4月<日
あの根っこの事件から1週間が経った。今もヴェヌスが僕に合わせた魔法の練習を続けてるよ。練習にはんちゃんが一緒にいるのも当たり前になってきた。
前にラスボスっぽいほうがいいかなって言ってヴェヌスが新しく作った練習内容はとにかく体を作る事だった。魔法を使う魔力も、大きな魔法を使うのも使うのは自分の体。僕の魔力は十分に多いけど魔法を使う為の器はまだ小さくて脆い。それを克服する為にまず魔力を制御する練習だった。ヴェヌスが言うには制御が上手ければ無駄な消費もなくなるし、必然的に大きな魔法を使うのも上手くなるらしい。最初に魔法の弾を撃って、それから数日して同じように撃ったら目に見えて違ったあの時はなるほど確かにって思ったよ。
はんちゃんが魔法の練習に付き合ってくれたのもある。はんちゃんもはんちゃんで修行をやってるからアドバイスがすごく良い。魔力の制御をやってると「楽な姿勢でやるといいでござる」と言われたら集中がやりやすくなったし、魔法の弾を撃ってると「拙者が的になるでござる」とやってみたら一発も当たらなかった、いわゆる濃い内容にできた。
成長できてるからコツコツやっていこう。
4月!日
今日は今さらだけどはんちゃんと一緒にヴェヌスからジュエルシードの話を聞いた。
ジュエルシードはヴェヌスのように適合する持ち主に宿り、そして開花するのが本来の目的。そして開花した花は持ち主の思考を瞬時にプログラム化し、それを実行する演算と制御を高速して行う。よくわからない説明だったけどはんちゃんが「つまり使いたいと思う魔法がすぐに使えるってことでござる」ってまとめてくれた。さすが。
でも誕生してから適合する相手に巡り会えず、逆に不完全な願いを実行してきたことから『願いを叶える宝石』としての認識になったらしい。結果、まとまって保管された。それから保管された場所が遺跡って呼ばれるくらい放置されて、それが最近になって掘り出されたけど何者かに襲撃されてこの海鳴市に散らばったとのこと。その一個を僕が飲み込んだ訳だ。
4月%日
昨日、ジュエルシードの話を聞いた今日で今度は散らばった他の20個を回収している人達の事を軽く教えてもらった。
僕は会ってないし、もちろんヴェヌスも会ってない。でも考えられる勢力は2つか3つらしい。1つ目はジュエルシードを発掘したスクライア一族。2つ目は襲撃し、海鳴市にばらまいた何者か。最後は時空管理局。ただ最後の管理局は大規模な出来事がない限りは来ないらしいから今は最初の2つが回収している勢力、とヴェヌスは話してくれた。ヴェヌスのジュエルシードは隠蔽工作をしているから索敵に察知されないけど、さすがに数不足は不審がられるからその対策にダミーを作る。前に言ってた話だね。そしてそのダミーが完成したからすぐにでも海に放り投げに行くこととなった。
4月〃日・10時頃
「……ふっ!」
極限まで集中した阪奈は握ったダミーのジュエルシードを海に向かって放り投げた。ジュエルシードは水切りで海面を跳ねてどんどん距離を伸ばしていく。
「お~、さすがはんちゃん。手裏剣すごい」
「いや、手裏剣投げではないでござる。ただ距離を伸ばすだけの水切りでござる」
【既に30回は跳ねてますよ】
突堤からその様を眺める天吹がはしゃいでるが阪奈は特に自慢する事はなく、しかしヴェヌスには波をものともせず遠くへ行っていくダミーを呆れた感じに眺めている。そしてダミーは沈むことなく跳ねながら消えていった。
「無事に終わったみたいだね」
そこへ陸の方で待っていた忠が近づいてくる。流石に海までは遠かったので彼に車を出してここに来たのだ。
「うん、はんちゃんに任せてよかったよ」
「そうか。ありがとうね阪奈ちゃん」
「友の頼みでござる。力になるのは当然でござる」
「相変わらずだねぇ。ところで早いけどせっかくだから近くで昼食にしないかい?」
「拙者、新鮮な刺身が食べられるお店がいいでござる」
「じゃあ僕は魚のフライが食べられる所」
【私は内緒話が出来る部屋がある場所で】
「「(キミ・お主)から(リクエスト・意見)があったのは予想外(だね・でござる)」」
そしてお店に来た3人はそれぞれ料理を頼んでしばらく。
『それで阪奈、ジュエルシードを回収する者たちはわかりましたか?』
「ああ、わかったでござる」
最近の事を聞くかのようにヴェヌスが尋ねると彼女はあっさりと返した。それに忠も眼差しを険しくし、天吹も黙って言葉に耳を傾ける。
「この前、根っこの事件を解決させた者は高町なのはと言う
「フェレット?」
「フェレットに似た動物でござる。なにやら人間くさいのでござったな」
「ああ、それは恐らく変身魔法で化けているんだろう。魔力の節約や怪我の治癒向上が出来るから元々は人間なんだろう」
『そのユーノの名前には覚えがあります。間違いなくスクライア一族の者です』
阪奈の情報から忠とヴェヌスが内容を補う。
「それで、この前の休日に遠くから監視していたら別の者と相対していたでござる。こちらはまだ名前はわからぬでござるが高町なのはとは敵対する間柄かと」
「へぇ」
『特徴は見ましたか』
「忠殿が貸して下さったスコープで結界? を覗いてみた所、金髪でツインテールの女子でござった」
「また女の子なの? 魔法少女?」
「正確には魔導師だよ天吹。それに魔法世界では資質があれば十分に人材として扱ってくれるんだ。私も活動し始めたのは8歳からだったからね」
『なかなか優秀だったのですね』
「下働きからだよ。現場に出たのは13歳からだ」
「日本人から見れば十分にお若いでござるよ」
どこか懐かしむ忠。全てを捨ててここで過ごす覚悟は、どれだけのものだったのだろうか。
『ですがこれで大まかに勢力が区分出来ました。スクライアの勢力は高町なのは。恐らく襲撃した者の勢力である金髪の少女。この2つが現在活動しているとみてよろしいでしょう』
「対策は必要かい?」
『そうですね。思った以上に開花が早くなりそうです。おおよそ5月には咲くでしょう。故に、どこにも察知されない場所を作りたいです』
「その頃まで状況は続くと思うのかい?」
『はい』
「それなら修行の最中、手頃な洞窟を見つけているでござるからそこへ今度案内するでござる」
『ありがとうございます』
ジュエルシードを巡る渦が起こる中でここいる者たちはあくまで不干渉を貫きながらその中心の一個を確保、いや横取りしようとしている。天吹と阪奈はまだ実感はないが忠は理解している。自分達がやろうとしているのは管理局に見つかればロストロギアの不法所持の罪に問われる事を。
「……なぁ」
『開花できれば、今後何かあっても対応できますからね。頑張りましょう』
「あるの?」
『事実は小説よりも奇なり、と言うそうですね。ないとは言えませんよ』
忠の懸念を読み取ったかのようなヴェヌスの言葉だった。いや察した上での物なのだろう。
それを聞いて傭兵だった頃の自分を思い出す。
(後で考える、だったな。昔の俺は)
なら今さら先の懸念はスッパリ考えるのをやめる事にした。
ちなみに私は海鮮丼を頼みたい。