楽園の悪鬼   作:我輩=メイじゃもん

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34.クイズの答えのご登場

 アイスブルーの外壁はボロボロだ。何千のナイフや針に貫かれ、今にも崩れかけている。

 壁に激突する寸前、くるりと回り、足の裏を押しつけた。

 ヤクザキックでぶち破る。

 

 飛び込んだ建物の4階は、だだっ広い。ワンフロアぶち抜きのレストランだろうか。

 くだけ散った外壁が下敷きにしたのは、木のテーブルに、小洒落た椅子。涼しげなターコイズブルーの床が、粉塵でドドメ色に汚れていく。

 

 バゴォ………!

 

 粉塵でふさがれた視界。その先で、狙撃手の気配が拳で瓦礫を割り砕く。自分よりデカいものは呑み込めないのか、はたまた、呑み込むのに時間がかかるのか。

 手のひらをこちらに突き出す男。

 そこから飛んできたナイフの数々を、私も今度は、避けなかった。

 

 イメージするのは、リキッドアーマー。ナイフの切っ先が触れた瞬間、その部分のみが、漆黒に光り刃物を通さぬ。

 〈武装色硬化〉の応用技を身にまとい、私はゆっくり歩いてゆく。

 煙の向こうで声がする。

 

「貴様は誰だ! この国の人間ではないだろう! 覇気使いか!」

 

 ナイフの弾幕が、つかの間、止む。狙撃手の気配をさぐれば、腹のあたりが〝歪んで〟見える。腹にぶつかった瓦礫の塊を、呑み込んでいるのだろうか。

 

 〝ゴクッ………ゴクッ……〟と、嚥下音。

 奇妙にハッキリ聞こえる小さな音は、悪魔の実の能力によくある〝効果音〟だろう。

 

 予想はすでに確信となっている。

 パラミシア系・悪魔の実の能力者である、こいつの能力は。

 

 触れたものを〝呑み込み〟体内に収納する。そして、呑み込んだものの〝吐き出し〟も可能。

 ただし〝吐き出し〟が行えるのは、手のひらのみのようだ。

 そして〝呑み込み〟と〝吐き出し〟を同時に行うことは出来ない。

 

 今の効果音からして、さしずめ、〝ゴクゴクの実〟の能力者………ってとこかな?

 おもしろそうじゃねぇか。

 

「驚いたぜ。あんたの狙撃の腕、見事だねぇ……。そっちこそ、この国の人間とは思えねぇなぁ?」

 

 粉塵に汚れた床は、踏むたびにジャリリとする。会話しているうちに、さっさと新技出してくれねぇかな。

 せっかく待ってんだから、ワクワクドキドキするような、もっとすげぇの見せて欲し…………「って、そうじゃねぇ!」

「何……!?」

「遊んでる場合じゃ……!」 なかった!

 

 はじめて見る能力にテンション上がってたが。

 今は反乱止めに来てんだった! 時間がねぇんだった! ケンカを楽しむ場面じゃねぇんだった!

 

「悪いな!」

 サクッと終わらせよう。

 

 踏み切る。足が生んだ〝圧〟のせいか、踏みつけた床がぐわんと弛み、泥の上を走るような心地になる。

 急加速した体。ポニーテールがぐっと後ろに引っ張られる感覚。

 すべてが私についてこれない中で、男の反応は早かった。

 

 粉塵が落ち着いていく。視界をふさぐドドメ色が薄まってゆき、ぼんやりと見えてくる狙撃手のシルエット。

 私へ向けられた男の手から、飛び出してくるのは有象無象だ。ナイフ、針、砲弾、カトラス。先ほど呑んだものだろうか、私の頭よりデカイ瓦礫の塊。

 

 キチキチと金属音が鳴る。体にナイフが当たるたび、この肌は黒光りして切っ先を弾く。私に当たったカトラスは折れた。

 かかげた拳は、瓦礫の塊をくだく。

 コイツとは、ちがう時に出会いたかったな。その方がきっと楽しかったよ。

 瓦礫がこまかく飛び散ったその先へ、駆けぬける私を待っていたのは、水だった。

 

 は?

「うおおおぶっ!?」

 

 ピンポイントで顔面にぶつかってくる、小さな激流。とてつもない水圧が、私の首をへし折ろうとする。なんじゃこりゃあああ!?

 

 悪魔の実の能力者は、皆が皆、必ず、カナヅチになる。海に嫌われる悪魔の実の能力に、水を操れるものはないとされていた。

 しかし、この水流はまちがいなく、男が手のひらが〝吐き出している〟ものだ。〝ゴクゴクの実(仮)〟やべぇな!

 

 消防車の放水を間近から顔面に受けたら、こんな感じなのかしら。

 

 あわてて覇気を首に集める。本能からの警告に従い、首のすべてを〈武装色硬化〉で覆う。どうにか首を守るため、額を前に突き出そうとする。

 それでも、もう遅い。

 コイツはスナイパーなのだった。

 男は繊細に反応し、水圧で後ろへのけぞった私のアゴの下をめがけ、激流を〝撃って〟くる。止まない水圧にアゴが押し上げられて、首の体勢を戻せない。

 一体、何万リットルの水を〝呑み込んで〟あるんだよ!

