

 

 ここまで攻めやすい王都もめずらしい。戦車だって通れるだろうダダっ広い大通りは、すべてが一直線に王宮前広場へとつづくそうである。

 イガラムによると、王宮を〝要〟として〝扇型〟に大通りは広がっているという。おかげで私のような異邦人でも、迷う心配はなさそうだ。

 

 理路整然としすぎた様は、まるで、チキュウのニホンの平安京。ここに攻め入る者など、この世にいるはずがない。そんな確信をもって作られた都だとわかる。

 

「……あ、そういうこと?」

 

 これほどの文明と、人口、いくつもの貿易港を保有しながら、国の兵士はだれも銃を持たない。

 いくら切り立った山の上にあるといっても、ご丁寧に巨大な階段までつくられ、広い道がシンプルに整備された、攻め込みやすい造りの王都。

 

 違和感の答えが、ストンと胸に落ちてくる。

 そうか。

 きっとこの国は、平和だったのだ。

 

 数十年ではない。何百年単位で、戦争も内戦も、紛争すらない国だったのだ。

 敵襲について、深く考える必要がないほどに。

 

 駆けぬける足元には、空の薬莢が転がっている。ここでも反乱軍との戦闘があったのだろう。

 赤黒い染みはどれも新しく、はっきりと硝煙がにおう。砂の上のカトラスは、それを握った人の腕ごと捨て置かれている。

 

 平和〝だった〟国、か。

 

「マジェルカ殿、スピードを上げても構わんぞ! ついていける!」

「アホかてめぇは! これ以上スピードあげて、カッパを揺らさず走れんのか!」

「しかし反乱に間に合わねば、少年の勇気もムダになる!」

「大丈夫だよ。この様子じゃ、まだまだ反乱は終わらねぇ」

「そうか、それなら……イヤ何言ってんのォ!? 終わりに間に合えばイイっちゅうモンじゃないでしょうがァ!?」

 

 私もまだまだ未熟である。見聞色の覇気は、球形にしか展開できない。

 仕方なく王都にあるすべての気配を感知しながら、コーザの動向を追っていた。

 

 コーザは一人、先行しているらしい。反乱軍らしき気配たちは、まだ王宮に達していない。コーザの気配はぽつねんと、彼らとは離れた位置にあった。

 方角からして、おそらく、王宮のすぐそば。もしくはすでに、王宮の内部。

 

 秘密の通路でもあるのだろうか。地下から、ひたすら斜め上へと移動しつづけたコーザの気配は、今、随分と高い位置に、ぽっかりと浮いている。

 そこが王宮内だとすれば、5階か6階……もしくは屋上か?

 

 あれ?

 コーザ今、国王、殺せる位置にいるんじゃね?

 

「おおっ!?」

「どうしたのだ!」

「いやっ、あー、うーん……!」

 

 国王が死ねば、良くも悪くも、反乱は完結する。

 それでは本当にカッパの想いがムダになる。私だけでも先行してコーザを止めるか?

「でも……」

 

 コーザのすぐそばには、クロコダイルの気配があった。

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