 

 私は肘を振り上げた。曲げた腕を、頭の後ろへ。ひとまず首を支えてやらにゃ、ボッキリ折られちまう。

 おおおっし!

 ガクン、とようやく下がったアゴ。額の一番硬い場所を、前に突き出すことができた。

 

 ゴォン……!

 

 間一髪だったな。

 額にぶつかり、重く鈍く、この頭蓋骨をゆらしたのは、水の中に紛れて飛んできた砲弾。もしこれがアゴに当たってりゃ、流石の私でも脳震盪おこして気絶したかもね。今でも目の奥がチカチカしてるけどね。

 痛えええええよ!

 

 それを皮切りに、圧縮された激流の中から、様々なものが飛んでくる。ついでにバランスを崩した足元が、粉塵でザラついた床を掴み損ね、ズルリとすべる。

 

 水流で息ができねぇ。閉じたまぶたにも〈武装色硬化〉をまとったそばから、ガツガツぶつかってくる針の切っ先。水の後押しをうけたそれらに、脳がガクガクゆらされる。

 

 このままじゃ、後ろに倒される。その一瞬を見逃すほど、マヌケな敵でも弱い相手でもない。

 

 そりゃ、ダメだよな?

 

 後ろに回していた腕をどうにか動かし、頭の両脇をガードした。人の耳は、体のバランス感覚を司っている。ここをひとまず塞いでおく。

 

 足元はいまだに、ずっこける最中だ。それでも構わず膝をまげ、腰を落とす。

 太もも。つま先。ふくらはぎ。

 捻りはじめた筋肉の動きを、腰まで、腹まで、あげてゆく。

 そして最後に肩をしならせ、背後を振り向く。激流の〝着弾点〟を僅かに狂わせるのだ。

 

 激流に乗ったバカデカい針たちが、背中にあたり、脇の下にあたる。それに耐えきり、体幹のバランスを保てば、ほら。

 

 激流に弾き飛ばされ、宙を舞った私の体。

 おっし! 出たああああ!

 

 男はすかさず、私めがけて両手の角度を調整した。しかし肝心の攻撃がついてこない。水は急には曲がれないのだ。

 弾かれた衝撃で、壁まで吹き飛ばされた体。体をひねってバランスをとり、壁に着地する。

 

 室内一杯に、モヤが、生まれていた。

 男が出す〝水鉄砲〟のせいだろう。滝の真下がそうなるように、ぼんやりと白い霧が立ち込めている。その中にうっすら浮かび上がる、真っ黒いシルエット。

 

 ゴォオオオ、と水が唸る。

 あとコンマ数秒あれば、男の攻撃が私に届く。あの水流を、あれほど高度な狙撃技術で撃ち込まれれば、私でもやばい。死ぬかもな!

 

「んふふ!」

 楽しいねぇ……?

 

 壁についた足を踏み切り、体を押し出す。

 

 ドバァ………!

 

 私の踏みつけた壁が、崩れ落ちる音。男の放つ水流が、トルネードのように身をしならせて、私に迫る音。

 ほんの僅かに、私の方が速かった。

 

 ひたり。水浸しの床に、足がつく。

 低くかがめたこの体は、男の両腕の下に入り込む。

 黒光りさせた右の拳。真っ黒いスーツに隠された、男の腹を、

 

 ぶち抜く。

 

 

 ドドドドド……………ォ……………!

 

 

「アチいな!?」

 

 ただでさえここは、砂漠の国。いきなり湿度が増したせいだろう。肺がやけつくほどに暑い。

 男の気配は消えていた。もう気絶したらしい。一発でカタがついちまったか………いやいや、サクッと片付いて良いんだよ。今は急いでるんだから。

 

 モヤが薄まってゆく。レストランの室内は散々だ。

 あちらこちらの瓦礫たち。ナイフにカトラス、砲弾まで落っこちている。ここで軍隊の戦闘でもあったかのようだ。

 隅っこの方に1つだけ無事なテーブル席があるものの、むしろそれが痛々しい。

 

 粉塵と水が混ざり合い、汚泥となって床を穢す。モヤを吹き飛ばしていく風は、壁にあいたどデカイ穴からやって来る。

 私の後ろも、横も、目の前も、ずいぶん風通しが良くなったようで、良かっ………良くねぇよなぁ。

 

 ゴゴゴゴォン………!

 

 遅れて届いた轟音は、男が地面に衝突した音だろう。

 

 つい先ほど遠慮なくぶち込んだ拳は、〈武装色硬化〉をまとった男を気絶させ、盛大に吹き飛ばした。今、私の正面の壁には、男の体のサイズで穴があいている。

 この拳でうたれた男は、レストランの壁を三枚ほどぶち破り、外まで飛んで行ったらしい。

 

「ん………」

 ポタ、ポタ、と垂れてくる水滴。天井から落ちた雫は、私のつむじを刺激する。

 

 今のケンカは楽しかった。調子に乗ってしまった気もする。ほんの少しやりすぎたような……でも、まぁ、あいつ、強かったし。死んではいねぇだろ。

 そしてこの王都は、今、反乱の舞台になっているわけだ。戦場だもんな。多少建物が壊されたって仕方ねぇよな。

 

「うん……!」 大丈夫大丈夫、セーフセーフ。元はと言えば、あのスナイパーが悪いんだよ。あいつのせいなんだよ。私は悪くない、本当です。

 

 改めて室内を見渡せば、「うーん……?」ひでぇ。

 このレストランのオーナー。このビルのオーナー。なんか、ごめん……。

 

 私が入ってくるときに開けた穴から、水が外に漏れていたらしい。下は、この気温で熱された道や建造物の並ぶ通りだ。水は蒸発して湯気となったのだろう。

 

 イガラムとカッパのいる大通りは、真っ白いモヤに呑み込まれていた。上から眺めると、灼熱の日差しで、虹が生まれているのが分かる。

 乳白色にまざった虹色。オパールみてぇ。きれいだな。

 

 ムワッと頬を打つ、熱風。怯んだのは束の間だ。イガラムの気配を頼りに、4階から飛び降りた。

 

 頭の奥を、ジリジリと火で炙られるような悪寒がする。狂気に染まったこの空気。〝あの〟気配達はもう、すぐそばまで来ている。

 

「おい! 立てるか! もういいぞ! 終わった!」

「ああ、マジェルカ殿、無事だったか………え? え? 何なのだこれは、目の前が真っ白!」

「立ったらそのままじっとしてろ、倒れるなよ!?」

「なんっ………」

 

 乳白色の視界の中、イガラムの気配は立ち上がった。その足へ後ろからそっと、タックルをかます。

「でェッ!?」

 イガラムの尻を右の肩にのせ、さっさと逃げよう!

「走るぞ! 落ちるなよ!?」

「待て、待って、何コレ、これは何をされているんだ私は」

「あんたのケツ、私の右肩に乗っかってる! このまま連れてく!」

「ムリムリ、落ちる! 掴まる場所がない! 体格差がひどい! ふつう逆だァ!? せめて! せめて肩車にしてくれ!」

「ああ!? 断る! 肩車してちゃ戦えねぇ! 敵が来たときすぐに下ろせねぇだろうが! 私の上着の背中でも掴んどけ!」

「えェェ〜!?」

 

 イガラムが、未だ目覚めぬカッパを片腕に抱え直す。私の上掛けを掴むデッカい手。

 私は私で、イガラムの足をがっちり掴んでおく。よし。

 

「口塞いでろ!」

「マジェルカ殿、肩が細いな!? 尻に食い込んで痛い! バランスとれない!」

「我慢と根性! 行くぞ!」

 

 トトトッ………。

 湿った地面を三歩走って、空へ〝駆け上がる〟。

 

 私がいつもやるように、一歩で数メートルも上昇していてはカッパの体が保たないだろう。チマチマと、50センチ感覚で〝駆け上がる〟空。

 

「ンンンンンン! ンマ〜〜〜〜〜〜〜!」

 

 イガラムが唸る。出会った時から思っちゃいたが、どこか懐かしい響きの奇声だ。

 

 白いモヤを抜けだせば、夏日が瞳に焼きついた。

 大通りに面した建物は、似たような高さで揃えられている。平たい屋根ばかりなのも、あえてそうしているのだろうか。

 熱された屋根に足を着く。まだ水気の抜けない革のサンダルが、ジュッと焼かれたような音を出す。

 

「ハー! ハァー! し、尻が痛い……! 降ろしてください……」

「いや、このまま王宮へ向かう」

「ちょっと休憩! せめて休憩を! 尻が割れてしまう! 降ろして!」

「尻が割れてないのかあんたは……? ホントに人間?」

「ここぞとばかりに言い返すのだな!?」

 

 渋々おろせば、イガラムが屋根の上に足をつき、悲鳴をあげた。「アッツゥゥゥ!?」

「だから降りねぇ方がよかったんだよ」

「アチ、アチチチっ、なぜマジェルカ殿は平気なのだ!? ホントに人間!?」

「しつけぇな!?」

 

 ブワリと、悪寒がふくれあがった。急いで〝避難〟して正解だったな。

 屋根のフチまで歩み寄り、下を見下ろす。カッパを抱え直したイガラムが寄ってくる。

「なにを見ているのだ? また敵か!?」

 さぁ、なんと表現するべきか。

 

 王宮にいるのだろうクロコダイルの気配は、未だにゾオン系能力者を〝からかって〟遊んでいる。

 今は、クロコダイルが目論む〝国盗り〟の、大詰めとなる大イベントの最中だ。わざわざ格下と戯れている暇はないはずだった。

 クロコダイルの不自然な挙動は、おそらくは、時間稼ぎ。それならば、何を待っている?

 

 答えは今、白いモヤを切り裂いてやって来る。

 

 ドドドドドドドドド………………。

 

 地鳴りが、大通りをゆらす。ただの足音であっても、何千何万と集まれば大地を嘆かせるのである。

 はじめに見えたのは、馬の頭だった。イガラムが呆然とこぼす。

 

「反乱軍の………援軍か………!?」

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